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2026年2月28日 (土)

死の川を越えて 第205回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 この時、法学士の水野高明が進み出て言った。

「昨年、内務大臣安田謙岳氏がこの集落に来たのもそのための布石に違いない。世の中が大きく動いています。激しい嵐が近づいているのです。今度は半鐘を鳴らして騒ぐのは得策ではない。国が相手なのだから。冷静に行動せねばなりません。そして、今まで積み重ねて来た、この湯の川の歴史を守ることを考えねばなりません。私は昔、九州の大学で人権ということを講義していました。人権とは人間の権利のことで、人間は皆平等で大切にされねばならないという考えです。この湯の川地区はまさに人権の大学です。しかし、私は、今度は大学の誠意性にはなりません。小学校の校長先生です。皆さんが小学生だというのではありません。謙虚な心で行動する決意なのです。軽井沢の乗車拒否運動のように整列し隊列を組んで進みましょう」

 どっと拍手が起きた。

 万場老人は、待っていたように発言した。

「わしの考えは水野先生と同じじゃ。わしはこの湯の川をハンセンの光が発するところと言ってきた。この光を消してはならん。国は新しい療養所の地を滝窪原、水原窪、栗美の辺りと決定したようじゃ。前知事の牛川さんが理想の療養村を作れと請願したことが基礎になっている。この湯の川がそこに移らねばならぬとすれば、そこを新しいハンセンの光が発する場所にしなければなるまい。その光が押し込められる結果にならぬかと心配しておる。今日、わしが皆さんに訴えたいことは、これじゃ。この老骨をささげたいと思うのじゃ」

 水野法学士と同じような拍手が起きた。生生塾で万場老人や水野が恐れたように、ハンセン病患者に対する国の取り締まりの強化が進んだ。これは「癩予防法」を進める姿であった。社会のハンセン病患者を全て収容する目的からすれば、収容所の中も規律を強めて秩序あるものにしようと考えることは自然の流れである。「癩予防法」によって、これまで以上にさまざまな分子が収容所に入ることが予想されたのである。各地の情報では、入所者の中には手に負えない者、罪を犯す患者もあった。

 そこで、収容所は和に秩序維持のための患者懲戒権、つまり患者の身柄を拘束する権利(検束権)が法的根拠をもって与えられることになった。それが、昭和6年1月の「国立癩療養所患者懲戒規定」であった。従来、「癩予防法に関する件」の下では、「細則」として認められた検束権が「規定」の形で認められることになった。患者を管理する権限の強化である。秩序を乱す患者を懲戒として、検束することが正面から法的に認められることになったのだ。

つづく

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2026年2月27日 (金)

「人口減少の衝撃。女性の寿命は90を超える。日本が生きる道を真剣に考える時」

◇日本が縮んでいく、本県も縮んでいく。止まらない人口減少が怖い。底なし沼の底には何があるのか。不気味でならない。県内赤ちゃんの出生数は初めて1万人を割り込んだ。昔は先が分かれば天狗様と言ったが統計学が発達した現在、先のこともある程度的格に予測できるようになった。その情況は衝撃的である。今後長期の人口減少課程に入り、平成38(2026)年に人口1億2,000万人を下回った後も減少を続け、60(2048)年には1億人を割って9,913万人となり更に72(2060)年には8,674万人になると推計されている。総人口が減少するなかで高齢者は増加し、平成25(2013)年には高齢化率は25.1%で4人に1人となり、47(2035)年には33.4%3人に1人となる。出生率は減少を続け72(2060)年には現在の半分以下になると推計されている。一方、平均寿命は延び、72(2060)年には男性は84.19、女性は90.93となり女性の平均寿命は90年を超えると見込まれている。近い将来どこを見てもお婆さんがあふれかえる時代になるのだろうか。

 このような現実を踏まえ日本が生き延びる道をさぐるのは焦眉の急である。

◇日本が生きる道として、まず人口減少適応型の社会構造への転換が求められる。たとえば人が行う仕事を最大限AI、ロボットなどに置き換えることである。具体策として、介護、運輸、建設、サービス業など人手不足の現場に自動化技術を導入することだ。また、生涯現役社会の構築と高齢者の就労促進が必要である。それには高齢者を「支えられる側」から「支える側」へ転換する制度改革を実現せねばならない。それには定年制の撤廃や延長、多様な就業機会の提供、健康寿命の延伸が必要である。また、日本人だけでの社会維持が困難になる中で、多様な人材が活躍できる環境を整えねばならない。そのためには優秀な外国人材が日本で働ける政策の推進が迫られる。現在日本人ファーストの動きが強まっている。日本の現状を踏まえれば外国人との共存共生は不可欠である。私は移民の受け入れに賛成である。日本の文化を堅持しつつ規律ある社会を維持しなければならない。日本人の半減が懸念される中、それは容易ではない。日本人一人一人がサムライの心を取り戻す時なのだ。戦争をしない平和な国のサムライこそ真のサムライである。「捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ葉隠れの」という武士道の精神が甦ってくる。私が真の武士であることを示す時がきた。(読者に感謝)

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2026年2月25日 (水)

「天下の奇祭、裸祭りの衝撃。保護司殺害は極度の反社会的犯行だ」

◇天下の奇祭、岡山県の裸祭りに思わず衝撃を覚えた。その激しさは凄まじい。意識不明者まで生んだ事態には戸惑うばかりである。室町時代から続く岡山県の「西大寺会陽(えよう)」は約500年の歴史をもつ国指定重要無形民俗文化財である。21日、厳冬の深夜、約1万人のまわし姿の男衆たちが「宝木(しんぎ)」を奪い合う激しい肉弾戦を展開した。午後10時本堂の明かりが消され住職により日本の「宝木」が投げ込まれ争奪戦は頂点に達した。「宝木」を奪った男は「福男」とされ幸せが訪れるとされる。狭い本堂に数千人がもみ合うから転倒や下敷きになるリスクも伴う。単なる奇祭ではない。現代における社会的意義は大きいのだ。地域の人々が団結し、お互いの連体と無病息災を願う場である。人間同士の接触の機会が少なくなっている現代社会なのだ。多くの人々が肌でぶつかり合う機会は貴重である。「肉弾戦」とい表現に格別な意味を感じる。かつて戦争の中でこの言葉が使われた。平和な時代に於いて忘れられている魂の叫びを甦らせることを想像する。長い歴史を持つ地域に根差した文化がどこまでも続くことを願わずにはいられない。今回、意識不明の重体者が出た。過去には死者も出た。歴史の試練に耐えて続いてきた伝統の行事はぜひ守りたい。そのためにはルールを守らねばならない。奉賛会は事故防止のための方策を講じてきた。もみ合いの中で体が沈まないように手を上げておくことや転倒した時は腹ばいになるなどだ。特に「酒を飲んでの参加は絶対禁止」と呼びかけているが酒酔い状態の参加者が後を絶たないと言われる。今回の重体事故に関し、奉賛会会長は次のように発言している。「なぜこういうことが起きたのか、警察や消防と情報を共有して問題点を把握し、ルールを改めるなど検討したい」と。狂乱状態の中の群衆心理を想像する。理性など吹き飛んでしまうに違いない。最悪の事態を避けるためには絶えずルールの改善を進めその徹底を期すことが重要である。

◇衝撃の事件があった。自らの立ち直りを支援していた保護司が殺害され、そして被告に無期懲役が求刑された。検察側は「保護観察制度を攻撃する極度の反社会的犯行」とした。被告は初公判で「守護神さまの声に従いやりました」と述べた。行動の制御が可能であったか否かの責任能力の有無と程度が問われることになる。被告は仕事が長続きしないことは国の責任だとして国(保護司)に責任転嫁し殺害しようとした。(読者に感謝)

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2026年2月24日 (火)

