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2025年1月31日 (金)

「ポトマック川の航空機事故の悲惨さ。映画“ハドソン川”の奇跡。外国人労働者の急増」

◇30日、ワシントン・ポトマック川でまさかの恐るべき事故が。民間航空機と軍ヘリの衝突である。搭乗者は計67人。当局は生存者の見込みなしと発表。捜索・救助活動は夜を徹して行われている。67人の内訳は航空機64人、ヘリ3人。

 ワシントンの空は超過密で、ある専門家は「針の穴を通るよう」と表現した。軍のヘリは訓練中だったという。詳細はこれからだが、過密が日常化した中で過失が重なったのか。超近代都市の出来事は他山の石としなければならない。緊急対応当局は、30日までに少なくとも30人の遺体を収容したと報じた。

 大事故の常であるが様々な人生のドラマが明らかになる。メディアは、アメリカフィギュアスケート界の選手関係者「選手、コーチ、家族たち」が乗っていたと報じている。ロシア大統領府の報道によれば同機にはフィギュアスケートの元世界チャンピオンも乗っていた。トランプ大統領は「恐ろしい事故だ」と声明を発表した。

 また、専門家は事故の原因として「空中衝突防止装置(TCAS)」不備の可能性をあげる。軍用機には付いていないことが多く機械がないと夜で目視が難しかった。近年空中衝突事故は技術革新によって減っている。技術革新の象徴の一つがこのTCASだろう。

◇今回はニューヨークのポトマック川だが同じニューヨークのハドソン川に2009年1月いわゆる「ハドソン川の奇跡」と呼ばれる事故が起きた。事実に基づく映画「ハドソン川の奇跡」はクリントイーストウッド監督、トムハンクス主演で一躍有名になった。ニューヨークの空港を離陸した飛行機は全エンジン停止という不測の事態に陥った。機長は管制室からの近くの空港への着陸指示を拒否しハドソン川への不時着を決断した。乗客乗務員は155人。一秒一秒の生死の時が過ぎる。時間はわずか208秒。不時着に成功した時、大きな歓声が上がり人々は抱き合って狂喜した。

 この飛行機事故の原因は鳥の群れとの衝突で、多くの鳥がエンジンに吸い込まれエンジン停止に至ったということである。近代科学の粋を集めた飛行機がいかにも単純な原因によって機能停止に陥ることは驚きである。

◇人口減少は深刻の度を増している。こういう中、外国人労働者が急増している。厚労省は2024年10月末時点、外国人労働者は過去最多の230万2,587人と発表。外国人があふれ日本が一変する。東南アジアを中心に日本を選ぶ人が多いという。最多はベトナムである。日本の文化と伝統を守らねばならない。(読者に感謝)

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2025年1月30日 (木)

「トランプ氏の怪気炎はどこまで。全国の市議会で議員の賛否を公表か。アウシュビッツは今も」

◇壮大なトランプ劇場が動き出した。衝撃が世界に走っている。トリプルレッドが現実となっている感を抱く。大統領、議会、司法府の三つが共和党の赤色に染まり定着しつつある。78歳の怪人のエネルギーは凄まじいの一語である。連日、破壊と変革の大統領署名が報じられている。27日はジェンダー思想の排除に関するものだ。トランプ氏は次のような信念を抱く。「世界で最も強力な戦闘集団を確保するため、トランスジェンダーの思想を米軍から徹底的に排除する」トランスジェンダーとは生物学的な性と自分が認識する性との不一致である。トランスジェンダーの入隊はオバマ政権とバイデン政権では認められていた。米軍内でトランスジェンダーの兵士は2018年時点で約1万4,700人である。

 トランプ氏が描く米軍像は強いアメリカ、アメリカナンバーワンの象徴なのだろうか。

◇全国の市議会で議員の議案賛否の公表が広がっている。有権者にとって自分が支持する議員が議案の決議に賛成したか反対したかは重大な関心事である。多数の仲間が存在する場合、大勢に従ったか、自主性を発揮したかを知る手がかりにもなる。議員活動の実態が分かることは聞かれた議会の実現と議員の資質向上に繋がるに違いない。地方議会の形骸化が叫ばれている。安芸高田市のかつての市長石丸伸二氏は居眠りしている等だらしない光景に憤慨して「恥を知れ」と叫んだ。議案に対する賛否が公表されるなら、居眠りは許されなくなる。私はかつて県議会の改革に取り組んだが議案賛否公表は議会改革の手段としても望ましい。2023年の時点で全国市議会の81.6%が議員ごとの賛否を公表している。本県では12市のうち11市議会が公表している。個別賛否を公表していない市議会は藤岡市議会である。公表が大勢を占める現状ながら議会改革が大きく前進しているとは思えない。私は講評された資料をいかに活かすかが問われていると思う。議会事務局の役割は重要で主権者たる市民の意識向上は更に重要である。

◇アウシュビッツ解放から80年を迎え式典が開かれた。生存する生還者も少なくなっている。ある元収容者は「世界は再び危機にある」と訴える。欧州では排外主義の右翼が台頭している。トランプ大統領の出現もその雰囲気を強めている。歴史は繰り返すと言われるが、排外主義、ユダヤ人に対する差別、その原点の一つは人間の心の中にあると思われる。私たちは政治の動きを監視し怪物が生まれる要素を警戒しなければならない。(読者に感謝)

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2025年1月29日 (水)

「フジテレビをおそった衝撃。テレビの権力の強大さと表現の自由を考える。旧統一教会解散は成るか」

◇フジテレビで大変なことが起きている。27日、同社の会長と社長が辞任した。多くのCMのスポンサーが次々にCMのスポンサーを中止している。テレビがスポンサーによって成り立っていることを改めて痛感する。東京・台場の奇怪な本社ビルの建物が繰り返し報じられる。あの中でどれ程の人々が働いているのだろう。本社の関連会社は多いに違いない。発端はタレントの中居さんと女性とのトラブルである。女性は問題を公にせず仕事に戻りたいと願っていた。女性の人権侵害が大きな問題になっている。問題を大きくした原因は、前回の記者会見のやり方にあった。報道陣を限定し撮影の方法なども規制した。報道の自由を命とするテレビ会社である。それなのに自社の不始末に関することの公表に制限をかけるのかと世の批判は沸騰した。再度の記者会見と社長の辞任。これらの異常事態を促したものはスポンサーの動きである。CMを中止した企業は20日時点で75社にのぼるとされる。CMの存在は会社にとって動脈のようなもの。血液の流れが止まるのだ。巨大な城が崩れようとしている。フジは次々とヒットを打ち出してきた。「鉄腕アトム」、「サザエさん」、「笑っていいとも」などだ。

 今回の事件はテレビの存在が国民と社会にいかに重大に関わっているかを示した。しかも、人権や表現の自由という憲法上の問題と結び付いている。テレビの権力は測り知れない程大きい。大きな力を握ると驕りが生じるのが常である。事態はテレビ界に反省を促すことになるだろう。上質の情報を提供するという信頼が得られればフジは回復するだろう。この期待は大きいと思われる。フジホールディングの株価が上昇しているが、それは経営改善への期待に違いない。災い転じて福となるか見守りたい。

◇社会の屋台骨を揺るがす出来事が次々に起き、忘却の彼方へ消えていく。忘れ難いのは旧統一教会の問題である。文科省が出している解散命令請求の審理が27日終結した。年度内にも東京地裁が解散命令を出す可能性がある。酷い献金被害などによる家庭崩壊が世間を騒がせてきた。信教の自由に関する問題でもある。宗教法人法は「法令に違反し著しく公共の福祉を害することが明らかに認められる行為」等を解散事由としている。文科省は教団の行為に関し「組織性、悪質性、継続性」があり解散事由に当たると主張している。東京地裁の判断に注目する。混沌とした社会で司法の毅然とした姿勢を期待したい。(読者に感謝)

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2025年1月28日 (火)

「死を覚悟の抵抗引導。元少佐石田三郎は覚悟の人。鳩山首相の日ソ国交回復」

◇(前回に続く)  奴隷のように従順と外国人からも批判された日本人収容者は追い詰められて遂に抵抗運動に立ち上がった。いわゆるハバロフスク事件である。ソ連の過酷な収容者に対する扱いに対する組織的な抵抗運動であるこの事件は昭和30年12月に発生した。短期抑留者の帰国は既に終わっていた。残された長期収容者は、元憲兵、特務機関員、秘密の通信業務に従事した者などである。これらの人々はソ連国家に反逆した者として特別に戦犯として懲役20年とかいう刑に服していた。当局の扱いは過酷を極め栄養状況は生命を脅かしていた。病弱者も容赦なく労働に駆り出され必死の嘆願も効果がなかった。営外作業者に寒風は死の鞭で迫った。「このままでは皆死んでしまう、自滅を待つのか」、「自滅するよりは戦おう。座して死を待つのは日本人の恥だ」。会議が重ねられた。「戦うなら勝たねばならぬ。さもなければ生きて祖国に帰ることだけを目的にして耐えてきたことが水の泡になる」、「そうだ、作業拒否だ」ということで決まったのである。

