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2025年3月31日 (月)

「朝日の天声人語も驚いたトランプのエネルギー。だがレベルは低い。旧統一教会解散命令は当然だ」

◇29日のふるさと塾は意外であった。前日比10度という寒さの中参加者はいつもより多く、緊張してマイクを握った。順序を変えて最新のニュース旧統一教会解散命令を取上げた。私の関係で協会の犠牲者がいた。その中には私の中村塾の生徒ナッちゃんも。合同結婚式に参加してそれきりとなった。安倍元総理を撃った山上被告の母親は1億円超の献金をしていた。10万人の班長名簿があり実名と連絡先が。これは選挙においては測り知れない威力である。この旧教会に岸、安倍などの自民の中枢が深く関わっていた。塾生の真剣な視線には怒りがあった。

◇この日のテーマの中心は予告したトランプ大統領の傍若無人ぶりである。その言動に全世界が翻弄されている。会場の人々の鋭い目は世論の縮図であった。特に力を入れたのは4日夜の施政方針演説。1時間40分の異様な熱演は敵ながら天晴れ。一杯の水も飲まない。78歳の怪老人のエネルギーに全世界が圧倒されたに違いない。千両役者であった。私は朝日新聞が天声人語で大きく取上げたことを話した。朝日の顔であるコラムでトランプ大統領を大きく書くこと自体が異常である。コラムは「トランプ氏のエネルギーは驚くばかり」と記述し、「だが」と続ける。「その内容はほとんどが自画自賛かバイデン前政権への罵りだった」と冷たい。

◇私は2月28日のトランプ、ゼレンスキー両大統領会談決裂の場面を取上げた。トランプ政権側はこんなにやってやっているのにお礼の言葉がないと責めた。ゼレンスキー大統領は感謝を現そうとしない。この対立の底に何があるかを語った。トランプの眼中には民主主義、法の支配、世界の為にといった高い理想はない。「アメリカナンバーワン」に現れる目先の利益、取引だけである。だからそれに応じないゼレンスキー氏を責める。ゼレンスキーとしてはロシアの侵略に対し国民と一体となって戦うことは世界の平和のためだという信念がある。トランプ氏との会見の場は戦場と考えている。だからスーツも着ないのだ。つまり、感謝するしないをトランプは低いレベルの価値基準で問題にしている。ヨーロッパの国々はこぞってゼレンスキー支持を表明した。この問題で塾生のF氏はゼレンスキーはやはりスーツを着て対面するのが礼儀であると発言した。そういう考えもあることを改めて思った。全世界の人々はこの点で意見が別れるに違いない。その他の話の中心は関税戦争であった。(読者に感謝)

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2025年3月30日 (日)

死の川を越えて 第98回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

第四章 生きる価値とは

 

  • 韓国の客

 

 ある日、草津の役場に韓国からの手紙が届いた。宛名は下村正助。差出人は鄭東順とある。正助が助けられたハンセン病の集落の頭だ。正助は届けられた封書を逸る思いで開いた。そこには、無事に日本に帰れたとは何よりとあり、大震災の見舞いを述べ、何よりも仲間の朝鮮人が助けられたことに心から礼を言いたい、主要な要件は万場軍兵衛殿に知らせるとあった。

 数日後、正助が万場老人を訪ねると、こずえが居た。万場老人の様子がいつもと違う。老人は意を決したように静かに話し始めた。

「京城の鄭から手紙があった。大震災で多くの朝鮮人が殺された。その中に、差別された人々が多く含まれているらしい。そのことで、詳しく知りたいので鄭の関係者がそのうちに日本へ向かうとある。娘の明霞も来るそうだ。実は、明霞はこのこずえと血がつながっている」

「えーっ、何ですって」

 正助は思わず大きな声を上げた。正助は赤いチョゴリをまとった韓国人の娘が誰かと似ていると感じたことを思い出していた。そういえば目の前のこずえとそっくりである。こずえにあのチョゴリを着せれば、同じ姿ではないか。

「こずえには、時々話してきたことじゃがな」

 万場軍兵衛は、そう言って遠くを見るような目をした。

「こずえの母は、わしの縁者の屋敷で働いていたが若くして亡くなった。双子であってな、妹がおった。妹は深い訳があって、朝鮮に渡った。立派な若者と知り合い、愛し合うようになり、結婚した。それが若い頃の鄭東順だった。そこで生まれたのが明霞なのだ」

 万場老人の話は衝撃的である。

「明霞は、母親のゆかりの地を見たい、そしてゆかりの人に会いたいというので、草津へ来るそうだ。その時は、正助、いろいろ頼むぞ」

「分かりました。おれは、鄭さんにも、明霞さんにも大変お世話になっていますから」

「私は何か不思議な気持ちです。そして、怖いようです。どうしましょう」

 こずえは、こう言いながらも微笑んでいる。その目には大きな期待が表れていた。

つづく

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2025年3月29日 (土)

死の川を越えて 第97回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 そして森山議長は、建議案について自分の考えを次のように表明した。

「藤岡事件は警察官の責任観念と見識の欠如を現す。責任を明らかにした措置をとらねば警察の威信を保つことはできません」

 森山議長は、このように警察官の責任感と見識を問題にした。森山の胸中には、警察官が城のハンセン病患者を圧迫して苦しめているという思いがあった。彼は、この議会で町田議員がハンセン病は秘密病だと言って警察官を批判したことを、議長として警察官の見識の問題として改めて指摘したのであった。また、森山議長は、自ら抱き続ける信念をここぞとばかり言い放った。

「朝鮮人を虐待することは、単に朝鮮人だけの問題ではありません。それは、誤解・差別・偏見の問題です。つまり、広く人間をどう見るかの問題なのです。ですから、この議会で議論されているハンセン病患者とどう向き合うかということで共通の問題なのです。群馬県議会は、明治の御世に、全国に先がけて廃娼運動を実現させました。その誇りを忘れてはなりません。廃娼もハンセン病患者の救済も、そして朝鮮人の保護も、人間尊重という点で共通の問題です。目の前の試練に正しく応えられぬようでは、廃娼県群馬は本物ではなかったということになります。朝鮮人の問題は、天から群馬県議会に与えられた試練に他なりません」

つづく

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2025年3月28日 (金)

「沖縄戦の悲劇、惨状の裸足の子は私と同年か。私は戦中派、尻から回虫が。相次ぐ山火事の恐怖」

◇目の前に女性教師と共に立つ沖縄の裸足の子どもたちの写真がある。顔つきと背丈から私から私と同年齢くらいと思われる。沖縄戦で米軍が沖縄に上陸してから26日で80年となった。84歳の私は改めて俺も戦中派と思う。防空豪に逃げ込んだ姿、ネズミを焼いて食べるおじさん、山奥の開墾生活、これらが甦る。

 沖縄戦は、女・子ども・老人を巻き込んだ正に生地獄であった。当時、首里高等女学校生徒だった比嘉トヨ子の証言『お母さん助けて』を読んだ。「道端の屍は嘔吐をもよおす死臭。死んで間もない母親の乳房を吸う乳飲み子。青い目は夜には何も見えないというデマを信じ、妹の手を引いて道路側の繁みに隠れていると米兵が近づき目の前で足を止めた。銃が私の肩をこずいた。“お母さん助けて”と心の中で叫んだ」。米兵に捕まったら女は強姦されると信じさせられていた。そして投降は厳禁とされていた。残された道は愛する家族を殺すこと、そして最も悲惨な集団自決であった。洞窟に逃げ込んだ人々は手投げ弾を爆発させたりカミソリで我が子の喉を切った。高い崖から飛び降りる姿がある。バンザイクリフだ。

 84年が夢のように過ぎた。赤城山の奥の谷底の生活を思う。国破れて山河あり城春にして草木深しであった。キラキラ光る小川には小さなカニが動いていた。煮て食べたガマガエルが美味しかった。小学校は希望の天地だった。授業中にトイレに走った。尻がムズムズ。引っ張ると長い回虫である。前の列の女の子の髪に白いシラミがうごめく。それでも学校は楽しかった。夜は豆ランプの下で母と代わる代わる本を読む。生きた勉強で、現在の私の心の原点となった。映画教室でピカドンを観て衝撃を受けた。原子爆弾の悲惨さを初めて知ったのだ。

 現在核戦争の影が近づいていることを肌で感じる。戦争は勝つために手段を選ばない。民主的コントロールが機能しない独裁者の手に核が握られている。歴史は繰り返す。今こそ私たちにとって試練の時、最も大切な時。

◇相次ぐ大規模山林火災は衝撃。大船渡市に続き今治市、宮崎市と続いた。消防白書では3月が最多。この時期、乾燥し強風が吹く。山林火災拡大の背景には林業の衰退や山間部の過疎化があると言われる。林道が整備されておらず消火活動が難しくなっていることもあるのだろう。メラメラと広がる真っ赤な炎に興奮を覚えた。動物は火を本能的に恐れるが、人間も同じ。映画「風と共に去りぬ」で動かない馬の頭に布をかぶせて引き出すシーンを思い出した。(読者に感謝)

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2025年3月27日 (木)