「級長のくせに、大男の先生のビンタが懐かしい。建国記念の日に国旗掲揚を考える。秘湯・尻焼の湯に」

◇日本の社会が不気味に縮小しながら沈んでいく。底なし沼から脱出する方策は。そんな不安が切実となってきた。若年人口と生産年齢人口が急減する一方で、65歳以上人口は増え続け2040年代にはピークを迎える。私は現在85歳。小学生の頃の学校の光景が懐かしく甦る。教室は活気にあふれ、登下校の道路には冒険や夢があった。教室の教科書以上に学ぶべきことが多かったと、今痛烈に振り返る。「お前は級長のくせに」と大男の先生にビンタをくらった。学校裏の畑のイチゴを盗んだのだ。頬の圧力は愛情の教訓として常に甦る。赤城山麓の山野を裸足で走り回った。今日の心と身体の力は山野の賜物である。大自然こそ最良の師。そのような環境をうしなった現代の子どもたちを気の毒に思う。

◇2月11日は建国記念日である。日の丸を掲げる伝統がある。それは個人の自由の問題である。時々日の丸のステッカーを貼っている車に会う。それを見て右翼を連想するという人は少なくない。国を愛する心は大切なことで、自然な心で日の丸を貼るのは尊敬しなければならない。外国国章損壊罪が存在する。外国に対し侮辱する目的でその国の国旗を損壊・汚損・除去した場合に二年以下の拘禁刑や20万円以下の罰金に処するというもの。高市首相は「日本国国章損壊罪」の制定を主張している。刑法に外国国旗の損壊を罰する条文があることを挙げ「日本国旗を損壊しても全くお沙汰なしは変じゃないですか」と発言したのだ。国旗損壊罪には、政府が法律を恣意的に解釈して表現の自由を抑圧することが懸念されている。日本弁護士連合会は反対を表明している。国旗掲揚は個人の意思の問題であるべきだ。法律で強制するのは妥当でないと考える。

◇昨日、富士見の温泉に入った。久しぶりの湯に心も洗われる思いであった。私は湯が好きで、いくつか馴染みの秘湯がある。渓谷のせせらぎの音は最高の癒しである。近く白根開善学校へ行くので尻焼温泉に入る予定である。正に秘境の秘湯である。自然の川底から温泉が湧き出している。近くの花敷温泉の奥の谷は、昔おびただしい蛇がいて近づけなかったという話がある。地域のおかみさんに、実際どさっとうどんをひっくり返す程の蛇がいたという話を聞いたことがある。蛇がいなくなったことは秘境の変化を物語るものであろうか。秘境の湯けむりが楽しみである。(読者に感謝)

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2026年2月23日 (月)

死の川を越えて 第204回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「これは放浪するハンセン病患者の収容が目的だった。古里を追われ、生きる術のない哀れな患者を捕らえる網であった。その上に今年、癩予防法が制定された。これがわれわれにとって直接に実に重大なのじゃ」

 ここで、また、こずえは癩予防法と大書して掲げた。今度は拍手はなく、人々は黙って文字を見詰め、万場老人の説明を待った。

「これはさまよう患者だけでなく全てのハンセン病患者を強制的に収容する絶対隔離政策じゃ。国はそのための施設を各地につくる。この近くにつくろうとしているのは湯の川地区のわれわれも対象になるものじゃ。私に寄せられたある情報によれば、全国各県のハンセン病を絶滅させる運動を国は押し進めようとしている。無らい県運動じゃ。癩予防法はこの運動を押し進める恐ろしい手段じゃ。大変なことになるとわしは心配しとる」

 その時、ある男が手を挙げて質問した。

「その法律には、いったいどんなことが書かれているんですかね」

 万場老人は頷いて、傍らから書類を取り出して語り出した。

「うむ。恐ろしいことが2点ある。消毒と、患者を療養所に入所させることじゃ。法律が役所に消毒を命じている物とはな、古着、古布団、古本、紙屑、ぼろ、飲食物、その他の物件とある。古着から、古布団に始まってこまごまとあげているが、最後にその他の物件とある。これは生活上の身の回りの全てを意味する」

「へえー。それを一体誰がやるのですか」

「知事が警察に命じて行わせることになっておる」

「そんなことをされたら、村でも町でも暮らしていけませんね」

「そうじゃ、このようにして、ハンセンの患者を追い出し、療養所に入れ社会から患者を一掃させることが目的じゃ」

 人々の間にざわめきが起きた。

つづく

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2026年2月22日 (日)

死の川を越えて 第203回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「違えねえ、小学生のように列を作れと言って先頭に立った人だ。なんだか面白えことになりそうじゃねえか」

 水野は自分のことと気付いて、エヘンとひげを指でしごく仕草をした。

「あの時の水野です。ハチマキ姿を覚えていますかな。は、は、は。明星屋でお世話になっています。実は、私は湯川生生塾の講師です。小さな寺小屋ですが現職の内務大臣が訪れた寺子屋など、天下広しといえどありませんぞ。この湯の川の誇りです。昨年大臣が、生生塾に入る時、肥後もっこすだと胸を張ったそうです。実は、私も何を隠そう肥後もっこすなのです。皆さんご存じだと思いますが、肥後は熊本県、もっこすとはつむじ曲りの頑固者のことです。まあ。意地っ張りのことです。おっと、話が横にそれました。この塾が今、吹き飛ばされる危機にある。嵐が近付いています。さて、本題は万場先生が話します。私の出番があればまた話すことに致します」

 万場老人が登壇した。その時、人々の視線が一斉に一角に注がれた。一人の若い美しい女性が入ってきたからだ。

「皆さん、塾の助手を務めているこずえです」

 万場軍兵衛の紹介にこずえはわずかに表情を崩してほほ笑んだ。緊張の中に見せる控え目な笑顔が人々を惹きつけているようであった。

「水野先生が言われた近づく嵐とは、このたび帝国議会で作られた癩予防法という法律のことじゃ。これから話すことは、難しい法律、そして県と国の政策じゃ。難しいがわれわれの運命に直接関わること。何としても踏み込んで食いつかねばならん。皆さん、まずこれまでわれわれ患者を縛った法律はですな」

 ここで万場老人は言葉を止めてこずえに目をやった。こずえは、用意された机に進み出て、赤い紐を取り出し、巧みに胸元で交差させてたすきにかけ、袂を押し込んだ。人々の目はこずえの白い二の腕に集まる。何か手品でも始まるのかと好奇の目の色である。こずえは、大きな紙を広げ、筆をとって一気に文字を書いた。それには鮮やかに「癩予防に関する件、明治40年」とあった。こずえが紙を向けてにっこりして人々に示すとどっと拍手が起きた。文字の意味する重大性よりも、まず美女の技に心を奪われたらしい。

つづく

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2026年2月21日 (土)

死の川を越えて 第202回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

  • 昭和の嵐

 

 1931(昭和6)年という年は、日本にとってハンセン病患者にとって特別な年であった。アメリカ、ニューヨークで、年の暮れに始まった世界大恐慌の波は年を追ってひどくなり、本格的に日本の社会を打ちのめした。国民の生活は悲惨であった。当時の新聞は、東京都の小学校でも弁当を持って来ない子どもが非常に多かったことを報じている。また、農村の窮状はさらにひどく「娘身売りの場合は当相談所へお出でください」という掲示が村役場の前に張り出された。群馬県渋川市の小学校では、ある日欠席児童が多いのを調査したところ、食うに困った農村の子どもが親と共にわらび取りに行っていたことが分かった。

