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2024年11月30日 (土)

死の川を越えて 第61回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

  • 魔境脱出

 

 体の傷も回復したある日、正助は翌日に脱出を決行すると告げられた。

「大体の計画を話しておきます」

 朴はそう言って語り出した。正助は一大冒険物語を聞くような思いで耳を傾けた。夜陰に乗じてこの川を下る、と言って木造の小船を指した。舳先に奇妙な記号を描いた小旗が立っている。正助が首をかしげるのを見て朴は言う。

「我々の集落を現す印です。水に浮く死体の片付けは我々の仕事。この旗があると国境警備隊も普通は近づかない」

 正助は驚き、そして、ハンセン病患者の集落の不思議な力に感心した。それを見て朴はさらに驚くべきことを話した。

「一番の難所は地底の流れです。そこはわれらしか通れない。悪魔の腸と呼んでいます。京城の頭は用心のためここを通れと言ってきているのです。ロシアでは日本人の捜査に全力を挙げているから、この旗があっても安心できないと言うのです。なあに、任せて下さい。金という悪魔の申し子のようなヤツが同行しますから」

 正助は前途に容易ならぬものが待ち構えていることを知って身を固くした。

 ある夜、小船は出発した。手漕ぎ船は黒い水面を下流に向けて矢のように速い。時々、舳先の角灯が揺れて黒い岸壁や覆い被さる巨木の影を映す。流れのずっと先は広い川に合流し、海に通じているという。やがて船は激しく揺れ始めた。

「他の川との合流点です。昼間見れば死体の二つや三つはあるはずです」

 朴は事もなげに言って角灯を掲げた。そこには不気味は闇が広がっている。その底に何がいるのかと想像して正助は背筋を寒くした。長い長い時が経過したように感じられた。船の揺れ方が違うので、はてと思った時、

「海です。ここからがしばらく危険です」

 朴はそう言って、舳先の灯火と消した。はるか前方の水平線が紫色に染まり、その手前に影絵のような島の輪郭が浮かぶ。

 その時朴が叫んだ。

「警備艇だ。あなたはその筵の下に」

つづく

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2024年11月29日 (金)

「凄まじい閣僚人事と火の玉の国際関係の行方。日韓関係での民間交流の重要性。危険運転致死罪と現代社会」

◇26日トランプ氏の凄まじい閣僚人事が整った。米国第一を推進する戦闘集団のように見える。トランプ氏に忠誠を誓う顔ぶれである。トランプ氏は26日声明で語った。「米国民は米国第一に取り組むための権限を与えた」と。異例なスピードで主要なポストを、忠誠を尽くすことに重点を置いて一本釣りで決めたとされる。拠点にはフロリダの私邸「マール・ア・ラーゴ」も使われたのか。世界を動かす巨大な組織が自身への忠誠とか個人的報復などの要素も入れて築かれていくことの異常さに目を見張る。世界は激しい炎の中にある。イスラエルとレバノンの停戦が大きく報じられているがその行方は。ウクライナとロシアの戦いは激しさを増し第三次世界大戦の危機を覚える。狂気の独裁者金正恩との直接対話の動きも報じられる。78歳の怪老人は火の玉の地球を冷静に制御できるのか。

◇オオサンショウウオの風貌と誰かが言った我が石破首相も世界の舞台に登場した。その正体はいかなるものか。このオオサンショウウオは南米ペルーで注目を集めた。今年も終わる。来年1月韓国を訪問し尹大統領と会談の方向という。韓国は非常に重要な隣国。不当に支配した歴史を踏まえて今日の両国がある。来年は国交正常化60周年。ようやく明るさが強くなりかけた関係改善を本物にしなければならない。首相の考えは首脳の相互従来の活性化にあるらしいが、私は同時に民間交流が重要だと思う。中国との関係で民間交流の重要性を経験しているが韓国との民間関係の重要生はそれに劣らない。韓国は狂気の犯罪国家と言われている北朝鮮と一筋の国境線で対立し、その北朝鮮はロシアとの関係を一層密にしながら韓国敵視を飛躍させている。日韓両国は民主主義陣営に属す。多くの人は日本のことをアジアに於いて社会主義陣営に対する最前線と捉えている。しかし韓国こそ海を介することなく陸地で接する正に生々しい最前線である。日韓は特別な歴史問題を東アジアの平和と安定のために活かすことこそが、今最も求められていることではないか。この事態を進めるために民間交流の重要さは計り知れない。両国とも民間世論が決定権を持つからである。

◇危険運転致死罪適用の判決が出た。時速149キロは法定の3倍。裁判所は「制御困難」に当たると判断し懲役8年とした。軽過ぎという評価も。適用の基準があいまいな点があり明確化検討の動きも。大きな社会問題なのだ。(読者に感謝)

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2024年11月28日 (木)

「トランプの一時的麻薬的効果。中国はズブズブと沈むのか。外国人が狙う隙だらけの日本」

◇トランプ氏は来年の大統領就任が迫る中で閣僚人事を次々と固め、具体的政策も打ち出し始めた。その政策では日本にも直ちに影響を及ぼすのは関税。トランプ氏は国境を接するメキシコとカナダにつき高関税を示し中国にも追加関税を発表した。そしてそれ意外の国のあらゆる物品への関税を上げようとしている。それは直接物価高となって私たちの生活に深刻な衝撃を与える。それとは別に日本では物価を上げる嵐が吹いている。このような内外の要因により新年は物価高狂乱の到来を覚悟しなければならない。

 物価高の嵐は米国民をも襲う。トランプ氏を選挙で勝利させた最大の要因の一つはインフレ物価高だった。トランプの政策が自分たちを苦しめること、トランプ氏が打ち出すことが幻影であることを知る日は意外に近いのではなかろうか。

 トランプ氏の最大の脅威は世界最大権力の暴走である。議会もトランプ一色の度を強め閣僚人事もイエスマンばかり。トランプ氏をチェックする仕組みが消えてゆく。やがて姿を現すのは壮大な独裁権力に違いない。ナチスのヒトラーの姿と重なる。私はトランプに期待できるのは一時の麻薬的効果ではないかと思う。

◇中国に大きな変化が起きつつある。経済力でアメリカを抜くと言われたがその力も低下しつつある。日本を凌ぐスピードで高齢少子化が進み若者はハングリー精神を失いつつある。国内に格差が広がりそれは加速して人々のストレスを深刻化させている。最近動機不明の大量殺人や事故が起きているのはその現れ。民主主義の国では不満のはけ口と手段は多く存在するのが一党独裁の国では箱の中に閉じ込められた状態である。経済が良い状態では明日はもっと良くなるという希望が持てた。あらゆる情報が瞬時に手に入る時代である。これは世界の一体化であり中国人の意識を変えた。壮大な超大国は人類の実験場である。変化しなければ何事の進化はない。変化を禁止する一党独裁の下で中国は生き残れるか。アメリカ、ロシア、中国これら超大国の変化の行方を私は息を呑んで見守る。これらの国々の間に立って海洋国家、民主主義国家の可能性と使命に世界の期待が集まっている。それを自覚して活かすことが我々主権者たる国民の使命だ。

◇万引きにとって日本は隙だらけと言われる。外国人の絶好な猟場となっている。ベトナム人組織がドラッグストアをターゲットにして万引きし拠点に集めベトナムに輸送している。実行役は闇バイトの手法で集めている。豊かで寛容な国を悪質な外国人から守ることは急務だ。(読者に感謝)

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「トランプの一時的麻薬的効果。中国はズブズブと沈むのか。外国人が狙う隙だらけの日本」

◇トランプ氏は来年の大統領就任が迫る中で閣僚人事を次々と固め、具体的政策も打ち出し始めた。その政策では日本にも直ちに影響を及ぼすのは関税。トランプ氏は国境を接するメキシコとカナダにつき高関税を示し中国にも追加関税を発表した。そしてそれ意外の国のあらゆる物品への関税を上げようとしている。それは直接物価高となって私たちの生活に深刻な衝撃を与える。それとは別に日本では物価を上げる嵐が吹いている。このような内外の要因により新年は物価高狂乱の到来を覚悟しなければならない。

 物価高の嵐は米国民をも襲う。トランプ氏を選挙で勝利させた最大の要因の一つはインフレ物価高だった。トランプの政策が自分たちを苦しめること、トランプ氏が打ち出すことが幻影であることを知る日は意外に近いのではなかろうか。

 トランプ氏の最大の脅威は世界最大権力の暴走である。議会もトランプ一色の度を強め閣僚人事もイエスマンばかり。トランプ氏をチェックする仕組みが消えてゆく。やがて姿を現すのは壮大な独裁権力に違いない。ナチスのヒトラーの姿と重なる。私はトランプに期待できるのは一時の麻薬的効果ではないかと思う。

