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2025年5月17日 (土)

死の川を越えて 第114回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 それから数日が過ぎ、リー女史が森山抱月議員と打ち合わせした日が近づいた。正助は、湯の川地区の運命に関わる話かと身構え緊張していた。正助は出発に先立って万場老人に意見を聞いた。

「県議会の動きは聞いておる。ハンセン病は恐ろしい伝染病だから隔離せよというのが、県議会の空気らしい。湯の川は草津の温泉街に接していて非常に危険だというのだ。今度の牛川知事は非常に立派な人物と聞くがどうやら同じ考えをもっているらしい。偉い人にも無知と偏見があるのじゃ。湯の川地区の歴史と意義、そしてわれわれの決意を県議会に分かってもらわねばならぬ。そのために、森川さんは重要な人物じゃ。お前の役割は大きいぞ」

「俺には大変過ぎる仕事ですね。不安です」

「なんに。飾らず力まず、思うことを伝えればよい。シベリアの体験を思えば何でもあるまい」

 万場老人はきっぱりと言った。それから数日が過ぎたある日、正助は県議会議長室で森山と向き合っていた。イエスを学んでいることをリー女史が伝えていたせいか、正助は森山の態度に親しみを感じた。森山は歩み寄り口元に微笑を浮かべて言った。

「正太郎君は元気かな」

「はい、いたずらで妻が手を焼いています」

「は、は、は。利発で将来が楽しみじゃ。ところで、湯の川地区のことだが、世の流れは複雑じゃ。国の方も関心を示し始めた」

「湯の川地区が動くとか、なくなるとかいうことがあるのですか。私たちはとても心配です」

「うむ。わしは湯の川地区を訪ね、君たちの話を聞いて、あの集落のすばらしさを知った。その後、調査もして、君たちの言っている意味がよく分かった。マーガレット・リーさんがあれほど魂を入れ込んでいることも重視しなければならぬ」

「もし、湯の川地区が解散とか移転とかいう方向なら私たちは闘わねばなりません」

つづく

 

 

 

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