「旧統一教会に解散命令。底無しの闇にどっぷりの政治。信教の自由の濫用を許すな」

◇ホッとし、日本の司法は健全だと思った。旧統一教会に対する東京地裁の解散命令である。身近にも被害者が居り長い間やり切れない憤りを抱いてきた。東京地裁は解散命令を下した。地裁は献金被害額が少なくとも1,500人超に約204億円生じ、類例のない膨大なものと指摘。教団の会長は「信教の自由の侵害だ」と発言。憲法は「信教の自由は何人に対してもこれを保障する」と定める(第20条)。一方、次のように謳う。「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によってこれを保持しなければならない。また国民はこれを濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負う(第12条)」。旧統一教会の所業は正に権利の濫用である。憲法の定めを受けて宗教法人法は「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」を解散の要件と定める。

 長い間大変な被害が続いてきた。なぜもっと早くと強い憤りを覚える。教団と政治権力との癒着があった。教団と接点があった安倍元首相を殺害したとされ逮捕された人物は信者を母に持つ信者二世。この人物は旧統一教会に対する恨みを供述した。多額な献金による深刻な家庭崩壊が明らかになった。行政やメディアも被害を放置してきたと批判された。

 私は教育界にも叫びたい。公民の教科書は「人間の尊重と日本国憲法」や「現代の民主政治と社会」などの章を設けて現代社会で起きる出来事を根本にかえって教えようとしているが不十分だと思われる。多くの問題は政治と結び付くために教えづらいのも事実だ。しかし、だからこそ公正に事実として取上げ生徒の胸に届けることが教育の使命であろう。

◇高額献金で家庭を壊された高知市の橋田さんは元妻が熱心な信者で高額献金の被害者。橋田さんは離婚。元妻と暮らしていた長男は精神を病み自殺。橋田さんは「解散命令は当たり前」、「ここからがスタート」と訴える。多くの政治家が旧統一教会と接点を持つことが明らかになっている。裏金として政治と金の泥沼が続いているが新たに宗教と結びつく問題として旧統一教会に司法の舞台で鉄槌が下されようとしている。政治不信の闇はどこまで続くのか。このままだと日本は底無し沼に呑み込まれてしまうだろう。政治改革の叫びも空しい。一度ガラガラポンとしないと原点に戻れないのかも知れない。問題の深刻さに気付くのが遅すぎた。反省とともに課題解決を急がねば。(読者に感謝)

 

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2025年3月26日 (水)

「トランプが吼える中、福田元首相の存在感。宇宙時代の目標、火星に豊富な水が」

◇中国の王毅外相は23日福田康夫元首相と都内で会談した。福田元首相は群馬県日中友好協会の最高顧問。私は同協会の会長である。最近は健康が優れず私は心配していた。外相と握手する姿は苦しそうに見える。福田さんは民間交流、学術交流には重要な意義があると指摘し「対話協力の促進に力を尽くしていく」と語った。王毅外相は日中関係につき「健全で安定的な発展を推し進めたい」と表明した。

 トランプ大統領と中国との対立との対立が激化する中、日中の関係は極めて重要である。中国の全人代は11日終了した。恒例の首相記者会見は今年は行われない。王毅外相が全人代に合わせて記者会見した。外相の記者会見のポイントは次の点である。①日中関係は改善と発展の前向きな勢いを示している。②中国は台湾を必ず統一する。③日本の水産物問題の再開は責任ある態度で、法律・法規に基づき適切に処理する。④日本は引き続き平和発展の道を進むべきだ。⑤トランプ政権の関税強化策による圧力には断固として対抗する。これからトランプ政権との対立に備えて日本と良い関係を築こうという強い姿勢が窺える。前記の王毅外相と福田元首相の会談にもそれが強く現れている。福田さんに関する中国人の人気は大したもの。中国にとって、中国人にとって、福田元首相は特別な存在である。私は中国に同行してそれを示す光景をいくつも見てきた。

◇宇宙時代、人類が宇宙に発展する時代が加速している。アメリカのアポロ11号が月面に着陸しアームストロング船長が「これは一人に人間にとっては小さな一歩だが人類にとっては偉大な飛躍だ」と語ったのは1969年7月のこと。偉大な飛躍として次なる目標は火星である。人類が火星に進出する場合の鍵は水の存在である。この度高地大学などの研究チームが火星の地下に豊富な氷が存在することを突き止めた。大きな関心はこの氷が浅い掘削可能な範囲にあるかということ。もしそうなら着陸時に活用でき得るからだ。火星は地球と同じ岩石で出来ている。現在人間が住める環境ではないが将来科学の力により人間が住めるようになるに違いない。その場合の鍵はやはり水である。水から得られる水素はエネルギーとなり得る。宇宙への夢は果てしない。科学は限りなく進歩し人類の居住空間も限りなく広がるが、人間は進歩していない。生成AIの存在を考えると人類は退化するのかと懸念してしまう。地上の戦争も昔と変わらない。(読者に感謝)

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2025年3月25日 (火)

「ふるさと塾のKちゃん、主人を天国に送り出した快挙。大胡町公民館連続講演が終わりホッと。中国の危機を私の天安門」

◇生成AIは機会文明に押し潰される危機に直面する現代社会の象徴。そして生成AIを有効に使いこなせるかは最大の課題の一つである。人間性、人間力の希薄化が進む。そんな中で夫婦の絆も細くなっていくことに社会の危機を感じる。

 ある夫婦の別れに心打たれた。Kちゃんはふるさと塾の熱心な生徒。後期高齢者で病床の夫を長く看病した。死期が迫り耳が全く聞えなくなった。A4の紙に「とうちゃん、頑張って、一緒に頑張ろうね。いろいろあったね。思い出せば力が出るよ」など書いては見せて励まし続けた。夫はとうとう天国へ去って行った。ふっくらしていた顔は骸骨のように変化していた。Kちゃんの表情は明るい。人事を尽くして人生の同志を見送った姿であった。

◇大胡町公民館での月1の連続講演が終わりホッとした。戦後80年ということで、「シベリア強制抑留」、「満州移民」、そして今回の「緊迫する中国の動きと日米の役割」であった。私の話は「トランプ大統領の登場で世界の状況、中国との関係も一変しました」で始まった。78歳の怪老人の異常なパワーに世界も中国も日本も翻弄されている。3月4日の施政方針演説についてはその中味と共に驚界のエネルギーに触れた。1時間40分、一杯の水も飲まずの熱演は怪物としての存在感を示した。トランプ氏は中国が大量に作りだしているとして麻薬フェンタニルを取上げ、中国を強く非難した。トランプは11月の中間選挙を恐れている。勝つためにはウクライナ戦で勝利しなければならず、それには中国の協力を得なければならない。トランプが目指すアメリカナンバーワンに立ちはだかる最大の敵、中国も弱点を抱える。まずは不動産バブル崩壊の危機である。大手の碧桂園、恒大集団が抱える負債は天文学的である。また中国パワーの源泉は豊富な人口であるが、今深刻な少子高齢化に直面している。一人っ子政策を改めても効果は出ない。中国の無気味な深淵を想像する。

◇日本の文明史的役割を強調した。日本は東洋文明に深く根ざしながら西洋文明の取り入れと発展に成功した国。それを活かしてアメリカにも中国にも言うべきことは言わねばならない。中国は習主席の下で新たな強国像を目指している。スパイ防止法が強化された。その関連で天安門広場で胸の原稿を没収され拘束されそうになった私の話に皆強い関心を示した。中国は覇権主義を改め真に尊敬される大国にと訴えたのだ。中国は日本への接近強調を進めている。三国志の国は強かである。(読者に感謝)

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2025年3月24日 (月)

「あしながおじさんが甦る。ジャーヴィ坊ちゃまとあしながおじさんは同一人物か。捨て子の運命」

◇「今、凄いところを読んでいるよ。怖くて進めない。本当。感動の場面なんだ。俺の心は何歳なんだろう」。深夜、娘に送ったショートメール。誰かに語りかけずにいられない気持ちだった。幾日か前からウェブスター著「あしながおじさん」を読んでいる。遠い昔、英文で読んだことがあった。それは大学の受験勉強の一環だったので魂は入っていなかった。それに人生の多くの経験を重ねたことが主人公を見る視点を変化させていた。孤児院に拾われた捨て子のジュディアボットは16歳の多感な少女になっていた。毎月の第一水曜日は彼女にとって「おそるべき日」。評議委員会の日である。ある評議委員が彼女の文章力に注目し大学へ行かせることになった。条件は月に一度勉強の進行状態や日常生活について報告すること。この人の名前は明かさない。謎の人物である。ジュディは去って行くその人物の影法師をちらと見た。長い足であった。そこで彼女は「あしながおじさん」と呼ぶことにした。恵まれない出身ということに惹かれた。国語が特に優れている点も私の心を揺すった。私の人生の暗黒の日々に一つの光明となったのは国語の女性教師であったことが甦る。

 ジュディは女子大学に進む。全寮制の生活は目も眩む別世界であった。ここでも私は自分の大学時代の寮生活と重ねてしまう。ジュディは豊豪の青年「ジャーヴィ坊ちゃま」と恋に落ちる。ジュディは自分は捨て子であることは言えず、悩みの胸中をあしながおじさんに書き送る。ジャーヴィ坊ちゃまが重病になる。同じ頃あしながおじさんも重病であった。単なる偶然なのか。ある時あしながおじさんから突然の連絡があった。病院で会うというのだ。30分という制限された時間であった。影法師の存在であるあしながおじさんに会えるとはジュディにとって信じ難い人生の大事。ジュディは次のように書き送った。「はい、私は必ず伺います。おじさまに会いに行くことが信じられない気持ちです。(中略)ただ頭だけで考えていましたから、あなたが血のかよった人間でいらっしゃるなんて思えないほどです」