 代表を決め固い組織をつくって死を覚悟の交渉をやろうということになった。班長会議が一致して代表と推薦したのは元陸軍少佐の石田三郎だった。石田は言った。「この闘いでは犠牲者が出ます。代表は責任を問われます。自分には親もない、妻もない。代表をやれというなら命をかけてやります」

 ストライキや暴動に対するソ連の弾圧は峻烈を極めた。戦車が出動し主謀者は必ず処刑される例であった。瀬島龍三などを含めた顧問団も作られた。この収容所の人々はほとんどが旧制中学校卒以上で人材には事欠かなかった。要求事項は皆、健康を害しているので帰国まで本収容所を保養収容所として全員を休養させること、病人や高齢者を作業に出さないこと、今回のことで処罰者を出さないことなどであった。戦術は、暴力は絶対使わない。収容所側を刺激させないため闘争という言葉は避け運動自体も請願運動と呼ぶことにした。正式な方式に従った多くの請願文書が中央政府に出された。運動はフルシチョフ首相にも届き、一定の効果もあった。国際情勢も収容者に有利な方向で大きく変化していた。戦闘は軍によって弾圧されたが死者は出なかった。闘争の間に鳩山内閣の日ソ交渉が行われていた。昭和31年10月19日、交渉は実を結んだ。ソ連は直ちに動いた。最終の帰国集団を乗せた興安丸はナホトカを出て12月26日舞鶴港に入港した。人々の中に石田三郎の姿もあった。一足先に帰国した瀬島は桟橋で石田と抱き合って再会を喜んだ。(読者に感謝)

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2025年1月27日 (月)

「おれだけ帰って悪かったと泣いた人。今日も暮れゆく異国の丘で。自虐の文、大元師への感謝文」

◇土曜日、限界の一日だった。いつものように午前2時には起き、ブログ等の原稿の仕事と一連の運動をこなし、午前の短時間地域社会をK君と歩いた。K君は市議選を目指す人。この日は「ふるさと塾」、「シベリア強制抑留講演」の日。既に構想は出来、それに基づき物語り展開の作業もある程度進んでいた。厳しくとも手抜きはしないと決めている。

 大胡公民館では「シベリア強制抑留の真実」を話した。話のベースは平成16年に2人の元抑留者塩原眞資さんと青柳由造さんと共にハバロフスクの強制抑留地関連の施設等を訪ねたことである。ハバロフスク郊外の夏草が茂る中に日本人墓地と標柱があった。青柳さんは墓石に額ずいて一心に読経した。傍らの標柱には「日本人よ、安らかに眠れ」とある。読経が終わった後塩原さんは声を上げて泣いて叫んだ。「俺だけ帰って悪かった」と。

 零下40度にもなる酷寒と飢えと重労働で人々はバタバタと斃れた。およそ60万人の抑留者中6万人が亡くなった。多くは初めての冬を超せなかった人々である。日本人は特性として孤独に弱かった。寂しさに勝って励まし合うために歌を歌った。こういう中で作られたのが「異国の丘」であった。「今日も暮れゆく異国の丘で、友よ辛かろ切なかろ、がまんだ待ってろ、嵐が過ぎりゃ、帰る日も来る春も来る」この歌は時代背景と抑留者の心を語りよく出来ていた。シベリア中の収容所で歌われたのである。妻子に会いたい一心で卑屈になったり自虐的行為に出たとしても責められないだろう。かくして作られたのが「スターリン大元師への感謝文」である。6万4千人余が署名したこの文書は、呆れる程の自虐の表現であふれている。「人類最大の天才、全世界勤労者の導きの星」と讃え、「ソビエトの地は私たちにとって民主主義の学校となったのであり、終生忘れえぬ感銘として残るでありましょう」と表現する。更に「酷使と死が待つと言われたシベリアだが、実際は並々ならぬ寛大さと人道主義にあふれ、あらゆるサービスが完備し夢のようだった」と事実と真逆なことを述べるあたりは、この文章を書く意図と効果を疑ってしまう。これを読むソビエトの権力者は日本人をむしろ軽蔑するのではなかろうか。私は大胡町公民館でこう自分の考えを述べた。この感謝文のコピーを私はハバロフスク国立古文書館で幸運にも入手することが出来た。日本人として初めてのことであった。私は金庫から出して受講生たちに見せた。「卑屈」と指摘したが最後に意地を見せたサムライの姿があった。明日のブログで紹介する。(読者に感謝)

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2025年1月26日 (日)

死の川を越えて 第80回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「逃げねえ、戦います。教えてください」

 正男が言った。

「よく言った。われわれの宿命なのだ。大切なことはハンセン病だけではないということだ。ハンセン病だけの問題と捉えるなら、世の中が変らないからハンセン病も解決できない。娼婦の実態は実に悲惨であった。自分の体を売り、自由を奪われ、牛馬のように蔑まされ、病気にまみれて死んでいく」

 万場老人の表情は沈んでいた。

「では、群馬がやったことは奴隷解放ではないですか」

 正助が興奮して言った。万場老人はそれを目で受けて続けた。

「ハンセン病の問題と共通するとは、このようなことなのじゃ。廃娼で輝かしい業績を挙げた群馬県が、ハンセン病でも成果を示してほしいと願うばかりじゃ。それは難しいことだが、われわれの努力にもかかっていると思わねばならぬ。こういう覚悟で森山県議を迎えようではないか。どうじゃ、少しは納得がいったかな」

 老人は自分の感情を抑えるようにして、若者たち一人一人に鋭い視線を投げた。

「人間は峰平等でそれを実現することが人間の尊重ですか。それがハンセン病の光の元になることですね。分かるような気がするなあ。それにしても、あの有名は吉田松陰の義兄弟が群馬県の初めての知事だったとは知らなかった。不勉強ですみません。しかし、それは明治のことでしょう。この大正の時代に森山先生がなぜ廃娼運動なのですか」

 正助が不思議そうに言った。

「うむ、そこじゃ。廃娼は一筋縄ではいかなかった。楫取県令が去ると、次の知事は廃娼の制度を復活させようとした。その時、大いに頑張ったのが上毛の青年たちであった。全県下の青年たちの中に森山抱月さんがおったのじゃ。その後も折りに触れ、公娼復活の動きがある。森山さんは県議になっても、この廃娼に信念をもって取り組んでおられる。繰り返すが、ハンセン病の問題と廃娼は、人間の解放ということで共通じゃ。森山県議と会った時に、このことをしっかりと承知してもらいたいと思う」

 正助たちは事の重大さを知って、身構える思いでその時を待った。

つづく

 

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2025年1月25日 (土)

死の川を越えて 第79回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「廃娼運動とは何ですか、先生」

 正助が尋ねた。

「うむ。お前たちは知らないであろうな。廃娼とは、娼婦の制度を廃止することじゃ。娼婦とは、まあ、女郎のこと。貧しさ故に体を売る女が全国に多数いて、奴隷のようだという非難が集まっていた。そういう女は群馬にも多くいた。明治の県議会はこれを廃止しようと決議した。その中心となった県会議員が湯沢仁悟であった」

「ああ、新島襄の弟子のキリスト教徒ですね」

 正助が口を挟んだ。

「その通り、そして、議会の議決を実行に移した人物が初代群馬県令楫取素彦なのだ。群馬は廃娼で金字塔を打ち立てた。今、そのことが忘れられようとしている。金字塔の意味が分かるか。それは虐げられた女に光を当て救ったことじゃ。群馬の偉業は一回限りで終ったのか。同様な深刻な課題があるのに関心を示さないのでは、あの金字塔は本物かと疑われても仕方あるまい。その同様に深刻な課題がハンセン病問題なのじゃ。群馬にも人物はいるぞ。森山さんもその一人。我々は政策が動くのを待っているだけではいかん。積極的な努力が必要じゃ。森山さんに協力するのもその一つと考えねばならぬぞ。楫取素彦は、かの吉田松陰の妹を妻に迎え、近代群馬の基礎を築いた。この廃娼とは女の解放、そして人間の尊重を実現するということで極めて重要。我々ハンセン病の問題を理解する上で欠かすことができない」

「ずい分と難しい話だ。俺たちにゃ荷が重いんじゃねえか」

 権太が言った。

「うむ、いかにも難しい。しかし、差別と偏見は我々の前に立ちはだかる巨大な壁じゃ。乗り越えねば未来はない。逃げて地獄の釜に落ちるか、それともハンセン病の光に一歩でも近づくか、どちらかなのだ」

つづく

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2025年1月24日 (金)

