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2025年5月31日 (土)

死の川を越えて 第118回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

第五章 万場老人は語る

 

  • お品とお藤

 

 年を重ねて万場老人は時々、体力の衰えを訴えるようになった。時代は昭和が近づき、内外の情勢はますます風雲急を告げていた。万場老人の元へは、どこからかさまざまな情報が入るらしかった。その度に、憂える様子がこずえにはよく分かった。

 ある時、老人がいつになく何か語りたげな顔をこずえに向けた。

「お前に話しておかねばならぬことがある。時を失すると取り返しがつかぬからな」

「改まって何でございますか。ご隠居様、何か怖いみたい」

「わしも、いつまでも生きるわけではない。話しておくことと、あちらへ持っていくことを分けねばならぬ」

「まあ、そのようなご冗談を」

「お前の生まれについてはあえて語らぬことがあった。お前の心の成長を待つべきと思ったからだ。その時が来たようじゃ」

 こずえは万場軍兵衛が何を話すのか怖かった。湯川の音も耳に入らず身を固くして老人の口元を見守った。

「お前の家は前橋でも有数な製糸会社をやっておったが、不況の波をくらって危機に陥ってな、打開を求めて相場に手を出し、大失敗した。一家は地獄に落ちた。祖父母の悲しい出来事は、お前もうすうす知っていよう。それは語らぬぞ。今は、お前の母親のことだ。お前の母のお品と妹のお藤は双子で、評判の器量よしであった。まだあどけない少女の身で東京に奉公に出されることになった。実はお屋敷で働くというのは嘘でな、二人は女郎屋に売られる手はずとなっていた。それを知って、それこそ命懸けで動いた若者がいた。お前のとこの会社で働いていた大川一太、お前の父じゃ」

「まあ」

 こずえは息をのんだ。懐かしい父親の顔がよみがえった。

つづく

 

 

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2025年5月30日 (金)

「地に墜ちた公安の信頼。大川原工機冤罪訴訟にみる人質司法。こんにゃくの健康効果 を世界に」

◇公安警察の信頼が地に墜ちる報道に衝撃が走った。難しい事件で警視庁という巨大な権力に絡め取られていく国民の姿が浮き彫りになった。大川原化工機冤罪訴訟である。東京高裁は再び捜査の違法性を認め都と国に1.6億円の賠償を命じた。公安部の証拠捏造とは恐ろしい。闇が支配する独裁国家ならいざ知らず民主憲法下の平和国家では国は悪をなさないと一般市民は信じているからだ。法廷闘争という駆け引きの舞台で勝とうとして知らぬうちにずるずると引き返せない道を進む権力の姿を想像する。「人質司法」という言葉が登場する。「人質」に当たるのは被告の身体の自由。自白を強要され、応じないと釈放が認められず勾留が長引く。今回の事件で大川原社長ら3人は11ヶ月身柄を拘束され、うち一人は拘留中に胃がんが見つかり釈放が認められないまま72歳で死亡した。この人の長男は強い口調で語る。「病人だった父の勾留を判断したのは裁判官だ」と。この人の胸には父の胃がんは治療すれば治ったのにという怒りがあったに違いない。

◇「ねぎとこんにゃく下仁田名産」は上毛カルタの一枚である。下仁田町は「こんにゃく食べよう健康推進条例」を制定するという。この条例の「健康推進」の訴えに注目する。こんにゃくは低カロリーで食物繊維が豊富、そしてカルシウムなども含まれているため、健康に良いとされている。特に便秘解消やダイエット、生活習慣病の予防に役立つとされている。生活習慣病予防に役立つのはこんにゃくに豊富に含まれるグルコマンナンである。血糖値上昇を緩やかにし、コレステロール値を下げる。同様に多く含まれるカルシウムは骨粗鬆症の予防になる。世は挙げて健康指向、ダイエット指向であるが商業主義に躍らされてかなり無理をしている。こんにゃくを使ったアピールは胸を張れる大義名分のある戦略である。こんにゃく芋生産の95%は本県である。しかしその消費は低迷している。これを打開するためには前記の効用をうまくアピールすることが第一である。やるべき工夫が足りないと思われる。官と民が力を合わせる時である。官民が力を合わせメディアをうまく使えばこんにゃくブームに火がつくはず。日本食ブームと言われているのだから海外にも道は開く可能性がある。連日多くの外国人が日本を訪れている。彼らの関心を引きつける可能性は大きいと考えられる。高齢化の中で外国人にとっても最大の課題は健康である。この状況はこんにゃくが絶好のチャンスを迎えていることを意味する。(読者に感謝)

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2025年5月29日 (木)

「沸き立つ世界で日本丸はどこに。弱肉強食の世界で日本の使命は。拘禁刑一本化への刑法改正の意義。横綱大の里誕生を喜ぶ」

◇沸き立つ世界はどこへ向うのか。トランプの関税政策は全世界に対する宣戦布告とも言われたが、それにも陰りが出てきた感がある。激浪に翻弄される日本丸は石破船長で乗り切れるのか。不安は増すばかり。危機はチャンスなのにそれを生かせぬ現実は歯がゆい。

 東南アジア、中国を含めアメリカ離れが加速している。東南アジア諸国連合(ASEAN)とサウジアラビアなど中東の湾岸諸国で組織する湾岸協力国会議が27日中国が中心になって開かれた。トランプの最大のライバル中国が存在感を増している姿である。私は歯止めがなくなった世界で弱肉強食が進んでいる現実を深く懸念する。そしてこの情況で日本は大いに役割を果たすべきだと考える。中国は覇権を求めて海洋進出をもくろむモンスターである。その点日本は平和主義を掲げ信頼できる国。アジアに深い根を持つ経済大国、技術大国である。アジアやアフリカの発展途上国の賢い指導者は日本との提携が自国の発展に繋がると判断するに違いないからだ。

◇刑法が大きく変わる。懲役と禁錮を廃止し「拘禁刑」への一体化が6月1日に施行される。懲役刑と禁錮刑の違いは刑務作業の有無だ。禁錮刑には刑務作業がない。

 新たに施行される「拘禁刑」とは受刑者を刑事施設に拘禁し、改善更生、社会復帰のために必要な作業や指導を行うことを重視する。昔から刑罰の目的を巡って議論があった。応報刑主義と教育刑主義の対立である。応報、つまり「懲らしめ」か、教育して改善更生させることか。つまり人間尊重、人権をベースに考えるなら教育刑主義であるべきであり、受刑者の改善更生を主眼とすべきである。ここでひとつの思い出がある。県議会にいた頃、悪いことをする奴には人権など考慮せず警察官は躊躇せず拳銃を使えと主張した議員がいたことである。今回の刑法改正は人権尊重の点からも大きな進歩であるといえる。

◇このところ大相撲にはまっていた。一つの注目点は巨漢大の里がどこまで白星を伸ばすかであった。千秋楽で横綱豊昇龍に一敗を喫したのは残念だった。昇進伝達式が行われた。国技にふさわしい堂々たる横綱誕生に胸を熱くした。日本人横綱大の里は日体大出身である。「学生相撲出身は大成しない」、そんな角界の定説を破ったといえる。合理性を重視して腕を磨いた。口上では「唯一無二」の言葉を使った。真に唯一無二を目指して欲しい。大リーグの大谷と共に日本人の胸をふくらませてくれる存在である。(読者に感謝)

 

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2025年5月28日 (水)

「小泉農相でコメ政策の転換は可能か。ヘビが嫌いなわけ。三太物語が懐かしい」

◇米は日本の食文化の中核である。食料安全保障の面でも要である。青々と広がる田の光景は日本人の心を支える柱でもある。コメ価格上昇と江藤前農相の失言で国民の不満が沸騰している。そこで登場したのが小泉農相。小泉氏は現状の米価を「緊急事態」と受け止め従来とは違った対応が必要と主張。そこでにわかに打ち出したのが備蓄米の随意契約。コメ政策のトップが変わることで事態がどう好転するか国民の心は期待と不安が交差する。物の価格は需要と供給の関係で決まるのが自由主義経済の原則である。そこで政府はコメの価格には関与しないとしてきた。随意契約の実施は大転換を意味する。政府は「緊急事態」打開のためにはやむを得ないとして決断したのだ。

 競争入札では全国スーパーの平均が5キロ4,285円のところ、小泉氏は5キロで2千円程度になると明言。こんなことが実現可能なのかと驚いてしまう。

 日本の農業政策が大きな転換点に立たされている。そもそも減反政策はおかしかったと思う。現在日本農業は死に体といえる。背景は少子高齢化である。若者が魅力を感じる産業にしなければならない。大規模化を実現し競争力をつけねばならない。小泉農相が突破口を作り、それが良い例となれば幸である。