 このような状態であるから湯の川地区の貧しい人たちの窮状は察するに余りある。きれいごとを言っていられないという本音があったに違いない。

 こういう社会状況の中、中国は日本に奪われていた権益の回復に乗り出した。満州こそ日本の生命線と考える政治家や軍部は強い危機感を募らせた。軍部はますます独走に、政府の不拡大方針を無視して満州各地を武力で占領した。これが31年9月に始まる満州事変であった。このように、戦争の足音は高まるばかりであった。

 この年、満州事変に先立つ4月、癩予防法が公布された。このことをいち早く知った明星屋の浴客水野高明は早速万場老人を訪ねた。

「万場先生、大変なことになりますな」

「癩予防法であろう。いよいよじゃな」

「われわれに直接関わることです。生生塾で勉強しなければならんでしょうが」

「その通りじゃ。わしも考えておった。ここでは狭い。山田屋か真宗の説教所はいかがであろうか」

 正助に話すと、山田屋は都合が悪いということで真宗の説教所が会場に決まった。

 生生塾は、内務大臣が立ち寄った塾ということで、湯の川ではすっかり注目の存在になっていた。区長が湯の川の運命に関わることを生生塾で勉強すると言って住民に声をかけたので、説教所は住民集会のような観を呈した。

 水野が開会の挨拶のようなことを始めると会場がざわざわした。

「見ろよ、あの時のハチマキの学者先生でねえか」

つづく

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2026年2月20日 (金)

「ips細胞、夢の実現は奇跡の衝撃だ。日本の生き返る道は医学にあり。緒方洪庵、杉田玄白が甦る」

◇医学の進歩は稀に「これこそ夢の実現」と快哉を叫ばせる実を結ぶ。そこに至る長い日の当たらない努力を思うと感無量である。この度「夢の発見」がまさかと思える実用化の運びとなった。ips細胞を使った重症心不全とパーキンソン病向けの再生医療等製品である。「世界で初めての実用化」の報道にこれこそ奇跡の感を抱く。山中教授による発見から20年の時を経て、その成果が医療現場の患者に届けられようとしている。画期的治療として患者の期待は大きい。絶望の淵で怯えていた人々にとって正に地獄で仏に違いない。政府は10年間で総額1,100億円を投じて実用化を後押ししてきた。いかに期待が大きかったかを物語る。ips細胞を使う治療は当初ガン化や拒絶反応のリスクが指摘されその解決に時間を要した。臨床試験で一定の安全性が確認されたが、今後の丁寧な検証が必要となる。専門家は条件付きの承認であり「仮免許」の段階だと言う。しかし、仮免許が出された意義の大きさには測り知れないものがある。私たちが自動車教習所で得る仮免許とは天地の差がある。ips細胞を作製した山中教授はマウスips細胞を発表してから20年という節目に大きな一歩を踏み出せたことを大変うれしく思うと述べ「医療として確立するためには更に多くの症例で安全性と有効性を確かめるプロセスが不可欠で、浮足立つことなく科学的な慎重さをもって引き続き一歩ずつ着実に進んでいくことが重要だ」と訴えた。創薬面の効果が大きいと言われる。人工的に病態を再現することで、既存薬の中から有効な薬剤を効率的に探すことが可能になった。実際に、筋委縮性側索硬化症にパーキンソン病や慢性骨髄性白血病の治療薬が有効な可能性が示されるなど、複数の治験が実際に行われている。わくわくするような成果が今後現れることを信じることが出来る。小資源国日本が生きる未知は科学の力にあると言われているが、今回のips細胞に関する快挙は、それが医学にあることを示すことになった。医学は人の生命を支えることを本来の使命とする。紀元前古代ギリシアの医学の父ヒポクラテスも時を超えた快挙に大きな拍手を送っているに違いない。歴史を振り返れば医学の世界にも迷信が根を張っていた。江戸時代、日本の近代医学の祖として人材を育て活躍した「適塾」の人緒方洪庵もあの世で日本の医学の進歩を喜んでいるに違いない。杉田玄白等の解体新書翻訳を胸躍らせて読んだことが甦る。(読者に感謝)

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2026年2月18日 (水)

「首相の国会軽視は民主義の危機。英誌エコノミストの記事に思う。田久保氏の学歴疑惑」

◇国際化の時代が限りなく進む中で犯罪の国際化も際限なく広がっているようだ、「ルフィ」などと名乗る特殊詐欺グループ事件の幹部に東京地裁は無期懲役を言い渡した。死刑に次ぐ重刑に驚いた。弁護側は有期刑を求めていた。裁判長は「組織のため必要不可欠な役割を果たした」としてまさかの重罪を科した。判決は次のようにも指摘した。「被告は自分の手を汚さず、生身の人間に残忍な暴行を加え、金品獲得に執着して人名を軽視し、犯罪をエスカレートさせた」と。犯罪も時代と共に変化することを感じる。犯罪はその時々の社会情況を背景として生じるのだから当然と言えば当然に違いない。日本の犯罪状況は長年の減少傾向から転換し、2022年以降は増加しており治安は厳しい状況にある。特にコロナ前を上回る現実である。2025年の刑法犯認知件数は前年比4.9%増の77万4,142件で4年連続の増加となっている。特殊詐欺やSNS型の投資・ロマンス詐欺の増加、若年層が関与する「匿名・流動型犯罪グループ」の暗躍が背景にあり、約8割の人々が「治安は悪化した」と感じている。全国的には大阪府がワーストに挙げられているが茨城県や群馬県も住宅侵入盗などで上位に入っている。地方により犯罪現象は異なるがトップクラスで犯罪件数が少ないのは島根県(1位)、鳥取町(2位)などである。では群馬県はどうかというと、深刻な情況に驚く他はない。群馬県の刑法犯罪遭遇率は全国2位で131人に1件の割合である。特に、住宅侵入盗と事業所等への侵入盗は全国1位となっている。県内では東毛地域に集中しており、伊勢崎市、大泉町、太田市などが悪い。外国人犯罪が多いのも群馬県の特色である。県内の外国人犯罪で顕著なのは窃盗などである。ベトナム国籍の人の犯罪が目立ち全体の約半分を占める。銅線などの資材窃盗や入管難民法違反などの摘発が相次いでいる。

◇政府はスパイ防止法制定へ向けての有識者会議を設ける方向で検討に入った。外国勢力から重要情報を守ることが目的である。この点について日本は非常に守りが弱いとされてきた。この法律には政府の情報収集活動を活発化させる目的もある。そこで懸念されることは市民への監視が強化され、プライバシーの侵害や憲法が保障する「表現の自由」が制約される恐れである。憲法21条が保障する表現の自由は民主主義の基盤であり、日本国存立の根幹である。スパイ防止法により外国からの不当な干渉を防ぐことと表現の自由とのバランスをいかにするかが非常に重要である。(読者に感謝)

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2026年2月17日 (火)

「上武道路の事故に懲役20年の衝撃。証言台の教授の証言に思う。中道代表小川氏の役割とは」

◇伊勢崎市の上武道路上の事故に懲役20年の判決があった。元運転手の被告は71歳で、20年は懲役刑の上限である。判決の厳しさと共に交通事故の恐ろしさに身が引き締まる思いである。事故は国道17号上武道路上という身近なものであるだけに大きな衝撃を受けた。

 前橋地裁の高橋裁判長は、運転前の飲酒と危険運転致死傷罪の成立を認め求刑通りの実刑判決を下した。死亡した3世代の親子3人の写真が紹介されている。事故は2024年5月であったが、3人の写真から事故の悲惨さが昨日のことのように甦る。高橋裁判長は危険運転致死傷罪の「故意」を認めたのだ。弁護側検察側はそれぞれの主張を掲げて争ったが決めてとなったのは専門家の見解であった。

