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2025年6月30日 (月)

「ふるさと塾で教皇や環境家の少女グレタを語る」

◇28日土曜日は炎暑が続く中の「ふるさと塾」であった。テーマのいくつかは塾生以外にも知って欲しいものなので、このブログで紹介したい。沖縄戦、異色の教皇フランシスコ、環境活動家の少女グレタ・トゥーンベリなどだ。

 6月23日は沖縄戦没者追悼式の日。沖縄戦は民間人を巻き込んだ地獄の戦場であった。そして武士道から外れた状況を随所に示した戦いであった。戦争とはそういうものということを痛感させられる。海外の戦場でも同様だったろうと想像させられた。「バンザイクリフ」は降伏を禁じられた多くの民間人が断崖(クリフ)からバンザイを叫びながら飛び降りた悲しい物語である。自然洞窟「ガマ」は住民の避難壕、日本軍の陣地、野戦病院としても使われ閉鎖空間では多くの悲劇が起きた。日本にとっては絶好の砦であったが米兵にとっては恐怖の存在であったから、洞窟は火災放射器で焼かれた。91歳の語り部の女性は累々たる死体は真っ白なウジでふくれ、その臭いは今でも鼻の奥に残るようだと語る。「ひめゆり部隊」は看護要因として動員された師範学校や高等女学校の生徒たちである。240人中136人が死亡。一部の生徒は手榴弾で自決した。ヒメユリの名にふさわしい可憐な乙女たちの最後を思うと込み上げるものがある。

◇前教皇フランシスコは波乱に満ちた壮大な人生を生きた人である。南米アルゼンチンのブエノスアイレスに生まれ、両親はイタリアからの移民であった。化学技師やナイトクラブの用心棒として働いた後、20歳で神学校に入学した。悪童たちを教え、受刑者の足を洗い、ブエノスアイレス市内各所にあるスラム街へと通った。その温厚な表情からナイトクラブの用心棒を想像することは難しい。黒人男性の前に跪き足にキスする姿に塾生たちは驚いていた。

 私はここで脱線して過去の誤った自分の行動に触れた。「教皇はあの笑顔で激しい行動を泰然として行いました。私は夜間高校のとき心のマグマを抑えられず人に障害をお与えました」。教皇と自分の差がいかに大きいかを痛感して語ったのだ。

◇教皇フランシスコとスウェーデンの少女グレタ・トゥーンベリの対面の光景は思わず心を明るくする。少女の無邪気ではじけるような笑顔と教皇との対面の光景は胸を打つ。少女の手には「気候のためにストライキを」と書かれた文字が。教皇は、「取り組みを続けてください。続けるのです」と語った。トランプは少女を「奇妙な人物だ。若く怒りに満ちている」と評した。すれ違って視線を交わす場面は面白い。明日につづく。

(読者に感謝)

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2025年6月29日 (日)

死の川を越えて 第127回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 万場老人の話に正助の胸は躍った。

「どきどきしますね。ベルツ博士は確か草津にも来ていますね」

「うむ、そうじゃ。わしは恩師の紹介でベルツ博士に会うことができた。驚いたことにな、ベルツはわしがレプラにかかったという話を聞くとすぐに草津の湯を語り出したのじゃ。博士が言うには、草津の湯は強い酸性で結核によく効く、結核菌とらい菌はよく似ている。

だから草津の湯はハンセン病にも効くはずだと。草津といえば、わしの祖先の地。ハンセン病に効く話は聞いていたが、高名な医学者に言われて、強く動かされたのじゃ」

「ははあ、それで先生は湯の川に来たのですか」

「ここにたどり着くまでには、ずい分悩み、時間がかかったが、まあ、結論はそうじゃ。ところでな、ベルツはわしに大変重要なことを教えてくれた。お前には、今日それを伝えたい」

 万場老人は、ここで話すのを止め、茶をすすった。正助は、老人は何を語るのか固唾をのむ思いで待った。

「ベルツ博士は語った。ハンセン病は非常に歴史は古い。ハンセン病とどう向き合うかは人間性の問題だ。ハンセン病にはどこの国でも迷信と偏見がつきまとっている。無知が迷信と偏見を生む。また、社会の仕組みが無知と迷信を作り出す。こういうのだ。そして、博士は草津へ来て、共同浴場でハンセン病患者と一般の人が一緒に入っている様に腰を抜かすほど驚いたと申す。そして、わしにこう申したのだ。日本の最高学府で学んだ君がレプラにかかったことは、君にとっては誠に気の毒であるが、社会のためには重要な意味がある。自分のため、社会のために、レプラと向き合って闘ってみてはどうか、と。はい、そうですかと簡単に答えられる問題ではない。でもな、ベルツ博士の言葉はなぜか私の心を強く揺すった。草津には何かがあるに違いないと思い、この湯の川に来たのじゃ。立身栄達とは無縁となったが、湯川の音を聞きながら、好きな書物を読み、物を書くことにひそかな喜びも感じられるようになった。それに、お前たちが集まるようになってからは、人と交わりハンセン病という社会問題にも関わるようになった。今、わしは自分の人生を噛み締めておるぞ。東大、そして、ベルツ以来のことを話して、湯の川の移転や解散に揺れる今、残りの人生がますます重要に思えてきた。正助頼むぞ」

「先生、よいお話をありがとうございました。俺の胸に大きな勇気が湧いてきました」

「それはうれしい」

 こう言って二人は強く手を握り合った。

つづく

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2025年6月28日 (土)

死の川を越えて 第126回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「実はな、万場軍兵衛というのは本名ではない。この湯の川でも多くの者が本名を名乗っていない。身元が知れて縁者に迷惑がかかるのを恐れる故じゃ。この湯の川の偉いところは、偽名を承知で受け入れ、仲間にすることじゃ。お前には真実の絆をつくるために今日は思い切って話すつもりだ」

 正助は黙って老人の目を見た。偽名は通常のことだから驚くに当たらない。その上に、この人は何を話そうというのか。背後の天井に届くほどの書物の山がこの老人の謎を静かに語り始めようとしているように見えた。

「わしの本名は湯本じゃ。祖先は白砂川のほとりの集落でな、父の代に東京へ出た。わしは東京帝大に入った。天下を取ったような意気軒昂たるものがあった。寮におってな、酒を飲むと皆で寮歌を高唱したぞ」

 驚いたことに、老人は正助の前で声高らかに歌い出したのだ。目を閉じ、昂然と胸を張る様は、昔の学生時代に立ち返っていることを物語っていた。正助は老人の中に若い心が息づいていることに感動した。

「大学を出て、官庁に入り、何年かして結婚した。全てが順風満帆に見えた。しかし、黒い転機は突然にやってきた。腕に妙な斑点ができて不審に思っていたが、深刻には考えていなかった。省内の健康診断でレプラだと分かった時は天地が覆るがごとき驚きだった。大地がぐらぐらと崩れていく。目の前が真っ暗となった。妻とも別れ、役所も去る決意をした。将来の事を考えると途方に暮れてな。夜、上野の不忍池を何度も回った。何回目かの時、思い切って灯台の構内に足を踏み入れた。不忍池から道を一つ隔てた一またぎの所が東大の裏門で、そこを入ると坂の上に東大病院の建物が黒々と広がっていた。ここを過ぎるとな、安田講堂じゃ。大きな時計台の建物が黒い巨大な怪物のように立っている。わしはなぜかそこを目指していた。東大とも別れを告げる意識があったのかも知れん。医学部の建物を過ぎようとした時、はっとひらめくものがあった。それは、ベルツ博士だ。ドイツ人の高名な医学者で、東大で教えていた。ハンセン病を研究しているとのことだ。わしは、何かを求め、わらにもすがる思いでベルツ博士に会う決意を固めたのじゃ」

つづく

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2025年6月27日 (金)

「相沢県議は釈明すべきだ。教諭たちの盗撮に世も末かと思う。トランス女性の訴え」

◇入札妨害容疑の相沢崇文氏が自民党を離党する。25日付で受理された。金井幹事長は「県民、支援者にご心配と迷惑をおかけし、改めて深くおわびする」と陳謝。現職県会議員の逮捕ということで衝撃が走った。それは参院選が目前に迫っているからである。有権者の政治不信は轟々とし沸点に迫っているようだ。「裏金」という品性のよくない事件に端を発しそれが覚めないうちに都議選が行われ、自民・公明両党は歴史的といえる大敗を喫した。

 目前に参院選が迫る。この政治不信の流れの中で相沢逮捕は起きた。自民党離党だけでは済まないのではないか。県議会事務局によると議員辞職は提出されていない。金井幹事長は「綱紀粛正を徹底し、県民の皆様の信頼回復に全力で取り組んでいきたい」と語った。金井氏は相沢県議と連絡がとれないと話しており、相沢県議には県民に対ししっかりと説明し謝罪する勇気と責任が求められる。