 ジュディの次の手紙は驚くべきものであった。病床の30分に何があったか、それは書かれていない。ジュディの次の手紙が明らかにする筈。ドキドキして待った。息を呑むその手紙。「最愛のジャーヴィ坊ちゃまこと、あしながおじさまこと、スミス氏こと、ペンドルトン様、ゆうべはお休みになれましたか。私はとても眠れませんでした。興奮、そして幸福でした」

(読者に感謝)

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2025年3月23日 (日)

死の川を越えて 第96回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 万場老人は、目の前の書類を指先で追いながら続けた。

「第二回国際会議は明治42年ノルウェーで開かれた」

「らい菌を発見したハンセンの母国ですね」

「そうじゃ、この会議の内容は非常に重要なのじゃ。この年、日本では5地区に分けた国立療養所が設置された。県議会の議論で本県からは23名の患者が収容されたと答弁されたが、その全生園は、この年に開設されたのじゃ。この第2回国際会議ではな、らい菌の感染力は弱いこと、隔離は患者の同意の下に行われるのが望ましいこと、放浪する患者らの一部の例外については強制隔離を行うことなどが確認された。

「へー、先生。感染力が弱いことが国際会議で確認されたとは本当ですか。草津の人は昔から知っていることですね。そのことが草津だけでなく世界の会議で認められたとは信じられないようです。草津の水準が国際会議を超えていたなんて。なぜ日本はそのことを認めて政策に取り入れないのですか」

「そこなのじゃ。そこに日本の特殊事情がある。ハンセン病の政策の基盤に人道主義、つまり人権の尊重がないのじゃ。これはハンセン病の対応を超えて国民一人一人の人権に通じる問題じゃ。このことをしっかりとわきまえることが重要なのじゃ。国際会議の結論は、われわれに勇気を与え、われわれの強い味方になっておる。正助よ、頑張らねばならぬぞ」

 万場老人がきっぱりと言うと、正助は大きく頷いた。

 さて、万場老人が、藤岡の朝鮮人虐殺は県議会が取り上げるに違いないと言ったことはどうなったであろうか。それは、綱紀粛正の建議案とそれに関する森山抱月議長の発言となって実現した。

 すなわち建議案では「暴民が勢いづくのを見逃して職責を顧みない警察がいる」「今、これを根本的に粛正しなければ、県政の将来が心配である」と指摘し、だから「当局は速やかに警察官の粛正を断行してほしい」と訴えた。

つづく

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2025年3月22日 (土)

死の川を越えて 第95回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 万場軍兵衛は言葉を切り、ため息をつくしぐさをしてから続けた。

「もとより体面だけの問題ではない。深刻なのじゃ。当時の国の調査では把握された患者数は3万359人。その背後に潜む血統家族は99万9,300人ということであり、これは国家目的たる富国強兵の大きな妨げと受け止められ由々しき重大事

であった」

「俺たちが富国強兵の妨げとは」

 正助は首をかしげて言った。

「弱肉強食の世界に登場した日本は、健康な強い兵士を育成して強国を実現することを目的としたのじゃ」

 万場老人はここで、きっとした目で正助を見詰めて言った。

「ハンセン病は恐ろしい伝染病であるから隔離することが感染を防ぐために、また、欧米人の目から隠すために必要と考えた。

さらに不治の病という迷信があったから、一度隔離したら二度と外に出さないという方針なのじゃ」

「ご老人、日本は遅れていると思います。だから国際会議の動きが気になります。教えてください」

「そうじゃな。国際会議のことを少し調べたので説明しよう。日本がいかに遅れているかが分かる」

 万場老人は、そうつぶやきながら別の書類を取り出した。

「第一回ハンセン病の国際会議は明治30年、ベルリンじゃ」

「ハンセンによってらい菌が発見されたのは明治6年と聞いております」

「その通りじゃ。この会議はそれを受けて、その対策を議論することが目的じゃった。この会議で確認された主な点は、ハンセン病は遺伝性でないこと、一定期間の治療のために隔離が望ましいことなどであった」

「日本は一度入ったら一生隔離と言われています。先生、俺たちの運命はどうなるのですか」

「うむ。心配じゃ。一生隔離の根拠は治らないということじゃ。しかし、お前もさやさんも、こずえもこのわしも菌はない。湯の川では治っている人が多い。無知が差別と偏見を生んでいるのじゃ。第一、一生隔離なぞ人道に反することじゃ。国際会議は治療のための一定期間の隔離が望ましいと、まさに人道への配慮を示している。これは、われわれにとって暗夜の光明じゃ。湯の川の光に通じるものじゃ。頑張ろうではないか」

「はい、先生、暗夜の光明とはぴったりです。勇気が湧きます」

2人はしっかりと手を握りあった。

つづく

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2025年3月21日 (金)

「ぎっくり腰から回復して。サリン事件と教育。トランプの政策に各地で反発の声が。自由の女神を返せの声も」

◇ぎっくり腰から急速に回復している。今朝(20日)は完全に近く。7杯の水行、そして距離を少し短くしたコースを走れた。懸垂は、跳躍して横バーに飛びつくのだが跳躍に不安があり台を使ってバーを握る。20回は楽。腹筋は背中にかかる負担が不安である。少し試みようと思う。時間が経つにつれ身体に力が漲るのが分かる。まわりの人は回復力の速さに驚いている。結局、夕方になって腹筋も30回できた。大きな一山を越した上で改めて「無理をしないで」と自分に言い聞かせた。

◇地下鉄サリン事件から20日で30年。14人が死亡し6千人以上が重軽傷を負った。13人の死刑判決があった。高学歴の者が多いことに世間は驚愕し改めて教育とは何かと考えた。

 教育は無力に等しい。しかも現在、人間がおかしくなっている時代である。生成AIなるものが登場し人間が機器に支配されるかと懸念される状況となっている。オウム事件の再発は十分に有り得ると思う。

◇トランプ政権が世界各地で所有権を得ることを主張していることに驚くばかり。ガザ地域、グリーンランドなど。今度はウクライナの原子力発電所を米国が所有することを提案。インフラ保護の最善策になると主張している。この原発とはロシアが占拠しているザボリージャ原発。報道によれば、この計画はウクライナの希少資源開発と関係している。アメリカの企業が資源の採掘や加工を手がける。国務省の報道官は米企業の事業体の存在がロシアの攻撃に対する抑止力になると語っている。

トランプ大統領の関税政策はインフレの加速と景気減速という大きなリスクをもたらしつつある。これは企業や消費者の心理にも悪影響を及ぼしている。FRBのパウエル議長は「関税は成長を鈍化させインフレを加速させる」と明言し、トランプ氏が次々に出す高関税が金融政策最大のリスクであると主張。

◇関税圧力やロシア寄りのウクライナ和平政策に対する批判が各地で高まっている。その象徴といえるあっと言うべき動きがフランスで起きている。自由の女神像返還要求である。フランス選出のEU欧州議会議員が訴えている。トランプ政権下の米国は寄贈した際の価値観をもはや失っているというのだ。米製品ボイコットの動きも。トランプ政権がこれから長く続くわけではなく、アメリカの本質は変わらない。返還はないが、トランプへの反発はそれ程大きいということ。(読者に感謝)

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2025年3月20日 (木)

死の川を越えて 第94回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 ここで見られる中心的思想は、恐ろしい感染症だから一般から遠ざけて隔離すべしというもの。ハンセン病の科学的実態から離れたものである。この建議案については、当然ながら反対意見もあった。議会とは、多数意見をもって漸進するところだからやむを得ないことであった。ただ、理想の地域ということに触れていることは湯の川地区の歴史に配慮したぎりぎりの提言であった。

 さて、この議会で「文明国の対面」「国際学会の動き」「一生隔離」などが語られた。これらは、世界の動きを知る上で重要である。世界の情勢を知らねば自国の政策を正しく批判することはできない。

 県議会の動きを伝え聞いた正助は、ある日万場軍兵衛に尋ねた。

「文明国の対面、国際学会の動き、一生隔離、これらはどう繋がるのですか。俺たちは国のメンツの犠牲ですか」

「うむ。重大なことじゃ。歴史、国、世界、われわれはこの大きな流れに翻弄されておる」

 万場老人はこう言って、背後から1冊の書物を取り出し、それに目を走らせながら語り出した。

「明治32年、欧米諸国との間で条約が改正され、外国人が自由に日本国内を動けるようになったのじゃ。そこでな、放浪する患者、神社仏閣の門前で物乞いをする姿が欧米人の目に留まるようになった。異様な姿で路傍に座り、道行く人から恵みを受ける様は、これが人間かと、彼らに強い衝撃を与えたという。日清戦争に勝って世界の一等国を目指す日本人にとって、浮浪するハンセン病者の姿が欧米人の目に留まることは国家の屈辱であり、日本の誇りを傷つけると政府は考えた」

つづく

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2025年3月19日 (水)

「ぎっくり腰の衝撃。日頃の鍛錬はどこに。大胡公民館で中国の衝撃を語る予定」

◇昨日突然腰に激痛が走った。左足で身体を支えることができない。いわゆるぎっくり腰に違いない。かなり以前にこういう経験があった。毎日鍛えているのですっかり忘れていた。かなりのショックである。はじめに頭に浮かんだのは老化であった。私のノートはめったに人に見せないが、たまに目にした人は「わっ」と驚く。毎日実行する項目と実戦状況がびっしり書き込まれているからだ。運動の項目は懸垂20回、腹筋30回、腕立て伏せ250回、水行(冷水を首の付け根辺りに7杯)、1日3回約2キロのジョギング(午前6時50分、午前3時40分、午後6時)。腕立ては1回50回を何秒か間をおいて5回。何秒とは机に動いてノートに記載する3~4秒のこと。