◇中国に大きな変化が起きつつある。経済力でアメリカを抜くと言われたがその力も低下しつつある。日本を凌ぐスピードで高齢少子化が進み若者はハングリー精神を失いつつある。国内に格差が広がりそれは加速して人々のストレスを深刻化させている。最近動機不明の大量殺人や事故が起きているのはその現れ。民主主義の国では不満のはけ口と手段は多く存在するのが一党独裁の国では箱の中に閉じ込められた状態である。経済が良い状態では明日はもっと良くなるという希望が持てた。あらゆる情報が瞬時に手に入る時代である。これは世界の一体化であり中国人の意識を変えた。壮大な超大国は人類の実験場である。変化しなければ何事の進化はない。変化を禁止する一党独裁の下で中国は生き残れるか。アメリカ、ロシア、中国これら超大国の変化の行方を私は息を呑んで見守る。これらの国々の間に立って海洋国家、民主主義国家の可能性と使命に世界の期待が集まっている。それを自覚して活かすことが我々主権者たる国民の使命だ。

◇万引きにとって日本は隙だらけと言われる。外国人の絶好な猟場となっている。ベトナム人組織がドラッグストアをターゲットにして万引きし拠点に集めベトナムに輸送している。実行役は闇バイトの手法で集めている。豊かで寛容な国を悪質な外国人から守ることは急務だ。(読者に感謝)

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2024年11月27日 (水)

「地方移住者の増加は日本を救うか。兵庫県知事の真の手腕は。17年未解決事件の怪」

◇めっきり寒くなった。深夜の走りで、昨日は初めてフードのついたコートを着た。先日までの酷暑が嘘のよう。別世界に来たようだ。混乱怒濤の一年が終わりに近づいた。東京は人間の住む所ではないと言われながら人口の集中は止まらない。その一方で地方への脱出現象が顕著になっている。綱引きというべきか。来る新年は地方への動きが強まるに違いない。国も日本再建の鍵として地方創生に本腰を入れだした。

 地方への流れを考えるとき群馬は様々な条件が整っている地である。総務省によれば地方移住の波が高まっており本県への移住も過去最多になっている。これを本格的な群馬の発展に結びつけねばならない。国県市町村の連携、それを推進させる政治行政の役割が問われる時がきた。高齢少子化という現在の最大課題を解決する糸口が生まれる可能性が存在すると思われる。

◇兵庫県知事選後の状況が騒がしくなってきた。今度は齋藤知事側が70万円を民間の会社に支払ったことが公選法に触れるかということ。この民間会社は選挙用プロフィール写真、SNSの公式応援アカウントの開設運用を手がけるなどをした。これらを無償で提供することは公選法上の「寄付」に当たる可能性がある。齋藤知事は公選法違反の事実を否認した。

 兵庫県政が大きく変化しているようだ。齋藤氏に激しく反対し机を強く叩いた市長が新知事を頭を下げて丁寧に出迎える光景が報道された。大変な修羅場を貫いた知事である。今回も毅然とした態度を貫けると思うが油断すると思わぬ墓穴を掘る。全国知事会に出席した時、齋藤知事を迎える雰囲気が報じられた。時の流れは齋藤氏に大きく味方している。兵庫の改革は地方創生とも密に繋がる。私は注意深く見守るつもりだ。

◇17年もの間、未解決だった事件が動き出した。勝田容疑者は少女殺害の別の事件で無期懲役の刑を受け服役中だった。手口が似た少女を襲う事件が相次いでいた。殺害された少女は当時小学2年生で生きていれば24歳。兵庫県警は今年5月服役中の勝田容疑者に再び事情聴取。勝田容疑者が容疑を認めた為殺人容疑で逮捕状をとった。今日、27日にも逮捕の方針。服役中の殺人犯が、自分が殺めた別の死者の影に怯え罪を告白した話を聞いたことがある。兵庫県警は慎重に捜査を進めるという。責任能力は、被害者の関係者の心情は、これらを含め捜査の行方が気に掛かる。刑務所の中には様々な地獄が埋もれているに違いない。(読者に感謝)

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2024年11月26日 (火)

「狂人にして怪人の暴走の行方は。兵庫県知事選の結果と行方」

◇いつものことだが、23日の「ふるさと塾」はしっかり準備した。大きなテーマなので空振りになることを恐れた。テーマは「トランプ再選と兵庫県知事選」。大変な盛上りは疲れを忘れさせた。兵庫県知事選の意外な結果に人々はより興味を示した。

 私はトランプを狂人にして怪人と評してきたので、予想外の圧勝にショックを受けたと切り出した。大方の事前の見方がハリス勝利であったが、その一例として9月22日の出来事がある。それは超党派78人の退役軍人や元高官が反トランプを訴えたことだった。この人たちはトランプが民主主義を危うくすると強調した。

 わずかの激戦、接戦の州が勝敗のカギを握るとして7つの州をボードに示し、中でも最重要がペンシルベニアだと強調した。この州がトランプに敗れたことは事態の深刻さを物語っていた。トランプは早々に勝利を宣言しアメリカ第一主義推進の決意を打ち上げた。トランプが説くアメリカ第一主義は単純である。この単純さが単純な人々の心を動かしたともいえるのだ。法の支配とか民主主義といった目に見えない理念より目先のパンが分かり易いのだ。第一主義の狙いは地球環境より目先の自国産業を優先させる。ウクライナ支援で多くを負担することにも消極的である。そこでウクライナは大変な危機感を抱いている。トランプは就任したら一日で停戦を実現させると広言しているが、それはプーチン侵略の既成事実を認めることを考えている恐れがあるからだ。

 私はトランプ圧勝によって生じた「トリプルレッド」に触れた。トリプルは3つ、レッドは共和党のシンボルの赤を意味する。大統領職、上院と下院、この3つが赤くなることで、議会の使命である大統領へのブレーキが利かなくなるのだ。独裁暴走を真に恐れる。

◇齋藤兵庫県知事の勝利を私は固く信じていたので、その圧勝振りを我がことのように喜んだ。話を聞く塾生は大統領選よりも大きな関心を示した。四面楚歌の中、一人で戦う決意で踏み出した。駅前で最初に立った時、集まる人は皆無であった。この人の訴えることには真実があった。その輪と波は次第に激しさを増し、最終日の状況は見渡す限りの人、人、人。立錐の余地がないとはこのことと思えた。一部のメディアは午後8時の締切りと同時に当確を出した。大差の勝利だった。なぜ勝ったのか、これから兵庫の県政はどうなるのか。塾生から活発な議論が起こり私はこのことにこの日の意義を感じた。知事の前進を信じる。(読者に感謝)

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2024年11月25日 (月)

「世界一幸せな男、大谷で沸き立つ世界。現代の武蔵大谷は世界のサムライとなった」

◇「世界中で一番幸せな男は誰だろう」、Aさんが言った。「では世界で一番死んでほしい人は?」、これはBさんである。こんな会話があった。ある日のこと何人かの人々が車座になって人間の運命について議論していた。その一コマである。Bさんの問題はひとまずおいてとなるとAさんが即座に言った。「大谷翔平の他はない」。異論はなかった。世は大谷翔平で沸き立っている。この人ほど日本人の夢をかき立て、そして世界の注目を集めている人はかつてなかった。これからもないかも知れない。開闢以来、前代未聞という表現が最適であることを大谷の雄姿を想像しながら思った。

 大リーグは日本時間22日、2024年シーズンの最優秀選手を発表。ナショナルリーグはドジャーズの大谷翔平が満票で選ばれた。23日のテレビは朝から大谷一家で持ち切りだった。一家とは満面笑みの夫妻だけではない。大谷のひざで御機嫌のワン公デコピン君も重要な一員である。渋谷駅の忠犬ハチ公は映画の主人公にもなったが、このデコピンほど脚光を浴びるワン公はいない。そうだもう一個の生命が存在する。噂では真美子さんのお腹にあかちゃんがいる。やがて現れるその子の運命を想像すると一家を包む夢は果てしない。大谷はシーズンを振り返って最も緊張した場面はデコピンの始球式だったと語る。マウンドのワンちゃんがボウルをくわえキャッチャーの大谷に向って走る姿を感心して見た。

◇大谷選手がいつも語ることから日常の全てを体調造りに掛けていることが伝わる。驚くほど長時間の睡眠をとることで知られるが、それを続けることは容易でない。私も睡眠と走りの習慣を堅持しているが自分との闘いである。大谷の意思の強さを痛感する。