◇世も末かと思われる盗撮事件が教育現場で起きた。小学校教諭が女性児童の下着を盗撮し、画像をSNSのグループチャットで共有したという。チャットには10人近くの教員が参加していた可能性がある。「これはいいですね」、「見入っちゃいます」などの感想の書き込みも。名古屋市立小の教員は性的姿態撮影処罰法違反容疑で逮捕された。容疑者の一人、森山勇二は主幹教諭で校長と教頭を補佐する立場にあった。この事件の闇は深い。週刊誌などで伝えられる巷の出来事はここまで来ているのかと背筋を寒くさせる。歌舞伎町あたりの男女の狂乱が小学校と繋がっているのかと唖然とする。このチャットの存在が明らかになった発端は更に驚くべきもので信じがたい。警察は3月、問題の名古屋市立小教諭水藤翔太を器物損壊罪などで逮捕した。器物損壊の実態は駅ホームで15歳の女性のバックに体液をかけたというもの。教諭のスマートフォンを解析してチャットの存在を把握した。狂っているとしか言いようがない。名古屋市立小は生徒や保護者にどう説明するのだろうか。学校を支える基盤は倫理や道徳である筈だ。二宮金次郎の銅像は今でも校庭に存在するのであろうか。

◇愛知県のトランス女性市議が市議会の男性に「おっさん」と呼ばれ精神的苦痛を受けたとして訴えていた。名古屋地裁は「侮辱に当たる」として賠償を命じた。女性市議は、出生時は男性だったが性別適合手術を受け法律上も女性だった。私はカルーセル麻紀さんの壮絶な人生を知り、胸を打たれたところであった。(読者に感謝)

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2025年6月26日 (木)

「息を呑むアメリカの参戦。トランプは成果を強調。迫る参院選、自民はどこまで落ちるか。ネーミングライツ契約の解除」

◇アメリカの参戦は正に息を呑む瞬間だった。イスラエルとイランの交戦はどこまで激しく続き、どう終息するのかと不安だった。イランはホルムズ海峡閉鎖を表明している。わずか30キロ余りの海峡は日本への石油を制している。日本経済の喉元なのだ。

 トランプ大統領が圧倒的な軍事力で動いた。巨大な空の要塞ともいえる爆撃機を登場させ、イランの体制を脅かす如きことを発言し、更には最高指導者ホメイニ師の存在を確保したと発言。イラン側は攻撃を恐れてかホメイニ師は姿を隠すようになったと言われる。

 停戦違反があったとかないとか、不確定要素もあるらしいがトランプ氏は「完全かつ全面的な停戦が合意された」と成果を強調した。メディアの見方は「薄氷の合意」と厳しい。ともかく一定の停戦状態は達成されたのだろう。これを実現させたトランプ氏の素早い動きと演出は評価されるべきではないかと思う。

 アメリカの今回の動きを他の国はどう見ていたであろうか。先ず北朝鮮である。金正恩総書記は、弱小の国は核を持たねば大国につぶされると受け止めたに違いない。北朝鮮は既に核弾頭を持っているからこれを攻撃するには反撃されるリスクを考えねばならない。金正恩は今回の出来事から自国の保護に核が不可欠であることに思いを深めたと思う。ロシアとの連携も一層進めることになろう。

◇参院選まで一ヶ月。本県でも各党の動きが肌で感じられるようになってきた。

 与党は昨年秋の衆院選で過半数を割る歴史的大敗を喫した。参院でも過半数割れに追い込まれれば政権交代の可能性が高まる。森山幹事長は今月桐生市の会合で今回の選挙は事実上の政権選択選挙だと強調した。

 与党は先日の都議選で惨敗した。その影響は尾を引いているに違いない。群馬はその上に現職の県会議員が入札妨害罪で逮捕された。裏金問題による政治不信の炎がごうごうと音を立てている時、火に油を注ぐが如き事態なのだ。投票率の低下も深刻だが今回は怒りの投票がどのような結果を招くか目が離せない。

◇入札妨害事件の影響が早くも現れた。みどり市の須藤昭男市長は総合設備業「グンエイ」とのネーミングライツ(命名権)契約を解除する方針を明らかにした。入札妨害でグンエイ社長が逮捕されたことを受けたもの。同社の社名を冠した文化ホールへのイメージや市民感情を考慮したと市は説明している。市本会議で公表した上で同社に申し入れたという。(読者に感謝)

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2025年6月25日 (水)

「沖縄戦慰霊の日に思うこと。私は戦火の下で生まれた。参院選・夏の陣のサプライズ」

◇23日は沖縄戦慰霊の日。玉木知事は緊迫の国際情勢下の追悼式で訴えた。「沖縄戦の教訓を世代を超えて守り伝え続けていくことは、今を生きる私たちの使命」と。戦後80年、死屍累々死臭漂う戦場が遠ざかっていく。しかし、歴史は繰り返すとばかりに世界各地で現在にはかに戦争の炎が激しくなっている。沖縄の英霊は今こそ自分たちが使命を果たす時だと訴えているに違いない。

 沖縄は正に地獄の戦争だった。そしてその地獄の炎の犠牲になったのは夥しい数の民間人であった。私は当時首里高等女学校生徒だった比嘉トヨ子の手記を読んだ。以下はその要点である。「道端の屍は嘔吐をもよおすような死臭、死んで間もない母親の乳房を吸う乳呑児、両親を失い誰にでもなついてついてくる幼い兄妹等、数限りない悲劇が道行く先に待ち受けていた。『敵のトラックが来たぞ』誰かが叫んだ。私は妹春子の手を引っ張ると道路わきのススキの繁みに身を隠した。青い目は夜になると何も見えないというデマを信じていた。するとピストルを持った米兵がゆっくり歩いて来て目の前で足を止めた。私は両手で顔を覆って『お母さん助けて』と心の中で叫んだ。銃口が二度三度私の肩をこずいた。私は両手を上げぶるぶるふるえて立っていた」

 住民の集団自決、バンザイクリフの出来事など、民間人を正しく指導しなかった日本兵の責任は測り知れない程大きい。沖縄戦は本土の前哨戦であった。1945年の終戦直前、8月の前橋大空襲時私は防空壕で声を潜めていた。振り返れば当時町内の女性たちがバケツで水をリレーで運び壁にかける作業をしていたが本土決戦に備えた一環だったのかと思う。本土決戦となれば現在の私は存在しなかったであろう。沖縄戦慰霊の日に自分の運命というものの不思議さを思う。

◇いよいよ参院選である。来月3日公示、20日投開票と決まった。20日の日曜は3連休の中日。行楽中で投票率の低下が懸念される。波乱の都議選の熱が未だ冷めない時。その影響は必至。値上げの嵐が吹き荒れる中の選挙。国民の関心は当然物価であるから選挙の争点も当然物価高対策になるだろう。落ち目の自民党はどうなるか。石破首相は勝敗ラインをどう見ているか。首相は非改選と合わせて自民公明両党で過半数の確保を勝敗ラインとしている。天下分け目の夏の陣が史上希な酷暑の中で行われる。どんなサプライズが待ち受けるのか。(読者に感謝)

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2025年6月24日 (火)

「英の安楽死法の成立に注目する。都議選の結果は衝撃的だ。真夜中のハンマー作戦の今後は」

◇イギリスでは安楽死を権利として認める案が実現しつつある。安楽死といえば、少年の頃の父に関する出来事を忘れることが出来ない。父は冬になると時々持病の心臓喘息を起こした。呼吸が出来なくなり胸をかきむしって「殺してくれ」と踠いた。母は外に飛び出して「助けてください」と叫んだ。医師が駆けつけるまでの地獄を母は後に呟いたことがある。「頭が真っ白になり、瞬間お父さんの首を絞めて楽にしてやろうかと思った」と。日本の法律は安楽死を認めない。殺人罪、あるいは嘱託殺人になる。超高齢社会が生む悲劇が増加している。一歩病院に足を踏み入れるとその一端を感じることがある。欧米では安楽死の法律化が進んでいると言われる。

 イギリスの国会で審議が進む法案は余命6ヶ月未満の患者が対象で医師等専門家の承認の下で、医学的な助けを借りて自ら命を終わらせることを内容としている。イギリスでは7割以上の国民が法案を支持しているとされる。法案支持のプラカードを掲げる終末期患者の光景が報じられている。不思議な姿に打たれ複雑な心境になる。

 仮にこのような法律が日本で生まれた場合、介護や経済的負担を心配する患者サイドに死を選ぶ道があるではないかと促すことになる懸念は否定出来ないだろう。生命尊重の温かい社会の存在が支えになることを痛感する。

◇参院選を目前にしてその前哨戦たる都議選の行方に注目した。気になる裏金と政治不信の嵐に晒される自民党、また昨年の都知事選では旋風を起こした安芸高田市長石丸伸二氏の「再生の道」はいくつ議席を得られるかなどである。自民は惨敗であった。過去最低議席である。石丸氏の「再生の道」は42人の候補者を出したが当選者はゼロであった。事前の予測で人気に陰りと言われたが、これまでとは思わなかった。昨年のあの熱気はどこへ去ったのか。衝撃的というべきである。公明党にも大きな波乱が。9回連続全員当選は果たせなかった。22人の候補者中3人が落選。これらの結果は目前の参院選に大きな影響を与えることは間違いない。

◇「真夜中のハンマー作戦」、つまりアメリカによるイラン核施設攻撃が始まった。トランプ氏はイランの主要な核施設は完全に破壊されたと強調した。一発13.6トンの地中貫通弾「バンカーバスター」13発が投下された。イランは報復を宣言している。中東の緊張は極めて深刻な局面に突入した。巨大な怪鳥のようなB2爆撃機が中東を攻撃している。世界戦争に突入するのか。(読者に感謝)

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2025年6月23日 (月)

