「信長の叡山焼き討ちを息詰まる思いで読む。トランプは最低の大統領として歴史に記されるだろう」
◇ゴールデンウィーク下、かつて血を沸かせた信長の叡山焼き討ちを読んだ。吉川英治の新書太閤記である。84年生きた人生の経験が死生観に変化を生み、歴史を見る目を深めていた。信長が「金山を焼き尽くせ、そして全てを殺せ、一人も逃すな、皆殺しとしてあとを人気もなき焼山としてしまえ」と命令した時、明智光秀、佐久間信盛、武井夕庵等の諸将は死を決して反対した。信長は決して信念を曲げなかった。叡山は仏教本来の道からそれて、諸国の武力と結び天下大乱の渦をつくり、叡山そのものも倫理道徳も傷付け腐敗ぶりは目を覆うばかりであった。信長の心には確たる根があった。「心に垣武天皇の勅を奉じ、胸に開山伝教大師のゆるしを受けて焼くのだ」と。
火は夕闇の迫る中で広がった。黒い雲と共に強い風が起き全山は炎に包まれた。信長の敵を信じ高を括っていた僧兵たちは事態が究極を迎える中でどんな条件も呑むからと許しを求めて来た。信長は一切耳を貸さず彼らを切り捨てた。叡山は火炎に包まれ山も谷も死体で埋まった。犠牲者は3千人を超した。京が近かった。京の人々は信長を生ける魔王、地獄の使者と思い、次は京都かと恐れた。しかし信長は兵を京に入れず、京の各所に高札をたてた。それには次のようにあった。
「家業を離れる者大罪たり、飛語流言を放つ者即死罪、総じてきのうの如くあるべし」
事態が落ち着くと共に「叡山を焼いたのは叡山自身だ」という見方が広がっていった。叡山焼き討ちは応仁以来の戦国時代に大きな転機をもたらす出来事であった。戦国時代は各地方が文字通り生き残りをかけて創意工夫を凝らした時代であった。その蓄積の上に近代があり現代がある。今日文明の大きな曲がり角であり転換期。歴史に学び歴史を活かす時である。
◇トランプ氏の世界秩序を無視するような言動は実現の可能性はないとしても超大国のトップのメッセージとして大きな影響力を持つことは間違いない。法の支配など民主主義のルールを軽視してもよいという空気が世界を覆うだろう。今大きく奉じられているのはグリーンランドとカナダについての主権を脅かす発言である。グリーンランドは日本の約6倍という世界最大の島でデンマークの自治領。トランプは領有を求めて止まない。カナダは51番目の州になるべきだと発言している。トランプの存在は長く続かないと思うが、アメリカ史上最低の大統領として長く歴史に記されるだろう。(読者に感謝)
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