◇先日いつものコースを走っていたら、工業団地の一画の繁みにズルズルと入っていくなり大きな蛇を見た。ぞっとして身がすくんだ。アオダイショウに違いない。1匹いることはその一族がいることを意味する。私は蛇が大嫌いである。蛇蝎の如くとは人間が嫌いな生き物の代表として使う。蝎はさそりのことだが、さそりは少しも恐くない。蛇は特別の存在なのだ。聖書にも日本の神話にも登場する。我々の遠い祖先が巨大なハ虫類に呑まれた記憶がDNAの中に残っているのかも知れない。ところで最近蛇が極端に少なくなった。農薬のためモグラやネズミがいなくなったことが要因とも言われる。子どもの頃、山で暮らした私は至る所で蛇を見た。いたずらっ子は直ぐに皮をむいて面白がった。小さい頃、ラジオ番組「三太物語」が好きだった。「おらあ三太だ、ある日のことだ」で始まる。三太は美人の先生が好きであった。この先生が机を開けるとアオダイショウが出てきて先生は気絶する。うちの柴犬の名はそれから取ったサンタである。蛇を嫌うのはこの世界が人間のためにあると考える思い上がりに違いない。あらゆる生き物は共存の運命にある。最近いく分広い視野で蛇を考えるようになったのは年のせいかも知れない。(読者に感謝)

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2025年5月27日 (火)

「世論調査に見る石破支持率と小泉効果。中国の日本への配慮を活かす時。中国侵略の歴史を正しく見詰めよ」

◇共同通信の世論調査を興味深く受け止めた。小泉農相でコメ価格は「下がると思う」59.8%で「下がらないと思う」が35.1%。私は前者である。石破首相の支持率は4.3ポイント増え31.7%。これは小泉効果と思われる。それでも不支持率は52.6%だから危険水域には違いない。

 この世論調査で次の首相に誰がふさわしいかを聞いた結果は次のようである。

 

高市早苗(21.5%)   小泉進次郎(15.9%)   玉木雄一郎(9.3%)

石破茂(7.3%)     野田佳彦(5.4%)      河野太郎(5.1%)   

上川陽子(2.6%)    加藤勝信(1.4%)      茂木敏充(1.1%)   

前原誠司(0.5%)

 

今夏の参院選までには色々変化があるに違いない。自民支持層の中で見ると小泉氏が26.8%、高市氏(25.0%)、石破首相は(15.2%)である。夏の参院選を石破氏で戦えるのかという懸念は大きくなるだろう。

◇中国はアメリカへの対向上日本に気を使っていることが強く感じられる。それは日本の学生を中国に招待する企画についても現れている。群馬県日中友好協会は8月に25人の大学生を参加させる事業を進めているところである。

 中国の日本に対する配慮は中ロ首脳共同声明にも現れている。モスクワで8日行われた習主席とプーチン大統領の声明である。声明文の事前調整の段階で中国の要請により日本を軍事・経済面でけん制する文言を削減したという。当初の声明案では両国が北東アジアでの安全を維持するため合同軍事演習の規模と範囲を拡大し、定期的に海上と空中の合同パトロールを行うとなっていたが日本を刺激する表現を削除した。習主席がトランプ政権に対抗するために日本との関係を非常に重視していることが分かる。日本が非常に重要な役割を担っていることを改めて痛感する。日本はアメリカの最重要同盟国には違いないが広い東南アジアとその他の国々との良好な関係を築いて世界の平和に貢献しなくてはならない。幸いなことに日本は多くの国々に信頼されている。これにおごることのない外交こそ第一の防衛であるという信念を貫くべきである。

◇日本はかつて中国大陸を侵略した。中国にすれば今年は抗日戦勝利80年に当たる。この時点で中国が最も警戒することは「歴史を改ざんする企て」つまり、あの戦争は正当だったと評価することだ。歴史を正しく見詰めることは二度過ちを繰り返さぬための重大事である。(読者に感謝)

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2025年5月26日 (月)

「学問の自由を侵害するトランプ。ハーバードよ頑張れ。日鉄とUSスチールの変化。やせ女性に日本の危機」

◇学問の自由を侵害するトランプ政権の愚行に呆れ、かつ怒りを覚える。ハーバード大に対し、外国人研究者や留学生を受入れるための認可を止めると発表した。ハーバードは世界に拓かれた大学、そして世界の頭脳を引き寄せる存在であった。ちなみにハーバード出身者のノーベル賞受賞者は160人で世界トップであるが今後は減少するに違いない。学問の環境が悪くなり優秀な人材が集まりづらくなるからだ。ハーバード大は断固闘う姿勢を示している。同大のガーバー学長は表明した。「数千人の学生や研究者を危険に晒す不法で根拠のない行動を非難する」と。そして法定闘争を続け、学生たちの支援に全力を尽くすと強調した。トランプの愚行の先は来年11月の大統領中間選挙で数字となって示されるだろう。この愚行は最も闘志を燃やす相手、中国を利するに違いない。偉大な国アメリカは凋落に向かい、トランプは墓穴を掘っている。

◇日本製鉄とUSスチールに大きな変化が生じている。トランプ大統領が従来の姿勢を一変させ両者の提携の承認を表明した。日鉄は「トランプ氏の英断に心より敬意を表す」とコメントした。中国の過剰生産と安値攻勢に苦しむ中、日米を代表する鉄鋼メーカーが手を結ぶ意義は極めて大きい。日鉄は高性能な鉄鋼生産技術をUSスチールに提供する。日鉄の高級鋼ハイテンは素晴らしい。軽くて強いのが特徴である。軽さは燃費の低減につながるし強さは安全を支える。燃費の低減はCO2の削減となる。今や地球温暖化は危機にある。日本の技術が車と共に地球を救うと思うと心が躍る。提携の中味は未定である。完全子会社はどこまで実現するのか。

 トランプ氏は恥も外聞もなく突然変化するから油断は禁物である。しかし稀に見る現実主義者である。日本が生きる道は他が真似できない日本だけの技術で勝負することである。日鉄の技術はその象徴に違いない。日鉄よ頑張れ。

◇テレビや雑誌、そして街を歩いて気付くことはやせて細い女性がやたらに多いことだ。“やせイコール美”という価値観が社会を覆っていることを懸念する。女性は命を生む存在である。昔、女性は太陽だったという言葉がある。針金のような女性は太陽のイメージと真逆である。針金女性は衰微していく日本の象徴のようだ。先日万博会場に現れた愛子さまのふっくらした姿に安心感を覚えた。かりにいつの日か女性天皇が実現するとすれば針金型ではなく太陽を想像させるふくよかな姿がいい。(読者に感謝)

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2025年5月25日 (日)

死の川を越えて 第117回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「湯の川地区を守ってください。湯の川地区は私たちの宝です。ハンセン病の光が放たれています」

 正助は牛川知事を見据えてきっぱりと言った。傍らで森山が静かに頷いていた。

正助は、湯の川地区に帰って、万場軍兵衛に報告した。

「そうか。牛川知事に会ったか。着任してそれほどたっていないが既に名県令とのうわさが出ている。大震災後の財政の難局を緊縮財政で乗り切る決意を示している。知事への信望がなければまとまらないことだ。それからもう一つ、県庁舎の改装を決断した。これは、初代の楫取県令以来の懸案に断を下したことを意味する快挙なのじゃ」

 万場老人の声には熱がこもっている。正助は難しいことは分からないが、偉い知事に会ったのだということに今更ながら驚いていた。万場老人は正助の真剣なまなざしを確かめるようにして続けた。

「実はな、県庁は初め高崎に決まりかけていたのを楫取県令が強引に前橋にもってきた。高崎市民は怒って裁判まで起こしたが動かなかった。以来、高崎は長い間、この問題にこだわっている。県庁舎は県政の殿堂であり、県民の心のよりどころじゃ。ぐらぐらしていては、県政の発展の妨げとなる。このたび、牛川知事が前橋市の10万円の寄付を受け入れて、県庁舎改築に踏み切ったことは、積年の問題に決着をつけることを意味する。県議会では高崎出身の議員を含めて誰も反対しなかったという。これは、一重に牛川知事の人徳じゃ。恐らく楫取と並ぶ名県令との評判が出ることであろう。正助よ、お前はこんな偉い知事に会ったのじゃ。このことはきっと、湯の川のためになるに違いない」

 万場老人はきっぱりと言った。

つづく

 

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2025年5月24日 (土)

死の川を越えて 第116回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「えっ、県知事様が何で私に」

「うむ、牛川知事は立派な人物でな、湯の川地区のことは重大な関心を持っておられる。先般君たちが県議会に来た様子を耳にしたそうだ。そして、このたび、ぜひ君に会いたいと申されておる。シベリアのことにも強い関心をもっておいでだ。では、知事が待っておられる。行くとしよう」