「ミライズクラブで自民幹事長金井氏と相沢逮捕問題を語り合う。議長を一年でタライ回しのからくり。参院選の動向」

◇私が代表を勤める「ミライズクラブ」は21日、金井康夫自民幹事長等を招き相沢県議問題等に関し勉強会を開いた。前衆院議員尾身朝子氏も参加した。現職の県議が入札妨害で逮捕されるとは。自民党内の混乱や受け止め方を知りたかった。本人との接触もできず困惑している様子。自民党控室にも段ボール箱の捜査員が入った。これも前代未聞のこと。かつていた控室を想像して驚愕の思いだ。

 この日の議題としてもう一つ県民会館廃止問題があった。「知事は突然バッサリと廃止の結論を出した。議員はこれに対し積極的な対応は出来なかったのですか」、「議会は知事の追認機関になっているのですか」こんな発言も出た。二元代表制なのに議員、議会の存在感が圧倒的に低いのは永遠の課題であるかのようである。

 議長交替時に不思議な光景があった。議長を辞める理由として「この度一身上の都合により」と発言するのが長い慣例になっていた。昨日もこれを取上げた。私もやったということを告白して。自分では愚かなことと承知しながら勇気がなかったのだ。地方自治法では議長の任期は4年となっているが議長のポストをたらい回しすることが目的である。最近、ようやくこの任期を2年にするとかの地方議会が存在することを聞く。地方議会の形骸化が叫ばれて久しいが地方を一律に論ずるのは間違っているかも知れない。地方創生が国をあげて叫ばれているのも事実である。地方の活性化、そのための地方議会の再生は地方にとって死活問題である。従って地方によってはその工夫と努力の成果が現れていると見るべきではないかと考える。

◇夏の参院選の投開票まで一ヶ月を切った。7月3日公示で7月20日投開票である。20日の時点で450人以上が立候補を予定していると言われる。物価高対策が主な争点となるのは当然である。連日値上げの嵐が吹き荒れている。スーパーやコンビニでの買物が日常化しているが財布の中の千円札、拳の中の硬貨が、羽がはえたように消えてゆく。これは国民の生活が物価高に脅かされている現実を物語るもの。このような状況下での参院選である。参院の存在意義と存在価値が問われているが、異常な事態での民意は重く鋭い筈だ。政治家として参院だからといって軽く見てはならない。今度の参院選は社会が大きく変化する節目に行われる。落ち目の自民党はどん底からはい上がる一歩と成得るか、更なる底無し沼に沈むかいずれにしろ息を呑む瞬間である。(読者に感謝)

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2025年6月22日 (日)

死の川を越えて 第125回

 

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

  • 万場軍兵衛の過去

 

 2,3日後、正助は万場老人に呼ばれた。

「実はな、わしは人生の幕引きを考えて、いろいろ話そうとしたのじゃ」

 万場老人は正助の顔を見るなり切り出した。

「えー、そうだったのですか。先生、幕引きなんて寂しいですよ。俺たちの指導者じゃないですか」

「うむ。しかし、さやさん、とめさん、正太郎君、みんながこの大変な時代に真剣に生きていることを見せつけられて、わしは考えを変えたぞ。湯の川の歴史を知りたい。人間として生きたい。そう言って、わしを訪ねたのは正助、お前だった。そして、わしは初めてハンセン病の光を口にした。これらのことを振り返ってな、少し位年を取ったといって旗を巻くのは恥ずかしいと気付いたのじゃ。この光を生かして命の火を燃やさねばならぬことに気付いたのじゃ。人に話すことではない。しかし、私の人生の何度目かの出発にあたり、お前に話さねばならぬと思って、今日は来てもらったのだ」

 重大な雰囲気に正助は身を固くし姿勢を正して座り直した。そして、何が語られるのかと万場老人の口元を見詰めた。

「人間は精神の生き物。精神は年とともに豊かにすることができる。わしは、こういう身になって、いわば隠れて住むようになった。年をとったから引退というのは肉体活動を続けた人が言えることで、わしなどは口にする資格はない。それに気付いたのじゃ。は、は、は」

 正助は、先日の老人の思い詰めた表情を思い出し、納得した気持ちになって言った。

「先生の後ろの書物の山、すごいですね。さやが京都大学を訪ねた時、小河原先生の研究室が同じように本でいっぱいで、ここと様子が似ていてほっとしたと言っています」

「ほう、そうであったか。今日は、私の身の上を少し話さねばならぬ。風に飛ばされる浮き草では信じられぬじゃろうからな。は、は、は」

 万場老人はそう言って、決意を固めるかのように言葉を止めた。そして口を開いた。

つづく

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2025年6月21日 (土)

死の川を越えて 第124回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 これを聞いて正助が顔を上げて言った。

「先生、世の中に勇気えお与えることができるなんて。俺たちが世間の役に立つなんて信じられないようだ」

 万場老人は大きく頷いた。そして老人はさやに視線を移して言った。

「ところで正太郎君は元気か」

 さやが頷いて何か言いかけた時、リー女史がそっと手を挙げて言った。

「あなたたちご夫婦の勇気をずっと見守っていました。さやさんは立派な子どもをお産みになった。正太ちゃんこそ、ハンセン病の光が生んだもの。いえ、光そのものだと思います」

「あなたたちに励まされ、正太ちゃんの元気な姿に勇気づけられて、お子さんを持つご夫婦が出て来たのです。お子さんたちがすくすく育つ姿は、ハンセン病が遺伝病だという迷信を破る証拠になるに違いありません。素晴らしいことです」

 さやは泣いていたが、涙を拭って言った。

「皆さんに助けられたからできたことです。聖ルカ病院の先生に教えられて京都大学へ行き、偉い先生に会って遺伝病でないことを確信できたのも皆さんのおかげです。正太郎が今、すくすく育っているのも皆さんのおかげ、そしてこの集落のおかげです。私は本当に感謝しております」

「私にも一言」

 そう言って、そっと手を挙げたのは市川とめであった。

「私も子どもをこの手で絞め殺そうとしていたところをさやさんご夫婦に助けられました。あの時、さやさんが、子どもを殺すのでなく、子どもを生かすために命をかけるのよ、そこに生きる喜びが生まれるのよと言ってくれたことが耳にこびりついています。その通りになりました。これも、この湯の川だからできたことと今、分かりました。本当に、私、ありがたくて」

「ほおー、そういうことだったのか」

 万場軍兵衛が驚いたように言った。そして、万場老人はさや、とめ、こずえ、正助と一人一人の顔を見詰めると、何を思ったか視線を落として口をつぐんでしまった。人々は何が起きたかといかぶった。不思議な沈黙が一瞬流れた後、老人は口を開いた。

「実は、皆と話していて心に生じたことがある。今日は、済まぬがここまでにしてくれぬか」

 人々は老人が疲れたものと思い笑顔で頷いたが、正助だけは老人の視線に何かちがうものがあることを感じていた。

つづく

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2025年6月20日 (金)

「中東の戦争拡大を憂う。現職県議の逮捕に驚きと怒り。長男の退院と外科医不足」

◇中東で一気に戦雲が動いている。メディアは米軍がイラン攻撃を検討していると報じた。具体的にはイランの地下核施設攻撃を真剣に検討しているというのだ。トランプは深い地下施設を貫通する重さ4トンの大型爆弾の使用を「検討している」らしい。そしてイラン最高指導者ハメネイ師の居場所を正確に把握していると主張し「忍耐は限界に近い」とも。米政府は海軍空母を中東に向わせた。トランプはイランに「無条件降伏」を迫るが、イランはペルシャ湾封鎖の警告で対抗しようとしている。仮にホルムズ海峡が封鎖されれば石油が止まり、世界経済は混乱を極める。日本の経済もその渦の中に巻き込まれる。急がれるのは事態を沈静化させる外交である。アメリカの変化により世界の混乱が加速すると言われてきたが遂にここまで来たかの感である。このような事態は結局はアメリカの首を絞めることに繋がるに違いない。

◇現職県議相沢氏等の逮捕にあっと驚いた。裏金問題で政治不信が沸騰し、その影響は未だおさまっていない。桐生市新庁舎工事の入札妨害容疑である。現職県議の逮捕は初めてらしい。ミライズクラブの行事も影響を受けることになった。自民党幹事長金井康夫氏と県議会及び県会議員の政治姿勢に関し、クラブとして意見交換する予定であったが出来なくなった。県議会は古巣であるだけに残念である。私は議会にいた頃、議会改革に力を注いで来た。知事と議会は共に県民の選挙によって実現する、いわゆる二元代表制である。しかし議会の現実は、知事の追認機関と化している。法制度による構造的な問題があるが、議員の質の低下が大きな要因になっていると思う。議員の質は選ぶ人の質と深く関わる問題である。県民の政治への無関心は民主主義の危機となっている。かつて元安芸高田市長石丸伸二氏が市議会の現状に対し「恥を知れ、恥を」と叫んで注目を集めたが、恥を知るべきは安芸高田市議会だけではない。今回の入札不正に関し、私は群馬県議会に対し「恥を知れ」と言いたい。藤岡市の談合事件に続けて起きた県議会議員の不祥事である。地方政治のたがが緩んでいるに違いない。

◇長男が大変な手術を乗り越えて退院した。自ら決断し耐えた表情は輝いていた。外科医は丁寧に分かり易く説明してくれた。外科医不足が叫ばれている。外科医が大変な仕事であることを今回初めて痛感した。長男の手術を通して外科医界の発展を祈る思いである。(読者に感謝)

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2025年6月19日 (木)