 ぎっくり腰でこれらのほとんどが不可能になった。水行は普通にできた。せめての救いである。私は夜走りながらあることを声を上げて唱えている。その中に「天が与えたこの命、天が授けたこの身体、謙虚と感謝で受け止めて鍛えて磨いて戦うぞ、ドンドコ・ドンドコ・ドンドンドン」の一節がある。私のドンドコ節はかなり長い。今回のぎっくり腰は私の傲慢さに対する天の戒めと受け止めた。

◇ぎっくり腰でも原稿に向かえるのは有り難いこと。書斎には「中村のりおの箋」と示した原稿用紙が積まれている。原稿用紙は私の心の世界を支える。白紙の用紙は無限の世界に通じる窓口。22日が3日後に迫った。大胡町公民館での第三回目の講演である。「シベリア強制抑留」、「満州移民の悲劇」、に続いて「緊迫の中国問題」と題して話す。第一回、第二回の総括という意味もあるが、独立の大きな世界の課題である。中国にはかねて大きな関心をもってきたがトランプ大統領が登場したことにより状況は一変した。関税戦争と言われる。トランプ氏は関税という武器を振りかざして傍若無人ぶりを発揮している。メキシコ湾をアメリカ湾と呼ぼうとし中東のガザあたりをアメリカの「所有」にすると広言。隣接するカナダをアメリカの一州であるのかの如き暴言。世界で突出した市場を武器に大芝居を展開中である。そのアメリカの前に立ちはだかるのが社会主義の国、中国である。トランプはウクライナ戦争の解決を急いでいる。そのためには中国の協力が不可欠である。中国に巧みに接近するには日本の存在が不可欠だ。ここに日本の世界史的役割と使命がある。日本は日米の同盟を堅持しつつそれを果たさねばならない。このような流れを話す。ぎっくりを乗り越えよう。(読者に感謝)

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2025年3月18日 (火)

「丹下教室にいた岡野さんがミライズに。地下鉄サリン事件を風化させるな。学校特別休暇制の行方」

◇今月のミライズクラブは建築家の岡野真さんが建築について深く雄大な話をされた。私は冒頭尊敬する友人と紹介した。東大の駒場寮で一緒だったこともある。日本が誇る世界的建築家丹下健三の門下生だった。丹下健三の建築の哲学と情熱が岡野さんの話から伝わってきた。私は改めて丹下博士の業績に思いを馳せた。丹下氏は多くの公共施設や商業施設の建設を手がけた。代表的なものとして広島平和記念公園、オリンピック会場である国立代々木競技場、東京都庁、お台場のフジテレビ本社ビルなどがある。

 岡野さんは建築の価値を判断する要素として「用」、「美」、「強」をあげた。「用」は使い勝手、つまり役に立つかで、「強」は構造的強さである。「美」は外観の美しさで、丹下博士はこの点も重視したと言われる。岡野さんが建築物の強さに関して立地の重要性をあげたことに注目した。神社は多く安全な場所に建てられており、東日本大震災でも壊れなかったという。

 岡野さんの話は以上の点を踏まえて県民会館及びテルサの価値にも及んだ。聴いていて私たちは目からウロコの感を抱く点が多かった。

◇1995年3月20日、前代未聞の無差別テロが発生。14人が死亡し6千人以上が重軽傷に。日本の治安は比類ないという神話が一気に吹き飛んだ事件だった。富士山裾野の上九一色村という聞いたことのない名がにわかに新聞テレビに踊り出た。事件で夫を失った高橋シズヱさんは語る。「優秀な科学者たちが死刑になりました。その能力をなぜ教団のために使ったのか考えると悲しい」。正に教育とは何かを突きつけた事件であった。教育の本質が変わらない以上この種の事件はまた起こり得る。この事件を風化させてはならない。30年を機に改めて考えよう。

◇教育改革の一環として受け止めた。草津町が導入を計画している学校特別休暇のこと。教育改革は急務であるがその地域の特性に応じて行わなければ効果は上がらないと思う。小中学校が平日に学校を休んでも欠席扱いしない制度。1年間で最大3日、保護者ら家族と過ごす場合に限り認められる。草津町は観光業に従事する家庭が多く土日祝日に家族時間を取りにくい。家族の時間は児童生徒の健全な精神を育むため、また家庭の平穏のためにも不可欠である。このような健全な環境は学習効果の向上に繋がるに違いない。同様の制度は2023年に愛知県が全国に先駆けて導入。その後、観光業が盛んな大分県別府市や栃木県日光市などに実現の動きがあるという。

(読者に感謝)

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2025年3月17日 (月)

「立花党首ナタで切られる。商品券は命取りに。文藝春秋が小見君を」

◇白昼大都会でナタを振りかざす事件が。政治がらみであるだけに民主主義の危機を感じる。襲われたのは政治団体「NHKから国民を守る党」の立花党首。容疑者は「殺そうと思いナタを振り下ろした」と供述している。立花氏は耳から出血している。トランプ大統領が凶弾で耳を射貫かれた事件を想像した。危ういところだった。一歩間違えば深刻な事態となっていた。憲法で保障する言論の自由を犯す行為である。言論の自由は民主主義の基盤であり安全な社会を支える土台である。いくら立花氏の言動に反対であっても言論で立ち向わねばならない。ナタを振りかざす行為は政治テロである。この事件を世論が厳しく糾弾しないと社会が増々おかしくなる。

◇石破首相の商品券問題は政治の劣化と民主主義の危機を示すもの。タイミングが悪かったとか、自民党の中では常識だったというのは通用しない理屈である。政治は民意に基づかねばならない。10万円のお土産とは民意から余りにかけ離れている。弁明する首相の姿が醜悪に見える。参院選が目前である。首相は選挙の顔である。「政治とカネ」の泥沼が続いている。底無し沼に沈む姿に見える。石破首相では選挙に勝てない、大敗した衆院選の二の舞になる、こういう声が大きくなっている。参院選で改選を迎える西田議員は「予算が通ったら首相は退陣すべきだ」と叫んでいる。天下分け目の夏の陣は深刻になりそうだ。

◇フリッツ・アートセンターと小見純一君のことが文藝春秋今月号に取上げられた。小見君は私の娘の夫。私の義理の息子である。フリッツ・アートセンターは敷島公園の一画にあるユニークな書店。ノンフィクション作家柳田邦男氏が、『いざ100歳まで日記⑤ 行きなおすための思いやり』の中で。見出しのページにはフリッツ・アートセンターの店外書籍展示の写真も。柳田氏は書離れが進む中で書店も減り厳しい状況にあることを憂えていると思われる。

 柳田氏はフリッツ・アートセンターの雰囲気が気に入ったらしく次のような感想を述べている。「日常的に立ち寄れる街中ではなく、街外れの林間に書店が襟を正すように佇んでいるという風景もいいものだ」、そして「フリッツ・アートセンターと小見さんの来歴はなかなかに興味深い」として、小見君の現在に至る歩みを書く。そして彼が様々な文化活動を展開している姿につき称えた。「私は大いに感服した。このようなかたちで地域の文化というものを根付かせようとしている人がいるのかと」。

(読者に感謝)

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2025年3月16日 (日)

死の川を越えて 第93回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 山村邦明知事は登壇して答えた。

「実に容易ならざる質問であります。貴員が提起された問題は誠に重大です。明治になって、日本は四民平等となった。貴員のご質問に、不肖山村、はっきりお答えいたします。この群馬県の名誉にかけて、断じてレプラを排除致しません」

 町田議員は、知事の言葉に大きく頷いてさらに続けた。

「知事、よくぞ申された。貴方の発言は実に重い。時が時だけに、今の発言は県民に大きな勇気を与えるに違いない。そこで、貴方のお考えを行動に移してほしい。だから、ぜひ本県からも適当な予算を出してもらいたい。日本中で真っ先に東京へ駆け付けて大震災の救助に当たった山村知事さんだ。決心して出してもらいたい。知事の決意を聞かせてください」

 山村知事は、この議会の開会の辞で、大震災の救援に全力を尽くしたことに関しては、摂政殿下からお褒めの言葉を拝したと誇らしげに述べた。ここで摂政殿下とは皇太子裕仁(後の昭和天皇)のことである。大正天皇が病気のため、大正10年、摂政に任じられた。

 山村知事は次のように答えた。

「理想としては同感至極でございます。私も深く研究し政府や内務省衛生局に申し出ており、内務省も検討しております。その結果、政府も国費で療養させねばならぬという意見であると承知しております。患者は草津の温泉に浴することを無上にありがたいと感じているらしく、これは天然の恵みでありますが、県としては何もしていないのは、いかにも相済まぬと思っています。大震災で真っ先に駆け付けたとご指摘いただきましたが、そのことに恥じぬよう足元の県民の救済にも力を尽くさねばという思いであります」

 さて、国に対する要望そして建議は、以上で見られた議員の質疑、およびそれに対する答弁を踏まえて国の責任を促そうとするものであった。これは、当時のこの病気に対する理解の程度、対策の現状、湯の川地区に関する認識を示している。大正12年の県議会は、国に対する次のような建議案をまとめた。