 正助はえらいことになったと思った。

 森山に案内されて知事室に近づくと秘書らしき人がドアの前で待っていた。

「やあ、この若者ですか。森山先生が草津まで行かれて会われたという人は。お座りください」

 知事は手を差し出して正助に椅子を勧めた。

 正助はたった今、知事室に来る途中、森山から、この知事は富山県出身、東京帝大出の傑出した知事だと聞かされたばかりなので、その緊張は大変であった。しかし牛川知事の如才ない対応は正助の心をすぐにほぐした。

「湯の川地区には、ハンセン病患者による患者のための自治の組織があると聞きますが左様ですか」

 知事は単刀直入に質問した。正助は、湯の川地区のことについて真剣に語った。直前に森山に語ったことをしっかりと伝えたのだ。ハンセン病の光のことは特に丁寧に語った。正助の胸に、さや、正太郎たちの姿があった。

「うーむ。群馬の誇りとすべきことであるな」

 知事は頷きながら正助の顔に鋭い視線を注いだ。群馬の誇りという言葉が胸に深く届き、正助は熱いものが湧くのを感じた。知事の質問は、さらにマーガレット・リー女史のこと、シベリア出兵のことに及んだ。正助が額に汗を浮かべながら話し終えると、知事はありがとうという表情を笑顔で示しながら言った。

「湯の川地区のこれからについて君の思いを聞かせてください」

「はい、ありがとうございます。申し上げます」

 正助は、ここが正念場と思い姿勢を正した。

つづく

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2025年5月23日 (金)

「秋篠宮家佳子さまのブラジル訪問に思う。アマゾンの大河とジャングルが甦る。難関女子大と乱交パーティ」

◇女性皇族の存在がにわかにクローズアップされている。ブログに女性天皇が実現すれば日本は一気に変化し日本の潜在的パワーが爆発すると書いたらかなりの反響があった。24年4月の共同通信の世論調査では女性天皇賛成は実に90%に上った。愛子さまが万博会場を訪れた時の人々の興奮ぶり、そして今度は能登半島の地震被災地を訪問された。先々の「愛子さまー」の歓声が人々の心の内を雄弁に語る。

 今度は6月に行われる秋篠宮家佳子さまのブラジル訪問に大きな関心が集まっている。佳子さまにとり4度目の外国公式訪問。地球の反対側のこの大国は日本にとって特別である。国土は日本の約23倍、そして日系人は世界最大規模の約270万人に上る。私はかつて大アマゾンのジャングルの中でその途方もない水量に肝をつぶした。今年は日本が外交関係を樹立して130年の節目。ブラジルへの集団移住は1908年の笠戸丸で始まった。地球の一体化が加速今日と異なりほとんど海外に出ない時代。日本人の勇気に改めて驚く。

 佳子さまは6月4日に成田を出発される。和服姿の笑顔は微笑みのプリンセスと呼ばれ、この上ない外交力を発揮するに違いない。何よりも日系人を勇気づけるだろう。訪問先に予定されているブラジル日本文化福祉協会には多数日系人が参加希望の声を寄せているという。中には「高齢の両親だが車イスで歓迎式典に参加できるか」の声も。世は既にあげて女性皇族の大きな流れの中にあるといえる。

◇普通人には想像を超える報酬、パパ活、薬物乱交パーティ、素人の難関大女性。これは告訴状から見る恐るべき実態である。これが現実の東京の闇なのか。週刊誌は衝撃の見出しを掲げる。「一晩で300万円。一流女子大生をシャブったレーサム元会長の乱交パーティ」。違法薬物所持容疑で逮捕された女性は東京科学大学に通う21歳。この女性は性被害で告訴、訴状は受理された。礼節の国の大和撫子と呼ばれた日本人女性は歴史の彼方へ消え去ったのか。驚愕の訴状は読むに耐えない。濁流は日本列島に渦巻いている。流れは人の心を押し流している。訴状は乱交パーティの情況を生々しく伝える。「ストローを無理矢理咥えさせ意識をもうろうとさせ・・」そして事件が照らし出したのは現代の東京が抱える闇そのものだとメディアは指摘した。女子大生には一晩分として300万円が手渡しで支払われた。身も心も金で簡単に流されてしまう現実は悲しくも哀れだ。現代女性の象徴とは考えたくない。(読者に感謝)

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2025年5月22日 (木)

「近づく大戦、日本は1000万人分の地下シェルターを。日本友好協会の第一回理事会」

◇戦後80年、辛うじて平和が続いた。私は混乱の中84年を生きた。廃墟の前橋市街、赤城の谷底のランプ生活、これらがありありと甦る。80年前の大戦の光景が現在幻の中から現実に変化していくことを感じる。トランプ出現によるアメリカの変化は戦争抑止の壮大なシステムを消滅させてしまった。自国の利益を第一に優先させる保護主義はいつか来た道である。世界大戦勃発の導火線のはじける音が日本列島に迫っている。日本周辺のロシア、北朝鮮、中国などでミサイル技術を高め配備する動きが進んでいる。国民をどう守るかは喫緊の課題となっている。その第一は地下シェルター設置である。少し前まで地下シェルターは現実感がなかった。大都市の地下に張り巡らせた地下鉄、地下街はそのまま地下シェルターになるのだ。現代の防空豪である。政府は国内地下シェルターの収容人数を1000万人分に増やす計画を進めている。世界の現実に学ばねばならない。ロシアのウクライナ侵略ではミサイル攻撃が現実となり地下避難施設が活用された。既存の地下施設がないところには新たに作らねばならない。沖縄県の先島諸島などだ。また台湾有事の際の尖閣諸島も炎に包まれることを覚悟しなければならない。

 2022年末に決定した国家安全保障戦略は武力攻撃の情況や地域の実情に即して「様々な種類の避難施設の確保」に取組むという。これを踏まえ政府は2025年度末までに全国のシェルター確保に関する実施方針を策定する計画である。備えあれば憂いなし。シェルターの用語はこれを象徴する。安全のふるさと群馬もその時に備えねばならない。私たち一人一人の心にこそ地下シェルターをと訴えたい。

◇昨日群馬県日中友好協会令和7年度第一回理事会が行われた。注目の議題として「女性委員会の設立」及び「役員の選任」、「貴州省と群馬の大学生高校生の交流事業」などがあった。役員の選任に関して新しく理事となる群馬県書道協会会長の齋藤黄庭氏などが注目される。

 貴州省の招へい事業は重要である。貴州省から群馬の大学生、高校生25名が招待される。次代の日中友好を支える人材育成が目的。群大、高経、共愛等の大学に呼びかけているが大きな反響を得ているようだ。出発前の若者たちに私は日中友好の意義や難しい国際情勢の中で日本が果たすべき役割の大切などを話すつもりである。若者たちの目と胸に大きく変化しつつある生の中国がどう映るか楽しみだ。(読者に感謝)

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2025年5月21日 (水)

「群大病院医師不足の危機。バイデン前大統領、前立腺がん進む。名優クーパーと前立腺がん。江藤農相辞任」

◇日本人の平均寿命、健康寿命はともに世界一である。かつて「人間50年下天の内をくらぶれば」と言われた。長寿を支える要因は様々であるが、中でも優れた医療技術は重要である。県内の若手消化器外科医の激減が報じられている。2024年の268人から7割程度も減り80人ほどになりそうだという。過酷な労働環境や訴訟リスクが理由とされる。

 群大附属病院では2014年腹腔鏡や開腹による誤った手術を受けた患者が相次いで発覚し大きな社会問題になったことが記憶に新しい。医療に対する信頼を大きく傷付けた事件だった。若手医師が消化器外科を敬遠する背景には長時間勤務の常態化があると言われるが、訴訟リスクも影響しているという声も強い。県民の命を守るための対策が必要だ。日本消化器外科学会では医学部生に消化器外科医のやりがいや魅力をアピールし、処置の改善などを関係機関に要望するとしている。

◇バイデン前大統領の前立腺がんが報じられている。悪性度が高く骨に転移しているという。バイデン氏はX(旧ツイッター)でがんに触れ、「苦しみの経験から強くなれることを学んできた」と書き込んだ。82歳の高齢でがんが普通の年齢である。前立腺の病は男の宿命でもある。トランプ大統領は「診断を聞き、深く悲しんでいる。速やかで順調な回復を願っている」と表明した。78歳のトランプ氏は他人事に思えないに違いない。自分の前立腺を見詰め、お前は大丈夫かとつぶやいているかも知れない。

 男の宿命と言えば、西部劇の大スター、ゲイリー・クーパーの最後を思い出す。やはり前立腺がんだった。私は西部劇が好きで、クーパーの作品は多く観ている。あの颯爽とした無敵の雄姿が前立腺で倒れるとは何ともやり切れない。彼が重態に陥った時、ケネディ大統領、エリザベス女王をはじめ全世界から見舞いの電話や電報が殺到した。これに対しクーパーは新聞で感謝の言葉を返した。「私はすべてが神の御意志であると信じています。未来について恐れを感じておりません。皆さんからのお便りのおかげで心の安らぎを得ております」