 大谷を長いこと知っている人は、大谷を「野球大好き少年」と表現する。30歳の現在まで全てを野球につぎ込めたのは好きだからに違いない。好きこそ物の上手なれとはよく言ったものだ。来季は「二刀流」の復活が期待される。二刀流といえば宮本武蔵の二天一流を直ぐに想像する。吉川英治の「宮本武蔵」は私の愛読書の一つで常に手の届く所にあって心の栄養剤となっている。大谷がバッドに打ち込む姿勢は武蔵が剣に示すそれと似ている。小説で武蔵を支える女性お通が私は好きだ。現代の武蔵大谷は真美子夫人と共に太平洋を越え世界のサムライとなった。激動の波が高まる中、今年も間もなく閉じる。来年はどういう年になるか。大谷を待ち受ける強敵は何か。巌流島の佐々木小次郎を胸に私の一年も終わる。(読者に感謝)

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2024年11月24日 (日)

死の川を越えて 第60回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 正助は胸をなで下ろした。そして、さやと正太郎のことを想像した。〈彼らに会える日が来るだろうか〉。そう思うと集落の人たちのことが神のように見えるのであった。

 集落を離れる日が近づいたと感じた時、正助は、忘れていたハンセン病のことを、この集落の人たちの姿に重ねて考えた。この人たちは、遺伝はしないということを知っているのか。人間扱いされないこの病の人々が、胸を張って切られる社会は実現するのであろうか。正太郎の未来を思う時、この思いが募るのであった。

 そして、正助は湯の川地区のことを考えた。死の谷と言われ、恐ろしい川が流れている点は似ているが大きな違いがある。湯の川地区はハンセン病患者によるハンセン病患者のための村だ。

〈万場老人がハンセン病の光と言ったっけ〉。正助は懐かしく古里を思い浮かべた。ハンセン病の光があるからマーガレット・リーさんのような人が遠い外国から駆け付けてくれた。正助は今、このことを噛み締めていた。そして、目の前が開ける思いに駆られるのだった。そして、正助は心に誓った。

〈よし、生きて草津へ帰れたら、正太郎のためにハンセン病の光を広げる運動に取り組もう〉

 

つづく

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2024年11月23日 (土)

死の川を越えて 第59回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 集落を流れる川を人々は魔の川とも呼んだ。えたいの知れないものがすむ、死体を投げ込んでも上がらないと言われた。集落の前は大きな淵となっており、えぐれた奥は地底の穴によって大きな沼に通じていると信じられていた。

 人々の集落は、病気の恐ろしさとこの集落を囲む自然の不気味さが重なって、一般の人々にとって近寄り難い存在であった。

 正助の世話をする女は除といいまた、日本語を解する大きな男は朴と言って、集落を統率している頭であった。若い頃、韓国で日本人を妻として暮したことがあるという。黒くよどんだ淵に立って朴は言った。

「危ういところで、あなたもここに投げ込まれるところでした。今ごろ魔物の腹の中ですよ。は、は、は」

「何がいるのですか」

「分かりません。潜った男の話では、中に水のない岩場があり、多くの骨があったそうです。集落の年寄りはこの川の主と言っています」

 正助は朴の話に耳を傾けながら、目の前の黒い水に引き込まれるような恐怖を感じた。その時、朴が言った。

「そうそう、京城と連絡が付きましたぞ」

「え、どうなりましたか」

「あなたの怪我が回復次第、国境を越えて韓国へ連れて行きます。われわれ同病の組織があなたを受け取る手はずを進めている。

「そうですか。ところで、私の舞台は全滅したことになっているのでしょうか。私はどういう理由で韓国に生還するのですか」

「心配いりません。京城の頭は鬼と呼ばれる人ですが、なかなかの軍師です。あなたが、われわれによって土の中から救出されたことを既に日本軍に説明したそうです。日本軍は、われら組織を裏で頼りにしているところがあって、鬼の頭は軍と話せる関係を持っているのです。絶対の秘密ですがね」

 正助はこの時、京城で李というハンセン病の男から渡された紙片に、白鬼と記された文字があったことを思い出していた。うなづく正助の表情を確かめながら朴は続けた。

「日本軍に協力する地元の組織があなたを救い出して、韓国の病院に担ぎ込んだことにするから、脱走兵にもならず、本隊に復帰できるというのです」

つづく

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2024年11月22日 (金)

「石破首相の醜態は日本の恥。山本知事と兵庫県知事。徳と仁は死語か。サンパウロのオレオレ詐欺」

◇優先順位の判断は極めて重要だ。石破首相の外遊で思った。APEC恒例の各国首脳の写真撮影に参加しなかったことは重大だと改めて今考える。フジモリ氏の墓参りを優先させたためだ。フジモリ氏のことが重要であることは理解するが、そこには石破氏の個人感情も絡んでいるだろう。世界の首脳が並ぶ中に日本の代表がいない。それは日本の存在感に大きく関わることだ。日本をアピールする千載一遇のチャンスだったといっても過言ではない。

 このAPECの場面では各首脳がここぞとばかりに動き回る中、一人で椅子に座りスマートフォンを使う姿、近づいて挨拶する首脳に座ったまま対応する光景。これらを世界の人々はどう評価するか心配でならない。見場が悪いと言われる首相である。外交の稚拙さを世界に晒すことになった。

◇山本知事の言動に注目する日々である。それは新しい型の知事が出現したことと関係する。言うまでもなく齋藤兵庫県知事だ。山本知事は毅然として信念を貫き大勝した姿に感銘を抱いているに違いない。山本氏は記者会見で語った。「首長と議会の在り方に一石を投じた」、「知事は勝負できることが分かった。不信任が通っても、おかしいと思えば知事はもう一度有権者に信を問える。もし私が不信任を突きつけられたら必ず解散する。主謀者を徹底的に攻撃します」

 天下大乱の時である。国破れて群雄割拠する。兵庫の乱に、先の都知事選の石丸氏の姿にそのことを思う。世界の舞台に颯爽とした日本のパワーが登場できないことが残念だ。

◇徳とか仁という理念は日本の社会から消え去ってしまったのか。そうは思いたくない。脈々と流れている美しいものを信じる。こんな話があった。東京で大事なもの(金)を忘れたら警察に届けられ、当の外国人は奇跡のようだと驚いた。かくれた小さな美談は数多く存在するに違いない。しかし人を騙す犯罪が社会の表面で激流となっているのも事実。きらりと光る社会の宝を守らねばならない。

 詐欺は人間の心理につけ込む犯罪である。金を持つ高齢者が高額の金と共に簡単に罠にはまる。増える認知症と重なる現象か。

◇かつて県会議長として南米サンパウロで知った詐欺を思い出す。刑務所から電話して「仕事」をしている。ニッケイ新聞には「オレオレと言ったら女房電話切り」、こんな川柳も。特殊詐欺、闇バイトが広がる。世界の犯罪現象はどうなっているのか。(読者に感謝)

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2024年11月21日 (木)

「核戦争の脅し、ロシアのやり得を許すな。石破首相のマナー違反は国益を害す。北の富士の死。わいせつと教育界の危機」

◇核戦争に一歩近づいた恐怖を感じる。ウクライナは米国供与の長射程ミサイルでロシア領深く攻撃し、ロシアはこれに対抗姿勢を示した。それは核による反撃である。ゼレンスキーウクライナ大統領の決意は固い。米の承認を遅すぎると待っていた。北朝鮮兵の大規模投入、迫るトランプ政権の動き。ゼレンスキー氏もプーチン氏も有利な条件をつくって停戦のテーブルに着こうと考えている。プーチンが始めた侵略を「やり得」で終わらせるなら同じことが世界中で起きるに違いない。イスラエルの攻撃もそうだ。核に関しては、日本は特別の国。言うまでもなく広島・長崎の悲劇である。日本はこれを踏まえて世界に非核を発信する使命がある。石破種首相にその覚悟があるのだろうか。

◇石破首相の態度にマナー違反の声が上がっている。APECの会議である。首相が座ったまま各国首相と握手する姿。カナダ、マレーシア、ペルーの各代表は立っている。あの特異の風貌と相まって尊大なと受け取られる恐れがある。私のまわりには石破氏をオオサンショウウオに似ていると言う人がいる。この無気味な両生類はハンザキの異名をもつ。半分に裂いても生きる神秘な生命力の故だ。石破氏の姿は、平和でクリーンで人権を重視する日本のイメージと相容れないのではないか。外交の重要さと難しさを感じる。