「古来、ハンセン病は恐るべき伝染性を有し、一度これに感染すると、その治療はすこぶる困難であります。この憐れむべき患者に対する国家としての救護が薄いことはすこぶる遺憾であります。草津温泉は、この病に効果ありと言われ、患者で浴養する者が多く、いつしか、湯の川に一集落を形成しましたが、この集落は草津町と接続しており、その危険性が指摘されるようになりました。本県は解決を心がけていますが、県の力では根本的な施策はとうてい不可能であります。本問題は本来、国家が相当な処置をすることが当然と信じます。この際、国家が速やかにこの患者を理想の地域に移転隔離すべきです。そして、公衆衛生の不安を除き、不憫なる患者の救出、ならびにハンセン病予防と撲滅の施策を実施してくださることをお願い申し上げます」

つづく

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2025年3月15日 (土)

死の川を越えて 第92回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「さらに重大なこととは、この病気は秘密病と言われるのに身元を調査することだ。患者は身元を知られるのを極端に恐れる。身元が分かるとそこへ巡査が先頭に立ってやって来て、大掛かりな調査が行われる。嫁に行った娘は離縁され、その家は地域で暮らせなくなる。そんな所へ本県の患者が23人も行っている。そして、毎年1万円も出している。県は国に改善策を提案すべきだ。国の方針が地方の患者の実態に深刻な影響を及ぼす。ハンセン病をいかに扱うかは、他の福祉政策の鏡になります」

「福祉の象徴だ」

 議場から声が飛んだ。

「国は飼い殺しではないか」

 これは傍聴席の声であった。

 町田議員は、声の方をちらっと見た。声の主は頷くように見えた。議長は静粛にと目で制した。

「国は文明国の対面を気にしているが、その政策は国際学会の動きに反しているとも聞きます。今、鋭い声が傍聴席から響きました。国はハンセン病の患者を見つけ出して収容したら一生解放しない方針らしい。これこそ反文明である。現代の牢獄ではありませんか。一生隔離ということは治らぬと決めつけていることを意味する。わが草津を見よ。わが湯の川を見よ。現に治っている人が多くいる。だから、国立の収容所に入っても治る人はいるに違いない。治ったら解放することが人道である」

「そうだ」「そうだ」

「静粛に願います」

 傍聴席に議長が叫んだ。

「私は過日、ひそかに湯の川地区を訪ねました。理想の村を作ろうとしていると申しますが現実は誠に厳しい。戸ごとに物乞いをし、追い払われるレプラの群れを私は見た。こういう人たちを人間と見るかどうかという問題です。湯の川は自治の努力をしていますが、物乞いの姿は自治にも限界があることを物語る。しかし、県が力を貸せば大きな成果を生むに違いない。県はなぜしない。なぜ国に働きかけない。県が救いの手をのべないのは、レプラを人間と見ていないからだ、税金の無駄遣いだと考えているからだという見方もあります。これは、由々しき問題です。最高学府で学問を修めた知事のご意見をお聞きしたい」

つづく

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2025年3月14日 (金)

「30日即時停戦の行方は。参院選を石破氏で戦えるか。闇バイトの撲滅は可能か」

◇ビッグなニュースが走り抜けている。ロシアの全面侵攻を受けるウクライナが11日米提案の「30日間の即時停戦」を受入れたのだ。

 欧州諸国の首脳からは歓迎の声が相次いだ。停戦後の平和維持部隊の派遣を構想する英仏両国は有志国連合の立ち上げに動き出した。首脳たちのほっとした安堵の思いが伝わってくる。スターマー英首相は「画期的な突破口」と声明。フォンデアライエン欧州委員長も「ウクライナにとって永続的な平和に向けた前向きな一歩になり得る」と評価。この女性はトランプ、ゼレンスキー両氏が激論し決裂した時「ウクライナは決して一人ではない」と叫んだ人である。

 英仏両国はNATO加盟国など36カ国の軍幹部らの会合をパリで開いた。マクロン大統領はウクライナが求める停戦後の安全の保障を構想から計画に移す必要性を指摘した。

◇夏の参院選が近づく中、自民党内にざわめきが起きている。改選を迎える議員にとって勝敗は政治生命に関わる。衆院選の大敗が重大な不安材料としてたちはだかっているに違いない。改選議員は「今の体制では参院選を全く戦えない。党総裁選を実施し新たなリーダーを選ばねば」と悲鳴に似た声を上げている。西田昌司参院議員である。高市早苗前経安相や小林鷹之氏等も首相への不満を表明している。公明党は「少数与党で一致結束、難局を乗り越えていくべき時、公明は政権を支える」と表明した。

 しかし、石破首相の迷走ぶりは余りにも目立つ。身内からの退陣要求は強まりそうである。直近のNHK世論調査では内閣支持率は前月の44%から8ポイント下がって36%である。昨秋の衆院選で与党は大敗したから今夏の参院選は事実上の政権選択選挙となる。天下分け目の夏の陣である。野党にとって絶好のチャンスだが、それも一丸となれねば実現不可能だ。

◇本県も参院選へ向け各党の動きが本格化。共産党は小中の教諭を長く勤めた高橋保氏を擁立すると発表。自民、公明両党は相互推薦の第一弾として互いの公認候補の推薦を明らかにした。自民は2期目を目指す現職の清水真人氏。私と県議をやった時期もあった。最近彼のポスターが国道沿いに目立ってきた。

◇闇バイトは現代社会の病巣。山本知事は県警本部長と共同で撲滅することを宣言。知事は「紛れもない犯罪、探さない、応募しない、実行しない、の3原則を貫いて欲しい」と訴えた。そもそも「バイト」という表現が悪い。(読者に感謝)

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2025年3月13日 (木)

「14年前の出来事から最大限学ぶ時。大川小と船越小の教訓を。大災害の足音が聞こえる」

◇東日本大震災から11日で14年となった。あの日、テレビの光景にこれは現実であろうかと目を疑った。ビルの上で助けを求める人々、そこへビルを呑み込むように押し寄せる大波、車も漁船も木の葉のようだ。大自然の脅威を見せつけられた瞬間だった。関連死を含む死者、行方不明者は2万2千人を超える戦後最悪の自然災害だった。直後宮城県のある被災地を視察した。建物がもぎ取られた後の大きなコンクリートの基礎が土中から引き抜かれているのを見た。あの大災害から私たちは十分な教訓を引き出す準備は出来ているのだろうか。災害は忘れた頃にやってくる。時代の変化とそのスピードは余りに大きく速い。14年の時の流れは大きく重い。あの時のことをたぐり寄せて見詰め直す時が来たのだ。

◇私がブログを初め、いろいろなところで書いたのは宮城県石巻市の大川小学校と岩手県山田町の船越小学校の出来事である。よく似た状況で対照的な結果を生んだ。それは現場の指導者の判断力の違いだった。人間力ともいうべきか。二つの小学校には裏山があった。一方は校庭に子どもたちを並ばせたまま、長い時間を無駄にした。大津波を待つかのように。大川小の運命を決めたのは裏山に登る決断を下せなかったことである。「道がなかった」、「校庭の方が安全」という判断があったと言われる。しかし断崖絶壁ではない。シイタケ栽培をしていた森林だった。津波の恐怖を知らなかったのか。日頃の勉強は何だったのか。全校児童108名中74名が死亡、行方不明となった。

 これに対し船越小では校務員の判断力と行動力が突出していた。校長に必死で訴えたのだ。「逃げましょう。あとで笑われてもいいじゃないですか」と。校長は校務員の鬼気迫る姿に圧倒された。校務員は「きれい事では子どもを守れない。草をつかんでも逃げなければ」と判断した。136人の児童は校務員の先導で山を登った。そして全員が助かった。

◇14年の間に大自然は休むことなく動いている。地下のプレートの動きは限界に近づいている。その予兆は限りなく存在している。慣れて鈍くなっている人間の感覚をあざ笑うかのように。東北から房総半島にかけては連日のように地震がある。首都直下と南海トラフの巨大地震の足音が聞こえるようだ。人々の存在は風前の灯火である。平穏な日常に流される中で皆自分だけは大丈夫と思っている。14年目の今日の最大の課題はこの常識を打ち破ることである。大川小と船越小の出来事を社会全体が最大の教訓として活かすべきである。(読者に感謝)

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2025年3月12日 (水)

「驚愕の風営法改正の背景。国際女性デーと日本国憲法。今日は歩け歩け大会だ」

◇若い男女の性の乱れは想像を超えているようだ。歌舞伎町の情景がしきりに報じられる。一帯が巨大な悪魔の森に見える。ここだけが特別なのではない。日本全体が享楽の巷と化しており、ここはその象徴なのだ。経験の少ない若い女性が食い物にされている。これらの社会現象に鉄槌を下す風俗営業法改正案が7日閣議決定された。歌舞伎町を初め関係者は戦戦恐恐に違いない。違反の罰則は腰を抜かす程厳しい。悪質ホストクラブは女性客の恋愛感情につけ込んで多額のつけを負わせ支払いのために売春させたりする。次はある全国紙の例である。難関大に合格した娘はホストクラブに通い始め借金は1千万円を超え「払えなければ死ぬしかない」と泣いた。