 代表作「真昼の決闘」の主人公に恥じない最期で60年の生涯であった。

◇早朝、江藤農相辞任のニュースが流れた。コメのトップにいる人が「コメは買ったことがない」と国民感情を逆撫でする発言をした。首相は当初続投させる腹だった。夏には参院選がある。いかにも軽率な発言だが、コメ政策の哲学欠如を示すものだった。(読者に感謝)

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2025年5月19日 (月)

「東大紛争、林教授軟禁173時間の衝撃。林教授は信念と論理で闘った」(その1)

◇先頃、本郷の東大を訪ねた。私が居た西洋史研究室である。専門書で埋まった部屋の壁に林健太郎先生の写真が掛けられている。端正な表情には深い意思が感じられた。先生には長い人生で大変お世話になった。人生の恩人である。県議選の旗揚げ時には、手弁当で県民会館に駆けつけて下さった。

 研究室で胸に甦るのは先生がかつて東大紛争の渦中にあって毅然とした姿勢を貫き、世の注目を集めたことである。そのことを思い出した私は衝動にかられるように文藝春秋の「軟禁一七三時間の記」を読んだ。時はうつり社会も大学も人も変化した。大学の構内にかつての緊張感はなく、ゆったりとした空気が流れている。日本は大丈夫かという思いがふと流れた。

 先生は長時間の断交、吊し上げに一歩も屈しなかったがそれを支えたのは意思の力もさることながら高名な歴史学者にして可能な緻密な論理であった。学生たちは攻撃に熱をあげ感情に走るから太刀打ち出来なかったと思われる。先生は指摘する。「理屈にかなった要求なら十分考慮するつもりだがなにしろ相手は理屈がない」と。

 先生は学生運動一般について次のように鋭く批判する。「学生運動は世界各地で生じ、それには相当な社会的原因があるといえるが、だからといって何とか理屈をつけて正当化しおだてるようなことはよくない。これが彼らを甘やかし自分たちのやっていることは絶対正しいと信じ込ませてしまったのではないか。このような風潮をつくってしまったのは学生運動を不当に高く評価する一部の言論のせいである」

 学生運動を不当に高く評価する一部学者の存在は否定できない。学者はとかく理想論に走る向きがある。理念を踏まえつつ現実を重視し進むべき方向を示すことは歴史家の使命である。林先生の保守的な姿勢を批判する人がいるが単なる保守主義者ではない。自ら述べておられるが若い頃はマルクス主義者であり、現実の社会の流れの中で、それを通過して来られたのである。

 先生は長い軟禁を振り返って自分は案外体が丈夫だと言っている点が面白い。そして血圧も上がらなかったのは興奮しなかったせいだと述べている。ああいう場面で興奮したら神経がもたないと言うのだ。東大紛争は破壊の限りを尽くした。しかし安田講堂の壁には「林健太郎に敬意」の落書きがあった。

次回に続く

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2025年5月18日 (日)

死の川を越えて 第115回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 正助の気迫を受けて森山抱月の目が光った。

「勇ましいことを言う。何か最近変化がありましたか」

「ドイツ人宣教師のカールさんという人が韓国から来て、リー先生たちと一緒に、カールさんの話を聞き大変勉強になりました」

 正助は、カールが「生きるに値しない命」というドイツで最近出た論文について話したことを語った。そして、リー女史がこの思想についてキリストの教えに反することだと怒りを示した姿に心を打たれ、それがきっかけでキリストについて勉強を始めたと述べると、森山は立ち上がって正助の手を握って言った。

「感動的な話ですな。その思想については私も教会を通して耳にしておった。キリスト教の立場から許し難いのはもちろんですが、宗教を離れた人道上からも許せない。将来、日本とドイツが手を握るようなことがあれば、日本はこの思想に強く影響を受ける可能性がある。それにしても、この思想がきっかけとなって、君がイエス様と出会ったとは、不思議なことだ。湯の川地区のことは、このことからも疎かにはしませんぞ」

 森山の口元には静かな決意が表れていた。

 正助は、湯の川のことは疎かにしないという森山の口元を見詰めながら、その真意は何かと思った。出発前の万場軍兵衛の言葉を思い出したからである。そこで正助は、自分たちは湯の川の光を育て人間らしく生きる決意を強く持っている。だから、そのことに反する移転には強く反対すると述べた。森山は大きく頷いてみせた。

「君の考えはよくわかった。承知していたが改めて確認したまでじゃ。ところで、正助君、君には今日もう一つ大切な仕事があるのだ」

 森山は、ほほ笑みながら切り出した。

「何でしょう」

「今日、牛川知事が君に会いたいと言っている」

つづく

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2025年5月17日 (土)

死の川を越えて 第114回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 それから数日が過ぎ、リー女史が森山抱月議員と打ち合わせした日が近づいた。正助は、湯の川地区の運命に関わる話かと身構え緊張していた。正助は出発に先立って万場老人に意見を聞いた。

「県議会の動きは聞いておる。ハンセン病は恐ろしい伝染病だから隔離せよというのが、県議会の空気らしい。湯の川は草津の温泉街に接していて非常に危険だというのだ。今度の牛川知事は非常に立派な人物と聞くがどうやら同じ考えをもっているらしい。偉い人にも無知と偏見があるのじゃ。湯の川地区の歴史と意義、そしてわれわれの決意を県議会に分かってもらわねばならぬ。そのために、森川さんは重要な人物じゃ。お前の役割は大きいぞ」

「俺には大変過ぎる仕事ですね。不安です」

「なんに。飾らず力まず、思うことを伝えればよい。シベリアの体験を思えば何でもあるまい」

 万場老人はきっぱりと言った。それから数日が過ぎたある日、正助は県議会議長室で森山と向き合っていた。イエスを学んでいることをリー女史が伝えていたせいか、正助は森山の態度に親しみを感じた。森山は歩み寄り口元に微笑を浮かべて言った。

「正太郎君は元気かな」

「はい、いたずらで妻が手を焼いています」

「は、は、は。利発で将来が楽しみじゃ。ところで、湯の川地区のことだが、世の流れは複雑じゃ。国の方も関心を示し始めた」

「湯の川地区が動くとか、なくなるとかいうことがあるのですか。私たちはとても心配です」

「うむ。わしは湯の川地区を訪ね、君たちの話を聞いて、あの集落のすばらしさを知った。その後、調査もして、君たちの言っている意味がよく分かった。マーガレット・リーさんがあれほど魂を入れ込んでいることも重視しなければならぬ」

「もし、湯の川地区が解散とか移転とかいう方向なら私たちは闘わねばなりません」

つづく

 

 

 

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2025年5月16日 (金)

「皇族減少の深刻な意味。女性天皇の実現を望む。南米コロンビアと一帯一路。県民会館は廃止に。セキュリティ・クライアンス制度」

◇皇族数減少の深刻な意味を改めて知った。皇位継承権を持つのは秋篠宮さまと長男の悠仁さま、上皇さまの弟の常陸宮さまの3人のみである。読売新聞が第一面で課題を訴え対策を提言した。象徴天皇制は日本を支える柱。憲法は、天皇は日本国及び日本国民統合の象徴であると定める(第一条)。女性皇族を巡っては大きな議論がある。女性天皇の実現に道を拓く考えには保守系の政治家に反対意見がある。しかし憲法は女性天皇を否定していない。「皇位は皇室典範の定めるところ」とあるだけだ(第二条)。現在、女性の地位向上が叫ばれている。かつて思想家平塚らいてふは言った。「元始、女性は実に太陽であった」。かりに女性天皇が実現すれば日本が秘める潜在的な力は一気に爆発するに違いない。先日万博会場を愛子さまが訪れた時の人々の熱狂ぶりは異常であった。この時、私はこの人が天皇になったら素晴らしいとふと思った。読売は皇室典範改正は急務と提言。皇室典範は普通の法律だから改正は困難なことではない。

◇南米コロンビアが「一帯一路」に正式参加の署名したことに改めて注目する。地球の裏側での米中攻防は興味深い。パナマがトランプ政権の働きかけで一帯一路からの離脱を表明したばかりだ。コロンビアの名はコロンブスに由来。新大陸発見者と結び付く名の国がここだけとは皮肉のこと。コロンビアはコーヒー豆の産地として有名だが「花の国」でもあり、日本には多くのカーネーションやバラが輸出されている。コロンビアは貿易の約3割を米国に依存するが移民受入れを巡りトランプ氏と対立していた。一帯一路の関係でコロンビアが日本を含めたアジアに接近することになるかも知れない。