「日中友好新春パーティに大使館公使と日中会長の宇都宮氏。トランプ氏の異常なエネルギー。ソフトバンク孫会長の驚くべき存在感」

◇23日の日中友好協会新春パーティにはSPが5人も出て警備が物々しかった。中国大使館公使施泳氏(シェイ)氏と日本中国友好協会の宇都宮徳一郎会長の警護が目的であった。私は宇都宮氏と親しく話した。かつて三太郎の一人と言われて名を馳せた宇都宮太郎のことも話題にした。徳一郎氏は直系の人で風貌が似ている。ビッグな存在二人の参加はかつてない。

 私は冒頭の挨拶で、トランプ大統領就任で世界に激震が走っていると述べ、このことを日中友好との関係に繋げた。激震の例としてパリ協定・WHO離脱や関税の引き上げなどを挙げた。日中は戦略的互恵関係を重視してトランプ氏の暴走を食い止めねばならないと主張した。

 ほっとする話題もあった。参事官の劉女史が大連外国大の出身で同大の中村文庫のことや共通の知人の懐かしいことを語り合えたことである。メインテーブルの歓談で日中友好が深まることを感じた。

◇世界が注目する驚愕の事実は78歳トランプ氏の異常なエネルギーであろう。想像を超える激務の渦の中、年齢を感じさせない姿には脱帽する。このことが多くのアメリカ国民を動かしたのかも知れない。多くのスキャンダルや法の支配を無視するような行動も吹き飛ばしてしまった感がある。連邦議会を襲撃した重大な罪人たちに恩赦を与え釈放させてしまった。就任式に始まる一連の行動はトランプは何をするか分からないというインパクトを放っている。民主主義の根幹は権力をチェックして独裁化を防ぐことである。今のアメリカは権力を抑制すべき議会も司法もトランプ氏と一体化し、トリプルレッドの状況である。正に独裁ではないか。就任式で大統領の過激な発言の度に立ち上がって狂喜する人々の光景に私は恐怖を覚えた。この国はどこへ向うのか。我が石破首相にも怪人の一面があるが怪人同志がどのように対峙するのか興味は尽きない。

◇就任早々日本にも関わる破天荒なニュースが飛び出した。トランプ氏は人工知能開発のため78兆円を投資する新会社を設立し、その会長にソフトバンク会長の孫正義氏が就くという。孫氏は20日の就任式にも出席した。日本人の経済人がこのように人工知能の分野に関わる。AIの世界はどのように進化するのか。トランプ氏はこの事業が10万人以上の雇用を生む、これは米国第一主義の成果だとアピールした。孫氏は「米国の黄金時代の始まり」と強調した。(読者に感謝)

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2025年1月23日 (木)

「トランプの脅威のエネルギーと政策に世界は驚くばかり。人々の熱狂に恐怖を感じる。イチローの快挙に拍手」

◇正に世紀の一大イベントであった。世界中があっと叫んだ瞬間でだった。勿論トランプ大統領の就任式のこと。トランプ氏の主な発言は次のようなものであった。①不法移民の強制送還、②パリ協定再離脱、③世界保健機関(WHO)脱退、④連邦政府が認める性は男性と女性だけ、⑤多様性・公平性・包括性政策終了、⑥メキシコ湾をアメリカ湾に改称。

「米国の完全な復活と常識の革命が始まる」そして「黄金時代を築く」と強調。①については、不法移民の流入阻止で国境の国家非常事態を宣言、軍隊を派遣する。驚くべきことは恩赦と減刑である。対象は議会襲撃で実刑を受けた支持者約1,270人を恩赦するという。民主主義の根幹を揺るがした罪を自分の支持者という理由でなかったことにする。これは法の支配の否定に他ならない。

「何百万人という外国人犯罪者を送り返す」、石油などの化石燃料について「掘って掘って掘りまくれ」と叫んだ。過激な発言の度に人々は立ち上がって歓喜した。熱狂のうちに、パリ協定からの離脱やWHO脱退が行われていく。私はこの国に恐怖を感じた。就任式に臨む人々は、世界各地を襲う未曾有の大洪水も海面上昇に怯える太平洋の島国の恐怖も眼中にないに違いない。トランプ節は過熱し大統領は上機嫌で酔っているようだ。使用したペンを支持者に投げるパフォーマンスも見せた。

 前記①~⑥が示すことはアメリカ建国の理念に後ろ向きで、内向きのアメリカナンバーワンの姿である。78歳で奇跡の再選を果たした怪人のエネルギーは凄まじい。興奮の渦が日本にも波及するのは必至だ。日本はクールな戦略で対応し怪物の制御に向わねばならない。日本一国では不可能である。日本は国是として民主主義と法の支配を高く掲げる。地政学的にも米中の間にあって非常に重要な立場にある。日本は世界の信頼を得て力を合わせアメリカにブレーキをかける役割を果たすべきだ。トランプ氏は日本重視を表明している。熱狂はやがて冷める。日本が毅然とした姿勢を貫くことは日米同盟を強化しアメリカの国益にも資する。石破首相は試練の時を迎えようとしている。トランプ氏といかなる関係を築けるか期待したい。

◇イチローが日米両国で殿堂入りを果たした。大谷翔平一色で沸き立つ野球界の中でイチローの存在感を示す出来事である。現役を引退した彼は渋さと深みを増しその言動は説得力を示している。野球選手としての死が近づく、笑って死ぬことが理想だと語る。拍手を送りたい。(読者に感謝)

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2025年1月22日 (水)

「阪神大震災をいかす決意を。災害ボランティアの意義。投票所減少の意味すること」

◇阪神大震災から30年を経た。月日は速い。6,434人が亡くなった。地震大国で列島は地震の巣の上にある。南海トラフが近づく。ぎしぎし、轟々と地殻のきしみが聞こえるようだ。節目の年に立って最大の課題は阪神の教訓を活かすことである。震災で肉親を亡くした神戸市の遺族代表は誓った。「より多くの人に防災、減災のスタートラインに立ってもらえるよう、震災から得た教訓を語り継ぐ」と。

 観測地震学の権威で東大名誉教授平田直氏は今後の地震の傾向について語る。「マグニチュード7以上の大規模地震は10年に2回ずつ起きている。今後も同程度の頻度で起きるだろう」

 地震予知は困難であるが最大の備えはしなくてはならない。石破首相は防災庁創設に強い意欲を示し「一日も早く」と決意を語った。

 首相は災害対応の司令塔となり、専任閣僚が率いる防災庁を8年度中に新設することを目指している。状況からしてこれは焦眉の急である。大災害に脅える人々の胸中を思う。各地に避難塔などが作られているが防災庁新設は最大の避難塔に違いない。

◇災害時、ボランティアの有効な活用は極めて重要である。政府は災害ボランティアの登録制創設を進めている。災害時のボランティア活動は民間の助け合い精神の現れとして大きな意義をもつが秩序の支えがないと烏合の衆となり混乱を招く恐れがある。災害支援ボランティアは阪神大震災に於いて約137万人が参加し、ボランティア元年と言われるようになった。ボランティア活動の参加率が低いと言われた日本であった。社会参加への感心が低いとされた若者層が活き活きとボランティア活動をする光景は人々を驚かせた。正に「元年」と言うにふさわしいことであった。

 登録制度は令和7年の実現を目指す。経験豊富な専門ボランティアの団体が多く存在する事実を活かさねばならない。このような存在は災害対応に慣れていない自治体にとって大きな救いである。登録制度は社会にとっての宝を活かすことに繋がるに違いない。

◇ほとんどの県で投票所が減っている。選挙は民主主義の基盤を成すから重大なことだ。その一因は投票立会人の不足であるという。背景には人口減や高齢化がある。拘束時間が長く高齢者には負担が大きいのだ。本県でも32カ所減となった。投票時間の短縮も進む。拘束時間を短くするためだ。投票率の低下が懸念される。代替策を考えねばならない。(読者に感謝)

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2025年1月21日 (火)

「あきれるゴマスリ感謝文。最後のサムライの意地を。鳩山一郎の訪ソ」

◇許可証には「複写の持ち出しはロシアの利害に損害を与えるものではない」とある。この感謝文は、岩槻泰雄の「シベリア捕虜収容」には日本人として持ち帰った者は誰もいないとある。内容は一読して唖然とするもの。ソ連を理想の国として最大限褒め上げ日本軍のことを極悪非道の極東の憲兵として決めつけ強盗とか野獣と非難している。6万4,434人が署名した。日本人民の最良の友スターリン大元師へとして、冒頭には次にようにある。「旧日本軍捕虜である私たちは、人類最大の天才、全世界勤労者の導きの星であるあなたに、そしてあなたを通じてソヴィエト政府ならびにソヴィエト人民に、偉大なるソヴィエトの国が私たちに与えられた光と歓びに対し、心から感謝とあつき感激を込めてこの手紙をおくります」