「日中友好協会総会は女性で花ざかり。国際情況の中での日本の使命。女性委員会の存在感」

◇昨日の日中友好協会総会は活気と華やかさがみなぎっていた。それは女性の存在の故である。会長の私の挨拶の要点は次のようなものであった。「混乱する世界情勢の中で日中の役割、特に日本の使命は非常に重要です。今、私は中国大使館の中庭の碑文を思い出します。それは福田元首相と私の合作の言葉「友情の絆」です。真の友情を培うには深い考えと勇気が必要です。二千年の歴史と今日の世界情勢を踏まえ言うべきことを言わねばなりません。現在の世界は民主主義と法の支配が危機に晒されています。トランプ大統領の傍若無人ぶりは目に余ります。日本は同盟国としてトランプ氏に適切なアドバイスをすべきですが、アメリカを動かすためには中国及びその他の国々との連携が必要です」。

 総論的にはこのように話し、日中は世界とアジアの平和のために力を合わせようと締めくくったが、心の中では中国とは強かに付き合わねばという思いを強く抱いていた。中国は口では世界の国々と平和を目指し大国としての責任を果たさねばと強調しながら既存の秩序を塗り替え新たな覇権を求めている。日本はこれを許してはならない。日本は世界に広がる発展途上国の多くに信頼されている。それは世界で唯一、広島・長崎という核の洗礼を受けながらそれを乗り越え平和国家として着実な歩みを続けているからだ。また日本はこれらの国で、科学技術で貢献できる。このようにして実現させた連携の力で自国本位の権威主義の国々に対応しなければならない。中国は日本への接近を強く望んでいる。

 この日の総会における中国女性の発言からもこのことが強く窺えた。

◇私が議長として議事を進めたが、それに先だって報告事項の説明がなされた。それがこの日のメインの一つ、女性委員会の設立である。メンバーは、委員長に齋藤胡依さん、副委員長に小野恭子さん、若山るり子さん、会計は黄燕さんの各氏。皆、はち切れるような若さと笑顔である。中国出身の委員長は大きな実業家でありこの日堂々と挨拶した。

 私は議事を進める中で、世は挙げて女性中心で進んでいますが日中友好協会もようやくその流れに乗ることが出来ましたと発言した。総会は普通、シャンシャンで終わるがこの日は積極的な発言も複数あり有益であった。その中に仕事で参加できない人もいる筈だから参加日時に工夫と検討を望むというものがあった。大いに傾聴すべきと答えた。(読者に感謝)

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2025年6月18日 (水)

「悔やまれる木村氏の死。医師との付き合いの重要さ。エコーの日。日中の総会、日中の重要さ」

◇38.2度、昨日の甲府市の温度である。まだ6月半ばというのに。灼熱地獄とはこのことか。太陽が燃えて溶けている。同級生がばたばた死んでいる。風前の灯火という言葉があるが、これでは炎熱前の灯火である。日本人の平均寿命を思った。男81.09歳、女87.14歳である。健康寿命となるとぐっと下がる。男72.68歳、女75.38歳である。改めて自分の健康状態を思った。昭和15年10月30日生まれの私は今年の10月、満85歳となる。毎日3回定期便のように走れることを天に感謝している。来る11月3日は85歳でぐんまマラソン10キロを走る。

昨日深夜の走りを終えて事務所に入り衝撃を受けた。一枚のFAXは木村信夫さんの死を告げていた。翌日、早速日輪寺町の木村家を訪ねた。実は決して休むことのなかった私の「ふるさと塾」を4月は休んでいた。私は木村さんの温顔に手を合せた。線香の煙を通して木村さんは静かに語りかけてくる。「楽しい塾でした」。娘さんは語った。「紀雄先生のお話を聴くことが父の生きがいでした」。「そんなに悪かったのですか」、私の問いに娘さんはポツリと応えた。「持病があった父は医者に行けば帰って来られないと言ってどうしても病院に行きませんでした」、「命の火をもっと大切にするために、医療を上手に利用すべきでしたね」、遺影に手を合せながら私は心で呟いた。

◇今日はエコーの日。掛かり付け医のU医師はかつて中学時代家庭教師をした仲。非常に優秀で私は課題を与えて居眠りしていればよかった。その頃から培った信頼関係がある。血液検査も定期的にやっている。「80代でこの数値」と驚かれたことがある。ぐんまマラソン10キロ完走は、完走証を示して報告した。100歳まで走る決意は内緒にしているが、この医師のお陰で実現できると感謝している。これを書きながら木村さんが地域の医師と信頼関係を築かなかったことを残念に思う。

◇今日は重要な仕事が待ち受けている。令和7年度群馬県日中友好協会の総会である。会長の挨拶に責任を感じる。緊迫する世界情勢の中で日中の役割、特に日本の使命が格段に重要度を増しているからだ。中国と良好な関係を維持することは、ロシアや北朝鮮に備えるため、更には同盟国アメリカに適切なアドバイスをなすためにも極めて重要である。広島、長崎の地獄を抜けて平和憲法を堅持する日本に対し世界の信頼は厚い。それを活かすことこそ日本の使命だと信ずる。信念をもってそれを語ろうと思う。(読者に感謝)

 

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2025年6月17日 (火)

「日本製鉄勝利のサプライズ。株主として快哉。トランプへの抗議デモ、中心はフィラデルフィア。その意味は。中間選挙の行方は」

◇15日、ほとんどの新聞が「日鉄・100%子会社化」を一面大見出しで報じた。中味は「トランプ氏・USスチール買収承認」である。長いこと株主として関わってきたがこんなことは初めてである。日鉄としても前代未聞に違いない。

 かつて鉄は国家と言われた。日鉄が大きく変化したのは技術力により高級鋼に於いて世界に冠たる地位を得たからである。その高級鋼の特色は強くて軽いこと。自動車に於いて、強さは命を守り、軽さは燃料を少なくする。USスチールを100%子会社にしたことはアメリカでの日鉄の大きな発展への寄与が期待される。アメリカは世界最大の高級鋼市場だからだ。鉄の国内市場は低迷していた。中国の安い鉄が過剰に流入しているからだ。トランプの承認はサプライズだった。鉄はアメリカの安全保障と結び付くからだ。そこで、トランプの承認は日鉄とUSスチールが米政府と国家安全保障協定を結ぶことが条件となった。両国の安全保障を支えるものは強固な日米同盟であるから、現実主義のトランプもこの点は計算に入れているに違いない。

◇アメリカ各地で14日トランプ大統領に抗議する集会が開かれた。第二次トランプ政権発足以降最大規模と言われる。また34年ぶりとなる軍事パレードでは「ノーキングス」のプラカードであふれた。これは「王はいらない」を訴えるもので「権威主義、億万長者優先の政治」に反対するもの。抗議の中核の場は東部フィラデルフィア。この都市が反トランプの中核になっていることに重要な意味がある。なぜならここでアメリカの独立宣言が採択され合衆国発祥の地とされるからである。現在、法の支配、民主主義が危機に直面している。トランプの政治姿勢はその象徴というべきで「王はいらない」はトランプを糾弾するアメリカの良心の叫びに違いない。

 この日、異例の軍事パレードがあった。トランプ79歳の誕生日でもあった。トランプは演説で強調した。「我々の兵士は戦って、戦って、そして勝って、勝って、勝つ」と。兵士を前にしたトランプの姿には巨大なアジテーターたらんとする意図がうかがえる。「王はいらない」のプラカードがアジ演説に呼応しているように見える。

 全米各地で燃える反トランプの抗議デモは中間選挙にどう現れるのか興味をひかれる。中間選挙は来年4月7日から11月3日にかけて行われる。捲土重来を期す民主党は着々と準備を進めている。全世界が息を呑む瞬間である。(読者に感謝)

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2025年6月16日 (月)

「曽我ひとみさんが訴える拉致の現実。北朝鮮、ロシア、中国と対峙する日本の役割。イスラエルの暴挙に怒る」

◇拉致被害者の曽我ひとみさんの講演が14日、利根沼田文化会館で行われた。曽我さんのテーマは「帰国から23年を迎えて思うこと」。いっしょに拉致された母親ミヨシさんへの思いが胸を打つ。ミヨシさん拉致から47年が経つ。正式に認定されている被害者は17名であるが拉致の可能性がある人々は872名と言われる。新潟県の沿岸から袋をかぶせられるなどの暴力により連れ去られた。曽我さんは「1分1秒でも早く全員を取り戻さなければならない」と訴えた。曽我さんの訴えは平和ボケと言われる私たちの心に突き刺さる。ともすれば忘れかけているという悲しむべき現実がある。講演に参加したある市民は語る。「拉致問題が今も続いていることが信じられない」と。政府は為すべきことをやっているのかと問いたい。政府の姿勢を歯がゆく思うが、それは私たち国民の姿勢でもあることを認識しなければならない。大韓航空機爆破などの犯罪を平然とやってのける犯罪国家が隣国であるという現実に慄然とする。

◇北朝鮮の現実を突きつけられて世界情勢がにわかに深刻の度を増していることを痛感する。戦後80年を経てアメリカの変化と共に世界が変化し、地上は弱肉強食のジャングルになりつつある。歯止めをかけなければと思うとき日本の役割が大きいことに気付く。その役割をしっかり自覚することは現在私たち国民の急務。広島・長崎の経験を持ち平和憲法に立脚する日本は地政学的にも最も重要な位置にある。北朝鮮、ロシア、中国と対峙する日本は混乱の世界の最前線に立つ。日本は、果てしなく広がる途上国、貧しい国と連携を深め先頭に立てる数少ない国である。その連携の力こそ暴走するトランプのブレーキとなり得る。現実主義者トランプは最大の対立国中国と取引する上でも日本の重要性を認識している筈。アメリカは日本にとって重要な同盟国である。真の同盟は深い友情を基盤とすべきだ。世界の多くの国と手を携えてアメリカのコントロールを目指すべきだ。