 公判の証人尋問で証言台に立ったその人はアルコールが体に及ぼす影響などを専門とする神奈川歯科大学大学院の長谷場特任教授であった。裁判で証人の証言の役割は非常に重要である。法廷は勝敗をかけた戦いの場である。私たちはベニスの商人をはじめとして、必死に争う攻防のドラマを数多く見て来た。ドラマの上でも闘う当事者のテクニックによって勝敗が分かれるのを見て、真実はどこにあったかと釈然としないものを感じることがある。テクニックの巧みさによって勝敗が決まる面があるのは止むを得ないとしても、法廷の本質は正義でなければならない。この点に於いて長谷場教授の専門の学問の立場からの理論的な説明と分析にはほっとさせられる。長谷場氏は病院での採血結果から、事故当時の血中アルコール濃度を推計し、飲酒から約1時間後の事故当時は濃度はピークに達し「軽度酩酊期」から「中度酩酊期」にあったとし、被告は脳の前頭葉の機能が抑制されて注意力や判断力などが鈍っていたと証言したのである。

 事故で亡くなった3人の命はかえって来ないが筋の通った立派な判決は一つの救いである。

◇中道の新代表に小川淳也氏が選出された。中道は衆院選で歴史的といえる程の惨敗を

喫したが、中道の掲げる理念には存在価値があると思う。現在高市効果と言われる流れの中で、草木もなびくような動きが見られるが、それは少し大きな目で見れば危険な傾向に違いない。小川氏は中道が衆院選で得た比例代表票を念頭に「1千万人余りの有権者の思いは決して軽視したくない」と強調した。そして、「野党第一党の主要な職責は権力の監視で、政権と対峙するのが基本だ」と語った。これは正論である。小川氏の今後を見守りたい。(読者に感謝)

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2026年2月16日 (月)

「中道の惨敗は衝撃的。匿流拡大は驚きだ。治安の国、性善説は変わる。教師を見たら盗撮犯と思え」

◇衆院選の結果は衝撃的だ。中道の大敗ぶりである。167議席から49議席に転落。野田共同代表は謝罪した。「何万回頭を下げても詫びようがない」と。「万死に値する」との発言もあった。中道は結党からわずか3週間で存亡の危機に直面した。野田氏に対しては「A級戦犯だ。議員辞職すべき」との批判も聞かれる。中道の情況は、高市政権への対抗軸を打ち立てるどころではない。18日召集の特別国会の光景は一変するに違いない。劣勢の野党では権力の監視機能やブレーキ役を果たすことは難しい。議会政治は危機に立たされる。首相は国論を二分する政策の遂行を公言し、スパイ防止法や国旗損壊罪の制定も検討する考えだ。

◇特殊詐欺やSNSを使った詐欺被害が急拡大し、警察庁は「歯止めがかからない」と悲鳴を上げている。背景には「海外匿流」の存在がある。犯罪グループの拠点は治安当局の警戒が緩い東南アジアが多くなっていると言われる。報道では、拠点のトップは台湾人で、SNSで集められた20~30代が“かけ子”をしている例が多いとされる。特殊詐欺の被害は30代が最も多くなった。その要因は犯人からの接触手段が携帯電話に変化したことである。SNS型の投資、ロマンス詐欺は最近被害額が4倍に拡大し、一件あたりの被害額は1,210万円と高額になっている。

◇日頃多くの外国人と接する中で、その多くの人々が日本は良い国だと言う。その理由として、日本の文化や伝統をあげるが、更に目立つのが治安の良さである。かつて日本ほど安全な国はないと言われた。この安全神話は変化しつつあると感じるが、それでも諸外国の犯罪情況と比べれば格段に良いと思う。

 ところで日本の刑法犯認知件数が4年連続で増えていることは非常に気にかかる。昨年の認知件数は77万超で4年連続増となった。警察庁が実施した体感治安に関するアンケートでは悪くなったとする回答が増えている。刑法犯の認知件数では詐欺と風俗犯が全体を押し上げている。享楽の社会が加速しているのだ。かつて日本は性善説が支配的であった。人を見たら泥棒と思えという流れが進むのは悲しい。盗撮の増加は衝撃的である。教師の盗撮が相次いでいる。「先生を見たら盗撮犯と思え」と誰かが言った。教育界の崩壊が進んでいるに違いない。今踏み止めないと日本は大変なことになる。日本人の精神が危機にあるのだ。(読者に感謝)

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2026年2月15日 (日)

死の川を越えて 第201回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「はい、もう言ってもよいじゃろう。わしと同意見であるにしても、正助がまず発言することに大きな意味がありました。わしは、正助の意見に賛成でございます。今、この湯の川地区は千人を超える。貧しくて、その日暮しに事欠く人が多い。医者もいないに等しい。だから国が理想的な施設をつくることが必要なのじゃ。しかし、これまで湯の川が守ってきた歴史を国に認めてもらわねばならぬ。それが条件じゃ」

 それを聞いて、森山抱月が口を開いた。

「私も発言してよいですかな。木檜先生、これは牛川前知事が請願した方向ですぞ。草津温泉を引ける所に理想の療養所です。群馬県議会も関わっています。理想の実現に私は力を合わせたい。木檜先生、さあ、あなたの番ですよ。帝国議会で、この湯の川をことを熱く訴え、このたびは内務大臣をこの湯の川までも案内したあなたです。ぜひ、お聞きしたいですな」

「うむ。私は原町の出身。皆さんに支えられて政治を続けております。草津も湯の川も、私が愛する地元であります。命を懸けて守りますぞ。私は、帝国議会では、湯の川を移転せずして、この場所を理想の療養所とすることを訴えた。しかし。国政は大きな背景があって動いております。思うようにいくとは限りません。現実を踏まえねばならない。そういうわけで、私は今回の国会の方針に賛成なのです。帝国議会で大見得を切った手前もある。森山さんと目的は同じと考えておる。森山さんはわが同志だ。一緒に頑張りましょう」

 湯の川地区の人々の善意の力で、集落移転の問題は大きく順調に動き出すように見えた。しかし、事態は意外な展開を示すことになる。人々の前に重監房という巨大な怪物が現れ、人々の心が大きく裏切られることを誰も予想できなかった。

 

つづく

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2026年2月14日 (土)

死の川を越えて 第200回

 

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 静かな語り口の中に、威風あたりを払う品格があった。話し終わった時、どっと拍手が湧いた。リー女史はにっこり微笑みながら壇を下りた。

 安田内務大臣の視察後、木檜泰山と森山県議が湯川生生塾を訪ねるとの連絡があった。予定の日、生生塾の主な仲間が集まっていた。木檜が口を開いた。

「正助君、先日はご苦労様でした。万場先生、大臣が突然この塾に立ち寄ると申した時は正直驚きました。本当にご苦労さまでした。大臣のあの行動は大変な誠意を示したことを意味します。集落の人たちも皆感動していましたな。大臣のあの誠意をこの集落の今後にぜひ生かさねばならぬ」

「今日は、大臣訪問を受けて、この集落の移転についての皆さんの意見を聞きたい。今後の行動の参考にしなければと思っています。まず万場先生はどうお考えか」

 木檜泰山代議士がこう口火を切って、万場軍兵衛に問うた。

「はい、わしは考えを持っとりますが、わしが先に言わん方が良いと思います。皆わしに合わせると困るでな」

 その時、黙って聞いていた森山抱月が言った。

「正助君の意見を聞きたい。君は夜、広い一帯を歩いた。そして、私や大臣を案内もした。そして、何よりもこの湯の川の将来を担う若い力だからな」

「俺の意見を言っていいのですか。前に一晩かけて麓の里まで歩き、戻って来て、滝窪原、水原窪の辺りで朝日を迎えた時の感動が忘れられません。あれは、万場先生が言っていたハンセンの光、それも新しい光ではないかと思います。偉い大臣が来て、あの辺りがいいと言うのなら、良い機会ではないかと思います。俺たち新しい光を実現するために力を合わせるべきではないでしょうか。光がなくなってしまうのでは困りますが、光がさらに発展するなら素晴らしいと思います」