 そして更に中にはあきれるような文字が続く。「ソヴィエト軍こそ日本人を目覚めさせ、日本人を救った」、「シベリアは並々ならぬ寛大さと人道主義であふれ、あらゆるサービスが完備し夢のようだった。厳正な8時間労働、十分なカロリー計算のもと一点の汚れのない調理場で日本料理風の料理が作られ、あたたかい寝具、立派な宿舎、日本では夢にも見られない薬品や医療器機が完備され・・・」

 こんな文面が日本人捕虜大集会で審議採択された。日本へ帰りたい一心のゴマスリであるが戦術としても大きな誤りであった。酷寒、飢え、重労働で6万以上が死んでいるのだ。このような真逆のことを書く日本人は軽蔑されたに違いない。シベリアの捕虜の中には日本人以外もいたが彼らは日本人の卑屈さを笑ったと言われる。

◇日本人が卑屈と評される中でシベリアのサムライたちと言われる胸がすくような出来事があった。元参謀瀬島龍三がアドバイス役を果たし実行した巧みな抵抗運動である。抵抗運動の中心は元陸軍少佐の石田三郎であった。石田は言った。「私には親も妻もない。ただ祖国に対する熱い思いと丈夫な身体がある。命をかけてやる」

 最後のサムライとして意地を見せた石田三郎等は鳩山一郎首相が訪ソし日ソ国交回復が実現したことにより無事帰国することが出来た。一足先に帰国していた瀬島龍三は平桟橋の上で抱き合って再会を歓びあった。最後のサムライについては改めて講演等で語りたい。日本人はハングリー精神を失い、真のサムライが姿を消した。淋しい限りである。(読者に感謝)

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2025年1月20日 (月)

「大胡公民館で25日シベリア強制抑留を語る。スターリン大元師への感謝文」

◇25日はふるさと塾の日であるが別の講義が重なるので、その他の仕事もあり超過密である。別の講義は東宮鉄男大佐の記念事業で、大胡公民館で行われる。1月、2月、3月と続くが、先ず今月は「シベリア強制抑留の真実」である。強制抑留は日本が中国大陸を侵略し終戦を迎えるあたりから始まるので東宮大佐が大陸で活動していた状況と重なるのだ。

 私は平成16年前橋市在住の抑留経験者とハバロフスクの強制抑留関連の場所を訪ねた。塩原眞資さんと青柳由造さんである。二人とも故人となったが並々ならぬ思いでシベリアに向った。かつての怨の大地は長い年月と共に懐かしい矢も盾も堪らず再会したい場所に変わっていた。

 私たちはハバロフスク郊外の夏草が茂る抑留跡地に立っていた。草に埋もれるように墓石が置かれ標柱があった。柱には「日本人よ安らかに眠れ」とある。青柳さんは墓石にひざをついて一心に読経を始めた。その声は夏草の下に深く染み込むように響いた。

 読経が終わった時のことである。突然塩原さんが声をあげて泣き出したのだ。「俺だけ帰って悪かった」と叫んでいる。酷寒の中、飢えと重労働で苦しみ倒れていった人々の胸中を思っているに違いない。

 訪露最大の成果は「スターリン大元師への感謝文」入手である。ハバロフスク国立古文書での出来事であった。外務省を通して、シベリア抑留の新事実があれば21世紀の日露の良い関係を築くために使用したいので是非お願いしたい旨の依頼書を提出しておいた。

 この歴史的文書を持ち帰った日本人はいない。当時帰国を許された日本人は厳重な身体検査を受けた。文書や資料の持ち出しは厳禁され見つかれば帰国を取り消された。ましてやこの「感謝文」は日本人を奴隷のように苦しめたスターリンに考え得る最大限の賛辞を表明した屈辱的なものだからである。私は驚きを隠して書類を求めた。「これは昔、日本人がロシアの皆さんに大変お世話になったとか書かれている大切な書類です。私はこれからの友好発展のために役立てたいのでコピーを頂きたい」。女性館長エフドキー・モヴァ氏は上に相談すると答えた。ついに許可はおりた。館長は言った「日本の方にこれを渡すのは初めてです」。私はわくわくする気持ちを抑えて受け取った。表紙のタイトルは全世界勤労者の師父にして日本人民の最良の友、スターリン大元師。その内容は驚くべきものであった。

明日に続く。

(読者に感謝)

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2025年1月19日 (日)

死の川を越えて 第78回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「マーガレット女史とはクリスチャンということで知り合いの間柄で、この集落に入るにつき、感染の危険があるか聞いたそうだ。マーガレット女史は、私を見てください、心配はありません、私を信じてください、と言ったので森山さんは安心して来られるという。もっとも、この人は危険があると知っても恐れぬ人じゃがな。目的は、県の政策としてハンセン病を取り上げるために、住民の生の声を聞くのだと言っている。わしに相談があったので、お前たちと勉強会のようなことをやっていると言ったら、それは好都合、是非その人たちに会いたいということになった。近くその日が決まる。その時、思うことを何でも発言し、また質問してほしい。この湯の川地区の将来に関わることじゃからな」

「どえらいことになった」

 正助がこういうと、皆が同感とばかりにうなずいた。

「お前たちは、以前に県議会へ傍聴に行ったから、県議会とはどういう所か大体の感じは分かっておろう。あの時、森山さんにはお前たちの傍聴について了解を得ていたが、森山さんがお前たちに会うことはなかったわけじゃ」

 万場老人はこずえを見ながら笑った。

「あの時は、木檜先生のすごさに驚くばかりでしたわ」

こずえがさやを見て言った。

「そうね。私は、あそこに居ることがしかられはしないかと怖かったの。戦地にいる正さんのことを思ってじっと耐えていたわ」

 さやが応えた。二人は顔を見合わせて当時を振り返った。

「そうそう、正太郎くんも連れて来てほしい」

「え、正太郎には何も分かりませんよ、先生」

 さやが驚いて言う。

「大切な役割があるのじゃ。心配はいらん」

 老人はすかさず言った。

 その日が決まった時、老人は急いで皆を集め、森山抱月という県会議員について改めて語った。佐波郡出身で商家を継ぎ、蚕種の製造も行っている。上毛民報という新聞を発刊し、廃娼で正義の論陳を張った。このような経歴を説明してから、万場老人は言った。

「廃娼運動と教育に貢献した人物で、激しい気性の正義漢じゃ。孤児、盲唖者にも理解がある。この男がこの集落に関心を示すのは当然じゃ」

つづく

             

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2025年1月18日 (土)

死の川を越えて 第77回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 正助とさやは顔を見合わせてにっこりした。

「お友達になりましょう」

 そう言って差し出す手をとめはしっかりと握り返した。とめの顔に笑顔がよみがえっていた。

「お友達になってくれるのですか」

「お願いしますね」

 さやは大きくうなずいて言った。

 正助は助けてくれたシベリア、そして韓国の人たちの姿を思い出しながら、一つの恩返しができたという感慨にひたるのであった。

 

 

第三章 議場の動き

 

  • 森山抱月の活躍

 

 大正11年の夏のある日、万場軍兵衛から声がかかった。いつもの顔ぶれが集まると万場老人はおもむろに口を開いた。

「このあばら家に大変なことが起こる」

 老人の目は笑っているが、鋭い光があった。何事であるか若者たちには気になった。

「一体何ですか」

 正助が興味深そうに尋ねる。

「驚くな、実は、近く偉い県会議員が訪ねて来ることになった」

「えー、こんな所にですか」

 権太と正助が動じに声を上げた。

「森山抱月先生といって、わしとは旧知の間柄。お忍びで、この湯の川のことを知りたいという。今、県議会でもハンセン病のことが取り上げられるようになった。この人は、キリスト教でな、議会でも指導的立場にある。

つづく

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2025年1月17日 (金)

「韓国政情の混乱の行方。石丸新党の行方と課題。電子メディアと教育環境」

◇大統領拘束を巡る韓国の政情は混乱を極めている。捜査当局は15日、令状執行に踏み切った。千人を超える動員と厳しい警告が功を奏したらしい。警告の内容は刑事処罰、損害賠償責任、公務員年金制限の可能性の強調に及んだ。大統領の身柄は拘束された。

 韓国歴代大統領の多くは悲運の末路に終わっている。亡命、暗殺、無期懲役、自殺等だ。民主主義を基盤としながらなぜかと不思議だ。一つには大統領の権力が非常に強大な故に利権を求める人が集まるためとされる。民主主義の国では通常強大な権力に対しこれをチェックする機能が存在する。これが働かなければ独裁政治になる。韓国の不幸は健全なチェック機能の不在にあると思われる。

 大統領拘束の事態と並行して憲法裁判所の弾劾審判が行われる様だ。ここで尹氏が罷免されれば60日以内に大統領選となる。世論がほぼ真っ二つに割れている現状であるから、大統領選は対立と分断を加速するに違いない。日本、韓国、アメリカの連携が最大に求められる状況である。トランプ政権の発足も重なる。日本の役割と使命は増すばかりである。