◇知事は15日、県民会館の廃止を表明した。主な理由として、存続には50億円以上の改修費を要することをあげ、「県民のニーズが大きく減少している県民会館にこれだけ多額の工事費用をかけて改修する理由は見当たらない」と述べた。改修費50億円には専門家の分析による異論がある。トップが判断に用いる事実関係の重要さを痛感する。私のミライズクラブも提案を準備していた。

◇経済安全保障上の重要情報の保全強化を目的とした「セキュリティ・クライアンス制度」がスタート。従業員から情報が漏れる恐れがある。権力による身辺調査は個人的な点に及ぶのでプライバシー侵害の懸念がある。G7で日本だけ制度がなかった。(読者に感謝)

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2025年5月15日 (木)

「日本へ接近する中国。中国に集うカリブの人々。新大陸発見と文明衝突の悲劇」

◇昨日は群馬会館の事務所で日中友好協会の会議があった。地方の小さなスペースにも米中対立の波が寄せていることを感じる。諸議題の一つは中国政府が日本の若者を招待する件。本県からはおよそ20人が。群大初めいくつかの大学に呼びかけることを指示した。8月17日から22日までの6日間である。

◇習主席は中南米カリブ海諸国共同体との閣僚会議で関係国との経済協力拡大を訴えた。会議は13日北京で開かれた。長期的に見れば米中2超大国の対立は激しくなるばかりだ。

 習主席は米国を年頭にして「関税戦争に勝者はいない。いじめや覇権主義は孤立を招くだけ」と述べ各国の指導者に団結を呼びかけた。この地域はアメリカの裏庭と呼ばれ伝統的にアメリカが強い影響力を誇ってきた。全世界を対象にした関税政策によりアメリカの孤立傾向が進む時、中国はアメリカの喉元につけ込むチャンスと見ているに違いない。訪中中のコロンビア大統領ペトロ氏は「一帯一路」への参加を表明した。

 中国がドサクサに紛れるようにカリブの国々と連携を深めようとしていることに驚く。この海域にはキューバがあり、その側にある小さな島サンサルバドルは1492年にコロンブスが大西洋を横切って到着した島である。そしてコロンブスの目的はマルコポーロが伝えた黄金の国ジパングであった。ジパング(日本)を見つけることが出来なかったがこれが新大陸発見に繋がった。その後、続々と訪れるスペインの侵略者たちは暴虐の限りを尽くし原住民は絶滅の危機に晒されることになった。価値観と文明の発達段階が異なる文明が遭遇するときの悲劇の例証となった。宇宙人との接触を警告する一つの理由ともなっている。マルコポーロが旅をして日本のことを聞いたのは中国であった。カリブの人々が集う中国の人々は、マルコポーロに始まる壮大な歴史に気付いているであろうか。

◇かねて注目していたウルグアイの元大統領ムヒカ氏が89歳で亡くなった。ウルグアイは面積が日本の約半分の国。激しい社会主義思想の闘士で10年以上投獄された経歴を持つ。大統領となっても報酬の大半を寄付する清貧な暮らしを貫いた。16年には広島市の平和記念公園を訪れ原爆資料館も見学した。国連の会議で「貧乏な人とは無限の欲があり、いくらモノがあっても満足しない人のこと」と演説した。日本には「大欲は無欲に似たり」という諺がある。サムライの生涯だった。3日間の服喪が行われる。(読者に感謝)

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2025年5月14日 (水)

「南海トラフはすぐそこ。歴史に学ぶ時。介護地獄は他人事ではない。藤岡市の官製談合の意味」

◇南海トラフ地震が確実に近づいている。想定される被害は東日本の比ではなく、その約10倍とも。日本列島は地震の巣の上にあるとよく言われるが様々の情報と分析によれば地獄の釜の上とも言うべきだ。一見平穏な日本は超高齢化の現状に加え経験したことのない程外国人が押し寄せている。最も可能性の高い予想として「2035年プラスマイナス5年」が言われている。およそあと10年である。現在84歳の私は確実に遭遇するに違いない。大自然は未知の存在で人知で推し測ることは不可能だ。10年後は明日になる可能性もある。地震と共に最大30mと言われる津波もやってくる。84年の人生を振り返ると、幼少期まず太平洋戦争の地獄を知った。私は戦中派なのだ。広島と長崎の悲劇は人類史上最悪だった。それを乗り越えて現在がある。目前の南海トラフは世界が固唾をのむ日本の試練である。

◇ある高名な学者は言った。「科学は未来を予測できないが過去を正確に知ることが出来る」と。しかし私は言いたい。これは一面の真理に違いないが過去を活かすのが科学である。歴史は過去と現在との対話である。現在から過去に問えば答えてくれる。今私たちに求められていることは謙虚な心で過去に問いかけることだと思う。日本人は今傲慢になっている。しかし一面で臆病で自信を失っている。勇気を出して歴史に学ぼうではないか。

◇昨日ある所で食事をしていて興味ある場面に遭遇した。ある高齢女性が移動しようとしていた。トイレだろう。それを息子らしい人が助けようとしている。いかにも優しそうな孝行息子に見える。女性はかなり太っていて息子は持ち上げるのに苦労している。その時見ていた3人のおばさんが声を上げた。「お尻のところの下着を持って引き上げるのよ」。なるほどと、見ていて感心した。息子は重い母親の体を引き上げることが出来た。「私たちは介護の仕事をしているのよ」女性たちは言った。息子はしきりに恐縮してまわりに頭を下げた。最近介護に関する悲劇があちこちで報じられている。介護疲れで被介護者を殺してしまうといった事件である。孝行息子の家庭内をふと想像した。

◇今朝の新聞は談合容疑による藤岡市副市長の逮捕を大きく報じている。藤岡市ナンバー2の逮捕に衝撃が走っている。業者側は藤岡商工会議所会頭。数年前、前橋でも官製談合があった。県議時代、私の同僚だった新井市長は「市民に深くお詫びする、任命責任は重大だ」と語った。やよいひめのイメージダウンも心配だ。(読者に感謝)

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2025年5月13日 (火)

「山谷のドヤから東大受験。最近の東大構内、強者どもの夢の跡。新教皇とアンデスの悲劇」

◇上毛の「ひろば」に東大受験のことを投稿した。忘却の彼方へ消え去ろうとする青春の一コマである。ただの東大受験の光景ではない。経済的事情のため浅草の簡易宿泊所、いわゆるドヤ街と呼ばれた所である。畳一枚が入るベッドの棚が二段になって並んでいる。部屋の住人にとって学生服姿は異様に見えたらしい。あるおじさんが訊いた。「兄さんは何ですか」、「明日東大を受験します」。おじさんは驚いた顔をして言った。「頑張って下さい」。風呂は少し離れた所に共同の浴槽があった。タイルは貼られていない。むき出しのコンクリートである。あのドヤの光景が懐かしく甦る。あの当たりはどうなったろうと思う。朝出かける時、昨日のおじさんが「頑張ってな」と声をかけた。試験会場は本郷3丁目の東大の象徴である安田講堂があるところ。構内には緊張感が流れていた。私の胸には「俺は山谷のドヤ街から乗り込んだのだ」という気負ったものがあった。私の波乱の人生の原点の一つであった。東大は私にとって別世界であった。一、二年は駒場で寮生活を送った。三つの棟から成る寮は学生運動の拠点でもあり、いつも騒然としていた。私は寮委員として寮で日々起きる様々な出来事に関わった。部屋は落ち着いて勉強できる環境ではない。夜、寮から近い同じ構内にある時計台のある教室で勉強した。夜警の公務員さんがいたが文句は言わなかった。しんと静まった夜の雰囲気は緊張できて最適だった。少し離れた教室に明りがついていた。友人の中崎敏雄君だった。この人は兵庫県出身であったが卒業後、縁があって前橋に住んだが先日亡くなった。最近久しぶりに井の頭線に乗って駒場のキャンパスに行ってみた。寮は既に取り壊されて強者どもの夢の跡の感があった。学生運動も陰を潜めていた。構内を行き来する学生の姿は心なし覇気に欠けるように見える。人口減少と高齢化で元気を失いつつある日本、東大もその流れの中にあると思えた。

◇新教皇レオ14世はペルーとの関わりが長い。聖職者としての大半をペルーでの活動に注いだ。教皇はかつて貧困で苦しむアンデス高地を訪れた。貧しい人々に寄り添う信念はアンデスの人々のかつての悲劇と無関係ではない。カトリック教徒はかつて神の名の下に原住民に対し非道の限りを尽くした。私はペルーを2度訪れフジモリ元大統領のことを本に書いた。アンデスの人々は日本に期待しフジモリを応援した。新教皇はトランプ政権に批判的だ。トランプにアンデスの悲劇など分かる筈がない。(読者に感謝)

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2025年5月12日 (月)

