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2026年7月12日 (日)

死の川を越えて 第245回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 ある時、上地区の清水佐助という患者が事件を起こした。この男、湯の川集落の飲食店で無銭飲食をして捕まったのだが、日頃話題の常習犯であった。主人は開き直ったふてぶてしい態度が許せなかった。栗生園が管理できないなら草津の警察に突き出すということで騒ぎになった。

 園としては患者の管理責任を問題とされることはまずいことであった。古田園長はどのように警戒すべきか迷った。

 この時、苛藤は待ってましたとばかりに言った。

「とにかく国民の税金でつくった特別病室を使わないのはまずいんじゃないですか。無銭飲食という常習癖をなおすには本来刑務所に行くべきなのだから、少しあそこへ入れて反省させるべきだと思います」

 苛藤の言うことには一応の理屈があるので古田園長は考え込んでしまった。そして言った。

「よし、2、3日入れて様子を見ることにするか。よいか、君、2,3日ですよ。この特別病室にはもともと疑問があります。胸を張って使える施設とは思えませんからね」

「はい、よく分かりました。反省の効果が上がるようならすぐ出すことにしましょう」

 特別病室入りが決まった時の清水の狼狽ぶりは大変なものであった。もう絶対しねえからと苛藤に手をついて助けを求め、手を合わせて哀願するのであった。

 彼の哀れな態度は苛藤の残忍な心を煽った。

 清水が入れられた夜、特別病室からは泣き叫ぶ声が聞こえた。

 その翌日のことである。上地区の者2名が正助を訪ねてきた。

「確かに銭を払わねえで食ったヤツが悪いには違いねえが、あんなコンクリートの塊で窓もねえ牢屋にぶち込むとはひでえことです。人間のやることとは思えねえ。おれたちはヤツが哀れでなんねんです。何とかならねえものでしょうか。お願いします」

 正助は事の重大さをすぐに察知した。

 万場軍兵衛と水野高明に話すと、2人は異口同音にこれは捨て置けない、コンゴのこともあるから古田園長に話そうということになった。

つづく

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