 警視庁は昨年大規模な職安法違反を摘発。それはホストらと手を組み借金を抱えた女性客を46都道府県の約350の風俗店に紹介し約70億円の紹介料を得たとされる。

 改正法の要点は女性客の恋愛感情につけ込んで飲食させることや、料金を払わせるため不安にさせて売春をさせることなどを禁止する。無許可営業などの法人の罰則は現在の150倍の3億円以下である。違反行為をした個人の罰則も強化。5年以下の拘禁刑、1千万円以下の罰金に。罠にはまった女性は憐れだ。甘い夢を見ていたのが、ホストは豹変し「払わなければ実家へ行く」などと言われ、売春・性風俗店での稼働、AV出演などを求められる。地獄である。世間知らずの娘たちの多くが人生を破壊させられていく姿を想像する。春は家出の季節。きらびやかな都会に憧れて無防備で出かける少女たちも多いのだろう。

◇8日は国際女性デーだった。女性の地位向上を目指して国連が定めた記念日。女性の役割は社会全体にとって極めて大きいが現実は深刻である。格差と差別に苦しむ女性は世界に広がる。世界には女性を物として扱うような国や地域も存在する。大きく進んでいる筈の日本でも女性差別は無視できず色々なかたちで存在する。国際女性デーに当たり、私たちが考える基盤は憲法である。すべて国民は故人として尊重され(13条)、すべて国民は法の下に平等である(14条)。憲法の理念と現実との乖離を見詰めるのが女性デーである。障害者やジェンダーの現実がある。

◇今日は芳賀地区の歩け歩け大会。コロナもあって久しぶりになる参加。いろいろな人に会えるのが楽しみ。昨夕は雪が降ったが、今朝走ると雪はなく空には星があった。コンビニでアメとお菓子を用意。意外な出会いに期待する。(読者に感謝)

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2025年3月11日 (火)

「トランプの大鉈の威力と限界。怪老人の神通力はどこまで。国際女性デーに思う」

◇世界がトランプ政権に振り回されている。トランプ氏は関税の大鉈を振り上げハラハラさせたがわずか1日で修正を示した。猫の目のような状態はこの政権の弱さを示すものではないか。関税の嵐に全世界が戸惑っている。関税の拡大に歯止めをかけるのはアメリカ国内企業と消費者の不満に違いない。今回、1日での修正を実現させたのは自動車大手ビッグスリーの働きかけと株価の下落。関税を予定通り発動するとの表明でニューヨークの株式市場は2日間で計1,300ドル超下落。これは日本の株式市場にも直ちに波及した。トランプ政権は車及び部品の生産をアメリカ国内に移せと主張。高関税がブーメランのように直撃することを避けるためだ。しかしごく短期間で製産を米国に移すことは不可能だろう。

◇トランプ政権は世界の安全保証の面でも混乱している。ウクライナは第三次世界大戦を賭けたギャンブルをしていると発言。これはロシアの核の脅しと共同歩調をとるものだ。

 これに警戒感を示すフランスのマクロン大統領はフランスの核抑止力で欧州の同盟国を防衛する議論を進める時だと表明した。そして国民向けのテレビで訴えた。「アメリカが我々の側にとどまると信じたいがそうでない場合に備えておく必要がある」と述べたのだ。現実の外交は力関係で決まる要素が強い。トランプ氏が日々展開しているのはソロバン勘定であって理念や哲学ではない。アメリカは本来、理念に基づいて建国され、理念で世界をリードしてきた。トランプ政権に理念はない。足元がぐらぐらして、世界で孤立を深める国に未来はない。アメリカは崩壊の初めを迎えているという声も聞かれる。

 アメリカは地上で最強の力を持つ。それを時に国際ルールをも無視し傍若無人に振る舞っているが、それはトランプという特異なキャラクターによって行われていると言える。78歳の怪老人に未来はない。神通力が尽きる時は近づいている。崩壊の始まりという見方はあながち見当外れとは言えまい。

◇8日は「国際女性デー」。これは女性の役割の拡大と地位向上などを確認し、今後の発展を期することを目的とする日。状況を測る基準がジェンダーギャップ指数である。本県の特徴は行政分野で女性の活躍が低いこと。かかあ天下の伝統はどうしたのか。地域を発展させる力として残された可能性は女性の力だ。眠っている女性力を社会全体で引き出さねば。女性管理職を増やすことが突破口になると思う。(読者に感謝)

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2025年3月10日 (月)

「センテナリアンの時代。108歳の理容師箱石さんの凄さ。高村山の教育改革に思う」

◇100歳以上の人をセンテナリアンと呼ぶ。百を意味する世紀、センチュリーから来る。今年の日本のセンテナリアンは95,119人と言われる。また、110歳まで生きる人をスーパーセンテナリアンと呼ぶ。スーパーセンテナリアンを目前にした女性のことが大きく報じられた。栃木県の108歳女性理容師箱石シツイさん。「世界最高齢の女性現役理容師」としてギネス記録に認定された。かくしゃくとしてハサミを使う姿には驚かされる。「元気な身体をくれた両親に感謝します。今年は109歳だから110歳まで頑張ります」と語った。いやいやこの分では、あと十年は大丈夫ではないかと唸った。並んでテレビに映る80歳の長男より元気に見える。

 認定証を受け取り「若い時から苦労の連続だったが嬉しい」と笑顔を見せた。戦時下の生活は大変だったのだ。夫は戦死し二人の子どもを育てる中で一家心中を考えたこともあると語る。

 箱石さんは14歳で理髪店に弟子入りし、その後理容師免許を得た。2021年の東京五輪では聖火ランナーを務めた。人生はマラソンである。箱石さんは超高齢社会の先頭を走るランナーである。私は拙著の中で102歳まで走ることを宣言した。102歳を迎える2042年は団塊ジュニア世代が全て高齢者となり高齢者人口は4千万人のピークに達すると言われる。そして2040年認知症患者は800万人から950万人に達すると言われる。元気を失って萎む社会に活力を生むためには高齢者の中から頑張る人が出なければならない。私はそのことを意識して毎日走る。健康長寿のセンテナリアンを目指しているのだ。箱石さんという良き目標が現れた。その背中を見失わないように頑張ろうと思う。

◇高山村が村の実情に合わせた教育改革を行おうとしている。近くに私が関わる日本アカデミーの施設があるので関心を高めている。

 高山小と高山中を一カ所に集約し、小中の義務教育を一貫して行う「義務教育学校」を設置するという。後藤村長とは旧知の間柄で、かつてアカデミーの外国人学生との交流について話したことがあった。自然の豊かさは比類がない。星空が美しい所でその条件を活かした県立天文台が近くにある。天文台をもっと有意義に活用すべきである。群馬県が魅力ある移住地に選ばれた。高山村はこの流れの中に。これから更に存在感を増すに違いない。「義務教育学校」がその一つの中心となって発展することを願う。良い人材が育つに違いない。(読者に感謝)

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2025年3月 9日 (日)

死の川を越えて 第91回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 なんと驚くべきこと。3万人以上患者がいて、そのうち1,100人とは。まるで対策がなっていないことではないか。どういう訳なのか。きちんと説明してほしい」

「事態は深刻でありますが、国の財政状況もあり、一挙に対策を進めることは困難と思われます。現状は、扶養できない放浪する患者を五つの国立収容所で収容するという方針であります」

「では、湯の川地区はどういう位置付けなのですか」

「はい、湯の川の患者は、金銭に余裕のある者も多く、自治の組織で助け合っており、少なくとも浮浪する患者ではないと私たちは見ております」

「うーむ。湯の川についても無策というべきではないか。あなたたちは実態と事の重大さを知らぬ。昨年の暮れに、この議会の委員会にハンセン病の家族が来ましたぞ。その時、いたいけな少年が元気にわれわれの質問に答えたのです。私はその時、強く思いました。この少年の未来を守らねばならない。それはこの議会の使命ではないか」

「そうだ」

議員席から大きな声が上がった。

「その通り」

 今度は傍聴席の声であった。

 この議員は最後にテーブルをどんとたたいて言った。

「要は、県民の命をいかに大切にするかということです。ハンセン病の患者を人間としてみるかどうかということです。湯の川のことを国任せにせず、しっかり取り組んで頂きたい。このことをしっかりとお願いいたします」

 続いて、甘楽郡出身の町田議員はレプラ問題と銘打って当局に迫った。

「当局は、国立療養所の深刻な内容を承知しているのかお聞きしたい。まず、職員はほとんどが警察官上がりで、患者に対して高圧的で犯罪人に対するが如くである。これは人道上甚だ問題ではないか。放浪するハンセンを収容する目的に、文明国の対面ということを挙げていると聞く。ならば、患者を人間として扱うことが文明国の務めではないか。さらに重大なことがあります」

 町田議員は言葉を止め、当局に鋭い視線を投げた。

つづく

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2025年3月 8日 (土)

死の川を越えて 第91回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 なんと驚くべきこと。3万人以上患者がいて、そのうち1,100人とは。まるで対策がなっていないことではないか。どういう訳なのか。きちんと説明してほしい」

「事態は深刻でありますが、国の財政状況もあり、一挙に対策を進めることは困難と言われています。現状は、扶養できない放浪する患者を五つの国立収容所で収容するという方針であります」

「では、湯の川地区はどういう位置付けなのですか」

「はい、湯の川の患者は、金銭に余裕のある者も多く、自治の組織で助け合っており、少なくとも浮浪する患者ではないと私たちは見ております」

「うーむ。湯の川についても無策というべきではないか。あなたたちは実態との事の重大さを知らぬ。昨年の暮れに、この議会の委員会にハンセン病の家族が来ましたぞ。その時、いたいけな少年が元気にわれわれの質問に答えたのです。私はその時、強く思いました。この少年の未来を守らねばならない。それはこの議会の使命ではないか」