「書道界の危機は日本の危機、会員の減少に思うこと。印パの争いと核戦争の危機、そして日本の役割」

◇5月10日は大変な一日であった。群馬県書道協会の通常総会と顕彰祝賀会が行われた。私は協会顧問として大きな関わりを持っている。通常の総会と異なり大きな課題があった。通常総会の議案審議に緊張して耳を傾けた。

 最大の課題は会員数の減少。県書道協会は終戦直後に発足し、以後営々と着実な歩みを続け、教育書道展は受賞の子ども達でベイシア文化会館の広い会場があふれる程であった。会を支えているのは無数に存在する書塾である。書塾の指導者は多くが高齢者となり閉鎖の所も出ている。しかし会員数減少の根本は別にあった。文字離れである。世の中至る所スマホだらけである。電車の乗客はほぼ全てスマホとにらめっこである。最近はAIが登場しそれは日々進化し犯罪と結び付き社会と人間は便利な器械に支配されている。

 書は伝統の精神文化であり心を支える芸術である。書道界の変化は人間の危機・文明の危機に結び付くと言っても過言ではない。総会資料が語る現実を深刻な思いで受け止めた。丸橋鳴峰会長に代わって齋藤黄庭氏が就任した。私は中曽根弘文先生と共に顧問として留任。総会の満堂を埋める人々の表情はいずれも書道界を支える品格を現していた。

 顕彰者祝賀会では来賓を代表して挨拶した。挨拶の中でロボットの異常な進化に触れた。AIと結び付いたロボットに人間が負ける懸念を語ると共に、このロボットも人間の心の奥を表現する書道芸術に代わることは出来ないと強調したかったのである。

◇核戦争の恐怖が迫ったことを痛感した瞬間であった。国境を接するインドとパキスタンは核保有国である。健全な民主主義は核を使用させないための一つの有力な仕組みである。いわゆるシビリアンコントロールが期待できるからだ。インドは選挙で指導者が選ばれ、三権分立が行われる民主主義国である。しかしパキスタンは形は立憲民主主義であるが実質は軍の影響力が強く、本物の民主主義とは遠い。このような国が核を持ち本格戦争に入るところだった。印パの停戦合意の報にほっとした。核を持つ国が追い詰められれば苦境を脱するために使用する恐れは高くなる。現在、トランプ政権の実現もあって核使用を抑える国際環境は悪くなっている。

 広島・長崎を乗り越え平和憲法に立脚する日本の役割と使命が格段に大きくなっている。発展途上の国々も日本を信頼していると言われる。今こそ日本の出番である。(読者に感謝)

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2025年5月11日 (日)

死の川を越えて 第113回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

  • 牛川知事に会う

 

それからしばらくしたある日、リー女子から正助に会いたいと連絡があった。

「森山先生が正助さんに会いたいと言っています」

 開口一番、リー女子は言った。

「えっ、あの県会議員の」

 正助が驚いていった。正助の胸には妻と正太郎を連れて県議会に招かれた時の光景がよみがえっていた。その後、県議会でハンセン病のこと、湯の川地区のことがどう話し合われているか、正助は気にかけていたのだ。

「正太ちゃんも県議会へ行ったそうですね。森山先生が、大変お利口な子どもだと感心されておりました」

「正太郎は褒められて、得意になり俺たちより張り切っておりました。子どもは怖いもの知らずで、大勢の偉い先生もまるで眼中にありません」

「ほ、ほ、ほ。それが子どものよいところ。若い心は純で無敵なのよ」

「ところで森山先生のご用とは」

「県議会で湯の川地区の移転に関することが議論されているそうです。前に、湯の川に来て皆さんと話して実態は分かったが、集落を移すかどうかというと重大なので、私の考えを聞きたいというの。それなら正助さんにお聞きなさいと申し上げましたら、それがいいということになりました。それから、正助さんがイエス様を勉強していると申し上げたら大変驚いておいででした」

「そうですか。そのことを森山先生に聞かれたら俺、恥ずかしいな」

 正助はこう言って頭をかいたが、その表情はうれしそうである。

つづく

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2025年5月10日 (土)

死の川を越えて 第112回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 政府は第一次世界大戦を通して、ドイツが総力戦で敗れたことを深刻に受け止めた。そこで、内務省に保険衛生調査会を設置、新たな衛生政策の方向を探った。この動きの中から、国民の体力強化を軸にした衛生政策への転換が図られ、結核、性病、ハンセン病、精神障害などの対策が重視されるようになり、長期的に心身共に優秀な国民の育成が図られていく。ハンセン病については、放浪する患者の隔離から全患者の一生の隔離へと向かうのであった。

 このような政府および医学会を主導した人が全生病院院長の光池剣助であった。光池は、ハンセン病患者の逃走を防ぐために、絶海の孤島に隔離せよと主張した。光池は、保険衛星調査会委員として離島を調査し、沖縄の西表島を最適と結論した。これには、さすがに政府は同意しなかった。それは、絶海の孤島の島は、岡山県、瀬戸内海の長島に実現することになった。光池は、ハンセン病に関しては最高の権威であったが、絶海の孤島でマラリア蔓延に地を選ぶことに、人名と人権を無視する姿勢が現れている。学者たちは。光池の権威に抵抗できなかったが、ほとんど唯一人、小川原泉は自身の信念を貫こうと最大限努力した。

万場老人の話を聞いて正助は頬を紅潮させて言った。

「偉い先生だったんですね。正太郎も俺たち夫婦も幸せでした」

 

 つづく

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2025年5月 9日 (金)

「県議時代の暴力団廃止条例に関わった懐かしい思い出。警察は我家をパトロールした。史上初、アメリカ出身の教皇の誕生に沸く」

◇今月の「ふるさと塾」は5月24日(土)である。トランプに振り回される惨状も大いに気になることであるが、今回は先ず身近な問題を取上げることにした。難しい社会状況が続いている。ギスギスした社会状況に不満を抱く人は多いに違いない。県議会でカスハラ防止条例が可決された。カスタマーハラスメントの“カスタマー”は“客”である。つまり客によるいやがらせを意味する。この条例の制定は東京都、北海道に次ぐ全国3例目。地方議会の存在感を示すものとして注目する。条例制定は立法行為であり、議員には研究勉強が求められるのである。条例制定については県議会時代の懐かしい思い出がある。私が中心となって県営住宅から暴力団を排除する条例を作ったことである。県議会の動き、県会議員の動きについては案外知らない人が多い。この条例については、年月が過ぎているが再認識する意味があるので塾で取上げようと思う。当時、暴力団に関する事件が県内でも多発していた。平成15年に前橋市三俣町のスナックで起きた殺人事件は身近な事件として人々は驚愕した。県営住宅に知らぬ間に暴力団に入られ困惑している人も多かった。私は条例を改正して暴力団を県営住宅から排除しようと決意した。警察当局は積極的に応援しようとしたが、世間には、また議会事務局にも反対論があった。理由の一つは暴力団員、その家族にも憲法の生存権があるというものであった。私は意を決して2007年6月議会に暴力団対策条例を提出した。(特別委員会)で提案説明を行い、遂にこの議会で可決された。当時の平田英勝委員長は「画期的」と評価した。その意味はこの種の条例制定は広島・福岡両県に次ぐ3番目であるが議員提案としては全国初であったことである。私は暴力団に対する県民の不安に県議会が勇気をもって対応した点を誇りに思った。この条例可決の影響は大きかった。県内全ての自治体がその公営住宅につき同様の条例を作ったのである。その後心配したトラブルもなく妥当に運用されている。なお私のこの暴力団対応については面白い話がある。前橋東署は私が暴力団から狙われることを恐れしばらく自宅周辺をパトロールした。

◇この原稿を書いている今、テレビは新教皇の出現を報じた。遂に「白い煙」が流れた。何とアメリカ出身のプレボスト枢機卿が選出された。私は瞬時にトランプのふざけた姿を想像した。久しぶりの本来のアメリカらしい快挙である。新教皇はレオ14世を名乗る。私の心にも明るい光だ。(読者に感謝)

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2025年5月 8日 (木)

「信長の叡山焼き討ちを息詰まる思いで読む。トランプは最低の大統領として歴史に記されるだろう」

◇ゴールデンウィーク下、かつて血を沸かせた信長の叡山焼き討ちを読んだ。吉川英治の新書太閤記である。84年生きた人生の経験が死生観に変化を生み、歴史を見る目を深めていた。信長が「金山を焼き尽くせ、そして全てを殺せ、一人も逃すな、皆殺しとしてあとを人気もなき焼山としてしまえ」と命令した時、明智光秀、佐久間信盛、武井夕庵等の諸将は死を決して反対した。信長は決して信念を曲げなかった。叡山は仏教本来の道からそれて、諸国の武力と結び天下大乱の渦をつくり、叡山そのものも倫理道徳も傷付け腐敗ぶりは目を覆うばかりであった。信長の心には確たる根があった。「心に垣武天皇の勅を奉じ、胸に開山伝教大師のゆるしを受けて焼くのだ」と。