◇イスラエルの暴挙は悲しむべきことだ。その建国の大義はナチスのホロコーストから立ち上がったことではないか。ネタニヤフ首相の表情が今悪魔のように見える。13日のイスラエルによるイラン核施設空爆が大きく報じられた。中東は世界の火薬庫と言われてきた。イランの最高指導者ハメネイ師は報復を誓う。双方の攻撃は激化している。この争いが本格的な世界戦争に広がらないことを祈るばかりだ。(読者に感謝)

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2025年6月15日 (日)

死の川を越えて 第123回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「そうじゃ。あの時はそんな考えは間違っていると攻撃したが、ではどうしたらよいかを論じなかったのじゃ。弱ったものだ」

「難しい理屈は分からねえが、この湯の川のように自治会があって、リー先生のような支えがある所は、お上に頼る部分が少ねえから上等だと思うが」

 大門の親分が言った。

「その通りじゃ。ところが、この湯の川地区の将来も最近不安になってきた。誠に重大な問題なのじゃ。湯の川地区の移転と解散につながることだ。腰を据えて対策を考えねばならぬ」

「えっ、そんな深刻な問題があるとは聞き捨てならねえ。じっくり聞かせてもらいてえもんだ」

 大門親分は身を乗り出して言った。

「あまりに大きな問題じゃ。いずれ話そう。そして、じっくり取り組むことにしよう」

 他の者たちも不安な顔を表しながら頷いた。

「とにかくじゃ、ハンセン病の患者にとって、最大の敵は戦争なのだ」

 万場老人は語気を強めて言った。

「どういうことですか。もう少し詳しく教えてください」

 正助が問う。

「よいか。重要じゃが単純なこと。戦争になれば、国民は皆協力しなければ非国民と言われる。国の乏しい税金は戦争に使わねばならない。ハンセン病のために使う余裕などないということになる。しかも、ハンセン病の患者は病気を広めて戦力をなくす。国辱と言われるのだ」

「ああ、もうやめてください。分かりすぎるくらい分かります」

 さやの声であった。

「わたしたち、どうしたらいいの。どうなるの」

 こずえがさやの手を握って言った。

「うむ。確かにわれわれは世界の波にもまれているが、遠くばかり見てもしようがない。大切なことはこの湯の川を守ることじゃ。理想のハンセン病の里で自治会は続いている。ハンセン病の光は消えていない。リー先生のような方が支えてくれるのもその現れだ。そう思わんか。われわれが必死で頑張る姿は世間に勇気を与えているはずじゃ」

つづく

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2025年6月14日 (土)

死の川を越えて 第122回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「話したいことは山ほどあるぞ。しかし、ここまでじゃ。この次はわれわれの運命に関わる社会の変化を話さねばならぬ」

 次の集まりでは顔ぶれに変化が見られた。マーガレット・リーと大門親分が参加したのだ。

 万場老人は一同を見て、これはこれはという表情で言った。

「今日は、世の中が急激に激しくなって、われわれがますます肩身が狭くなっている話をせねばならぬ」

「難しいお話らしいわね」

 こずえは皆に気をつかっている様子である。

「前に、リー先生も参加して、ドイツ人のカールさんが『生きるに値しない命』という考えを問題にして皆で憤慨したことがあったな」

 万場老人の視線を受けてリー女史が頷いた。

「あれが、われわれに強く関わる思想だとますます感じるようになってきた。じわりじわりと迫ってきおった」

「どういうことですか」

 リー女史が驚いた顔で言った。

「日本が戦争に向かっている。経済が非常に悪い。こう言えば分かるであろう。戦争に参加できない者、工場や田畑で働けない者は、税金だけかかるお荷物ということになる。日本はドイツのように、無用の人間を殺したりしないが、税金の無駄遣いという声が聞こえてくるようじゃ。誠に辛い」

「ドイツの危険思想をただ非難するだけでは済まないということなのね」

 リー女史の目つきが厳しくなっていた。

つづく

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2025年6月13日 (金)

「シベリア強制抑留と瀬島龍三や鳩山一郎。生存者一人の大飛行機事故。99歳の逆走に思う」

◇来月にかけていくつかの講演が待ち受けるが、やや緊張して臨むのは27日早朝の倫理法人会である。この会では何回か話してきた。今回のリクエストはシベリア強制抑留の真実。人物として鳩山一郎や瀬島龍三、書物として「無抵抗の抵抗」などを取上げる。シベリア強制抑留では抑留者約60万人中、およそ5万5千人が亡くなった。大部分は数年で帰国したが、軍や警察などに関わった人たちはソ連に対する反逆として特別の裁判にかけられるなどして懲役20年などの刑に服することになった。その中に元陸軍参謀瀬島龍三等がいた。この人たちは当時の首相鳩山一郎がソ連に乗り込んで国交回復を実現したことによって帰国が可能になった。軍国主義の時代では敵に恐れられた日本人であったが収容所では卑屈なほど従順で腰抜けと批判されていた。そのような中で日本人がサムライとしての意地を見せた抵抗運動があった。巧みな作戦を指導した人が瀬島龍三等であった。あの戦争が歴史の彼方へ遠ざかっていくとき、倫理に生きる人々と共に強制抑留の現実を甦らせたいと思う。

◇群馬県御巣鷹山の惨事は1985(昭和60)年8月のことであった。乗員乗客534に中520人が亡くなる最悪の惨事であった。大きな飛行機事故が忘れた頃に必ずといってよい程にやってくる。人的なミスや油断を絶対に避けねばならない。飛行機は今や日常的に欠かせない普通の交通手段になっている。それだけに慣れが恐い。

 御巣鷹の惨事を振り返る報道に肝を冷やしたばかりである。残されたある犠牲者はもう二度と飛行機には乗らないというメモを残した。

 12日インドで242人搭乗の旅客機が墜落した。住宅地に墜落という。地元メディアは搭乗者全員死亡と報じていたが、その後メディアはイギリス国籍者1人の生存を報じた。住宅街に落ちたとされるから搭乗者以外の犠牲者が今後明らかになると思う。

◇このところ高速道の逆走が跡を絶たない。99歳の逆走と聞いて「えっ」と思わず声を上げた。息子は「返納させるべきだったことを後悔している」と言っている。辺ぴな農村地帯で車がないと困る所だそうだ。体力、注意力は個人差があるに違いない。84歳の私はよく高速を使う。細心の注意をしているつもりだが、今回の件では改めて我が事のように受け止めている。世の中の多くの高齢者がそれぞれの立場でこの99歳の逆走を受け止めているだろう。昔は車がなかった。人間、一度便利を手に入れるとそれを離すことが出来ない宿命にある。(読者に感謝)

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2025年6月12日 (木)

「不法移民摘発への抗議デモの炎。トランプと環境活動の少女グレタの対決。生活保護費引き下げは憲法違反」

◇不法移民摘発に対する抗議デモとこれに対する兵派遣で、移民の国アメリカが燃えている。派遣される兵の総勢は州兵約4千人と海兵隊員約700人。海兵隊は有事の際に緊急に展開する「即応部隊」で「殴り込み部隊」とも呼ばれる。

 戦争や紛争などに従事することが任務。この海兵隊が国内デモに出動するのは極めて異例。ロスのニューサム知事はトランプ政権の対応を強く非難し、「合衆国憲法を無視し恐怖と混乱を作りだしている」と表明した。

 抗議デモは、ニューヨーク、シカゴ、テキサスなど全米各地に拡大し緊迫の度を加速しているようだ。これは移民問題がアメリカの憲法の精神にも繋がる重大事であることを物語っている。国際的に孤立し経済でも行き詰まるトランプ政権がますます窮地に立たされることが予想される。

◇トランプ氏とグレタさんの対決は面白いし重要な意味をもつ。グレタさんは15歳の時、「気候のための学校ストライキ」の看板を掲げ、より強い気候変動対策をスウェーデン議会の前で呼びかけたことで知られる。アメリカ第一主義のトランプ氏は地球環境保護には後ろ向きである。グレタさんは温暖化に有効な手を打たない大人に対し怒りのスピーチをした。その大人の象徴がトランプという訳。米誌タイムズが「今年の人」に選ぶとトランプは「馬鹿げている」と批判。そして「怒りの制御に取組み友だちと古き良き映画を観に行った方がいい。落ち着けグレタ」とからかった。これに対しグレタさんは「怒りの制御に取り組む10代。現在は落ち着き友だちと古き良き映画を観ている」とやり返した。この対立の勝敗は明らかである。更に大統領選の時のトランプのある言動に対しグレタさんは表明。「とても馬鹿げている。トランプは怒りの制御に取組み、友だちと古き良き映画を観に行った方がいい。落ち着けトランプ。落ち着けトランプ」と同じ言い回しをSNSに投稿した。最近、二人が視線を合わす光景が報じられた。実に面白い。世紀の対決を全世界の指導者たちはどう受け止めているだろう。

◇生活保護費引き下げは憲法違反とする前橋地裁の判決が11日に下された。原告は引き下げを憲法が保障する生存権の侵害だと主張。裁判長はこれを認めたのだ。本県を含め全国の地裁に31件が提訴され、うち20件で減額が違法とされた。最高裁の判断も近い。(読者に感謝)