 首相はこの国際化時代に於いて好むと好まざるとに関わらず役者の役割を強いられる。それが重大な国益に繋がることを考えねばならない。石破氏は千両役者か大根役者か、私には分からないが、安倍元首相の姿などと比較してしまう。

◇元横綱北の富士が82歳で死去した。私はこの人の相撲の姿はよく知らない。NHKの解説が面白いと思った。土俵の力士を率直に辛口に語っていた。私はいろいろな人物の評伝を読むのが好きだ。そこには評される人と共に評する人の味がにじんで面白い。北の富士が土俵上の力士ばかりでなく過去の力士などを語る事実から北の富士の人柄が伝わってくるのを感じた。重い病床にあることは聞いていた。

◇教職にある人のわいせつ行為が後を絶たない。校長の行為などが報じられると教育の現場はどうなっているのかと途方に暮れる思いになる。県教委は19日、公立中の2人の教諭の懲戒免職を発表した。未成年女性に対するわいせつ行為である。この種の事件は昔からあるが最近はSNSなどの登場で狂乱の渦が生じている。県教委はいじめと共に断固とした対策をとるべきである。教育の根幹が崩れていく。(読者に感謝)

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2024年11月19日 (火)

「戦略的互恵を主張する三国志の国。トランプの地滑り的勝利。トリプルレッドの懸念」

◇中国は時を超えて三国志の国である。戦略的互恵関係という用語にそれを感じる。現代の中国が複雑な国際社会で権謀術数を巧みに操る姿に時に舌を巻く。税関60%をかざして突如現れたトランプに対峙するためには日本をも利用するかのようである。

 石破首相はペルーで16日習主席と会談した。中味はよかったようである。両首脳は両国の共通利益をめぐって協力する「戦略的互恵関係」を包括に推進し建設的かつ安定的な関係を築くことを改めて確認した。習主席は更に中国と日本はアジアと世界にとって重要で二国関係を超える重要な意義を持つと語った。会談後石破首相は非常にかみ合った意見交換だったと記者団に語った。

 会談の成果といえる具体的な点がいくつかある。①外相の相互往来や閣僚級のハイレベルの人的文化交流、ハイレベル経済交流推進。②石破首相による中国の軍事活動活発化への懸念の表明。③原発事故処理水放出に関し日本産水産物輸入の全面禁止を改める方向を着実に進めること。などだ。

◇16日のミライズの私の講演「アメリカ大統領選を振り返る」は非常にうまくいったと自分で実感できた。その流れは次のようなものだ。

 初めの部分はハリスの勝利が確実と思えた理由として退役軍人や元政府高官等が「超党派」でハリス支持を表明したことをあげた。超党派なのだ。彼らは一致してトランプ当選なら民主主義は危ういと警鐘を鳴らした。

 しかし選挙戦が近づくにつれ鍵を握る7つの接戦州だけでなく全米的に意外な状況が進みつつあることが明らかになった。私は7つの接戦州とその選挙人の数をパワーポイントで示した。最重要州ペンシルベニアがまさかの敗北を喫したことは衝撃だった。やがてトランプ氏の当選が確実となりトランプは歴史的勝利と宣言。

 私はトランプ氏を“狂人にして怪人”と表現してきたが多くのアメリカ国民は激しいインフレや不法移民への恐れなどを前に現状打破の破壊力を期待してか、このような人物を大統領に選んだ。ハリスは敗北を宣言し「負けたら敗北を受入れるのが米国の民主主義の基本だ」と表明。ほっとさせる光景であった。

 私は主要各紙の主張を取り上げた。懸念されるのは上院下院とも共和党勝利となりトリプルレッドの状況になったこと。トリプル(3つ)とは、大統領・上院・下院を指す。議会の主要な使命は大統領のブレーキ役だ。独裁を許すのか。(読者に感謝)

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2024年11月18日 (月)

「ペルーのAPECに首相が参加。インカの悲劇を思う。中国の南米進出とギアリンクス。食料難の時代に」

◇ペルーで16日未明APEC首脳会議が開かれ石破首相が出席する。ペルーといえば私にとって関心の深い国である。日本との関係の一歩となった明治5年の奴隷船マリア・ルース号事件については著書に書き講演もした。世界の注目を集めた日本大使館占拠事件については事件直前の大使館を訪ね青木大使(当時)にも会った。マチュピチュの遺跡に立った時はインカの歴史を思いアンデスの人々の悲劇を想像して涙を流した。様々なことが今甦る。

 久しぶりの日本人首相の訪問に日系の人々は喜んでいるに違いない。

 石破首相は自由で開かれた貿易投資環境の重要性を強調する。南米各国はアメリカの裏庭とも言われ、その関係は深い。トランプ氏が強く打ち出そうとしている高関税政策を含めたアメリカ第一主義は石破首相を初めAPECの精神に反するものである。16日のミライズではアメリカの滅茶苦茶な高関税政策の矛盾を話したばかりである。その要点は次のようなもの。例えばアメリカでの自動車製産は年6兆円規模のコスト増になる。輸入する自動車製産の材料が高関税で高騰するためである。

◇ペルーへの中国進出に注目する。リマ郊外のチャンカイ港の開港である。中国国有企業が60%を出資。一帯一路プロジェクトの一環である。中国の力が地球の反対側にまで及んでいることを感じる。習主席はペルーに年間約7,000億円の収入をもたらすと経済効果を強調した。

 チャンカイ港開港は米中対立に影響を及ぼす恐れがある。南米諸国は伝統的にアメリカの影響力が強かった。その状況でのチャンカイ港開港である。アメリカは中国がこの港を軍事利用することを懸念しているに違いないのだ。

◇私はかつて議長としてアルゼンチンを訪ねた時の「ギアリンクス」に関する興味ある出来事を思い出す。これは岐阜県の「ギ」とアルゼンチンの「ア」、この二つをリンクさせる意味。岐阜県はこの法人を立ち上げ、広大な土地を買って食糧難に備えていた。これを語ったのは当時の飯田領事。飯田領事は岐阜県が6千万円で買った土地が2億円になっていると語った。2005年のことである。値上がりの原因は中国が大規模に土地を買っているからであった。その時も問題の深刻さを痛感したが、今改めて思う。先日館林市の須藤県会議長の集いで東大農学部教授が日本農業に於ける自給率の危機を訴えていたことを併せて思い出したからである。日本の安全保障は軍備だけではない。食料こそ命の綱である。(読者に感謝)

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2024年11月17日 (日)

死の川を越えて 第58回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「残念ながら全滅らしい。あなたを助けたことが分かれば俺たちも危ない。そこで、ここに移したのだ」

 正助は〈なるほど〉と思った。魔物の料理は不気味であったが命の綱に思えた。正助は壁にかかる不気味な動物の首に視線を投げながら椀をすすった。体力の回復が自分でも感じられた。

 ある時、戸外に一歩踏み出して驚いた。後ろには頭上を覆うように高い山が迫り、目の前に濁った川が勢いよく流れている。流れに沿って何軒か粗末な小屋が音もなく建っているのが見えた。瞬間、正助は湯の川地区にどこか似ていると思った。〈この流れは死の川湯川なのだな〉。そう思った時、人の気配がして振り向くと日本語が分かる例の男が立っていた。

「ここは死の谷ですか。そしてこれは死の川ですか」

 正助は目の前の流れを見ながら言った。

「昔から動物の死体も人間の死体も投げ込んだので、ここを人は死の谷と呼んだ。川にはえたいの知れぬ不思議なものがいて、われわれを守っていると信じられている。先日の戦いで死んだお前の仲間もこの川に投げた。そこの淵には待っている奴らがいて、時々姿を現すがわれらの仲間のようなもの。われわれの死体の処分は当局も黙認している」

 正助は、息をのむ思いで不思議な話に聞き入っていた。

 幾日か過ごすうちに、質問にぽつりぽつりと答える女の話から、正助はこの集落の様子が次第に分かってきた。沿岸州のウラジオストクの東端の一帯には、朝鮮族が住む地域があった。その中のある山奥に差別された人々が隠れて住む集落があり、それが正助が助けられた所であった。

 ここは、朝鮮族でもハンセン病を患い疎外された人々がたどり着き、ほそぼそと命をつなぐ場所であった。人々は物乞いをしたり、動物の皮をなめしたり、川の魚を売ったりして生活をしていた。また、動物の死体、不運な死に方をした人間の屍を処分するのも彼らの仕事で、町や村の行政には必要な存在でもあった。シベリア出兵の戦乱の人々の仕事はにわかに増えた。

つづく

 

 

 

 

 

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2024年11月16日 (土)