 火は夕闇の迫る中で広がった。黒い雲と共に強い風が起き全山は炎に包まれた。信長の敵を信じ高を括っていた僧兵たちは事態が究極を迎える中でどんな条件も呑むからと許しを求めて来た。信長は一切耳を貸さず彼らを切り捨てた。叡山は火炎に包まれ山も谷も死体で埋まった。犠牲者は3千人を超した。京が近かった。京の人々は信長を生ける魔王、地獄の使者と思い、次は京都かと恐れた。しかし信長は兵を京に入れず、京の各所に高札をたてた。それには次のようにあった。

「家業を離れる者大罪たり、飛語流言を放つ者即死罪、総じてきのうの如くあるべし」

 事態が落ち着くと共に「叡山を焼いたのは叡山自身だ」という見方が広がっていった。叡山焼き討ちは応仁以来の戦国時代に大きな転機をもたらす出来事であった。戦国時代は各地方が文字通り生き残りをかけて創意工夫を凝らした時代であった。その蓄積の上に近代があり現代がある。今日文明の大きな曲がり角であり転換期。歴史に学び歴史を活かす時である。

◇トランプ氏の世界秩序を無視するような言動は実現の可能性はないとしても超大国のトップのメッセージとして大きな影響力を持つことは間違いない。法の支配など民主主義のルールを軽視してもよいという空気が世界を覆うだろう。今大きく奉じられているのはグリーンランドとカナダについての主権を脅かす発言である。グリーンランドは日本の約6倍という世界最大の島でデンマークの自治領。トランプは領有を求めて止まない。カナダは51番目の州になるべきだと発言している。トランプの存在は長く続かないと思うが、アメリカ史上最低の大統領として長く歴史に記されるだろう。(読者に感謝)

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2025年5月 7日 (水)

「投資の神94歳のバフェットから学ぶもの。CEOから退任するが表情は若い。子どもの減少は日本の危機」

◇「ほぉー」、新聞の記事に思わず目を疑った。「投資の神様」バフェット氏が自ら率いてきた投資会社の最高経営責任者(CEO)の地位を今年末に退任するという。6歳の時からビジネスに関心をもって生きた驚異の人生にかねて注目してきた。自らの経営哲学を貫いて世界3大投資会社の1つを成すバークシャー・ハサウェイを創り上げた。その資産総額は50兆円超である。バフェット氏の個人資産額は約14.3兆円であると言われる。記者会見に臨む老投資家の表情は輝いており94歳とは思えない。サミュエル・ウルマンの詩「人は信念と共に若く、人は自信と共に若く」を体現している姿である。ちなみにトランプ大統領の個人資産は現在約1兆400億円と言われる。

 金額だけの問題ではない。バフェットとトランプは人間の品格に於いて差がある。トランプは目先の損得だけを見る惨めな存在だ。最近バフェットはトランプの関税政策を次のように批判した。「貿易は武器であってはならない」、「貿易に障壁をつくるのはよくない」、「アメリカは世界の他の国々との貿易に目を向けるべきだ」これはトランプ政権の保護主義を批判している。私たちは保護主義が世界戦争に発展した近代の歴史を見詰めるべきである。現在の世界情勢は危ないところに来ている。バフェット氏の慧眼がそれを厳しく見ている。あの泰然自若の表情がいつまでも続くことをふと願う。

 ちなみにバフェット氏の投資技術は興味深い。それは簡単に売り買いせず、「長期投資」を貫くことだ。他者に真似できない企業を選ぶ。そんな企業は限りなくあるだろうが表向きあげているのは、アップル、コカコーラ、バンクオブアメリカなどであるが日本の企業もいくつか上げられている。日本の企業が世界の投資家バフェットと共にあることを誇りに感じる。なお、バフェット氏はCEOを退任するが後任にはバークシャー・ハサウェイ副会長のグレッグ・アベル氏が就くことになった。

◇5月5日は子どもの日。元気に響く声は救いである。総務省は4日、15歳未満の子どもの数が44年続けて減少したと発表。人口減少の無気味な底無し沼を想像する。出生率の減少に歯止めがかからない。昨年10月1日時点の集計によれば子どもの数は47都道府県で前年より減少した。本県では前年比7千人の減である。少子化と同時に高齢化と認知症が加速している。日本再生の道を歴史の中に発見しなければならない。サムライの精神を取り戻す時だ。私たちは80年前、廃墟から立ち上がったのだ。(読者に感謝)

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2025年5月 6日 (火)

死の川を越えて 第111回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 万場軍兵衛はそう言って、書類の袋を取り上げた。

「お前は、小河原泉という学者の名を覚えているか」

「はい、先生。忘れてなるものですか。俺がシベリアの時、さやがこずえさんと京都大学を訪ねて貴重な意見を聞いた人です。おかげで女房は勇気をもらって正太郎を産んだんですから、俺たちの恩人です」

「そうだな。わしは、さやさんたちから小河原先生のことを聞き感動した。そして、礼状を書き、その後も時々正太郎君のことなどを報告してきた。また、小河原先生からも時々手紙を頂いた。これは先生から届いたものじゃ」

 万場老人はそう言って、封の中から書類を取り出した。正助は何事かと老人の手元をじっと見つめた。

「学界で孤立しながらも信念を貫いておられる。ハンセン病は治らない病ではない。感染力は非常に弱い。この信念で、京都大学は外来の診療をやっておる。先生は、この湯の川のことを大変注目しておられる。この山奥から京まで、女がおなかの子の運命に関わることを相談に行ったのだから先生としても忘れられない出来事らしい。その後、正太郎君がすくすくと成長していることを我が事のように喜んでおられるのじゃ。その小河原先生が日本の現状を大変心配されておられるのがこれじゃ」

 万場老人は、指で文面を辿りながら話す。

「国は絶対隔離政策を進めている。絶対隔離とは生涯出さないことじゃ。優秀な国民を育成するためにハンセン病患者を消滅させようとしているように見えるというのじゃ。ある国立病院では断種まで行っているというのじゃ。恐ろしいことじゃ」

「断種となれば、まさに生きるに値しない命は消せ、ではないですか」

「その通りじゃ。人権も人道も地に落ちたと言わねばならん。まかり間違えば、正太郎君もこの世に現れなかったことになる」

 正助は、黙って深く頷いた。

 つづく

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2025年5月 5日 (月)

死の川を越えて 第110回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 ある時、正助はさやとこずえに向かって言った。

「俺の胸にはどうやら小さなイエス様が押すまいになっておられるようだ」

「まあ」

 2人は同時に叫んだ。

「私たちも同じなの」

 さやがこずえを見ながら言うと、こずえは大きく頷くのであった。

 ある日正助は万場軍兵衛を訪ねて言った。

「先生、朝鮮人の虐待を見ていると、カールさんの言ったドイツの怖い話は日本でも起こりそうな気がしてなりません」

「うむ。わしも同じ思いなのじゃ。日本が危ない方向に向かっておる。そのことがハンセン病対策に現れておる。お前は、今回の世界大戦の地獄が分かったであろう」

「その点、カールさんのドイツは大変だったのでしょうね。国が戦場になり、その上敗戦だから」

「今度の戦争の特色は総力戦ということじゃ」

「総力戦とはどういうことですか。これまでの戦争とどう違うのですか」

「文字通り国の総力を挙げた戦いということじゃ。戦場の兵士だけではない。全国民、全ての資源、科学の力、あらゆるものを注ぎ込まねばならない。全ての要素の総和が戦力なのじゃ」

「人間も資源ですね」

「人的資源というではないか。最も重要な資源じゃ。そこで問題がある。人間を大切にしない国柄のところでは、人間を勢い物質と見ることになる。人間を消耗品と考えるから悲劇が始まるのじゃ」

「突き詰めると、戦争に役立たぬ人間は不要ということですか」

「恐ろしい。戦争は人間をそこまで追い込むことになる。カールさんの訴えたことを肝に銘じなければならぬ。ところでな、日本がいよいよ危うい方向に動きだしているように思えてならぬ」

つづく

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2025年5月 4日 (日)

死の川を越えて 第109回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

こずえがそれに答えた。

「人間はいつも動きますね。だから隣人は決まった人のことではないと思うの。誰が隣りになっても隣人だとすれば、隣人とは全ての人を意味するのではないかしら。貧しい人も病の人も、ハンセン病の人も」