◇「恥を知れ、恥を」の叫びで登場した前安芸高田市長氏を遠くから見て私は風雲児・革命児の感を抱いてきた。都知事選では新しい風を起こし蓮舫氏を抜いて約166万票を得て世間をあっと言わせた。その石丸氏に新しい動きが見られ注目している。地域政党「再生の道」を立ち上げたことを発表した。夏の都議選で最大55人の候補を目指すという。新党と言っているが「おや」と思うことがある。政策を掲げないことだ。政策は政党の柱である。浮動票を集めることが戦略の中心だろうが政策なしで浮動票を集めることは詐欺的ではないか。これから活動が本格化する中で示されるのだろうが影響力は始まっているだろうから民主主義の観点から疑問を感じる。

◇電子メディアの普及には子どもを害する側面があることを否定できない。そういう事実を踏まえて子どもの教育環境を整えることが重要である。中之条町と群馬大学の研究者がメディアの適正活用に向けたカリキュラムや授業方法を作ろうとしている。教育改革の面からも型にはまった教育行政から離れた教育機関の参加は意義があると思う。電子メディアの危険性と利便性を踏まえた教育環境を実現するには資料を分析した研究が必要である。中之条町と群馬大学の連携の成果を期待する。(読者に感謝)

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2025年1月16日 (木)

「育英快挙の意義。貸金庫事件と医大幹部の背任。現職大統領、まさかの身柄拘束」

◇4日、育英サッカー部が凱旋した。地元紙は特別の紙面で報じ、ニュースは全国レベルのメディアで扱われた。反響は凄いものだ。「群馬の育英」の名を高めた。知事は勝利を讃えて言った。「県民に勇気を与えてくれて、群馬をPRしてくれた。県として感謝の気持ちを贈りたい」。県は賞の授与を検討している。前橋市も市民栄誉賞の授与を決めた。選手たちはグラウンドでダルマに目入れを行った。私は育英の名誉理事として特別の喜びをかみ締め余韻は胸に響いている。

 選手たちの苦難を乗り越えた姿はサムライに見える。忘れられていた現代のサムライである。育英は全校をあげて沸き立っている。教育効果は抜群である。スポーツをやっているある小学生は言った。「全国制覇は凄い。大きな力をもらいました」。選手たち一人一人の顔が良い表情で輝いている。顔は履歴書という。彼らの長い人生の履歴書に素晴らしい一項が書き込まれた瞬間であった。

◇金に絡む女性の特異な犯罪が世間を騒がせている。貸金庫からの行員による巨額窃盗及び名門女子医大元理事の横領である。かつて女性の経済犯罪は少なかった。今日女性は様々な分野の犯罪で男性並みである。この社会現象は、男女同権の現れかと苦笑していられない程深刻な事態なのだ。

 三菱UFJの元行員は貸金庫に関わる立場を利用して巨額な現金と金塊を窃取した。私も貸金庫を利用していた。銀行は信用と安全が第一である。銀行の信頼を根幹から崩す事件である。元行員は競馬などに使い、また消費者金融にも多額の借金をしていたという。ずるずると泥沼にはまり込んだ姿が想像される。

 東京女子医大元理事長を中心とする新校舎建設を巡る背任事件は金に目が眩んだ人間の弱さを浮き彫りにしたような出来事である。岩本元理事長は女帝のような力を持っており周囲はチェック出来なかった。岩本は生活に困っていたとは思われない。なぜすぐバレるような稚拙は犯罪に及んだか。この事件は「医」の信用崩壊に繋がる事態である。医療に関わる多くの人々の規範意識に悪影響を及ぼし、患者には不安と不信を抱かせるに違いない。医は仁という。医療技術の進歩は目覚ましい。今こそ医療関係者は襟を正さねばならない。

◇固唾を呑む思いだった。現職大統領の身柄拘束は初めてのこと。尹大統領は徹底抗戦の構えである。流血を防ぐため出頭したこと、非常戒厳宣布は「内乱」にあたらないと述べた。韓国の民主主義の行方はどうなるのか。(読者に感謝)

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2025年1月15日 (水)

「南海トラフの足音が聞こえる。育英の快挙はマグマの如し。北朝鮮兵はあわれだ」

◇「ついに来た」、「来たぞ」、様々な声が日本列島を走った。南海トラフ巨大地震の恐怖感である。必ず来ると言われて久しい。地下では巨大な構造がギシギシと動いているに違いない。13日午後9時19分頃、日向灘を震源、震度5弱が発生した。マグニチュード6.9と推定された。気象庁は南海トラフ地震臨時情報を発表した。その後、南海トラフとは直接関係ないとされたが素人感覚が重要である。津波も発生した。その後も同地域でかなりの地震が発生している。私は新聞の投稿で「天変地異の気配がします」と書いた。今回の臨時情報は日本列島に対する警告とみなければならない。群馬県は最も安全な場所と一般には思われている。その神話を打ち消さねばならない。天明3年、1783年の浅間の大噴火を真剣に現実の自分事として受け止めねばならない。鎌原観音動の埋没石段は「近いぞ」と訴えている。「天明の生死を分けた17段」の表記は雄弁に歴史の警告を語っている。あれから90年以上、マグマは限界近く貯まっているに違いない。大自然を謙虚に恐れねばならない。

◇前橋育英のサッカー全国制覇は凄い。私は育英の名誉理事なので格別の思いである。育英の草創期から関わった者として「ここまで来た」という感慨を抱く。若者たちの姿を見てマグマの力を想像する。彼らの胸には人生のマグマが燃えているに違いない。文武両道の実をあげていることを感じる。スポーツは武に例えられるが最も重要な教育である。知識偏重で受験技術を磨く姿は本物の教育ではない。現代日本の危機は精神の劣化に見られる。科学の力で機械を進歩させ、その機械に人間の本質を奪われているかのようだ。極限までスポーツに打ち込む若者の姿にサムライを思う。育英サッカーの快挙は全国の人々に衝撃を与えたが、本県は特にこの機会を活かすべきである。県も市もこの快挙を活かすために行動を起こさねばならない。

◇北朝鮮兵の惨状は信じ難く同情に耐えない。ウクライナ戦に派遣された兵士は1万2千人にも上がるとされ、約300人が死亡、約2700人が負傷した。捕虜の兵は「ウクライナとの戦いとは知らなかった」と語る。メモには捕虜になる前の自爆や自決の強調が書かれていたとも。また手榴弾を顔付近で爆発させる例が相次いでいる。容貌から身元を特定させないためだ。この国が隣国であることを恐れる。こんな国と組むプーチンに正義はない。だから勝たせてはならない。(読者に感謝)

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2025年1月14日 (火)

「首相の東南アジア訪問の意義。米中対立の間に立って。臂さん無投票再選の重み」

◇石破首相が東南アジアを訪問している。10日はマレーシア、11日はインドネシアでそれぞれの首脳と会談した。石破氏は就任後、国際会議以外で個別の国を訪問するのはマレーシアが初めて。トランプ米次期大統領が20日に就任するが国際秩序の先行きが不透明となっている。こういう状況で日本政府は東南アジア諸国との関係を重視し地域での存在感を高めたいのだ。マレーシアのアンワル首相との会談後の共同記者会見で石破首相は語った。「複雑さと不透明さを増す新たな年の始まりだが、日本外交にとって、東南アジア地域との連携を強化することは最優先の課題の一つだ」

 次いでインドネシアではプラボウォ大統領と会談し高速警備艇の無償提供を約束した。侵出を強める中国を牽制する狙いがある。そして共同記者会見で石破首相は強調した。「インドネシアは我が国と基本的な価値や原則を共有する包括的、戦略的なパートナーだ」

 インドネシアは東南アジア諸国連合(ASEAN)の盟主的存在である。従って日本はこの国との連携を深めることによってトランプのアメリカとアセアンとのつなぎ役を果たしたいと考えているのだ。

◇トランプ新政権は中国を最大のライバル、つまり攻撃の相手と考えている。アメリカがナンバーワンでなくてはならないのに中国の台頭は著しくアメリカを抜こうとしているからだ。トランプ政権は今後増々中国に対する厳しい姿勢をとるだろう。ということはアメリカにとって日本の重要度が大きくなり、日本を大切にしなければならないことを意味する。日本はこのような国際状況を賢明に活かさねばならない。目先の利益を考え、トランプ政権の御機嫌取りに走るようであってはならない。今回の石破首相の東南アジア訪問の意義もここにあると考えるべきである。

◇米中の対立と日本の在り方を中国から見るとどうなるか。米中の緊張が増せば中国は必然的に日本との関係改善を図る。既にその動きが出ている。日本は絶好のチャンスを迎えている。ここでも重要なことは目先の利益に翻弄されることなく、平和憲法を基盤にすえてぶれることなく中国との間に信頼を築かねばならない。日本外交の楫取に注目したい。