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2025年6月11日 (水)

「カナダの信じ難い山火事と地球の危機。防災庁誘致と本県の立場。農政転換の時」

◇「梅雨の中ぽっかりあいた青空の陽光心照らしけり」。地球の酷暑は止まらない。酷暑は山火事を起こし氷河を溶かす。空前の大災害が渦巻いている。世界全体から見れば海に囲まれ緑の多い日本はオアシスである。オアシスで世界を見る目を失うことは許されない。

 カナダ全土で現在163件の山火事が発生しておりその約半数が制御不能と言われる。いくつかの州では緊急事態が宣言され住民の避難に空軍機が配備される所もある。多くの避難者の車で夜間道路は渋滞している。

 スイスでは最近氷河が溶け大規模な地滑りで全村が全滅した。幸い住民のほとんどは事前に避難した。こういう現象は今後各地で起こることが予想される。

 旧約聖書にあるノアの方舟の物語を想起する。神は堕落した人間に怒り空前の大洪水を起こした。神が存在するとすれば現在の情況を怒るのではないか。産業革命により膨大な物を作り出し人間の欲望を駆り立てた。物質文明は走り出したら止まらない。今や人間は物に支配されようとしている。神は怒っているに違いない。人間を乗せた宇宙船地球号はどこに向うのか。

◇県の防災庁誘致姿勢に注目。防災庁は2026年度の創設を目指している。大災害が迫っている今日、災害対応の司令塔は国民の生命を守るために極めて重要である。司令塔は政府の行政機能の重要な一端を担うからその使命を十分に果たし得る場所を選ばねばならない。県は交通の利便性など幅広い視点から考えていると説明している。首都直下型、南海トラフ型などの巨大災害が迫っている。万一の時防災の司令塔が崩れるようであってはならないから、災害に強い場所であることが重要な要件というべきだ。これらを考えた場合本県は理想の地の一つというべきである。かつて上州遷都論があったことも参考になる。防災庁誘致について一般県民の関心は薄いと思われる。地域の安全、地域住民の安全にも貢献する施設の誘致について官民が力を合わせる工夫を検討すべきである。

◇大騒ぎの「米騒動」から何を学ぶのか。首相はコメ政策を見直すため関係閣僚会議を設置した。農は国の大体であり米はその中心である。大規模化を進め競争力をつけねばならない。そして米輸出拡大を実現させることが重要である。そのためには海外での販路を開拓し供給態勢を確実にすることだ。日本の米は美味しく安全であることを知ってもらう努力を尽くすべきだ。(読者に感謝)

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2025年6月10日 (火)

「椿東小5・6年全生徒の感想文に驚く。萩市明倫小校長の言葉。夏の参院選兵庫の怪」

◇萩市椿東小学校での講演実施は、大河ドラマ「花燃ゆ」の前年の2014(平成26)年だった。当時5年生と6年生全員の感想文が明倫小校長の礼文と共に送られてきた。明倫小は松陰の胸像が立つ萩市で特別の小学校である。文中に「子どもたちの心の中の風船に熱い空気をしっかりと吹き込んでいただきました」とある。これは話の中で「日本人の心は萎んだ風船で、楫取はそれに熱い息を吹き込んだ」という趣旨の話をしたことを受けている。子どもたちも何人か「風船」に触れている。多くの子どもが「紙芝居の説明がよかった」と書いている。こんなのもある。「松陰先生の二人の妹さんと結婚したとは、よっぽど信頼されていたのですね」、「一番驚いた事は楫取の子どもが明治6年にこの椿東小学校に通っていたことです」。萩の子どもは例外なく松陰先生と呼ぶことに驚く。子どもたちが歴史の理解を深めその中に好奇心をもって進み込んでいることを私は嬉しく思った。椿東小5年のS君は次のように書く。「楫取素彦は松陰先生に松下村塾をたのまれていたことが分かりました。また日本の人は黒船をみてびびったことが分かりました」

 最後の明倫小校長の次の言葉をもって楫取の項のしめくくりとしたい。「子どもたちにとっても私たち教職員にとっても、楫取素彦という人物の存在は、歴史に限ることなく、ふるさと萩のことをどれくらい知っているのかということを問い直させられるとてもよい契機になると思っています。私たちはふるさと萩に誇りと愛着をもった子どもたちを育てたいと願っていますが、そのためにもまず私たちがふるさとの良さと素晴らしさをしっかりと伝えることの出来る大人でありたいと思います」。ぐっと教えられる内容である。

◇夏の参院選が近づく中で注目されるのは兵庫選挙区。斉藤元彦知事をめぐる内部告発問題で揺れる県である。改選数3に対し12人が出馬を予定している。前明石市長泉房穂氏は無所属でどこまで票を伸ばすのか。怪しげな存在も顔を並べている。政権与党は自民公明の現職2人であるが容易ではなさそうだ。自民は裏金問題が後を引いているし、公明は支持母体・創価学会が高齢化しているからだ。斉藤知事の影響力はかなり大きいと思われるが、知事は特定の候補は応援しないと表明している。民主主義の危機が叫ばれている中、参議院の存在意義を考える機会にしたい。衆議院のコピーであってはならない。(読者に感謝)

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2025年6月 9日 (月)

「天明飢饉で朝廷の存在感を示した光格天皇とは。7月、萩から楫取の会一行が。萩の小学校での講演が甦る。小坂子事件のその後」

◇「天明の命を分けた15段」、天明の飢饉にまつわる嬬恋村の鎌原観音堂の石段に立つ標柱に書かれたこの言葉は、当時の情況を雄弁に語る。天明の大災害は全国に及んだ。京都に於ける惨状では、朝廷と幕政に関して歴史上注目すべき出来事があった。第119代光格天皇の時である。大飢饉に耐えかねた京都の民衆は京都御所に救いを求め行動を起こした。御所を巡る人々は7万にも達した。御所千度参りである。光格天皇は遂に行動を起こし民衆の救済を幕府に申し入れた。江戸時代、天皇は内政に口を出すことは禁じられていたから民衆の救済を申し入れ幕府がこれに応じたことは極めて異例なことであった。光格天皇の存在によって幕府に対する朝廷の発言力はかつてなく大きくなった。かくして光格天皇は朝廷が近代天皇制へ移行する下地をつくったと評価されている。

◇7月23日、萩市から珍客8人が前橋へ来る。萩の楫取素彦顕彰会の人々である。浄土真宗の寺で楫取や吉田松陰とゆかりの深い清光寺を初め、いくつかのポイントを案内することになり準備を始めた。一行は一泊して、翌日は富岡製糸場を見学したいという。時代は急速に変化し、私たちは混迷の中を漂流している。楫取や松陰が歴史の彼方へ遠ざかっていくのは淋しい。今こそ心の処所を取り戻さねばという思いが人々の胸にある。時代の変化は激しく足元が崩れていく恐怖を感じる。最近楫取を知らない人が非常に多いことに驚いた。萩市の人々が前橋に来ることを決意したのは、地元であるだけに危機感があるからに違いない。萩の城下町の光景が甦るようだ。萩の小学校で講演したことが昨日のことのようだ。萩の講演のことは明日のブログで改めて書きたい。純真な子どもたちの声が今も私を駆り立てるからだ。彼らは立派な社会人になっているに違いない。

◇昨日、小坂子町の例の介護施設に行った。中には入らない。女性から別れ話を持ち出されたことが動機らしい。女性が命を取り留めたことにほっとした。施設は我が家から真っ直ぐの位置にある。容疑者がこの道を通ったことも想像される。被害女性と容疑者が立ち上がって人生を歩むことを私は祈る。

 1日から改正刑法が施行された。「懲らしめ」から「立ち直り」に重点を移したもの。刑罰の目的は「目には目を」ではない。人道主義、教育刑への転換である。小坂子事件の容疑者もこの流れの中にある。容疑者は前橋地検に送検された。やがて始まる裁判に注目したい。(読者に感謝)

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2025年6月 8日 (日)

死の川を越えて 第121回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

  • ハンセン病の頭、鄭東順

 

「明霞の父となる鄭東順は昔、吾妻の鉱山で働いておった」

「まあー」

 と押し殺した声にならぬ声を発したのはこずえであった。

「朝鮮の虐げられた人々を束ねる家の若者だということは秘密であった。そういう素性だと知れると、警察などから何かと目をつけられるからじゃ。半ば、強制連行されてきたらしい。日本では朝鮮人ということで差別され、ひどい目にあっていた。眉目秀麗の好漢で学問もあり、控え目に振る舞っていたが朝鮮人の中で異彩を放っていたという。ある時、この若者は白砂渓谷に何かの作業に来て谷に落ちて大けがをした。そこでわしの一族が六合で医者をやっていたので治療することになった。医師は、男の裸を見たとき、腕に斑点がありハンセン病の兆候だと気付いたが警察に届けるようなことはしなかった。鉱山の方から、何としても助けるように要請があったと聞く。この時、献身的に看病したのが後に明霞の母となるお藤であった。実はな、正助に話すのは初めてのことじゃが、お藤は昔、ある事情から、だまされて女郎屋に売られるところを助け出されたのじゃ。お藤は女郎屋から助け出された後、わしの縁者の医者の所に身を寄せていたのじゃ。お藤は医者と共に現場に走った。目も見えない状態で運び込まれた時、若者はお藤の手をしっかりと握りしめていた。お藤は、前橋まで薬を取りに走ったり、草津へ氷を取りにいったり、夜も寝ないで看病した。意識を回復した時、鄭東順は涙を流して感謝にていた。二人の心はその時一つになっていたに違いない。鄭が韓国へ帰れることになったとき、お藤は離れたくないと言った。誰も止めなかったのだ」

