死の川を越えて 第122回
※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。
「話したいことは山ほどあるぞ。しかし、ここまでじゃ。この次はわれわれの運命に関わる社会の変化を話さねばならぬ」
次の集まりでは顔ぶれに変化が見られた。マーガレット・リーと大門親分が参加したのだ。
万場老人は一同を見て、これはこれはという表情で言った。
「今日は、世の中が急激に激しくなって、われわれがますます肩身が狭くなっている話をせねばならぬ」
「難しいお話らしいわね」
こずえは皆に気をつかっている様子である。
「前に、リー先生も参加して、ドイツ人のカールさんが『生きるに値しない命』という考えを問題にして皆で憤慨したことがあったな」
万場老人の視線を受けてリー女史が頷いた。
「あれが、われわれに強く関わる思想だとますます感じるようになってきた。じわりじわりと迫ってきおった」
「どういうことですか」
リー女史が驚いた顔で言った。
「日本が戦争に向かっている。経済が非常に悪い。こう言えば分かるであろう。戦争に参加できない者、工場や田畑で働けない者は、税金だけかかるお荷物ということになる。日本はドイツのように、無用の人間を殺したりしないが、税金の無駄遣いという声が聞こえてくるようじゃ。誠に辛い」
「ドイツの危険思想をただ非難するだけでは済まないということなのね」
リー女史の目つきが厳しくなっていた。
つづく
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