死の川を越えて 第60回
※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。
正助は胸をなで下ろした。そして、さやと正太郎のことを想像した。〈彼らに会える日が来るだろうか〉。そう思うと集落の人たちのことが神のように見えるのであった。
集落を離れる日が近づいたと感じた時、正助は、忘れていたハンセン病のことを、この集落の人たちの姿に重ねて考えた。この人たちは、遺伝はしないということを知っているのか。人間扱いされないこの病の人々が、胸を張って切られる社会は実現するのであろうか。正太郎の未来を思う時、この思いが募るのであった。
そして、正助は湯の川地区のことを考えた。死の谷と言われ、恐ろしい川が流れている点は似ているが大きな違いがある。湯の川地区はハンセン病患者によるハンセン病患者のための村だ。
〈万場老人がハンセン病の光と言ったっけ〉。正助は懐かしく古里を思い浮かべた。ハンセン病の光があるからマーガレット・リーさんのような人が遠い外国から駆け付けてくれた。正助は今、このことを噛み締めていた。そして、目の前が開ける思いに駆られるのだった。そして、正助は心に誓った。
〈よし、生きて草津へ帰れたら、正太郎のためにハンセン病の光を広げる運動に取り組もう〉
つづく
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