死の川を越えて 第57回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「われわれの暗号だ。少し前に日本の兵隊で同病の者が来るということが伝わっていた。お前の裸を見て、もしやと思ったが、今、はっきり分かったぞ。ここに書いてあることは、何をおいても助けよということ、また、京城の頭に連絡せよということだ」

「これを飲め」

 女が何やら液体を正助の口に流し込んだ。

「俺たちの薬だ」

 男の声が聞こえた。人々の声が小さくなっていく。正助は眠りに落ちていった。

 どれほど時間がたったであろうか。正助は腰のあたりの痛みで目をさました。

〈助かったのだ〉。正助はもうろうとする意識の底で思った。まだ体が痛む。頭がしびれている。戸の隙間から光が差し込んでいる。目が慣れると周りの壁が見えた。

「あっ」

 正助は思わず声を出した。動物の首が掛けられている。その中の一つで動物と見えたのは人の首にも見える。目をむき口を開け牙をむいている。〈本物か〉。目を凝らすと猿の首の剥製らしい。

 その時、かたりと音がして戸が開いた。顔を出したのは昨夜の女であった。

「よく眠れたか。薬が効いたようだね」

 女は無愛想に言ってから、にっと笑った。その時戸口に大きな姿が現れた。

「やあ、目をさましたな」

 日本語がよく分かる男であった。

「実は、夕べ眠っているあなたをここに移したのだ。どちらの兵隊が調べに来ても大変なのだ。あなたは、わしらの力で助けねばならない。ここは、秘密の場所で兵隊は知らん。しばらくここが病院だ」

「すみません。助かります」

「いや。不思議なことだ。あなたをこうしてお世話するのは」

「ところで、仲間はどうなったでしょうか」

 ずっと正助が気にしていたことであった。

つづく

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2024年11月15日 (金)

「身近に見た交通事故の恐怖。トランプの行方は改革か破壊か。トリプルレッドの行方は」

◇高速交通の時代、大きな交通事故が多い。高齢ドライバーの私は細心の注意でハンドルを握る。数年前なら勇み足で交差点に突入することもあった。今は違う。何か起こせば「84歳の高齢者が」と世の批判を浴びる。自分の身の安全が第一だし周りの圧力で運転禁止に追い込まれることはどうしても避けたいのだ。

 昨日も娘と運転に注意しようと申し合わせた。その直後であった。近くの上武道路で大事故があった。14日午前9時ごろトラック2台と乗用車2台の玉突き事故。私は現場を見た。乗用車は後部が吹き飛んだような状態。これを運転していた人は脳挫傷で意識不明の重体。東署はトラック運転手を自動車運転処罰法違反の疑いで現行犯逮捕した。4台の玉突き事故は自分に責任がなくも事故に遭遇する恐れがあることを物語る。改めて他人事でないことを痛感した。

◇明日16日、私はミライズクラブで「大統領選を振り返る」と題して講演をする。民主党のハリス当選を確信していたのでショックである。狂人にして怪人と見ていた私は現在の米国及び世界の状況に驚いている。意外な方向に動き出しているからだ。「ハリス氏が敗北宣言を出し、結果を受入れるのが民主主義だ」と表明したことに救いを感じた。仮に反対の事態が生じた場合、トランプ及びその支持者がどう対応したかを想像するとぞっとする。

 トランプ勝利で沸き立つ米国はアメリカ第一を強引に進め世界の秩序を破壊に導くのか、それとも強大な権力を巧みに使って新しい秩序をつくりだすのか。ナチスの再来は絶対に否定しなければならない。

 トランプの共和党は議会の上下両院も制し、メディアは「トリプルレッド達成」と大見出しである。レッドは共和党の色、赤を、そしてトリプル(3つ)とは、大統領、上院、下院を意味する。議会の大きな役割は大統領をチェックすること。トリプルレッドは議会がこの機能を失うことを意味する。

 トランプ氏の目指すものは国家の構造まで壊そうとする。これではアメリカ第一も結局は実現しないだろう。トランプと共和党は自滅する恐れもあると思う。少なくとも次は大きく後退するのではないか。日本はそれに備えねばならない。ミライズではこのような流れで話すつもりだ。アメリカの嵐が世界を席巻する状態の中で日本はぶれることなく自主性を貫かねばならない。問われるのは外交力であり、それを支えるのは国民の自覚であり批判精神である。(読者に感謝)

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2024年11月14日 (木)

「死刑制度が動く気配に期待。韓国の高齢化と高齢者の貧困化。中国人のストレス。アメリカ版ハチ公に感動」

◇死刑制度が大きく動く気配に驚く。私は廃止論者である。有識者らは廃止を含めた根本的な議論を提言した。提言は現制度には放置が許されない多くの問題があり現状のまま存続させてはならないと指摘。結論を出すまで執行停止検討すら主張する。死刑確定後の再審で無罪とされた例が5件もある。冤罪が絶えないことは真に心を痛める。死刑確定者が長期間恐怖に晒されていることは悲惨。袴田巌さんの例は雄弁にそれを語る。憲法は残虐な刑を「絶対に」禁じる。執行官の靴音が止まることに怯える日常は余りに残虐。国連は日本に繰り返し執行停止を求めている。

◇韓国の事が気になるのは朝鮮半島の歴史を思い北朝鮮の暴走を憂うからだ。北朝鮮の若者が兵士としてウクライナに送られている。彼らは命をかける意味を理解しているのだろうか。日韓の関係が大きく好転していることにほっとする。若い世代は自然に韓国の文化を受入れ楽しんでいる。韓国には高齢者を尊敬する儒教の文化もあり日本が学ぶべきことは多い。

 その韓国に現在大きな変化が進む。日本を凌ぐ高齢少子化と高齢者の貧困である。日本では一人暮らしの高齢者の問題が深刻だが韓国も同じ状況が進んでいるらしい。大切な隣国の安泰は日本の安全保障の上でも重要である。韓国の貧困率はおよそ40%で非常に深刻。厳しい競争社会で食べるのに困る高齢者は多い。ソウルの無料食事提供には連日長い列が出来る。「衣食足りて礼節を知る」は時代と国を超えた真理に違いない。

◇同じような社会不安は中国でも深刻である。車の暴走で30数人が死んだ。背景に何があるのか。習主席は厳罰で臨むと社会秩序維持に躍起である。世界の流れは多様性と個人の尊重であるが10数億の人を一党独裁の強権で統制することの難しさを想像する。ストレスに押し潰される人が出ても不思議ではない。一人っ子政策は過去のものになったが現在の若者は子どもを作ろうとしないらしい。中国の社会も高齢少子化の海に突入しつつあるようだ。かつての孔子の国は一党独裁の社会主義の下でどのように精神文化を維持し発展させていくのであろうか。

◇心温まるニュースに接した。アメリカの山中で、ある老人が怪我で動けなくなった。連れていた犬に助けを呼んできてきれと頼む。犬は走っていった。保安官が車を走らせるていると目の前に犬が立ちはだかる。犬は保安官を案内した。主人は涙を流していた。我が家のさん太ならと思う。(読者に感謝)

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2024年11月13日 (水)

「玉木不倫スキャンダルの衝撃波。人口減反転のラストチャンス。高齢一人世帯の流れは加速」

◇第二次石破内閣が薄氷を踏むような状況で発足。野党が立憲の野田代表に票を集めていれば石破内閣は生まれなかったからだ。衆院での決戦投票は30年ぶり。当面の政権運営の焦点は国民(国民民主党)が主張する「年収の壁」見直しの成否である。政局でキャスチングボードを握り輝いて見えた「国民」の玉木雄一郎氏を突然黒い雲が覆った。高松市観光大使を務めるタレントとホテルで密会していたという不倫疑惑スキャンダルである。衆院選で4倍に躍進し総理を目指すと広言した人物が謝罪の記者会見では妻に叱責された、妻に申し訳ないと強調。恐らくこの党とこの人物の発信力は低下するだろう。代表続投に異論はなかったと言われる。享楽の社会である。政治家とはそんなものという世論が背景にある。そもそも現在の政治の混乱の中心は裏金という政治不信にある。この不倫スキャンダルは政治不信の火に油を注ぐことになった。榛葉幹事長は「玉木氏なくしてこの党はない」と語った。これは何を意味するか。同党の存在が品のない矮小なものであることを幹事長自ら認めたことでもある。

◇人口減少が止まらない。1年に生まれる赤ちゃんが群馬県で9,000人割れの可能性という。全国の数は70万人を割る公算。価値観が大きく変化している。昔は結婚しないと社会的に変に見られた。塾の生徒で怪我の危険に晒された女の子が「お嫁に行けなくなる」と叫んだことがあった。現在この言葉は死語に近い。未婚と晩婚が普通のことになりつつある。政府は30年代に入るまでが少子化反転のラストチャンスとみて異次元の対策を考えているが。