 万場老人が、うむと頷いた。それを見て代議士は言った。

「万場先生、今の正助君の考えはどうですか。あなたは賛成の顔色とお見受けしたが」

つづく

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2026年2月13日 (金)

「自民の歴史的大勝と憲法改正の行方。国民には監視の責任が。日大三校の不祥事に思う」

◇自民党の歴史的大勝は社会が大きく動いていることを示すものだ。近い将来憲法改正が実現するかも知れない。東大と朝日の共同調査はそんな情況を伝えている。衆院選当選者の93%が憲法改正に賛成だというから驚く他はない。憲法の何を改正するのかについて最多は自衛隊の明記である。憲法9条ほど現実と乖離した条文はない。一切の戦力を持たない、そして国の交戦権は認めないと謳っているからだ。国際情勢が大きく変化する中、これで日本が守れるのかという声が大きくなっていた。これからの国民の最大の課題は自衛隊の存在とその行く手を厳しく監視することである。平和憲法の本質をしっかり守らねばならない。今回の変化も高市効果といえるだろう。高市首相は選挙戦で「憲法になぜ自衛隊を書いてはいけないのか。憲法改正をやらせてほしい」と憲法改正に意欲を示していた。緊急事態に備える条項を設ける改正についても全体の83.4%が賛成、外国勢力のスパイ活動を取り締まるスパイ防止法制定は賛成派が84.1%だった。党派別の情勢では、自衛隊明記については自民党が96.2%、日本維新が97.1%がそれぞれ賛成であった。緊急事態条項を設けることについては自民の97.0%、維新の97.1%がそれぞれ賛成であった。非核三原則については、情況が少し異なっている。賛成派が自民で70.8%だった一方、維新は20.6%にとどまり、反対派は61.8%に上った。人類で初めて広島、長崎という核の洗礼を受けた日本国民とすれば当然だと思える。私たち国民は、現在の目を見張る変化に付和雷同することなくしっかりと足元を見詰めねばならない。一方で、民主主義の危機を懸念する声が聞こえてくる。大きな流れに簡単に足を奪われる大衆の姿は悲惨である。今の時代情況と国民大衆の意識の現実を考える時、私もこれが民主主義の危機かと思うのだ。

◇日大三校野球部員のわいせつ動画拡散容疑による書類送検が大きく報じられている。同校は野球における全国屈指の強豪校だ。野球部員が女子生徒にわいせつ動画を送らせ、他の部員に拡散させた疑いである。部内の数十人が動画を受け取っていた。有名校の不祥事に眉をひそめる。広陵高校は昨年甲子園出場決定後、暴力事件が明らかになった。過去には13年春夏の甲子園出場を誇るPL学園の暴行事件が起き、同校は15年から部員の募集を停止した。パーフェクトリバティの旗印が消えたことは、高校野球の質の低下を示すようで淋しい。(読者に感謝)

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2026年2月12日 (木)

「首相が訴える日本を豊かにの意味。日本の文化と伝統を守ることと外国人受け入れの両立こそ」

◇女性総理高市氏は選挙で訴えた。「日本を強く豊かにする」と。「強く豊かに」の意味は深く大きい。国際政治は弱肉強食の舞台である。日本の隣国には北朝鮮、ロシア、中国がある。これらの国が「強く豊かに」を主張した場合を想像する。世界は全く違う反応を示すに違いない。平和と人間尊重を憲法で掲げる日本の主張だからこそ光る。その上で私は、女性総理の訴えであることが深さを増していると信じる。

 人間の歴史は女性蔑視を踏み越え、その平等を目指す歩みであった。そしてそれは、まだまだ途上にある。日本国憲法はその14条で両性の平等を強く訴える。「元始女性は太陽であった」という言葉がある。女性総理の誕生はそれに向けた大きな一歩であった。「強く豊かに」はそれを更に深めることを意味する。今回の選挙で高市政権が歴史的勝利を得たことは日本国民一人一人の大きな勝利を意味すると信じる。

◇衆院選を振り返って思うのは、自民党が歴史的勝利を得たが、大きな流れに押しつぶされてはならないことだ。こういう状況下にあってこそ少数意見を重視することは重要である。気になることの一つに外国人移民のことがある。強く反対する意見の中にはヒステリックになっていると思えるものがある。「手遅れになる」と叫んで、今こそ移民の受け入れを止めるべきだと主張する。日本は現在、少子高齢化が進み、外国人労働者なしでは社会が成り立たない、特に農業、製造業、サービス業などは深刻である。外国籍住民の増加で犯罪が増えているという主張があるがそれは事実に反する。トラブルの原因となっているのはゴミ出しのルールなど地域社会との軋轢であると言われる。そこには日本の文化に対する理解の不足や言葉の壁などがあるに違いない。これらの問題に力を入れることが非常に重要である。それは外国人の人権の確保に繋がることだ。日本の文化や伝統を守ることは不可欠である。それと外国人の受け入れを両立させることを実現させねばならない。私は多くの外国人に日本語を教える学校に関わっているが、彼らは皆日本のことを良い国だと主張する。日本の古来の文化や伝統は私たちが誇るべきものである。それは何としても守らねばならない。それを開闢以来の変化に合わせねばならない。そしてそれをいかに実現するかを真剣に考え、工夫を重ねることは急務である。それは行政の課題であり、地域社会の問題であり、私たち一人一人取り組むべき責任である。新しい時代の教育が抱える責任でもある。(読者に感謝)

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2026年2月11日 (水)

死の川を越えて 第199回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 宮中の集いが終ったその夜、安田内務大臣が主催する晩餐会が開かれ、リー女史はここに招かれた。リー女史の席は安田大臣の隣であった。

「湯の川では良い経験ができました。ハンセン病救済に懸けたあなたの熱い姿は、あそこに立ち寄ったが故に私の胸に伝わってきました。日本人がもっと真剣にならねばと深く反省させられました」

「そのようなお言葉を頂き、身に余る光栄でございます」

 大臣が歓迎の辞を述べた。その後のことである。会場を仕切っていた男がリー女史に歩み寄って登壇を促した。大臣の祝辞に応えて、全員を代表してあいさつすることを求められていたのだった。

 リー女史は静かに立ち上がって壇上に向かった。その姿は臆する風もなく、優雅でどこか威厳が漂っているように見えた。リー女史の胸には、昔イギリスで暮らした頃、大邸宅の広間でよく繰り返されたさまざまなパーティの光景がよみがえっていた。

「皆さま、私はマーガレット・リーと申します。生まれはイギリスでございますが、心はすっかり日本人でございます。神様のお導きで草津に参り、湯の川というところで多くの人々の中で幸せに暮らしております。皆さまは、かあ様と言ってくれます。こんな喜びはありません。そこは喜びの谷なのでございます。私は、日本の美しい自然が好きです。美しいのは自然ばかりではありません。細やかな人情、礼儀正しさ、そういう日本人の心が好きです。私は湯の川で病める人々の中に入って、皆さんと心を一つにすることで、神の導きの真の意味を知ったのでございます。人間は神様の前で皆平等だということが理屈でなく分かったのでございます。国の違い、人種の違い、肌の色の違いも関係なく、人間は平等なのです」

 リー女史は、ここで言葉を切り、人々の表情を見た。大変な発言がどう受け取られているか気になったのだ。リー女史は頷く人々の表情に安心して続けた。

「ハンセン病には、誤解や偏見が結び付いています。これを乗り越えるには、病める人の中に入ることが必要です。私は神様の与えた試練をありがたく受け止めております。このたび、皇太后さまが温かい御寄付を下されたことは、患者に対するこの上ない励ましでございます。また、安田大臣様がこのように私たちを歓迎してくださったことに心から感謝申し上げます。安田様は、先日、草津に来られ、私たちの湯の川に深く入られ、人々を励ましてくださいました。皇太后さま、そして、安田大臣さまに対して、私はこの胸の内を表す言葉を知りません。病める人々のために、皆さまと一層力を合わせることによって、感謝の気持ちを表したいと存じます」