「そうだ」

 議員席から大きな声が上がった。

「その通り」

 今度は傍聴席の声であった。

 この議員は最後にテーブルをどんとたたいて言った。

「要は、県民の命をいかに大切にするかということです。ハンセン病の患者を人間としてみるかどうかということです。湯の川のことを国任せにせず、しっかり取り組んで頂きたい。このことをしっかりとお願いいたします」

 続いて、甘楽郡出身の町田議員はレプラ問題と銘打って当局に迫った。

「当局は、国立療養所の深刻な内容を承知しているのかお聞きしたい。まず、職員はほとんどが警察官上がりで、患者に対して高圧的で犯罪人に対するが如くである。これは人道上甚だ問題ではないか。放浪するハンセンを収容する目的に、文明国の対面ということを挙げていると聞く。ならば、患者を人間として扱うことが文明国の務めではないか。さらに重大なことがあります」

 町田議員は言葉を止め、当局に鋭い視線を投げた。

 つづく             

 

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2025年3月 7日 (金)

「トランプの施政演説に改めて思うこと。ゼレンスキーの戦う姿勢。中国全人代が開いて」

◇改めてトランプ氏の施政方針演説について書かねばならない。心に刻むべきことが余りにあるからだ。大統領の議会演説は年に一度内政から外交まで国民にビジョンを示す重要な機会。

 冒頭、「米国の勢いが戻ってきた」と語り、100以上の大統領令に署名したことを強調し実績を自画自賛。演説ではバイデン前大統領を激しく批判。米史上最悪の大統領だったと発言。米国の黄金時代は始まったばかりと締めくくった。対立を煽る演説だった。演説中、民主党議員からブーイングが起こり退場する議員も相次いだ。派手なパフォーマンスはトランプ氏の18番。CNNの直後の調査では約70%の国民が好意的にとらえている。

この演説の中でトランプ氏はウクライナのゼレンスキー大統領に感謝すると述べる場面が。ゼレンスキー氏が渦中の緊急事たる希少資源をめぐり提供の署名の準備があるという書簡を受け取ったからだ。アメリカ支援は突出している。一時とはいえ支援停止の影響は測り知れない。ゼレンスキー氏は苦汁の決断をしたのだ。

 大統領執務室にスーツを着ないで入ったゼレンスキー氏を政権幹部は失礼と咎めた。この事態に対抗するかのようにヨーロッパの幹部はゼレンスキー氏の勇気を称えている。イギリス国王も戦闘服の姿を迎え入れている。ゼレンスキー氏にとって大統領執務室は激しい戦場なのだ。非礼を言うならトランプ氏の議場の言動も責めらるべきである。

◇中国では全人代が5日開幕。米中両国の大きな動きが太平洋を挟んで進む。太平洋波高しの中で間に立つ日本の役割の重大さを思う。全人代では李強首相が政府活動報告を行った。トランプ政権を強く意識している。一国主義や保護主義に反対し国際協調を重視する姿勢をアピールした。南シナ海などで覇権を広げようとしていることとどう整合するのか。中でも高齢化が急速に進み社会保障制度が未成熟な中国は深刻な問題に直面している。宇宙時代を突き進む中国だが足元は大変なのだ。日本の進んだ技術とノウハウに期待が高まっている。

 中国では景気低迷を背景に無差別殺傷事件が相次いでいる。習主席は治安維持を強く求め、総体的国家安全観という理念を打ち出し、国家の安全を守るシステムの現代化を目指している。習指導部にとって台湾は最重要事の一つ。有事に備え国防費を増大させている。台湾有事は日本の問題でもある。日本海も波高しなのだ。(読者に感謝)

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2025年3月 6日 (木)

「トランプの狂気とウクライナの希少金属。嬬恋村議会のカスハラ。トランプの異常なエネルギー」

◇アメリカの軍事支援は残念ながらずば抜けている。それを一時的に全面停止した場合、肩代わり出来る国はない。英仏独伊などは一致結束の態度を表明しているが財政事情は厳しい。トランプ氏はしきりに吠える。「ゼレンスキーには感謝の姿勢と停戦への誠がない」と。トランプ氏は停戦を急ぎ前のめりである。交渉は急げば足元を見られる。現在の現実だ。喜んでいるのはプーチン氏。全面停止で大きな変化が現れるには数ヶ月後という。弾が尽きれば戦えない。前線の兵士たちの運命は。ロシアは攻勢を強めるだろう。

 化学で学んだ希土類元素が注目されている。スカンジウム・イットリウム・ランタンなど分離が難しく新しい重要産業に欠かせない。ウクライナに大量に存在。トランプ政権は膨大な援助の見返りとしてこの権益を欲しがっている。事務レベルの交渉ではウクライナの同意署名の所まで来ていた。それが先日の感情的な爆発で瓦解してしまった。壮大な取引が地中の希少金属にかかっている。

◇ハラスメント流行りである。パワハラ、セクハラ等。これはパワーハラスメント、セックスハラスメントの略。ハラスメントは困らせるという意。現在カスハラが問題に。これはカスタマーハラスメント。カスタマー、つまりお客が事業者を困らせることで、「土下座しろ」などと叫ぶ光景が報じられたことがあった。嬬恋村議会で条例が可決された。顧客の理不尽な要求から店の作業員を保護しようとする目的。昨年の本会議の一般質問で条例が取上げられ準備が進められていた。カスハラの定義はこうだ。「事業者に対する客の言動のうち社会通念上相当な範囲を超えるもので精神的または身体的な苦痛を与えるなど就業環境を害するもの」。社会通念上相当範囲を超えるなど抽象的で実際の適用には困難が伴うだろう。条例化による意識改革や抑止効果を期待するもの。カスハラ防止条例は昨年東京都で初めて成立。群馬県議会でも制定案が提出されている。地方創生が急務とされる中で地方議会の質の低下が懸念されている。そういう時だけに嬬恋村の動きが注目される。「恥を知れ、恥を」の声を思い出す。

◇4日のトランプ氏の施政方針演説に驚く。先ずは78歳のエネルギー。1時間40分、歴代最長時間一杯の水も飲まない。この力はどこから。議場は真っ二つ。「関税は我が国の魂を守る」、「米国の黄金時代は始まったばかり」。狂気の老人の危険なナショナリズム。共和党議員のUSAコール。アメリカはどこへ。(読者に感謝)

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2025年3月 5日 (水)

「多胡碑記念館で書の深さを思う。萩市の楫取顕彰会がやってくる。お通と現代女性を比べて。深夜の大雪を走る」

◇4日朝、多胡碑記念館に向った。群馬書作家展の除幕式である。高崎市の中山峠を越えて一時間余で着く。既に多くの作品が展示されていた。練磨の作品群は歴史の雰囲気と調和していた。来賓として挨拶した。良い作品の前に立つと心が洗われる思いである。作者の心が伝わる。心で書いたのだ。書は伝統文化であり精神文化。この思いを伝えたかった。私は言った。「今日は文明の危機、人間の危機にあります。文字を書かない人が増えているからです。書道界は文明と人間を守る砦です」

 多くの作品が並ぶ。作者が一分以内でコメントした。日頃の修練と書の深さが伝わる。ある人は言った。「筆は古いものが良い」。古い筆で書くと先が割れて面白い線が描けるという。一分のコメントは凝縮された中味でグサリと本質を表現していた。短い表現にはサムライの一撃が感じられて面白かった。

 初代県令楫取素彦は多胡碑の保存に力を入れたことで知られる。碑を祭る建物の側に楫取の歌を刻んだ石があった。「深草のうちに埋もれし石文の世にめずらるる時は来にけり」

 吉田松陰の義弟として知られる楫取は生糸業の発展に力を入れ物作り群馬の基礎に貢献したが人間尊重の精神文化への功績は重要。道徳教育に力を入れ、廃娼運動に金字塔を建てた。私は楫取素彦顕彰会の会長として楫取の輪を広げることを目指している。今年は顕彰会に注目の動きが予定される。7月23日萩市の顕彰会の一行が前橋市を来訪することになった。楫取は現在の萩市の今魚店町で生まれた。来訪はこの町の中原会長を初めとした8人。楫取ゆかりの臨江閣や清光寺などを案内しようと計画している。一行は前橋で一泊し富岡製糸場見学に向う。

◇各地の雪の異変を他人事と見ていたが前橋市が大雪注意報に見舞われた。深夜、3時40分の定期便の走りは高揚感に包まれていた。長く雪に閉じ込められるのは耐え難いに違いないが、たまに出現した異次元の世界はおとぎの世界である。子どものように興奮して夜の雪の中を小走りに走った。

◇心が疲れた時、吉川英治の武蔵を読む。武蔵をひたむきに追うお通の姿に惹かれる。巌流島の試合で小舟に乗り込む時、お通は叫ぶ「ただ一言、おしゃって下さいませ。つ、妻じゃと一言」。武蔵が小舟の人となった時お通はまっしぐらに走った。襟元も、髪のほつれもきりっと直して武蔵の舟に向かい手をつかえて言った。「お心おきなく・・・。行ってらっしゃいませ」現代の日本女性と比べ心が惹かれる。(読者に感謝)