◇臂さんが伊勢崎市長選に無投票再選を果たした。臂さんはミライズクラブのメンバーである。私は再選の重みと深さがよく分かる。堅実な政治手腕と人柄に期待する。他文化共生社会の先頭を走るにふさわしい謙虚さに拍手を送りたい。(読者に感謝)

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2025年1月13日 (月)

死の川を越えて 第76回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「正さん、何とかできないかしら。赤ちゃんのことで悩む姿は前の私と似ていると思うの」

「そうだね。俺はシベリアの経験で人の命の大切さを知った。俺はハンセン病の人たちに助けられた。そのためにもハンセン病の人を救いたい。さやちゃん、急いだ方がいいね。取り返しのつかないことになるよ」

 二人はその夜、とめに会った。

「女房から事情は聞きました。これも同じ病を抱え、悩んだ末に産みました。よかったと思っています。この湯の川地区にはハンセン病の患者を助けるために命を懸けている外国人がいます。俺は最近、シベリアでハンセン病の人たちに命を助けられました」

 正助の話がとめに通じているのかどうか分からなかった。青ざめた表情、時々見せる視線、それは病的で絶望を表していた。正助は、シベリアで追い詰められ爆弾で吹き飛ばされ、気を失い土に埋められた時、光の輪の中に妻と子が現れ励まされたことを話した。とめの表情に変化が見えたのはこの時であった。

「子どもを殺すのは悪いことですか」

 とめは正助をじっと見詰めて、低い声でぽつりと言った。

「悪いことです。自分が産んだ子でも、別の命です。その子の人生があるのです。俺は学問はないが、シベリアで人の生き死にのことをずいぶん考えました。毎日が殺し合いだった。藁くずのように人が死ぬ中で、かえって、命の大切さを知ったのです」

 その時、子どもが目を覚まし、何かに怯えたように泣きだした。

「おう、よしよし、みっちゃん、悪いお母さんを許しておくれ。お母さんはお前をこの手で殺そうとしていました。おお、何と恐ろしいことでしょう」

 とめは、子どもを抱き上げて頬ずりをした。さやがほっとした表情を示して言った。

「あなた、力を合わせて生きましょうよ。実は私も、この湯の川に身を投げて死のうとしたことがあるの。でも生き抜いて幸せをつかみました。子どもを殺すのでなく、子どもを生かすために命をかけるのよ。そこに生きる喜びが生まれるのよ」

 とめは、子どもを抱いて、さやの話をじっと聞いていた。その顔には、先ほどまでの死の淵をさまよう狂女の影はうかがえなかった。

つづく

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2025年1月12日 (日)

死の川を越えて 第75回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

  • 死を選ぶ母

 

 さやは、京都帝国大学の小河原泉を訪ね、ハンセン病は遺伝病ではない、ハンセン病の菌の感染力は非常に弱いと説明され、安心して正太郎を産んだ。しかし、世間はハンセン病を伝染病として恐れた。迷信と偏見がこの風潮を増幅させた。その例は社会の至る所に見られたが、湯の川地区には、全国から患者が集まるだけにさまざまな事件が起きた。中には、幼い命に関わる重大事もあった。

 正助が帰国した後、さやは麓の枯れ木屋敷からふたたび湯の川地区に移り、以前のように大津屋で働くようになった。ある時、さやは正助に妙なことを言い出した。

「うちのお客がおかしいのよ。赤ちゃんの命が危ないわ」

 さやが語るところによれば、少し前に一歳ほどの赤ちゃんを連れた若い女が泊まるようになった。さやが隣の部屋で仕事をしていると、女のすすり泣く声が聞こえる。耳をそばだてると

「みっちゃん、お母さんと天国に行くのよ。お母さんを許しておくれ」

 と、子どもに語りかけているのが聞こえた。

「何かお困りのようですね」

 さやがそれとなく声をかけると、女は重い口を開きぽつりぽつりと話し始めた。

 女は前橋の生まれで市川とめと言った。ある男と結婚したが、ハンセン病を発病したことで離縁されて実家に帰った。両親は年老いていて狼狽えるばかり。そして、兄は妻の手前もあって冷淡であった。この分だと一族に累が及ぶから家を出てくれと言ってわずかのお金を与えたという。

 生きる道を必死で探して湯の川地区にたどり着いたが、お金も尽きたし、子どもの将来を考えると、育てる勇気も湧かない。この子が女として私のような人生をたどる運命なら、死んだ方が幸せになれる。この子を殺して死ぬつもりですと、語るとめの顔は目もうつろで死神に取り憑かれたようだ。 

 さやは、すやすやと眠る赤ちゃんの顔を見た。さやは。この子が泣きだしたら、それが引き金となって、とめはこの細い首を絞めるに違いないと思った。

つづく

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2025年1月11日 (土)

死の川を越えて 第74回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「気を失っていた時、さやちゃんと正太郎が現れた。光の中で、お前が招いているのだ。俺は必死で近づこうとした。あの生きる意欲が俺を救った。さやちゃん、お前と正太郎が俺を救った。ありがとう。家族というのはいいものだね」

 こう話ながら、すやすやと眠る正太郎に視線を移すと、さやは大きく頷くのであった。

 ある日のこと、正助たちは万場老人を囲んでいた。

「今日は正助の生還祝いじゃ。下の里から少し食べ物も運ばせた。一杯やりながら正助の話を聞こうではないか。正助の手紙から知ったが生還は奇跡じゃ。正助、足はあるか。は、は、は」

 老人は愉快そうに笑った。

「海底洞窟のことが書いてあった。恐ろしかったであろうな」

「この世のものとは思えませんでした。今思ってもぞっとします」

 正助は、頭と呼ばれた鄭東順という人物のこと、その妻が日本人で、その人はあの洞窟にのまれたことを話した。

「実はな、鄭東順は、わしの知り合いであった」

 万場老人がぽつりと言った。正助は、その時、鄭東順が万場軍兵衛と浅からぬ縁があると言っていたことを思い出した。

「いずれ詳しく話すつもりだ」

 万場老人はそう言って話題を変えた。

「わたしたちは、正助の貴重な体験を生かして、ハンセン病の光を広げる努力を積み重ねることが重要じゃ。今日は、ひとまず楽しく飲もうぞ」

 老人は正太郎の頭をなでながら言った。にぎやかな笑い声が狭い部屋に響いた。

つづく

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2025年1月10日 (金)

「トランプ就任の衝撃波。世界最大の島グリーンランドにトランプの手が。尹大統領の拘束は。米の山火事」

◇トランプ氏の大統領就任式は1月30日である。各地で地震が起きているが、トランプの嵐の力は予測不能で地震以上の衝撃波を世界に及ぼそうとしている。ウクライナ戦を就任後24時間で終わらせると広言していたが、現在は少し軌道修正したか、「6ヶ月ほど時間が欲しい」と言い出した。このことはかえってウクライナ戦へのアメリカの関与が無気味な現実味をもってきたことを感じさせる。ウクライナ停戦の構図はプーチンが獲得した既成事実を認めることに違いない。このことは台湾有事に大きく関わることになる。習主席が台湾介入に動いても、ウクライナと同様、アメリカは事実上認めると習氏が判断する可能性があるからだ。

ジミー・カーターが昨年末100歳で亡くなり、9日国葬が行われた。アメリカの民主主義を強調し、その民主主義の危機を訴えた人だった。トランプ氏の大統領就任は世界の民主主義に対する脅威を意味する。

◇トランプ氏はデンマークの自治領であるグリーンランドの獲得に意欲を示している。これはデンマークの主権を無視する傍若無人な態度である。デンマークの首相はグリーンランドはグリーンランドの人々のものとして拒絶している。グリーンランドは米軍基地があり、ロシアの弾道ミサイル追跡や宇宙監視で重要な役割を果たしている。グリーンランドは世界最大の島で、全島の大部分は厚い氷に覆われている。デンマークはNATOの重要な一員である。トランプ氏の政治姿勢はNATOの結束にも悪い影響を及ぼすものである。

◇尹大統領の拘束令状が再び出された。果たして身柄の拘束は可能なのか。公邸の周りは車両や鉄条網でふさがれ「要塞のよう」である。今後の展開の中で、尹大統領が仮に替わる場合韓国の対日政策が大きく変化すると言われる。韓国の大統領は前任者を徹底的に叩く傾向があるからだ。この問題も世論が大きな力を発揮するに違いない。現在韓国民の反日感情はかつてのアネルギーを失っている。世論は好転しているのだ。背景には訪日観光客の急増がある。韓国は日本にとっても重要なパートナーである。

◇ロスの山火事に度肝を抜かれた。映画の場面のようである。13万人の住民に避難命令等が出ている。動物は本能的に火を恐れる。膨大な山林に生きる動物たちはどうしているだろうか。異常な乾燥と強風が火勢に拍車をかけているらしい。異常気象の影響であろう。(読者に感謝)

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2025年1月 9日 (木)