「ご隠居様、まるで、お話の世界のようね」

 こずえの頬は紅潮していた。こずえだけではなかった。誰もが不思議な世界に引き込まれたようにじっと耳を傾けていた。

「ご隠居様、お話に力が入って、興奮されている御様子。あまり疲れてはお体に毒。今日はここまでになされては」

 こずえの声に万場軍兵衛はうれしげに頷いた。こずえは自分の身にも関わるこの重大な秘密をあらためてしっかり聞きたかったのだ。

つづく

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2025年6月 7日 (土)

死の川を越えて 第120回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 それからしばらくして万場老人から声がかかりいつもの人たちが集まった。老人がおやという目を向けた。その視線の先に見慣れぬ女の姿があった。老人の表情に気付いた正助が言った。

「市川とめさんです。赤ちゃんを連れてこの湯の川に来て、生きることの大切さを知った人です。仲間に入れてやってください」

 正助とさやは、かうって幼い娘を殺して自分も死のうとしていたとめを偶然助けた出来事を思い出し、この勉強会に誘ったのであった。

「おうそうか、大切な同志ですね。歓迎しますぞ」

 老人はうれしそうに言った。

「正助が初めてここを訪ねた時のことを思い出す。お前は、あの時、ハンセン病と闘って人間として生きるために湯の川の歴史を知りたいと言ったな。わしは驚き、そしてうれしかったのだ。わしはあの時、確かハンセン病の光を語ったはずじゃ。あれから歳月があっという間に過ぎた。この間の世の中の変化は目を奪うばかり。われわれハンセン病の身も、社会の動きそして世界の動きと結びついていることを正助の体験からも知った。わしも、お前たち若者にずいぶんと教えられたのだ。わしは今、老いの身で決意したことがある。それは、われらが経験したことをバラバラにしておくのでなく、一つにつなげて理解することが力になるということじゃ。そのために、わしの知識が役立てばと思うぞ」

 そう言って、老人は分かるかなという目で一人一人の顔をのぞき込んだ。

「賛成、その通りだと思います」

 正助がすかさず言った。正助はそれに応えて大きく頷く老人の顔を見ながらさらに続けた。

「先生に、尋ねたいと思っていたことがありますが、いいですか」

「おお、何でも聞くがよい」

「俺は朝鮮で不思議な体験をしました。ハンセン病の集落の頭は、先生と浅からぬご縁があって、こずえさんのおばさんと結婚されたと申しました。その人とこずえさんのお母さんは双子だそうで、そのお子さんの明霞さんが草津に来たなんて本当に不思議です。これらは草津、そして湯の川とどうつながっているのでしょうか」

「うーむ。いずれ話さねばと思っていた。その時が来たのじゃな。よく聞いてくれた。話そう」

 万場老人は、そう言って目を閉じ、そして開くと過去をたどるように遠くに視線を投げた。何が語られるのか、静寂が辺りを覆っていた。

つづく

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2025年6月 6日 (金)

「解体新書を訳した蘭医杉田玄白の執念に感動。シーボルトが愛したおたくさん。行方不明の認知症患者を救え」

◇私の重要な財産の一つは原稿用紙。毎日いろいろ書くがこの400字のマス目が私の心の世界の入口である。多くの人が読んでいる。原稿用紙は情報の発信基地でもある。気付けば84年生きて来た。天が与えたこの心、天が授けたこの身体を謙虚と感謝で受け止めている。

 84歳まで生きた人で頭に浮かぶのは杉田玄白である。この人は江戸時代の蘭学医で、82歳の時和蘭事始(オランダことはじめ)を書いた。若き日オランダ医書・解体新書を翻訳した時のことを回顧したもの。江戸時代の蘭学者がオランダ語の解剖書の解明に奮闘する姿は胸を打つ。私は若い頃、「若き日の杉田玄白」を読んで興奮したことがある。82歳の人の著作で後の世、これほど多くの人を感動させた書物はないと言われている。江戸時代、蘭医は幕府に重要視されていなかった。鎖国政策により西洋の文化が日本に入ることは非常に限られていた。ドイツ人医師シーボルトは国外持ち出しを禁じられていた日本の地図を持ち出そうとして国外追放になった。シーボルト事件である。この事件に連座した学者に高野長英がいる。群馬には私の知人の祖先で長英を匿った屋敷を持つ人がいる。

 シーボルトは日本人女性「おたきさん」を愛した。植物に関する学者でもあったシーボルトは、アジサイの学名に“オタクサ”を用いた。おたくさんはアジサイのように美しく異人の目に映ったのだ。今日でもアジサイの学名には“オタクサ”の文字がある。シーボルトとおたくさんの間に生まれた女性・楠本イネは日本で最初の産婦人科医師となった。今に残るイネの写真は大変な美人である。異人の血が入った女性は当時生きるのが大変であった。イネの波乱の生涯は胸を打つ。

◇超高齢社会で認知症は予備群を入れれば1千万人超といわれる時代である。認知症の人の行方不明が大きな社会問題になって久しい。警視庁はこの程、発見時の状況を初公表した。人命救助、安全確保には欠かせない情報である。発見時に死亡が確認されたのは491人で、そのうち約8割の382人が最後に姿が確認された場所から5キロ圏内で発見された。これらのうち最も多くが「河川・河川敷」で命を落としている。行方不明者についてはいかに早く捜索するかが課題なのだからこのような事情を踏まえることは非常に有効と思われる。科学が発達している時代であるから、それを有効に利用することが重要である。家族は普段から対策を研究しておくことが必要である。(読者に感謝)

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2025年6月 5日 (木)

「長嶋の死で一つの時代は終わったか。人口減と世界情勢。晩婚・晩産の現実。近隣施設でめった刺し事件。長男の脊髄手術」

◇長嶋茂雄の死。その衝撃の余韻は続く。戦争のない時代が80年続いた。長嶋は平和の時代の英雄だった。激しく厳しい一筋の野球人生は宮本武蔵が剣に打ち込んだ姿を思わせる。

 長嶋一茂さんは「父は星になった」と語った。人間は死ぬとどうなるのかと改めて思う。長嶋は「巨人軍は永久に不滅です」と語った。肉体は滅びても彼の雄姿は人々の心に不滅で有り続ける。機器が発達し過ぎて人間の心が貧しくなっていく。どこまでも明るく人間的な長嶋が去り、一時代が終わった感がして淋しい。日本人のパワーが落ちていく、日本がどんどん萎んでいく。人間力を回復しなければと思う。

◇厚労省は4日、2024年の出生数の減少が初めて70万人を割ったと発表した。出生数の減少は予想を上回って早く進んでいる。晩婚、晩産化に驚く。平均初婚年齢は男性31.1歳、女性は29.8歳。女性が第一子を出産する平均年齢は31.0歳である。男性女性とも生物的力が頂点をとうに過ぎている。昔くちずさんだ童謡に「ねえやは15で嫁に行き」とあった。おとぎ話のようである。日本の将来は悲観的である。数が少なくなっていく若者が担う負担は大きくなっていくのだ。福祉や介護はどうなっていくのか。少子高齢化は世界的傾向といわれる。隣国中国の状況も深刻らしい。解決策は容易には見つからないが各国が良い関係を築き協力し合うことが必要である。そこで懸念されるのが自国第一、つまり保護主義である。残念ながら世界は困った方向に進んでいる。トランプの自国第一主義、関税政策がそれを加速させていることは否定できない。

◇身近で女性がめった刺しされる事件が発生した。被害者は我家と目と鼻の先の場所にある小坂子町の介護施設の職員。私も関わりを持つ施設である。加害男性は隣町・富士見町時沢の住人。県警によれば男は「殺そうと思って切りつけた」と容疑を認めている。男は女性が退勤するのを待ち伏せて犯行に及んだらしい。女性は救急搬送されたが意識不明といわれる。男女関係が乱れている社会である。赤城山麓ののどかな地域に発生した凶悪事件に人々は驚いている。

◇平温な我家に4日緊張が走った。長男が神経の中枢を手術した。背骨を切開する大手術だった。日常生活に支障はなかったが、若いうちに手術した方が良いということで決断した。病名は頸椎症性脊髄症である。全身麻酔で約3時間、妻と緊張の時を過ごした。幸いにも手術はうまくいった。我家は一つの山を超えた。健康の有り難さをかみしめた瞬間であった。(読者に感謝)

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2025年6月 4日 (水)

「平和な時代の国民的英雄長嶋茂雄の死に思う。韓国新大統領と日本の安保。カメは老化しないとは」

◇昨日突然の訃報に「あっ」と叫んだ。長嶋の死である。あの華麗なプレイが甦る。野球にはまっていなかった私は少し離れてこの男を見ていた。それでも刺激的な報道に胸が躍った。国鉄の金田の球を4打席連続空振り、入団翌日の天覧試合でのサヨナラ本塁打なのだ。「燃える男」、「ミスター巨人」と呼ばれた。「親分」と呼ばれた元南海の監督が長嶋のことを「ゼニになる男」と表現したのを覚えている。底抜けに明るい性格だったようだ。全国紙も地方紙も大きく取上げている。球界を超えた存在だったことが分かる。一つの時代がこの男と共に終わった。東京タワーが感謝と哀悼をこめて3日消灯した。長男の一茂さんは語る。「父にとって野球は人生そのもの、最愛の存在でした。父は野球の星に帰りました」。野球の星になったという意味であろう。日本代表監督だった時、脳梗塞で倒れた時は幸運な人生にも地獄があることを考えさせられた。必死でリハビリに打ち込む姿は、かつて白球に命を懸けた姿そのものに思えた。多くの教訓を与えてくれたことに感謝しながら冥福を祈る。さようなら。