◇高齢者の一人暮らしが急速に進んでいる。厚労省は12火都道府県別世帯数の動きを発表した。近い将来、高齢者の25%が1人暮らしになると推計している。群馬の状況は39.3%で全国10位。総じて少子化が主要な原因であることは間違いないだろう。同時に進む深刻な事態として認知症の増加がある。そのうちに周りを見れば認知症だらけとなるだろう。認知症といってもいろいろな程度があるが認知症を隣人として共存する時代が進むに違いない。4月に孤独・孤立対策推進法が施行された。社会全体で1人暮らし世帯を支えねばならないが地方行政の役割は格段に大きくなる。県介護高齢化は「社会参加を促す取組みや見守りのネットワークの構築などで市町村を支援するとしている。高齢者の人権問題であり健全な社会の存続がかかる問題である。民間の力を活かして異次元の取組みを期待する。(読者に感謝)

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2024年11月12日 (火)

「関税を武器にトランプはどこまで進む。試されるゼレンスキー。猛獣使いの女とは」

◇トランプ政権の陣容作りが始まった。世界最大市場が背景にある。この市場への物資の出入りを制するのが関税。アメリカはこの関税を武器に一国主義へまい進しようとしている。アメリカ第一を実現する武器の一つに関税政策を掲げているに違いない。選挙戦では全ての輸入品に10~20%の関税を提唱。中でも中国からの輸入品には60%、メキシコからの自動車には100%以上の高関税を課すとも言及。メキシコで自動車を製産しようとしているトヨタにとっては大打撃である。日本企業の米国駐在員は「トランプ氏は予測不能だ」と語る。これはトランプが何をしでかすか分からないということだ。

◇トランプになって非常に心配なのはウクライナの行方。大統領になったら直ちに戦争を止めさせると広言した。ウクライナ国民の悲願などは二の次に違いない。プーチンとの直接の取引も懸念される。ここで注目されるのがトランプ、ゼレンスキーの電話会談である。この会談に実業家イーロンマスク氏が同席したのだ。この会議でウクライナにとって明るい情報が窺われることにほっとする。ゼレンスキー氏の外交力が最大に問われる試練の場である。トランプ氏はウクライナ支援を表明した。マスク氏の宇宙企業スペースX、プーチンの侵略開始直後から衛星通信網を使ってウクライナ軍に情報を提供してきた。マスク氏を政権中枢に迎え入れようとするトランプ氏としてはウクライナ支援で歩調を合わせる必要があったに違いない。

◇トランプ大統領を猛獣にたとえる人がいる。ではトランプ氏の猛獣ぶりを抑える人物はいないのか。ここに初の女性主席補佐官に就くスーザン・ワイルズ氏がいる。この人はトランプ氏の他の側近からトランプ氏を抑えられる「猛獣使い」と期待されるという。米メディアによると選挙期間中最もトランプ氏と突っ込んだ議論をしたのがこのワイルズ氏。イーロンマスク氏との連携でパイプ役も果たしたという。彼女がトランプ氏を扱うのに適しているのは父親に原因しているという。アメフトのプロ選手だった父親はアルコール依存症で、彼女は苦労した。ワイルズ氏の長年の同僚は彼女のことを不安定な男性を導く専門家と評す。父親の経験が猛獣使いを生んだというから面白い。選挙戦を通じ演説会場の舞台袖でトランプ氏が失言するとにらみつけるような仕草をするワイルズ氏の姿が目撃されてきた。トランプ氏にこういう人間的弱点があるとすれば私には救いに思える。これから様々な緊張の場面で猛獣使いの手腕がいかに発揮されるか見守りたい。(読者に感謝)

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2024年11月11日 (月)

「ウナギやニンニク注射より力になるものとは。武蔵は私の中に。前兵庫県知事の勝利を信じる」

◇10キロコース完走者の名が新聞に載り「良くやったね」と連絡を寄せる人達もあった。私の名は男子完走者の最後。名誉のラストランナーであり人生の勲章である。改めて振り返りここに記したいことがある。体力をつけるために鰻を食べニンニク注射もした。しかしそれよりも力になったものがある。吉川英治の「宮本武蔵」である。若い頃読んだ武蔵は長い時を経て変化した姿で私の前に現れた。武蔵の変化は私の変化の結果でもある。熱い血がたぎる。それは鰻やニンニク注射の比ではなかった。

 ひたすら剣の道を求めて旅をする武蔵、それを追う美しいお通、名僧沢庵、たちはだかる強敵、武蔵を仇と狙うお杉ばば、一乗寺下り松の決闘など数々の戦い。武蔵は禅を良くし仏像を彫り絵を描いた。虚実織り交ぜた壮大な武蔵の世界。私はその中の一員になっていた。

 記録はラストであったが身体に疲れはなかった。これは日頃の修練の成果であり、鰻とニンニク注射の効果かも知れなかった。

「まさか今日は走らないのでしょう」妻が言った。マラソン大会の夕方、私はペースを落として走ったのである。来年は85歳の完走である。実際の武蔵は61歳で戦いの人生を閉じた。私の中の武蔵は百歳の関門を目指して私と共に文武の道を走り続ける。お通がいないのがちょっぴり淋しい。

◇私が強い関心を持つのは兵庫県知事選の行方である。殊に齋藤元彦前知事。出来れば齋藤氏を勝たせたい。四面楚歌、天下の大馬鹿者と轟々たる非難の中で立候補の意思を固めた。私は袋叩きの状況下の記者会見で感じるものがあった。「信じています。頑張って」という高校生の手紙は私の心を代弁するものでもあった。「おねだり知事」「パワハラ」の集中砲火もほとんどは伝聞であった。民主主義はこんなものか。トランプに熱狂するアメリカ市民と同様である。マスコミにより木の葉のように動かされる世論。共同通信の8・9日の世論調査は稲村氏が齋藤氏をわずかリードと報じた。遂にここまで来たかの感。ほぼゼロに近い状況からのスタートを考えれば齋藤氏の上昇曲線は急である。地方議員の在り方が全国的に厳しく問われている。二元代表制の下、知事と県議会は車の両輪であるべきなのに追認機関に化している。都知事で注目された石丸氏が安芸高田市の議会で「恥を知れ、恥を」と叫んだ。これは全国の地方議会にあてはまるだろう。投開票は11月17日。どんなサプライズが待ち受けるのか。待ち遠しい。(読者に感謝)

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2024年11月10日 (日)

死の川を越えて 第56回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「土の中からお前の手が伸びて動いているので生きていると分かった。われらは死人から着物をもらうのが目的だが、お前の顔を見て助ける気になった。大けがだが、助かるだろう。お前の腕を見て、我々と同病と分かった。人は、ここをハンセンの谷とも死の谷とも呼ぶ。お前を助けたことが不思議だ」

 男は上手な日本語で話した。

「これを食え、力がつく」

 先ほどの女が湯気の昇る椀を差し出した。

「あ、いたた」

 身を起こそうとして叫ぶ。

「まだ動くのは無理だろうが食え。普通の人間の食うものでねえが、こんないい薬はねえ」 別の男が言った。どろっとした何やら動物の臓物のようだ。大変な空腹に堪えていた正助は椀に口を付けてすすった。

「うまい」

 思わず叫ぶと周りからどっと笑い声が上がった。

「上着を」

 正助は手を挙げて探るように動かした。

「これか」

 女は、軍服を引き寄せて正助の手に近づけた。正助はそれをしきりにまさぐっていたが、やがて襟元のあたりから何かをつまみ出した。

「これを見て下さい」

 人々の好奇の目が一点に集中した。油紙に包まれた一片の紙。一目見て男は叫んだ。

「あっ。やはりお前は」

 驚く声。興奮した朝鮮語が飛び交っている。

「どこで、これを」

 一人が鋭く聞いた。正助は、京城の出来事、日本のハンセン病患者の集落のことを話した。

つづく

 

 

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2024年11月 9日 (土)

死の川を越えて 第55回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「何とかしてください。お願いでございます」

 さやはすがるような目で言った。

大正8(1919)年の8月、正助が属する小隊は、ウラジオストクの郊外の山奥に追い詰められていた。衆寡敵せず、日本兵は次々と倒された。砲弾の雨の中で、人々は倒れ、赤い血が川のように流れた。