つづく

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2026年2月10日 (火)

「地に落ちた東大医学部の権威。かつて居た寮の奇人、変人、怪人が懐かしい。国民審査の意義を思う」

◇我が母校ながらその醜態には呆れるばかりである。東大医学部の佐藤教授が収賄容疑で逮捕された。その実態は信じ難い程破廉恥である。佐藤氏は昼間からソープ接待を受けていたというのだ。また東大前総長五神氏もエステ接待を受けていた。藤井輝夫東大総長と相原同大副学長は安田講堂での謝罪会見の冒頭で30秒超深く頭を下げて言った。「教育機関として社会の信頼を著しく損ねることになり、深く心よりお詫び申し上げます」と。医学部は東大に限らず生命を扱う知の砦である。そして、その頂点としての存在が東大の医学部に違いない。週刊誌では大見出し「私は東大前総長をエステ接待した」が躍る。エステでうつつをぬかす医学の権威に生命を守る謙虚さを期待することは出来ない。東大医学部は知と生命の砦であったが、今それがガラガラと音を立てて崩れたのだ。本郷三丁目の東大正門をくぐると正面にそびえるのが安田講堂である。その姿は時代を越えた堂々とした迫力を保っている。この安田講堂の裏手一体に広がるのが東大病院である。壮大な病院の東側には不忍池があり、それは上野の丘に通じる。東京大学は国家権力の象徴でもあったから、その敷地の広さは大変なものだ。そこを散策するといつしか大都会にいることを忘れる。東大のキャンパスは東西に分かれ、西の駒場と東の本郷である。私は駒場寮に2年、本郷では向ヶ丘寮にいた。昔の寮は不思議な存在で、奇人、変人、怪人が多くいて、振り返るといかにも懐かしい。時々集まりを開くが多くの人たちは往年の元気をうしなっている。私が毎日、水をかぶり、深夜に走ることを知った仲間に怪人扱いされることがある。

◇8日午前、衆院選の投票を行った。地域の公民館へ行き、鉛筆で人名を書き投票箱へ投じる時、一枚の紙を投じる以上の緊張を味わう。ストンとかすかな音がする。それは単に紙の音ではなく自分の意思決定の声なのだ。また主権者としての決断の声である。国民審査も準備して考えて投じた。多くの人は「おまけ」と受け止めているだろう。しかし、最高裁判所裁判官という離れた高い所の存在を民主主義の糸で結ぶ意義ある存在である。かつて罷免された裁判官はいない。しかし日頃、最高裁判事の姿勢に関心をもっている人は少なからずいる筈だ。判断の対象となった裁判官は罷免されないまでも非常にナーバスになっていると言われる。少数でも、物言う主権者に耳を傾けようとする姿勢こそ民主主義と結ばれた絆に違いない。極く細い糸に込められた重要な意味を大切にしなければならない。(読者に感謝)

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2026年2月 9日 (月)

「大雪の中、何が起こるのか、選挙への影響は。野田代表の行く手は不安だ。各主張の当否は間もなくだ」

◇8日未明、3時15分に起床する。しんしんと雪が降っているではないか。今日は衆院選の投開票の日。雪を見てなぜか緊張感が走る。高市政権に審判が下るのだ。古来、日本では大雪と大事件がよく重なった。赤穂浪士の討入、桜田門外の変、2・26事件などが浮かぶ。子どもの頃見た映画でも、降り積もった雪が緊迫感を高めていた。

 県内5小選挙区では計17人が立候補、自民がこれまで通り1強を続けるのか、サプライズはあるのか。通常国会冒頭での解散は佐藤内閣の66年以来の60年ぶりである。それぞれの候補者はこの雪の下で何を考えているのだろうか。投票行動が雪の影響を受けるのは避けられまい。高齢者にとって足元の雪は大敵である。強い寒気は9日にかけて一層強まりそうである。気象庁は警戒を呼び掛けている。同庁によれば8日午後6時までの予想降雪量は関東甲信越で30センチとされる。投開票の大勢は9日未明にも判明する予定だ。

 今回、衆院選では1,284人が立候補した。小選挙区選は1,119人、比例選は914人、うち749人が重複立候補者である。高市首相は「公約で大きな経済財政政策の転換を示したのでこれを審判してほしい」と述べ、その上で「成長のスイッチを片っ端から押していく。責任ある積極財政だ。税収は税率を上げずとも増えていく」と強調。中道改革の野田代表は、首相の経済政策を批判してエンゲル係数が44年ぶりの高さになった食料品の消費税率を0%にする」と訴えた。一般にエンゲル係数が高い程生活が苦しい状態を現すとされる。最近のエンゲル係数は28.3%から28.6%に上昇した。生活必需品である食料品は節約が難しいから食料品への支出が増えるとエンゲル係数が上昇する。この数値が44年ぶりの高さになったというので、野田代表はこれを高市政権の経済政策のせいだとし、食料品の消費税率を秋までに0%にすると強気に訴えている。

 維新の吉村代表は「高校の授業料無償化は自民だけではできなかった」。「連立政権の合意を前に進める推進力、エンジン、アクセルの役割をやらせてもらいたい」と呼びかけた。

 参政党の神谷代表は「日本の国は、日本人が支える。外国人や外国資本に頼ってはだめ」として、「日本人ファースト」を訴える。またれいわ新選組の山本代表は「自民が最も嫌がる対抗勢力に力を与えて欲しい」と叫んでいる。それぞれの訴えは最後の段階を迎えて、なりふり構わずバナナの叩き売りの感すら窺える。(読者に感謝)

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2026年2月 7日 (土)

死の川を越えて 第198回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 一行は、正助の案内で湯の川から麓の里に向かう一帯を視察した。正助は、森山県議等と共に滝窪原、水原窪の辺りを重点的に案内した。安田内相は歩きながら周囲の者に呟いた。

「この広い斜面は日当たりがいいな、空気も眺めも最高ではないか」

 湯の川の区長は記者の質問を受けた。

「安田内相の視察については無上の光栄と思っております」

 区長は、天下の内務大臣がこともあろうに湯の川の集落に足を踏み入れようとは、当初思ってもみなかったのである。集落の人々は感激して熱狂した。さらに区長が驚いたことには、自分も入ったことのない小さな塾に立ち入って、親しく話をした。区長は、これほどに礼を尽くされて、反対することができようかと思った。そこで答えたのである。

「湯の川としては、集落の移転に決して反対ではありません。今日視察された、滝窪原と、水原窪は非常に便利で、気候も飲料水も患者に適しております」

 区長はこう答えて言葉を切ったが、思い詰めた表情で言った。

「しかし、後になって、品田方面が選ばれるようなことがあれば、私たちは一丸となって反対するでしょう。当局は、この問題を決めるに当たっては、集落の人々の意見を聞いてやってほしいと思います」

 区長とすれば、住民の手前もあり精いっぱいの抵抗を示したつもりであった。実は、品田方面が選ばれれば、不便で困るという心配の声が上がっていたのだ。

 上毛新聞は、安田内相の視察を大きく取り上げ、国立療養所の設立は確実、水原窪、滝窪原が有力な候補地と書いた。

 この年11月10日、キリスト教から仏教に居たるハンセン病支援事業団体の関係者が、皇太后によって宮中に招かれた。ハンセン病者救済に貢献したことに対して労をねぎらうためであった。これらの人々の中にリー女史の姿があった。

つづく

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2026年2月 6日 (金)