◇韓国大統領選は予想通り革新系の「共に民主党」のイ・ジェミョン氏が勝利した。この隣国は日本との間に歴史問題を抱えるが、両国及び東アジアの平和と発展にとって重要な役割を担っている。かつて日本は韓国を併合し、韓国民の心を踏みにじった暗い歴史を持つ。最近の両国はそれを乗り越えて良好な関係を築きつつあった。新大統領は前政権の対日外交を厳しく非難してきた。現在の日韓の国民感情は良好であり新大統領もこれを重視するに違いない。トランプ政権の対韓政策の変化も考えられる中、韓国も歴史問題に捕らわれ過ぎる愚は承知の筈だ。新大統領が「日本はパートナー」と語ったことに期待したい。北朝鮮、ロシア、そして中国との関係を考えるなら新政権と良好な関係を築く重要性は測り知れない。現在非常に多くの韓国人が日本を訪れている。我が国も韓国の文化を大きく受入れている。これはかつてないことで両国の健全な発展を支える基盤である。

◇誰もが長寿を願う。カメは万年という。最近カメは老化しないという驚くべき研究を知った。カメの最大寿命が192歳。常識では生命力の放物線は頂点から次第に終点に向う。カメは放物線を描かない。最大寿命まで老化せず、ストンと死を迎えるとか。神秘の下等生物は人間に応用すべき可能性を有しているのか。(読者に感謝)

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2025年6月 3日 (火)

「小泉農相の決意。令和の米騒動を機に農政改革を。若者のデジタル人材育成は素晴らしい」

◇小泉農相が1日備蓄米販売の現場を視察した。農相は「予想を上回るスピードで民間業者が対応してくれた」と感謝し、今後の備蓄米放出について「需要があれば全部出すという強い思いでこの価格高騰を抑えたい」と強調。

 イオンとドンキホーテを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングズは1日、都内の店舗で随意契約の政府備蓄米の販売を始めた。5キロ、1,980円。イオンは2日間で6,200袋、ドンキは3,600袋を用意。テレビは開店前からの長蛇の列を報じた。古米、古古米、そして古古古米で味の違いがあるか騒がれているが、市民は違いがないことを敏感に察知している。長蛇の列はそれを物語る。元農相の野村哲郎氏は備蓄米放出につき小泉氏が党農林部会に諮らなかったと苦言。農相はこれに対し「大臣がやることなすこと一つ一つを党に諮っていてはスピード感をもって大胆な判断が出来ない」と反論した。農相の強気を支えるのも長蛇の列に違いない。

◇「令和の米騒動」は日本の農業が重大な岐路に立っていることを示す。私は長いこと減反政策を疑ってきた。米は日本の文化を支え日本人の命を守る基盤であるのに広大な田が空しくひろがる光景は異様であった。

 今回の出来事から学ぶことは多い。需要に対して生産量に十分な余裕を持たせ米不足を防ぐことが重要である。しかし供給に余裕を持たせることで余った米の対策も重要な課題となる。解決策として輸出拡大と政府備蓄米を増強させたことが不可欠ではなかろうか。米政策は食料安全保障の基本。米の生産拡大を軸にして農政を再構築すべき歴史的転換点に立っている。目前に迫った参院選に於いて各党の米政策に注目したいと思う。

◇県は1日、人材育成拠点「ツーモ・グンマ」のオープニングセレモニーを開いた。最先端のIT教育を中高生に提供することに私は大いに賛成である。ツーモ・グンマはパソコン175台を整備し、中高生を対象に3Dモデリングやゲーム開発、映像制作など8分野のプログラムを体系的に受講できるという。生成人工知能(AI)分野も追加する予定。これからの時代は増々デジタル化が進む。次代を担う若者が自然にその力を身につけることは素晴らしい。若者にとって正に生きる力である。県は昨年アルメニアの民間IT教育施設関連組織とフランチャイズ契約を結んだ。山本知事は「県内どこでも最先端のデジタル技術の取得を可能にしたい」と決意を語った。夢の実現が楽しみだ。(読者に感謝)

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2025年6月 2日 (月)

「汚染水問題と中国の変化。水産物の輸入。中ロの共同声明を修正」

◇日中を囲む国際状況が大きく動き出した。中国政府の日本への接近姿勢が強く感じられるようになったのだ。二つの大きな出来事が報じられた。対中水産物輸出再会及び対日けん制の文言削除である。背景に米中対立激化と日本の役割がある。日本の重要性が世界に認められ明るい方向に事態が動き出したことを嬉しく思う。

 中国が実施していた日本産水産物の輸入禁止が解除される。福島第一原発事故後の2011年に中国は日本産水産物の輸入を禁止した。それは原発の処理水を日本が海洋放出したからである。海は隣国中国に繋がっている。原発汚染水の中で育った水産物に中国がむきになったことは分かる。科学的に問題ないことが立証されても中国の主張は変わらなかった。中国がこの問題を政治利用していることは明らかだった。政治状況の中心は米中の対立だ。

 振り返れば中国の反対姿勢は激しかった。人民の健康を大きく掲げ「太平洋は日本が汚染水を捨てる下水溝ではない」との強調を続けた。大きな変化のきっかけはトランプの登場だから皮肉である。トランプは中国を最大のライバルとして対決姿勢を強めた。これは中国にとっても当然ながら重大事である。中国はアメリカに対抗するため周辺国との関係改善を急いだ。そこで最重要なのは日本との関係である。処理水問題が関係改善の重要なカードに使われたのだ。

◇もう一つの中国の大きな変化はモスクワで、8日行われた中ロ首脳会談の共同声明に現れた。声明文の時前調整で、中国側の要請により、日本を軍事・経済面でけん制する文言を削除したのだ。習指導部はトランプ政権に対抗するため日本との関係を重視し日本を過度に刺激しないよう腐心していることの現れといえる。本来の案では合同軍事演習の規模拡大を表明しようとしていたが、日本が周辺地域での中ロ軍事協力拡大に懸念を強めていることに配慮したのだ。

 習指導部は昨年10月の石破政権発足を機に日本との関係改善に急速にかじを切った。中国は不動産不況など深刻な経済の低迷をかかえている。その上で激化するトランプ政権との対抗問題がある。この状況に対応するには日本との協力強化が不可欠なのだ。このところ中国側は矢継ぎ早に従来の態度変更を表明している。中国軍機の日本領空初侵犯につき再発防止の意向を示した。また領海内のブイ撤去実現も嬉しい。隣国との関係改善にほっとする。2千年の日中の歴史が微笑んでいる。(読者に感謝)

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2025年6月 1日 (日)

死の川を越えて 第119回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「お前の父は賢く正義感の強い若者だった。しかしな、差別された一族の出であることを悩んでいた。そういう背景の中で、わしや森山抱月さんと交流があった。お前の母たち姉妹が大きな借金のために売られると知った時の一太少年の動きは目を見張るものがあった。女郎屋に乗り込んで袋だたきにされたこともあった。しかし、それで事態は動いたのじゃ。森山さんの組織が重要視して行動した。廃娼運動で実績を上げた救世軍の組織と知って、女郎屋の方は大きな社会問題になることを恐れた。かつて、救世軍が廃娼の救出に懸けた執念はすさまじかった。女郎屋にとって正に天敵。その記憶は彼らから消え去るものではない。お前の父が受けた障害を警察が取り上げたことも効いたであろう。ついに姉妹は危ないところを救出された。感激したお品が激しく泣いたのをわしは忘れられぬ。それは、お前の父と母の出会いであった。あの事件がなければ、お前もこの世に居ないであろう。お前の父が海底洞窟にのまれたことは前に話したが、お藤がどうしてもと言い張って、洞窟に入って運命を共にした理由がよく分かるであろう」

 万場老人の話は衝撃的で、その一語一語はこずえの胸に、湧き出す泉の水のように広がるのであった。

「湯の川で、森川様が初めて私を見て大変驚かれた訳が分かりました」

「うむ。お品の子が成長した姿を見て、いかにも感慨深げであった。じゃがよいかな。わしがここでお前に言いたいことは別にある。よく聞くがよい。わしの人生は差別との闘いだった。お前の父もそうであった。しかし、人間の本質はそんな上っ面のものではない。マーガレット・リーさんが財産と命をなげうって闘っているのはこの人間の本質を信じるからじゃ。ドイツ人のカールさんが生きるに値しない命について熱く語ったのも同じ、人間の尊さを知るからじゃ。お前に言いたいことは、父のことを決して引け目に思うことなく、大きな誇りにせよということじゃ。お前の母は夫のことを大変尊敬しておった。妹のお藤も同様だった。あの海底洞窟に入ったのも、少女のころ助けられたことへの恩返しだけでなく、義兄を心から尊敬していたからに違いない。今日は、お前に関することをお前だけに話したかった。ほっとしたぞ。胸につかえていたのだ。後は、正助などそろったところで話すことがある。今日は、ここまでじゃ」

つづく

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