「わあー、わあー」

 敵兵の狂ったような雄叫びの中に銃弾が飛び交い、硝煙があたりを覆った。正助の目の前で手榴弾が炸裂した瞬間、正助の体は宙に舞った。大地に投げ出された正助の顔を土が埋めその上を軍靴が走り抜けて行く。

 長い時が過ぎた。正助は霧の中をさまよっていた。前方に明るい光の輪が見えた。近づくと、子どもを抱いた女が招いている。

「さやちゃんだ。正太郎ではないか」

 正助は叫んだ。泳ぐように近づこうとするが距離は縮まらない。正助は必死で頑張った。その時、上の方で人の声が聞こえた。

「おお、生き返ったぞ」

 男たちがのぞき込んでいる。いろいろな物が下がる黒い天井が目に付いた。次第に取り戻す意識の中で、正助は戦いの場面を思い出していた。

〈生きている〉。そう実感すると同時に裸で横たわる自分に気付いた。手当をしていたらしい女がにっと笑った。

「あっ」

 のぞき込む女の顔を見て正助は思わず声を上げた。頬に盛り上がる黒い影は紛れもなくハンセン病の証拠。

「日本人ですか」

「いや、朝鮮人よ。ここは朝鮮人の集落。日本語、少し分かる。よく分かる人もいるよ」

 この言葉に促されるように1人の男が身を乗り出した。

 

つづく

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2024年11月 8日 (金)

「怪人トランプの驚異の軌跡。ハリスの敗北宣言に見る真のアメリカ。予算委員長のポストは野党に」

◇憎悪と分断の国アメリカ。過激な言動で大衆を煽って熱狂させた怪人トランプ氏が最大の権力を手に入れた。世界では権威主義の国が台頭を続けている。女性初の大統領が実現してこの流れを少しでも変えるかという期待は裏切られた。興奮の渦はどこに向うのか。独裁者への道をチェックするのは議会であるが大統領選と合せて行われている上院下院の選挙では共和党勝利の状況が窺われる。チェック機能が失われ、ナチスのような政治の状態が生まれることを恐れる。

◇怪人の正体をつかむためにその軌跡を巡ることにする。1946年ニューヨーク市生まれの78歳。父の不動産会社を引き継ぎ「不動産王」の異名を取る。アメリカ人好みの波乱の人生であった。経営する会社は6回破産した。人気の番組で司会を務め決めゼリフの「お前はクビだ」は流行語になった。2度の暗殺未遂をくぐり抜ける。その1つは凶弾が耳を射た。怯むことなく拳を突き上げる姿を多くの人は英雄視した。この神がかった出来事は今回の大統領選につながっているといえよう。

 トランプ支持者が連邦議会を襲撃した時「愛国者」と叫び大統領になれば恩赦すると表明した。4つの刑事事件で訴追されても動じない。かえって政治的追害と主張して支持固めに利用した。そして今回の大勝である。このような狂人振り怪人振りに何かを期待する人は意外に多いに違いない。トランプ氏の独裁化と暴走を許してはならない。アメリカ大統領トランプ氏の存在は世界及び日本に深く関わる問題だから世界の力でコントロールすべきで日本の役割は非常に大きいのだ。

◇ハリス氏は母校であるハワード大で敗北宣言をした。その中で「負けたら結果を受入れるのが米国の民主主義だ」と述べた。米国が歴史的に堅持してきた価値観からすれば潔く敗北を語るハリスこそ真の大統領に見えてくる。私は敗北宣言のハリスの横顔を見てドラクロアが描いた自由の女神を思う。フランスの七月革命に題材をとったもので自由の女神が民衆を導くありさまを描いたもの。

◇与党が過半数を割ったことで政局が緊迫してきた。衆院予算委員長のポストを野党立憲民主党が。野党が得るのは極めて異例で30年ぶりである。予算委員会は予算案の審議を仕切るばかりでなく首相を含む全閣僚が出席し国政全般の課題を扱う。委員長の権限は強く予算成立の鍵を握る。与党は大きな危機感を抱き与党大敗の深刻さがいよいよ明らかになってきた。(読者に感謝)

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2024年11月 7日 (木)

「トランプのまさかの大勝利、その行方は。アメリカ第一主義の結末は」

◇大統領選はまさかの結果となった。カマラ・ハリスの快勝を固く信じていただけにトランプの勝利に衝撃を受けた。アメリカの民主主義とは何だったのか。アメリカの正義は幻想だったのか。国家的大罪を犯した刑事被告人をあっさりと許したのか。嘘の塊のような扇動家に大衆は木の葉のように動かされたのだ。様々な思いが渦巻いた。

 6日午後4時過ぎ、最重要州ペンシルベニアでトランプの勝利が濃厚になった。アメリカの民主主義を象徴する州であり、その最大都市フィラデルフィアは独立宣言が採択され「合衆国発祥の地」と言われ、民主主義のいわば牙城であった。

 賽は振られた、歴史の歯車が動いた事実を認めねばならない。その上で今後、アメリカはどうなるのか世界及び日本はどうなるのかを冷静に考えねばならない。

◇第47代大統領の椅子を確実にしたトランプ氏は「我が国がかつて目にしたことがないような政治的勝利だ」と勝利宣言。また次のように述べた。「強く、安全で繁栄している米国を実現するまで休まない。全ては米国を第一とすることから始まる」。ここにあるようにあらゆる政策は、彼の言う米国第一が基準になるに違いない。地球環境の危機よりも自国の産業を守ろうとする。だからパリ協定の離脱も広言してはばからない。ウクライナ支援にも消極的である。ロシアとの戦いが正念場を迎えているウクライナ国民はさぞ心細いであろう。トランプはウクライナ戦争を直ちに終わらせると言っているがどのように終わらせるかが明らかだからだ。

 山本知事は「米国民は変化を望んだ」とした上で米大統領が誰になるかは貿易や環境政策など様々な面で日本だけでなく群馬県にも影響があるとした。

 私が強い関心を持ったのは敗れたハリス氏の対応であった。彼女は新大統領に祝意を伝え協力の姿勢を示した。ほっとして、さすがだと思った。反対の状況であったらトランプはどうしたであろう。暴動に備え窓や扉を封鎖した人々の光景が甦る。

 トランプはある意味怪人であり狂人であると思う。78歳にしてあのエネルギーと行動力の凄さは認めねばならない。多くの米国民は強い閉塞感の中でトランプによる変化を求めたに違いない。それが民主主義とか未来への夢でなく目先の現実的利益であっても無理はない。アメリカ第一はどう実を結ぶのか。(読者に感謝)

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2024年11月 6日 (水)

「ハリスは大勝できるか、その時は迫る。闇バイトは社会の白アリ」

◇遂にアメリカ大統領選が始まった。大統領選の特別な仕組みによりペンシルベニア、ミシガンなどごく限られた州の戦いによって結果が決まる。私はずっと強い関心を持って注視してきた。意外な結末になると思える。それはカマラ・ハリスの大勝だ。世界の民主主義と法の支配が試練の場に立たされている。暴動に備えて窓や入口を板で釘付けにする人々の姿が報じられた。狂気の沙汰である。「恥を知れ、恥を」私はこう叫ぶ。トランプのような人物を世界の指導者たるべき座につけるべきではない。もし仮にトランプが当選すればアメリカは真に世界の指導者の地位を失うに違いない。

 各調査は歴史的僅差と捉える一方で、どちらかが予想以上に快勝する可能性があるとする声もある。ドキドキワクワクだが今日6日の午後大勢が判明する可能性があるらしい。

 ここで私は先日のある報道に注目する。イギリスのある公務員のグループがボランティアでハリスを応援するというのだ。これは何を意味するのか。世界の自由主義諸国の人々がトランプの再選に強い危機感を抱いている証拠に違いない。限りなく多くの人々や団体が同じ思いで何らかの行動を起こしそれはアメリカのいわゆる無党派の人々に影響を与えるだろう。カマラ・ハリスの大勝によりアメリカが生れ変わり世界の未来の希望の灯がともることを祈りたい。

◇最近の闇バイト強盗は衝撃的である。高額の報酬、甘いエサにつられて簡単に罠にはまる若者達。無防備で社会の悪に免疫を持たない彼らの姿を見ると物質中心で精神を重視しない社会環境を考えざるを得ない。犯罪は社会の矛盾や病理を背景として生ずる。そういう意味では闇バイトに絡め取られる若者たちも犠牲者なのかも知れない。