「オオ、ワンダフル。あなた大変賢い。その通りです。隣人を愛せとは、全ての人を愛しなさい、人種も上下の差もなく、人間は皆同じように大切にという考えです。イエス様はローマに逆らう者だと密告され、ゴルゴタの丘で磔になりました。しかし、イエス様の考えは不滅です。私たちは、イエス様は復活され、その考えを訴え続けたと信じています。私は遠くイギリスからこの国にやって参りました。海を越えいくつもの国を越え、言葉も違う国に来て、病と差別に苦しむ皆さまを知りました。皆さまは隣人です。私はこずえ様の言葉で、今あらためてイエス様の隣人を愛せよの意味を噛み締めております。私は皆さまのおかげで、ここにイエス様がいらっしゃることを感じております」

 リー女史が少女のように高揚する姿を見て、3人も神の雰囲気に知らぬうちに浸っていた。

 正助たちは、キリストの生涯に始まって、ローマ帝国の権力と闘う人々の歴史に次第に引き込まれていった。海を囲むという壮大なローマ帝国、それを支配する強大な力、諸民族の戦い。正助は、時と空間を超えた人間のドラマに息をのんだ。目をつむるとゴルゴタの丘で十字架にかけられ槍で刺されるイエスの姿が目に浮かんだ。

 正助には、ローマ帝国の強大さと重なってイエスの存在が大変重いものに感じられた。リー女史は、イエスの死は1900年も前のことだが、その教えは不滅だと言った。リー女史がイエスを語り、それに心を揺さぶられる自分がいる。この事実こそリー女史の話が絵空事でないことを雄弁に物語っていると思えた。

つづく

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2025年5月 3日 (土)

死の川を越えて 第108回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 さやは頷いて拳を開いた。

「あっ」

 正助は思わず叫んだ。さやの手に小さな十字架が光っている。

「明霞さんが私とこずえさんに、お守りにと言って下さいました。大切にしてね、ご縁があるといいわねと言いました。そして明霞さんはそっと、首に下がる同じような十字架を見せてくれました。おそらく明霞さんはこの神様を信じているのよ」

「そうか、そうだったのか。明霞さんがこずえさんとお前に・・・」

 そう言って、正助は感慨にふける様子であった。

 ある日、正助夫婦とこずえはマーガレット・リー女史と会っていた。

「先生、先日の山田屋ではお世話になりました。あんな感動は初めてです。新しい世界を見た思いです」

 正助がこう言うとリー女史は表情を一変させた。

「まあ、私こそ、とても感動でした。皆さまとイエス様を囲むことができたのですもの。教会でないところで、教会を実現できたなんて。奇跡です。私の胸、今もドキドキです」

「私たち、今日、あなたの神様をもっと知りたくてやって来ました」

「オオ、ワンダフル。なんと素晴らしいこと。あなたたちの上にイエス様の姿が見えるようでございます」

 正助も、さやも、こずえも、リー女史の輝くような瞳に圧倒された。目の前の女史は老女ではなく、若く美しい西洋の女に見えた。3人はリー女史に神が乗り移ったと見て、神とはかくも不思議なものかとあっけにとられたのであった。

 リー女史は3人の表情に頷きながら静かに語り出した。さやは、以前、岡本女医がイエスについて話したことを思い浮かべながら耳を傾けた。

「お聞きください。今から1900年も昔のことです。西洋の世界はローマ帝国の支配下でした。その帝国の片隅でイエス様はお生まれになりました。帝国には多くの奴隷がおり、その他にも虐げられた多くの人がおりました。ユダヤの民もその一つで、イエス様はユダヤの民に属しておりました。イエス様は隣人を愛しなさいと人々に説きました。皆さま、この意味をどうお考えになりますか」

 リー女史は微笑みながら問いかけるのであった。

つづく

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2025年5月 2日 (金)

「近づくコンクラーベの実態。部品の国際的分業を無視するトランプ政権。ウクライナ女性記者の遺体は拷問を物語る」

◇約14億人のカトリック信者の頂点に立つローマ教皇が先日亡くなり、その後後継者選びの儀式「コンクラーベ」が始まった。宗教に淡白と言われる日本人であるが教皇フランシスコの死には多くの注目が集まった。私は一信者として2000年に及ぶカトリックの歴史を振り返りザビエル以来の日本のカトリックを考えた。コンクラーベは5月7日、ミケランジェロが「最後の審判」を描いたシスティーナ礼拝堂で行われる。投票権を持つ枢機卿は135人。その中には2人の日本人司教、菊地功氏と前田万葉氏がいる。コンクラーベの間、会議の人々は一歩も外に出られない。「根比べ(こんくらべ)ですね」と誰かが笑った。4月28日の5回目の会議では協会内の性虐待(フランシスコはこの件につき反省の意を現し詫びた)や、教皇に必要な資質が議論された。1人の枢機卿が3分の2以上の票を得て当選。会場から煙が上げられる不思議な習慣がある。白煙なら決定、黒煙なら再投票である。その日が目前である。

◇トランプ政権の関税政策がもたらす混迷は深まるばかりである。トランプ政権は米国内で自動車を製産すればコストが下がり雇用も増すと計算するが国際分業の実態を無視していると言わざるを得ない。自動車に限らず世界の産業界は分業のネットワークが驚く程進んでいる。例えばある部品は労働力の安い中国や東南アジアで作られる。その部品と結びつく他の部品は技術力の高い他の国で作られるという風に。このような国際的な分業のネットワークは確固として確立しているから、アメリカの工場ですべてを生産するというのは現実を無視することだ。トランプの場当たり的な修正ではとても追いつくことは出来ない。

 日本は優れた技術力で他国の追随を許さないものを生産して生き残りを計る。これはアメリカの工場も日本製に頼らざるを得ないことを意味する。米の関税政策の行き詰まりは明白なのだ。

◇ロシアのウクライナ侵略の凄さは想像を超えるものらしい。ウクライナの女性記者の遺体は激しい拷問を物語る。ビクトリア・ロシチナさんはロシア占領地を取材中に拘束され、ロシア南部の刑務所で勾留されていた。遺体には骨折や感電の痕跡が。映画の拷問シーンを想像する。ウクライナ外務省は「ロシチナさんの勇気と報道姿勢は並外れていた」と述べた。「ペンは剣より強し」という諺を身をもって実現しようとしたに違いない。拙著「シベリア強制抑留」で描いたロシアの恐怖を思い出す。(読者に感謝)

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2025年5月 1日 (木)

「トランプ支持率下がる。トランプは関税政策を軌道修正に。トランプの情報操作は大罪。日本の真価が試される時」

◇4月29日、トランプ大統領は2期目の就任から100日目の節目を迎えた。世界秩序破壊の100日はどう変化するのか。トランプ氏に世界が振り回されている。トランプ氏は1月20日の就任演説で「常識の革命」を始めると宣言した。しかし次々に打ち出す反常識に民衆の抵抗が始まっていた。狼煙は4月5日の全米50州の大規模デモであった。現在、米国内のトランプ支持率は下降線をたどり始めた。面白い。米メディアの世論調査によれば1月27日時点での支持率は50.5%で、不支持は44.3%だったが3月には逆転し、更に今月28日には支持率は45.3%、不支持は52.4%になった。

 トランプ政権は現在、関税を武器にした無茶苦茶な政策の軌道修正を余儀なくされている。米国債の猛烈な売りに見舞われているのだ。政権への信用失墜で投資資金が一斉に米国から逃げ出す異常事態に直面した。危機的な状況を知ったトランプ氏は関税発動からわずか半日で相互関税の一部を90日間停止する事態に追い込まれた。中国への強硬姿勢も修正を余儀なくされ、米中協議を早期に進めたい考えを示した。政権の方針がくるくると変わるのは政権に権威がないことを意味する。トランプ政権は内憂外患状態にある。アメリカの経済が物価高で悪化することは避けられない。多くの米国民はこういう政権に国の舵取りは任せられないと考え始めている。11月に行われる中国選挙で厳しい結果が出る公算が強まってきた。世紀の選挙戦は大いに見物である。全世界が固唾を呑む瞬間が近づいている。

◇米政府のウェブページが大量に消えている。トランプ政権下で約90の政府機関の少なくとも1000ページが閲覧できなくなっているという。対象は気候変動や米議会襲撃事件などで氷山の一角と見られている。政権発足から100日目に公開情報を削除して情報操作を行おうとするもので民主主義の根幹を壊す重大な犯罪行為だと思う。自由主義の社会では情報は国と社会を支える重要な柱である。トランプよ、そこまでやるか、恥知らずと言いたい。トランプはアメリカ第一を掲げ、そのために目先のディール(取引)を押し進めようとするが世界の信用を失うことはそのディールも失敗するに違いない。発展途上国などのアメリカ離れは加速するだろう。日本の真価を発揮する絶好のチャンスを活かさねばならない。中国との関係でも日本は重要な役割を果たせる。日本は世界から信頼され尊敬される数少ない国。自信と毅然たる姿勢が求められる。(読者に感謝)

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