シベリア強制抑留『望郷の叫び』(133)第6章 スターリン大元帥への感謝状
また、アメリカを厳しく非難し、ソヴィエトこそ真の友だと叫ぶ。「アメリカ帝国主義は再び戦争をくわだてソヴィエトに襲いかかろうとしている。日本を戦略基地にして、日本国民を彼らの肉弾とし、彼らの泥靴の下に植民地奴隷にしようとしている。しかし、歴史の歯車を逆転させることはできない。私たち勤労者は命をかけて立ち上がり、彼らの頭がい骨を一撃のもとに粉砕せんとの決意に燃えている。強力なソヴィエトこそ民主主義と社会主義の勝利の保証である。あらゆる大国のうち、ソヴィエトのみが、日本の民主化と非軍国化、日本の勤労者の利益と幸福を守って徹底的に闘っている。ソヴィエトこそ日本人民の夏に頼むべき友なのだ」と。
このように、アメリカを非難し、ソヴィエトをたたえつつ、いよいよ、自分たちの決意と誓いの部分に入ってゆく。
「現在の私たちは、もはや過去の私たちではない。私達は民主主義と社会主義の陣営の一部であり、平和の軍隊の戦士である。この神聖な任務のため、日本共産党の指導のもとに最後の血の一滴まで捧げて闘う用意がある。」と。
そして、いよいよ究極の佳境に至る。日本人のプライドも何もない。自虐ということも通り越して、作文の世界に入って言葉に酔っているともとれるのだ。
「私たち日本人捕虜の帰国も最終段階に入ったが、私たちは断じて祖国なつかしとのみ帰るのではない。私たちの人生における最大の感銘に満ちた4年間を、わが再生の宝とし、その懐かしい思い出を変えることなく抱き続け、私たちの聖なる誓いを固く守り、わが人民開放の闘いに必要とあらばわが生命を捧げようとする確固たる決意に燃えて進撃するために帰国するのだ。私たちは戦争の間はかりしれぬ罪悪をソヴィエト市民にかけた。このことについては限りな
い自己嫌悪の念に耐えない」と。
そしてしめくくりの宣言となるが、その文は、そのままここに掲げることにする。
「私たちは、今こそわが日本に帰国したその時は、日本海の波濤遠く、レーニン、スターリンの国を仰ぎみつつ、ソヴィエトの国の偉大な模範に無限の勇気をくみとりつつ、日本人民の利益のために、全世界勤労者の自由と幸福のために、果敢に、献身的に闘うでありましょう。社会主義ソヴィエトの国に過ごした4ヵ年の思い出は、終生私達の心を、大いなる喜びと感激をもって充たすでありましょう。そして偉大なる人民、建設者たる人民、真のヒューマニストたる人民についての思い出は、永久に日本勤労者の心のうちに生きるでありましょう」
☆土・日・祝日は、中村のりお著「望郷の叫び」を連載しています。
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