「夢の世界が近づいたが、大きな課題が。闇バイトは巧妙化。実刑判決の70代女性。台湾有事」

◇世界は近い将来どのように変化するのだろう。技術の進化は信じ難い程である。人工知能(AI)の出現がそれを加速している。世界最大級のテクノロジー展示会「CES」が米ラスベガスで始まった。各国の先端技術が集う場である。出展社・団体は4500以上。異業種が刺激し合い、連携しあって新しい技術と変化を生み出すのだ。先端技術を率いるある責任者は指摘する。「AIの普及であらゆる産業の垣根は溶け、進化は加速している。この展示会は日本企業にとってひらめきや刺激を得る重要な場だ」トヨタは自動車開発でAIの活用をアピールした。AIを使った2台の「自動運転車両」が激しいカーチェイスを繰り広げる映像に会場は沸いた。

◇このテクノロジー展示会は人類にとって夢の世界がすぐそこに待ち受けていることを示している。しかし私は懸念する。日本はこの激流に追いついていけるのかと。人材育成と教育は大丈夫なのだろうか。教育改革が叫ばれて久しいが、異次元の真の教育改革が今こそ求められている。人間とAIとの対決がここまできていることをラスベガスのテクノロジー展示会は突きつけている。

◇闇バイトの恐怖を改めて思う。首相は徹底した対策と撲滅を強調したが被害対象の拡大はその深刻さを物語る。クモの糸にからめとられるように認知能力が劣った高齢者が被害者になっている。今後、闇バイトの誘い文句は巧妙化し、一般の求人との見極めが難しくなるに違いない。ある70代の高齢女性はアルバイトで働く感覚で闇バイトの実行役になり気付くと特殊詐欺事件で後戻りできなくなっていた。女性は裕福な家庭で育った人で違法行為とは無縁に近い人だった。現代社会は複雑で難しい。簡単に「受け子」や「出し子」になり得るのだ。法は形式的に適用され冷たい司法の判断が

下されてしまう。この高齢女性は一審で実刑判決を受け冷たい拘置所の中である。この女性は「疑うことが出来なかった。本当におろかだった」と振り返る。このような状況にはまる可能性の人は多いに違いない。日本の社会、そして殊に高齢者は基本的に「性善説」に立っているが私たちは「性悪説」に移らざるを得ないのか。「人を見たら泥棒と思え」の諺が悲しくたちふさがる。淋しく悲しいことだ。

◇ウクライナ戦が示したことは西側の団結力は弱いといこと。トランプの登場はこの弱さに拍車をかけている。今問題なのは中国と台湾の間の危機である。台湾有事は直接日本有事である。侵攻となれば未曾有の混乱は必至だ。(読者に感謝)

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2025年1月 8日 (水)

「USスチール買収劇の混迷と日米同盟の試練。石破首相の本質はどこに。石丸新党の行方は」

◇正に前代未聞というべきか。日本製鉄がバイデン大統領らを相手に訴えを起こした。日本の大企業がアメリカの大統領を訴えるのは異例である。日本製鉄はアメリカの名門鉄鋼業USスチールを2兆円で買収する計画を結んだ。バイデン氏はこの計画に対し禁止命令を出した。その理由が「国家安全保障上の脅威になる」というもの。石破首相は「なぜ安全保障上の懸念があるのかきちんと述べてもらわなければ先の話にならない」と語った。現在アメリカの鉄鋼状況は中国の安値攻勢に苦しんでいる。窮地に立つUSスチールを買収によって救うことは日米の同盟を強める。禁止命令は中国を利することになる。日本製鉄の技術は脱炭素の上でも世界に冠たるものである。バイデン氏の胸中にはアメリカを代表する名門企業が日本に買収されることへの複雑な感情があるのかもしれない。大統領自身の判断によって日本企業の対米投資にストップをかけた例はない。将来の対米投資に対する大きな懸念材料だ。トランプ次期大統領のクールな判断を期待したい。

◇少数与党として石破首相が窮地に立たされている。夏の参院選を石破では戦えないという声は強い。巷では国民民主党の玉木雄一郎総理誕生などの声もある程だ。そんな中、石破氏への「新春スペシャルインタビュー」を興味深く読んだ。聞き手は東大名誉教授御厨(みくりや)貴氏。石破氏の怪物的異相の下に本物の力が隠されているのなら、天下大乱、国家が窮地に立つ今こそそれを示すべきだと私は思う。石破氏は「中道保守」という軸を持つから野党の政治家とも通ずる点がある。これは近年の総理と違う点かと御厨氏は指摘する。又御厨氏は石破氏の宗教的背景のことをあげ、他の政治家との違いだと示す。石破氏はプロテスタントのクリスチャンである。石破氏は全能の神の前では塵芥(ちりあくた)のごとき存在であると語る。この点は石破氏の検挙さを示す本物の心情かと受け止められる気がする。ただこの検挙さで阿修羅の戦場を貫くことが出来るかが問われているのだ。石破氏はまた「なぜ若者と女性は東京に行ってしまうのか」と地方創生を訴える。石破氏の哲学の実現に期待したい。

◇7月の都議選に向け石丸伸二氏が不思議な動きをしている。オーディションによって石丸新党をつくり都議会選挙を戦おうとしている。都知事選で蓮舫氏より大量の票を得て世間をあっと言わせた風雲児。「恥を知れ、恥を」、あの絶叫が聞こえるようだ。石丸新党は台風の目か。(読者に感謝)

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2025年1月 7日 (火)

「USスチール買収禁止令とトランプ次期大統領。女傑市川房枝の生涯」

◇日本製鉄は米政府提訴を固めた。私は日鉄の株主でもあるのでバイデン氏の買収禁止命令には大きな関心を抱いている。米鉄鋼大手USスチールの買収計画についてバイデン氏は買収につながる取引を「完全かつ永久に」放棄する手続きをとるよう日本製鉄に求めた。その理由は日本製鉄がアメリカの国家安全保障を損なう恐れの措置に出る可能性があるというもの。日本製鉄とUSスチールは、この命令につき明らかな法令違反であり法的権利を守るため「提訴」を含めあらゆる措置を追及すると共同声明で示した。バイデン大統領が主張する国家安全保障とは何か。私は中国との関係に注目する。そして提訴の行方はどうなるのか。私はトランプ次期大統領の判断に注目する。トランプ氏もUSスチールの買収に反対を表明したが単純ではなさそうだ。私はトランプ氏は嫌いだがこの件については何か意外な行動に出る可能性を感じる。

 鉄鋼は製造業の中でCO2排出量が最も多い。日鉄はCO2を出さない技術で中国をしのぐ世界トップのレベルを持つ。専門家によればバイデン氏の禁止命令をトランプ氏が大統領になって逆転させる可能性も否定できないという。トランプは現実主義の経済人である。USスチール買収がアメリカ第一のためになると判断する可能性があるというのだ。対中国を考えれば、アメリカ安全保障のためにもなる筈である。

◇本格的に社会の動きが始まった。多難な社会で期待すべきは女性の力。そのパワーをまだまだ生かし切っていないからだ。年頭に一代の女傑市川房枝を読んだ。貧しい農家の娘で父に薪でなぐられる母を見て育った。長じて婦人運動のリーダーとなった。戦後は参議院議員を長く勤め、性差別撤廃運動にも力を尽くしたが暴力をふるう父とそれに従う母の姿は市川の心の原点をつくったと思われる。

 86歳の時雑誌クロワッサンが行った読者の「好きな女の顔ベスト30」でトップになった。しかも2位の山口百恵を倍以上ひき離して。この直後、昭和55年の参院選ではトップの278万票を獲得した。その銀髪の姿を国民は信頼の象徴のように見たに違いない。昨年は裏金問題の年であった。政治の信頼は地に落ちた。現在彼女が政界に居たらどんな動きをするであろうか。昭和56年心筋梗塞で倒れ88歳で世を去った。生涯化粧したことがほとんどない彼女の唇に看護婦たちは口紅を塗った。波乱の人生は多くの人に勇気を与えた。(読者に感謝)

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2025年1月 5日 (日)

死の川を越えて 第73回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 涙が頬を伝って落ちた。さやも泣いている。

「これが正太郎か」

「正太郎、ほらお父さんなのよ」

 正太郎はきょとんとして見上げている。正助は息子を抱き上げた。ずしりとした重みが不思議な運命の絆を伝えていた。さやの目から涙が止めどなく流れていた。

「こずえさんと権太さんが来ているの」

 涙を拭きながらさやがささやいた。

「え、こずえんさんが、権太も」

 思わず声を上げたとき、物陰からこずえと権太が現れた。

「お帰りなさい。ご苦労さまでした。ご隠居様が代わりに行けと申しました」

「先生は、正さんがけがをして大変かも知れないと思っているの。こずえさんは看護婦さんのつもりなの。権太さんはあなたの荷物を」

「正助、よかったな。生きて会えるとは思わなかったぞ。荷物は俺に任せろ」

 正助と権太は固く抱き合った。

 湯の川地区では、正助の主人である山田屋の主の計らいで、一軒の家が用意されていた。マーガレット・リー女史の住居の近くであった。

「正さん」

「さや」

 新居で二人は固く抱き合った。正助はさやの胸の鼓動を受け止めて生きていることを実感した。

「本当の正さんなのね」

 さやは正助の胸で泣いた。

 正助が語るシベリアの話は尽きなかった。小隊が全滅したことや、死体が集落の川の淵に投げ込まれることを語った。そして、海底洞窟の話になると、さやは目を丸くし、怖いと言って正助にしがみついた。