「日本を理解させるための市民試験を実現したい。分断と対立が進む中、日本の役割は大。市民試験は日本国憲法に繋がる」

◇現在進んでいる衆院選で外国人政策が日本を含め多くの国で争点になっている。価値観や習慣の違いによる摩擦が増えているからだ。外国人との共存を続けるためにはお互いの文化を理解することが不可欠である。どこの国もそのための努力と工夫に懸命である。鎖国も経験した単一民族の国日本は非常に特色ある国であるだけに、共存の課題は私たちにとって増々重い。日本の文化と伝統を堅守しながら変化を実現しなければならない。

 他国の工夫の例が参考になる。フランスでは2年以上の滞在希望者に「市民試験」の合格を条件としている。フランスについての基本的な知識である。人権宣言はいつ採択されたか、フランス国会の議員定数は、フランス国家の歌詞を言えるか、報道の自由が保障するものは、などである。合格しなければ家族で長期滞在できないとなれば死活問題であり必死である。フランス移民局が実施するある市民講習会では日本やアフリカの人たちが真剣に取り組む姿がみられた。講習は1日6時間、4日間の課程を経て市民試験に臨む。かなりハードルが高く厳しいシステムとも思えるが、こうすれば外国人は真剣にフランスを理解しようと努力するし、その成果も上がるに違いない。良い狙いであると思う。日本でも市民試験を実施することを望みたい。きちんとした、丁寧な講習制度をもうければ大きな効果があがるに違いない。外国人政策は排外主義に結び付きやすい。少子高齢化の日本で外国人移民は不可欠であり、日本国憲法の人権尊重と平等主義からしても中味のある市民試験を実施すべきである。

 移民は仲間と固まって住み「別世界」を作る。そこではまるで治外法権的な別世界が実現すると言われる。これはそこに集まる外国人にとっても幸せなことではない。日本は現在本格的な移民社会の入口に立っているといえる。私は非常に多くの若者を抱える外国語学校に関わっているが、彼らは一様に日本は良い国、日本の文化は素晴らしいと口を揃える。しかし激変する世界情勢の中で、これがどこまで続くか不安である。世界では分断と対立が続き、大国の横暴が目に余る。アメリカと中国の対立は止まることなく、その中間に位置する日本の使命の大きさは測り知れない。日本は東南アジアをはじめ、世界に広がる発展途上国の人々に信頼されている。これを支えるのは平和と平等を掲げる日本国憲法である。「市民試験」は日本国憲法の流れとも繋がるものだ。(読者に感謝)

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2026年2月 5日 (木)

「選挙戦と古来の兵法、地の利・人の和・時の運。移民政策の根本にあるもの。民主主義の基礎は教育に」

◇衆院選の投開票が迫った。総務省は全ての開票作業が終了するのは小選挙区、比例代表とも9日正午になる見通しだと発表した。各都道府県選管の状況が明らかになりつつある。いずれも東京都が最も遅く、次に遅いのは小選挙区が高知県、比例は長崎とされる。

 自民党は単独で過半数を大きく上回る勢いであるが、選挙には何が起こるか分からないという一面がある。勝利は確実だと思われるが、その中味が問題である。期日前投票の出足は前回衆院選の同時期と比べ11万8,700人減少している。高市首相はしきりに天候を気にしている様子である。大雪に関する関係閣僚会議でも「期日前を含め天候を踏まえて投票に参加して欲しい」と語っている。

 古来、兵法家は戦いを左右する要素として地の利、人の和、天の時と言った。恐らくこれは戦いを貫く普遍的な真理である。最近の異常気象、特に連日の大雪はこの三つの要素に深刻な影響を及ぼすに違いない。

 今回の衆院選で争点の一つとして浮上しているのが外国人政策である。特に移民の存在が課題になっている。移民は長期滞在であるから価値観や習慣の違いが摩擦を引き起こすのだ。フランスなどは「市民試験」の合格を二年以上滞在許可の条件にするというから面白い。このような流れはいずれ日本にも影響を及ぼすだろう。移民は同じ出身地の仲間と固まって住み「別世界」をつくりトラブルの原因となる。日本でも伊勢崎や太田など外国人が多い地域で課題となっている。この傾向は、人口減少の日本社会で加速するに違いない。各地方自治体は真剣に取り組まねばならない。この問題は教育など多方面に繋がる。そして根本的には日本の文化や伝統をいかに守るかということである。今日、日本人の精神の基盤がぐらぐらして来ていると感じられる。古来の文化や伝統を守る力が弱くなっているのだ。正に日本の危機である。そしてこの問題は、今一方で叫ばれている「日本人ファースト」とか「移民反対」という表面的な問題で解決できることではない。日本のアイデンティティを守らねばならないのだ。8日の投開票が迫る中、民主主義の危機が叫ばれている。民主主義の基礎は教育にあると思う。民主主義を支えるのは人であり、人を創るのは教育であるからだ。その教育が受験技術を磨く手段に陥っている。日本の将来を決める国政選挙の最中であるが、教育は票に繋がらないとして争点になりづらい。学校でも公民教育に魂が入っていないと思えてならない。(読者に感謝)

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2026年2月 4日 (水)

「酷寒の深夜に展開する物語は面白い。コンビニの存在は現代の奇跡か。衆院選の結果に未来がかかる」

◇2月3日、寒気の朝である。身を起こすと共に生活習慣を貫くことの大切さを感じる。深夜に水7杯を首根っこに打ち付ける。爽快感が全身に広がる。午前3時40分にスタートして工業団地内の決まったコースを走る。およそ2キロ余りであるが、工業団地には24時間活気が流れている。この2キロの道程には物語が息づいている。行く手の黒い闇がかすかに揺れて薄い影が近づいてくる。いつもの女性なのだ。「おはようございます」。まず女性の声である。「おはようございます。寒いですね」、私は応え、手を上げる。少し離れた所の駐車場から歩いて来る女性である。どんな家庭の人なのか、子どもの朝食を用意して出かけるに違いない。御主人はベッドの中か、それともシングルマザーなのか。私の想像力は弾む。この女性の職場はすかいらーくである。広いエリアに食品を提供しているという話だ。いろいろな人が生活をかけて働いているに違いない。この女性の後を追う影は外国人女性である。黙礼は交わすが会話はまだない。国際化の時代が進んでいるから、この職場に外国人が居るのは当然といえる。「どこの国の人だろう。アメリカか南米か」と私の想像は限りなく広がる。

 このコースの一角にコンビニがある。そこへ走り込むのも決まりの行動だ。コンビニはその名のとおり便利な存在である。。待っている愛犬サンタの土産のパンと新聞を買う。新聞は3紙を購読しているが、ここで他に目を通し必要なものを得るのだ。ついでに色々な週刊誌にも目を遣る。昔から新聞は社会の窓というが、コンビニこそ社会の窓と言うべきである。今や一大企業に登り詰めたコンビニに目を付けた人は慧眼の持ち主であった。日本最初のコンビニは1969年大阪に開店した「マミー豊中店」であると言われる。74年には東京の豊洲に「セブンイレブン」1号店がスタートした。今や日常生活全般にとって、なくてはならない社会的存在となっている。必要性こそ新しい物を生み出す母である。社会の隅々まで行きわたって発展し進化を続けるコンビニこそ現代の奇跡の社会現象と言っても過去ではない。

◇衆院選の投開票8日が刻々と近づく。新聞社の大規模な世論調査によれば自民党は単独で過半数を大きく上回る勢いで、日本維新の会とあわせた与党としての予想数は300議席を超え、中道はふるわず半減する可能性もあるとされる。中道の中にはパニックの現象すら起きている情況らしい。残る数日でこの流れが変化するか。日本の未来がかかっている。(読者に感謝)