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2025年3月 4日 (火)

「空前の森林火災は問う。地下鉄サリンから30年、宗教の役割は笠原教授の熱い講義」

◇アメリカ西部の森林火災を固唾を呑んで見ていたがそれは対岸の火事ではなかった。日本でも同様のことが起きている。地球を覆う異常乾燥が原因である。岩手県大船渡市の大規模山林火災の焼失面積は1,400ヘクタールに達した。全体の鎮火は見通せない。市は新たに141世帯333人に避難指示を発令した。現在千人以上が避難所で怯えている。

 被災地帯では12日連続で乾燥注意報が出され、自衛隊の大型散水ヘリ6機が活動。強風注意報も出され戦場のようだ。東日本大震災の再来のようだ。大船渡市では東日本大震災の経験を生かして温泉の無料開放や炊き出しが行われている。温泉は日本の文化であり被災者の心まで温める。東日本の時、群馬でも山本前市長は草津の湯を運んで注目された。三陸町の被災地区では豚汁も振る舞われ人々に勇気を与えている。南海トラフ、首都直下など大災害の足音が迫っている。行政の備えは勿論重要であるがそれと呼応した民間ボランティアの役割は測り知れない。過去の教訓に学ばねばならない。阪神淡路と東日本の大災害を十分に活かすことが出来るか。最大の課題である。

◇未曾有の化学テロ事件、地下鉄サリン事件、発生から30年が近づく。日本の安全神話が一挙に崩れた事件だった。同時に大都会がいかに無防備であるかを突きつけた。猛毒サリンにより14人が死亡し6千人以上が重軽傷。阿鼻叫喚の地獄を教訓として活かさねばならない。社会を震撼させたあの事件の恐怖を昨日のことのように思い出す。事件を起こした多くは人も驚く高学歴。学問とは何か、宗教とは何かを問うた。教祖麻原 彰晃とは何者だったのかと改めて考える。病める現代社会の闇、私たちの心の闇とどこかで繋がっている恐怖を覚える。192人が起訴され13人の死刑が確定。背景には宗教心が薄いと言われる日本人社会が。器械が異常に進歩する中、日本人の心はますます薄く、そして軽くなっていく。こう考えると教祖麻原もこの事件の死刑囚たちも私たちの隣人かも知れないのだ。

 宗教の存在感が小さい現代日本で宗教を振り返る。新しい宗教は人々が生きるのが難しい混乱の中で生まれた。例えば鎌倉時代の浄土真宗。そして太平洋戦争後の混乱期にも多くの新しい動きが生じた。大学の駒場時代「一向一揆の研究」で知られる笠原一男の熱い講義に接したことが懐かしい。宗教は民衆にとって生きるための力であった。今、稀な混乱の時代なのに宗教の影が薄くなっていくことが懸念される。(読者に感謝)

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2025年3月 3日 (月)

「両首脳の口論は支援疲れを一変させた。欧州各国の一致した姿勢よ。トランプの終わりの初めか」

◇両首脳の異例の激論をテレビで深く観た。トランプ氏の態度は傲岸不遜に見えた。戦争終結に向けたゼレンスキー大統領との会談である。米のロシアに対する態度に不満を示したゼレンスキー氏に対し「無礼」だと非難。報道陣の前で激しい口論が繰り広げられ会談は決裂した。ウクライナの鉱物資源開発の合意は見送られ共同記者会見も中止。前代未聞のことだ。トランプは取引しないなら「我々は手を引く」と突き放しゼレンスキー氏に退室を求めたという。「出て行け」という展開だったらしい。これを見てほくそ笑んだのはプーチンに違いない。習主席も金正恩もニヤリとしたのではないか。私は今、世界劇場の観客の姿を想像している。気になるのはイギリス・フランス・ドイツなどの欧州勢だ。そしてアメリカ国内の民主党の反応である。もちろん日本の役割が重要な折り、石破首相や国会の動きも目が離せない。

◇激しい口論と会談決裂に欧州各国首脳は明快な態度を示した。私は思わず快哉を心に叫んだ。マクロン大統領は「侵略者はロシアで、侵略されたのはウクライナ国民だ」と強調。欧州連合のフォンデアライエン委員長はゼレンスキー氏に声明した。「強くあれ、勇敢であれ、恐れるな。あなたは決して一人ではない」と。ドイツの指導者も「私たちは良い時も試練の時もウクライナの側に立つ。侵略者と被害者を決して混同してはいけない」と。これらの発言はトランプ大統領に対する痛烈な批判の意味を持つことは間違いない。

 トランプ氏がプーチン氏を「独裁者」と批判したことにウクライナ市民は怒って言う。「トランプこそ独裁者だ。プーチンと変わらない」、「トランプには民主主義のかけらもない。米国は崩壊したも同然だ」、「ゼレンスキー氏は一歩も引かず言い返した。その勇気を誇りに思う」。ロシアの侵攻から3年。ウクライナを初め支援する側にも疲れが目立っていた。この状況に対しトランプ、ゼレンスキー両氏の激しい論争の生中継は大きな変化を生む結果になった。これはトランプ氏の誤算に違いない。

 石破首相は「米国とウクライナ、G7の分断が進まないよう日本として出来る限りの努力をする」、「感情をぶつけ合うのではなく思いやりや忍耐に裏打ちされた外交がこれから先、平和の実現のために展開されるべきだ」。このように訴えていた。私たちの心にも活力を与えた世界劇場。トランプの末路の始まりか。(読者に感謝)

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2025年3月 2日 (日)

死の川を越えて 第90回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「ひえー。おめえさんは湯川の親分さんで」

 暴漢たちは、ほうぼうの体で逃げ散った。

 この話は、麓の村および草津の一帯に一挙に広まった。朝鮮人たちは大いに喜んだ。

「正助よ、お前、偉いことをやったのう」

 万場老人は涙を落として喜んだ。

「いえ、偉いのは大門の親分です」

 正助は会心の笑みで応えた。

 藤岡事件の直後に第19回県会議員選挙が行われ、これを踏まえて10月臨時県議会が開かれ、森山抱月は県会議長に選任された。臨時議会は2日間で幕を閉じた。この議会は、議長など役員選任が目的だったからだ。一ヶ月後の11月16日、通常県議会が開かれた。

 この県議会で注目されることは、ハンセン病について、初めて群馬県議会で具体的な議論が行われたことである。

 利根郡出身の大江議員はただした。

「本県から国立の全生病院に何人収容されていますか。草津の湯の川地区には4,500人の患者がおりますが、放置されたままの状態であります。一体、国の政策はどうなっているのですか。全国でどの位患者がいて、国はそれに対してどのように対応しているのか具体的に伺いたい」

 県当局は答えた。

「国の調査によりますと、全国で3万359人と報告されていますが、実際はもっと多いと言われます。本県人で全生病院に収容されている者は23名でございます。国の政策でございますが、全国を五つの区域に分け、それぞれに一つ、計5か所の療養所を設けました。群馬は東京の全生病院の区域に属します。そこに23名行っておるわけであります」

 この議員は畳み掛けるように言った。

「全生病院の定数は、そして、五つの療養所に収容できる人数は」

 役人は資料を指で追いながら答える。

「はい、全生病院の定員は、開設時350人であります。5カ所を合計して1100人でございます。

つづく

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2025年3月 1日 (土)

死の川を越えて 第89回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 狂気の集団を抑えることはもはや出できなかった。民衆が狂気の集団と化して、朝鮮人の虐待に動いた背景には、政治体制擁護のために政府が意図的に大衆をあおった事実を否定することはできない。警察の及び腰も政府の動きと連動していた。実は、県議会の見識ある一部の者は、これを見抜いていたのである。

 正助が万場軍兵衛とこのような言葉を交わした直後、一人の朝鮮人がおびえた表情で、早朝に正助を訪ねた。麓の村に住んでいるが、家に石を投げられたり、殺してやると書いた紙が貼られたという。男は、麓の鉱山で仲間の朝鮮人たちと働いていた。昔、仲間がこの集落の万場軍兵衛という人に助けられたこと、また、正助が韓国から帰った人で朝鮮人を差別しない人と知ってやって来たと話した。

「あちこちで朝鮮人が殺されているので不安です」

「この集落はあなたたちの味方です。万場老人と相談して、草津の警察に話します。一度、警察に見回ってもらえば変なことは起きないでしょう」

 正助がこう話すと、男は警察は守ってくれるかと不安そうにつぶやきながら帰って行った。

 正助は、警察が本当にやってきれるか心配になった。その時、はっとひらめくことがあった。

〈そうだ、この人をおいて他にない〉。大門親分が頭に浮かんだ。

「おう、そういうことなら任せてくれ。俺も立場の弱え朝鮮人にひでえ事をするのは許せねえ」

 大門太平は、早速動いた。麓の村の朝鮮人が住む辺りを見回ることにしたのだ。一人の子分を連れて朝鮮人が動く鉄山の近くにさしかかった時である。数人の男が朝鮮人を囲んで争っている。振り上げる棒の下で朝鮮人が悲鳴を上げているではないか。大門は、ぐっと踏み出して言った。

「やいやい、てめえたちは一体何をやってやがる。俺は朝鮮人に味方する日本人だ。湯の川地区のもんよ。朝鮮人も湯の川のもんも、てめえたちにも同じ赤え血が流れていることを一つ見せてやろうじゃねえか。それが分からねえようなら分からしてやる。根性据えてかかってきやがれ」

つづく

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