つづく

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2025年1月 4日 (土)

死の川を越えて 第72回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「正助は、ハンセン病の人たちのために尽くしたいと申しておる。別の世界を知って、心の世界を大きく成長させたのだ。再会が楽しみじゃな。正助を迎える準備をしようではないか」

「はい、ありがとうございます」

 さやの瞳は輝き頬は紅潮していた。

 正助は列車を乗り継ぎ、上野駅に着いた。古里の玄関口に近づいた思いで正助は興奮していた。およそ4年ぶりに会う人々はどう変化しているか、そして何よりも自分の分身たる正太郎とはどんな男の子であろうか。高崎へ近づくにつれ、正助の胸は高鳴る。

 福岡を出る時、担当官が、高崎までの到着時刻を調べて、草津の役場に連絡すると言った。確実に時間を計画できるのは高崎駅であった。だから、もしかしたら高崎駅にさやたちは出迎えているかも知れないと正助は思った。

 それは確実性のない、いちるの望みかも知れなかった。しかし、列車の進行とともに正助が描く高崎駅頭のさやたちの姿は朧なものに輪郭が与えられ、周りの状況も加わって次第に動かぬものになっていった。左手に妙義の山影が現れ、やがて右手前方に赤城山が見えた。正助はいたたまれず立ち上がって通路を進んだ。高崎まではまだ距離があるらしいと知り、正助は逸る心を抑えて席に戻り目を瞑った。

 目に浮かぶのは、シベリアのハンセン病の集落であり、あの海底洞窟であった。ここに居るのが夢のように思えた。振り返れば、あの暗黒の洞窟は、正助を幻の世界からこの世に導いた通路のようであった。不思議な体験で正助は体のどこかに何か未知な力が生まれたように感じた。

〈あの海底洞窟が新しい俺を生み出したのか〉

 そうつぶやいた時、「高崎―、高崎―」と車内に声が響いた。正助は列車を出て、ゆっくりと歩いていた。運命の時を迎えるという厳粛な気持ちが正助の足に静かな力を与えていた。改札口が目の前にあった。

「正さーん」

 手を振るさやの姿があった。小さな男の子の手を引いている。

「正助、ただ今帰りました」

 正助は直立の姿勢で挙手の礼をとり言った。

つづく

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2025年1月 3日 (金)

「ジミー・カーターの生涯を讃える。そのノーベル賞の意義。日本人女性、スパイ罪で服役とは」

◇ジミー・カーター元大統領が昨年12月29日、100歳で死去した。バイデン大統領は「思いやりと明確な倫理観を持ち、病気の撲滅や平和の推進に尽力した」と評価した。倫理観を傍若無人に踏みにじっていくトランプ次期大統領とは対照的である。カーター氏はアメリカの理想を語る大統領であった。その理想は建国の精神に通じるものであり、人間の普遍の真理を現すものであった。トランプ氏はアメリカナンバーワンを叫ぶが、それは分断と対立を煽るもの。カーター氏の訴えこそ真のアメリカ第一を目指すものと私は信ずる。

 カーター氏の人権の信念は書物から学んだものでなく体験から生まれた血肉となったといえる。小さい子どもの頃、父親の農場で働いていた黒人と過ごしたことが人種差別など人権問題尊重の基礎をなしたと言われる。在任中の最大の功績は歴史的宿敵のエジプトとイスラエルを和解に導いたことであった。両首脳をワシントン郊外の山荘に2週間近く缶詰にして合意に尽くした。交渉が決裂しそうになりサダト大統領が帰国の準備を始めたこともあった。カーター氏は「あらゆる議論と脅しを用いた」と自伝で振り返っている。あの柔和な表情の下に不屈な闘魂が秘められていたのだ。

 カーター氏のこの政治姿勢は大統領退任後の国際活動で展観された。その例として北朝鮮に乗り込み核危機回避に尽くしたこと、革命後のキューバを大統領経験者として初めて訪問し制裁解除を訴えたことなどが挙げられる。こうした活動が高く評価されノーベル平和賞を得た。現在、核戦争の危機が叫ばれている時、カーターは昇天した。彼の生涯は偉大なアメリカの象徴であったとの思いを深くする。アメリカ史を学んだ者としてカーターの冥福を祈り、同時に力と勇気を与えてくれたことに感謝する。「カーターよ、さようなら」

◇日本人女性の中国での行動にスパイ罪が適用され服役したことが報じられている。真の日中友好を進める時なので気掛かりである。一昨年天安門広場で胸にあった原稿を没収された経験が甦る。中国政府は反スパイ法を強化させた。国の体制を必死で守ろうとする姿勢が伝わってくる。一党独裁の強権の国である。その上末端の公安関係者の人権感覚は薄いと思われる。結果は末端の公安関係者の上部を忖度する傾向が強まることだ。今回の日本人女性の拘束も現場の暴走と言えるのかも知れない。こういう事態を未然に防がねばならない。その為に政府の適切な外交努力が求められる。(読者に感謝)

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2025年1月 2日 (木)

「キューバ危機が甦る。被団協のノーベル賞の意義。韓国の混乱はどこまで」

◇2025年が始まった。どんな年になるのか。行く手に何が待ち構えるのか。予測が難しい時代と誰もが言う。しかし未曾有の混乱と変化があることは間違いない。天変地異の気配が感じられる。平和が脅かされている。核戦争の恐怖が叫ばれている。それは1962年のキューバ危機以来と言われる。ケネディとフルシチョフの対決の状況が甦る。キューバの存在はアメリカの喉元に突きつけられた赤いナイフであった。そこにソ連によって核ミサイルの基地が作られようとしていた。ケネディは反撃を決意しソ連に通告した。基地建設のためにソ連の艦隊がキューバに向う。息を呑む瞬間が刻々と過ぎる。全世界が固唾を呑み、手に汗して見守った。ケネディ大統領は弟のロバートケネディと、恐怖と緊張で震えたと振り返っている。私は、核戦争は現実に起こり得ると肌で実感した。ソ連の艦隊は反転して引き返していった。弧を描く白い航跡が救いの神のように感じられたのを思い出す。キューバ以来と言われる現在の危機はウクライナ戦争をめぐって起きている。窮地に立たされたプーチンは核使用のハードルを下げ、しきりにその使用を仄めかしている。

 このような状況で被団協(原水爆被害者団体協議会)がノーベル平和賞を受賞した意義は測り知れない程大きい。オスロの受賞式における田口 煕巳氏の演説は多くの参加者の胸を打った。立ち上がった人々の拍手は1分35秒間鳴り止まなかった。その中で私の胸を打った部分がある。92歳の田中氏は訴えた。「核がなくなるのを見届けなければ私は死ねない」、「長崎の最後の被爆地に、私を最後の被爆者にするために核廃絶の声を全世界に広めねばならない」。求められるのはこの言葉を私たち一人一人が自分のことと受け止めることである。そして国を動かさねばならない。

 広島、長崎、2つの人類初の被爆を体験した日本の役割と使命は極めて重大である。

◇尹大統領に対し、昨年31日拘束令状が出た。容疑は内乱の主謀者である。現職に対する拘束令状は初めて。令状が執行されるかが焦点となっている。裁判まで進み有罪となれば内乱主謀者は死刑または無期刑である。そんなことがあるのだろうか。世論の影響が強い国である。

 尹氏の公邸近くでは「令状無効」と叫んで尹氏の拘束を阻止しようとする人々が約3千人集まったと言われる。尹氏は憲法裁判所で罷免されるまで現職の大統領として警護を受ける。新年早々韓国の政治の混乱は予断を許さない。(読者に感謝)

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2025年1月 1日 (水)

「謹賀新年」

 激しい時代の流れが心地よい音を立てています。生命の息吹を感じます。覚悟の年を迎えました。天変地異の気配がします。平和を脅かす悪魔の足音は日増しに高く迫っています。1962年のキューバ危機以来の核戦争の恐怖です。そのような時、昨年12月日本被団協がノーベル平和賞を受賞したことは大きな光明でした。あらゆる危機に備えて前進するために最も大切なことは人間の絆です。皆様との絆を更に発展する年にしたいと存じます。

皆様の御多幸をお祈り致します。

2025年 元旦

                                                                                                 中村紀雄

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