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2026年2月 3日 (火)

「平塚らいてうの衝撃の言葉、元始女性は太陽だった。深海のレアアースに驚く。日本に眠る資源の凄さ」

◇楫取素彦没後、一世紀以上が経ち世の中は大きく変わった。楫取は道徳教育に力を入れたが、人の心が貧しくなったと言われる今日、楫取の存在感は増している。初代群馬県令ということもあり、群馬県の原点としての楫取素彦を再認識する意義は大きいと信じる。楫取素彦を考えるとき欠かせないのはその妻寿である。烈しい女性、烈婦と言われたが、その姿は兄吉田松陰と重なる。現在、女性の時代とされ女性の活躍が目立つが、女性はどうあるべきかという正しい女性像が求められていることも事実であり重要なのだ。

 そこで、平塚らいてうの言葉「元始、女性は太陽であった」をかみ締めたい。らいてうはこう嘆いた。「女性は太陽であった。真正の人であった。ところが今、女性は月である。他に寄って生き、他の光によって輝く病人のような蒼白い顔の月である」。市川房江は、平塚との初対面の印象を次にように書いている。「物静かな美人で、この人が新しい女なのかとびっくりした」と。身長は145センチだった。(当時女性の平均は147センチである)。

 女性を語るとき、これほど激しい表現はない。平塚らいてうのメッセージはその力強さに於いて群を抜いている。弱冠25歳の時の言葉である。

 親鸞の思想、「悪人正機」が甦る。「悪人」とは煩悩に悩む底辺の人のこと。究極の人間平等の思想である。この思想が現在の日本国憲法に登場したことに衝撃を覚える。広島、長崎を経験し、かつての軍国主義を否定して誕生した日本国憲法である。

 この憲法の核心は人間の尊重、人間の平等である。親鸞の思想の核心が時を超えて日本国憲法に登場したことは奇跡ともいえる。

 日本人の精神は淡泊で宗教に関しても関心が薄いと思われている。しかし、私は浄土真宗の寺で、熱心な信者の姿に接し、日本人の心にも真剣な宗教心が受け継がれていることを感じた。しかし、若い世代の情況をみると、このままでは宗教に関する熱が次第に薄れていくのではないかと懸念する。社会として積極的な行動を起こさねばならないと思うのだ。

◇深海のレアアース泥試掘成功を喜ぶ。南鳥島沖の深海で、埋蔵量は世界3位の1,600万トンというから驚きだ。日本は資源小国とされているが、今回は5,700mの深い海の資源である。成功は日本の高度な技術が可能にした。四方を海に囲まれた日本列島である。この列島は地震と火山というダイナミックな力が躍動する神秘な舞台である。未知の資源が多く眠っているに違いない。今回のレアアースを先頭にして、日本の技術力に導かれて次々に未知なる宝が登場することを期待する。日本は夢の国なのだ。(読者に感謝)

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2026年2月 2日 (月)

「浄土真宗の清光寺で楫取を話した。悪人こそ救われると説く衝撃の哲学。親鸞の説は日本国憲法に」

◇昨日は楫取素彦夫妻について話をした。楫取は群馬県の初代県令で優れた教育者であった。道徳教育にも力を入れた。ひ孫の小田村四郎が面白いことを語っている。「子どもの頃、わがままを言うと座敷の鴨井の上に掲げられた楫取の写真の下に連れていかれ、母から散々に説教された」というのである。現在、物質文明が異常に発達し、人間の心が非常に貧しくなったと言われている。今日、人間の究極の平等を説く浄土真宗の寺で楫取を話す機会を与えられたことには大切な意味があると考える。

 楫取素彦を話す時、その妻寿の存在は非常に重要である。寿は吉田松陰の妹として有名であるが、「妙好人」として精神的に楫取を支えた。妙好人とは真宗門待の中でも特に「篤信の人」を称える言葉である。上州人は荒く軽いと言われていた。国定忠治に代表されるような博徒が多かったのは、その現れといえた。楫取の妻寿は正しい宗教が育っていないことがその一因と考え、西本願寺に頼んで浄土真宗の拠点をこの前橋につくってもらった。それがこの清光寺の由来である。清光寺の境内には、開祖親鸞の像と共にそのことを語る案内板がある。

 浄土真宗の核心は、親鸞の言葉「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや」に凝縮されている。自らの善行で救われようとする善人ですら往生できるのだから、煩悩具足の悪人はなおさら阿弥陀仏の救いの対象であるという意味である。悪人とは、煩悩にとらわれ自らの力ではどうにもならないと自覚した人のこと。つまり、どんなに努力しても煩悩を断ち切れない自分を知り、他力、つまり阿弥陀仏の力に頼るしかないと気付いた人こそが救われるべき「悪人」であり、その苦悩する姿こそが仏の呼びかけに応える「本物(正機)」なのだ。

 この悪人正機説は人間尊重の日本国憲法にしっかりと示されている。13条、14条がそれである。13条はすべて国民は個人として尊重されると定め、14条はすべて国民は平等であって差別されないと明記する。これは、浄土真宗が説く真理が普遍的であり、現代社会にも脈々と受け継がれていることを示すものに他ならない。私たちが煩悩を抱えた「悪人」であることを自覚することの重要性は、現代社会に於いて増々重要である。人間の心が止めどなく貧しくなっていくという危機感の中で先人が説いた「悪人正機」の重要性とその現代的意義を痛感する。(読者に感謝)

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2026年2月 1日 (日)

死の川を越えて 第197回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「この方は万場先生です。私は、下村正助といいます」

「お邪魔しますぞ。私は内務大臣の安田謙岳です」

「万場軍兵衛と申します。こんな所に高名な大臣に足を踏み入れて頂き、誠に恐縮でございます」

「すごい書物。まさに松下村塾ですな。今、木檜先生が湯の川の文化を示すと言われたが、その意味が分かりました。ここでは何を教えますかな」

「ちと大げさになりますが、生きる力です。身近な例を挙げて、人間の自由などを話すこともあります。政治問題、社会問題も取り上げます。難しいことを易しく易しく話すことを心掛けております。最近は、前知事がこの湯の川の移転に関する請願を国に出しましたが、その勉強会を致しました」

「ほほー、それは、今日、私が視察する目的ではないか」

 これを受けて木檜が言った。

「実は大臣、私とこの森山県議は、この塾の特別講師であります。は、は、は」

「おお、それは立派、名誉なことです。この松下村塾の名に恥じない講義をお願いしますぞ。は、は、は。いや、この湯の川の実態が実によく分かりました。ご老人、松下村塾はしっかり頑張って下さい」

 安田謙岳内相が湯川生生塾を出た時、森山抱月県議がすっと進み出て恭しく頭を下げて言った。

「大臣、ぜひ、目通り願いたい者がおります」

 森山県議の合図でそっと進み出て挨拶する女がいた。白いドレスをまとった姿は一見して西洋人である。安田内相は非常に驚いた表情である。

「この湯の川で、ハンセンの人たちの救済に当たっているマーガレット・リーさんです」

「おお、あなたがイギリス人の。うわさは聞いておりました。英国の貴族の出で、大変な私財をなげうって患者救済に当たっておられるとか。見上げた志です。一昨年、昭和天皇即位式の時の国の褒章授与に名を連ねられたのを私も承知しております。こちらからお訪ねすべきであった」

「いえ、恐れ入ります。この湯の川で日本人の助け合う心、美しい心に接して、神の恵だと感謝しております。どうか、この人々をお守りください」

「よく分かりました。あなたの国には戦争以来大変助けられました。あなたのような方がこの集落で活躍しておられることは、先ほどこの生生塾で教えられた日本の文化の高さを示すものであろう。ありがたいことです」

 こう言って安田内相は、マーガレット・リー女史の手を固く握った。

つづく

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