死の川を越えて 第185回
※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。
草津町小学校は正太郎を診断し学力を検査した。正太郎は11歳に達していたのである。学校側は正太郎の学力の確かさに舌を巻いた。算数、国語、歴史などの教科の力は草津小の生徒と比べ群を抜いているように見えた。そして、協議の結果4年生への編入が適当だろうということになり、町長もこれを認めた。
ある日、正太郎は4年生のクラスに出席した。緊張で胸がドキドキしている。クラスの皆が好奇の視線を向けている。それが正太郎には刺さるように感じられた。
萩野花子という若い先生は、正太郎を紹介した。
「下村正太郎君です。今日からクラスの仲間です。仲良しになってくださいね。草津小学校に入るための試験に健康も勉強も立派な成績で合格しました。正太郎君をクラスに迎えることは、皆さんにも大変勉強になるに違いありません。席は市川純子さんの隣よ。純子さんお願いね」
「はい、分かりました。大丈夫です」
活発そうな女の子はにっこり笑って正太郎を隣の席に迎えた。萩野先生は、湯の川の子ということでいじめられたりしないよう、また、不安がったりしないよう配慮するように校長から言われていたのだ。
正太郎が湯の川の子どもということは、初め秘密にされる方針であったが、隠し切れることではない、やがて分かるということで、あえて隠さず自然に任せることになった。正太郎の両親も、むしろそれを望んだ。一部の生徒には早くもどこからか、正太郎が湯の川の子であることが伝わっていた。
正太郎は全身を耳にして座っていた。湯の川とささやく小さな声が聞こえた。休み時間になった時、純子という女の子が言った。
「私のお父さんは警察官よ。でもね。優しい、いい警察官なの。あたしも、最近越してきた新入生なの。よろしくね」
純子は、新入生の割には皆に溶け込んでいて元気にはしゃいでいる。正太郎は勇気付けられる思いであった。
つづく
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