 警察は首都圏を中心として闇バイト強盗で30人以上の実行役を逮捕した。しかしトカゲの尻尾切りで背後の指示役などにたどり着けない。秘匿性の高い通信制アプリやSNSなど犯行のツールはそろっている。一方にターゲットにされる金のある高齢者の存在だ。だからこの種の事件は容易に後を絶たないだろう。最良の防止策は徹底的に追及しこの種の事件に手を出すと人生の破滅になることを知らしめることである。指示役まで遡るのが難しいと言われるが警察は犯罪者の挑戦に対し全力を尽くすべきである。日本社会の土台が白アリに食い荒らされる現象を食い止めねばならない。(読者に感謝)

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2024年11月 5日 (火)

「84歳10キロを制す。大統領選の口火が。そしてハリスの勝利を信じる」

◇11月3日、前日の激しい雨が嘘のようできれいな朝日はこの日を祝福しているようであった。いつものように7杯の水を浴び会場に向う。ぐんまマラソンである。広い敷島公園では既に多くの人々が動いていた。初めのスタートはフルマラソン。軍団のようになって人々がスタートラインに向っている。10キロのEクラスの最前列で待つと隣りは美しい外国人女性。フランス人だという。「84歳です」、「オォー」こんな会話を交わした。10時スタート。17号に出るまでは道幅が狭くイモもみのよう。17号を田口町南まで北上する。そこを上武に沿って左折した時、「おっ」と驚くことが。「中村」と黒く大書した紙を広げている人がいるではないか。親友でふるさと塾の鈴木安雄さんである。奥さんなど仲間も数人。「いいタイムだよー、頑張れー」鈴木さんの声に勇気が湧く。国体道路に出て北上し、折り返し点近くでまた嬉しいことが。田口町の住人でふるさと塾の宮下基嗣さんである。「頑張って!待ってたよ!ビリじゃないよ!」。言葉の力は大きい。エネルギーを補給されたように折り返し点を過ぎた。その時隣りを走るベテラン走者らしい人の声が聞こえた。「この分だと第一関門は大丈夫だがそれから先はギヤを入れないと第二関門は難しいぞ。折り返しの先は下り先だから力を入れよう」。貴重な情報に力を得た。第一関門は10時55分総合スポーツセンター北入口前、第二関門は川原町交差点前だ。脚の痛みはない。死力を尽くせと自らを励ます。「あと12秒です。頑張って」と声。遂に関門を突破したのだ。前方で声を上げている。娘夫婦が経営するフリッツ・アートセンターの人々だ。目的地は近かった。万感の思いでフィニッシュのゲートをくぐった。84歳10キロを制すの瞬間であった。タイムは昨年より何分かよかった。恩師大館光子先生のお祝いのメールが届いていた。空腹を満たす昼食は美味しかった。

◇5日はいよいよ米大統領選の投開票である。世界を変える世紀の決戦に全米がそして全世界が固唾を呑む。接戦州7つの動向で決まるが最も重要な州はペンシルベニアである。その最大都市フィラデルフィアは合衆国憲法が採択された地でアメリカを象徴する。伝統的にハリスの民主党支持が多い。稀に見る接戦は無党派層が鍵を握る。世論調査は様々であるが、最近アメリカの人口には黒人が増え黒人は民主党だ。女性の権利を主張するハリスには大義がある。従来トランプ優勢のアイオワ州でハリスが逆転した。全米の郊外住民はハリスが6ポイント上回った。(読者に感謝)

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2024年11月 4日 (月)

死の川を越えて 第54回

 

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「大陸では大変なことが起きている。戦場にならぬ日本は暢気じゃが」

「正さんの身に何かありましたか」

「うむ。シベリアがいよいよ決着らしい。革命勢力の勝ちは決定的。そんな中で、日本はみじめな足掻きを続けている。正助はウラジオストクらしいぞ」

「まあ、正さんはどうなるの」

 さやが叫んだ。さやの心配はその一点にあった。

「無事を祈りたい。ウラジオストクは、日本海に面し韓国に近い大きな都市で、シベリア鉄道の終点じゃ」

 万場老人は広げた地図の一点をにらんでいる。

「みじめな足掻きとは何ですか」

 正男の顔も不安そうである。

「日本兵がシベリアに留まる理由がなくなったのに撤兵しない。世界が非難し始めた。日本の領土的野心を疑っているのだ。わしは、アメリカとの関係を心配しておる。アメリカとの関係は心配でならぬ。アメリカと仲が悪くなると日本はやっていけないのだ」

「そんなにアメリカに頼っているのですか」

 権太が言った。

「そうだ。例えば、アメリカが石油を売ってくれなければ日本は干上がってしまう。これからますます工業が発展し、ますます石油が必要となる。わしの情報ではな、シベリアで非常に多くの日本兵が無駄な命を落としておる」

「まあ、正さんはどうなるのでしょう。何とかならないのですか」

「道義なき戦いで、日本兵はわしに言わせれば犬死にじゃ。こんな戦いで正助を死なせるわけにいくものか。韓国には、前に話したようにハンセン病の人たちがいて助け合っている。ウラジオストクにも、朝鮮人のハンセン病の人々が移り住む集落があるそうだ。

そこが、なんとか助けにならぬものかと今、調べさせておる。正太郎のためでもあるからな」

万場老人はすやすやと眠る正太郎に視線を落として言った。

 

 つづく

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2024年11月 3日 (日)

死の川を越えて 第53回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

  • 虐げられた人々の群れ

 

 正助が派遣されたのは、韓国に近いウラジオストクであった。ウラジオストクとは東を治めるという意。シベリア鉄道の終点であり、日本海に面し、その名の通りロシアにとって軍事上重要な都市である。

 広大なシベリアで鉄道はロシアにとって、兵を動かし物資を運ぶ動脈であり、生命線であった。また、日本にとっては、日本がシベリアに影響力を及ぼし、レーニンを指導者とするボルシェヴィキの勢力およびこれを支援する民衆の非正規軍たるパルチザンと戦うための要衝であった。

 ボルシェヴィキとパルチザンの革命勢力はとにかく強かった。彼らには戦いの大義があったからだ。民衆を苦しめた帝政ロシアの圧政を倒し、民衆と労働者の国を打ち建てようというのだから民衆には命を捨てて戦う理由があった。

 彼らにとって外国兵は革命を潰そうとする侵略軍に他ならない。外国兵の戦う理由は、表向きは革命に対抗するチェコ軍の救出である。だからチェコ軍の引揚げ完了後は目的がなくなった。そこでアメリカなどは撤退したが、日本はなかなか引かなかった。それは日本の野心をさらけ出す格好になり、日本軍は世界から批判され、シベリアの民衆の恨みを一手に受けることになった。

 古来、民衆に支持された兵は強い。シベリアでは地の利も彼らに味方した。日本兵には戦う理由も分からなかったから、神出鬼没のパルチザンになすすべがなかった。彼らにすれば、日本軍に対し容赦する理由は一つもなかった。日本兵は各地で惨敗し、時には一団が皆殺しの目にあった。多くの日本人捕虜が皆殺しにされた「尼港事件」の小型版のようなことが各地で起きていたのだ。

 さて、その頃、群馬の草津では、一見平穏な日々が流れていた。ある日のこと、権太、正男、さや親子、こずえが万場老人を囲んでいた。老人から呼び出しが掛かるのは久しぶりのこと。

〈正さんの身に何か〉。とさやは心配であった。

つづく

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2024年11月 2日 (土)

死の川を越えて 第52回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「小河原先生は、人の体は小さい細胞というものでできている。遺伝は、この細胞の中にあるものが伝える。らい菌はこの細胞とは別のものと、絵を描いて説明してくださいました。正さん、私に難しいことは分かりませんが、この先生のおっしゃっていることは、もう絶対に間違いないと思えるのよ」

〈その通りだ。さやちゃん。同感だよ〉。

 正助は心につぶやいた。

「そして、小河原先生はきっぱりとおっしゃいました。感染率が非常に高いということは迷信だ。近い将来、ハンセン病は撲滅される、ハンセン病の撲滅は人間の回復だ、と。私が最もお知らせしたいことはこの点です。そうですね、正さん」

「その通りだ、さやちゃん」

 正助は叫んでいた。

「正さん、私は小河原先生に会った時、赤ちゃんを産む決意ができました。もう、反対の理由はありませんもの」

 正助の目の前に瞳を輝かせたさやの姿がある。正助は目の前に浮かぶさやに、満面の笑みを投げかけた。

 そして、さやの文章は続く。万場軍兵衛の縁者が住むふもとの里の枯れ木屋敷で家事と農業を手伝いながら産み月を迎えて、無事男の子を産んだとある。

「元気な男の子。どこにも異常はなく、正さん、目があなたにそっくりなのよ。名は万場老人が正太郎と名付けました」

 紙面からさやの声が聞こえてくるようであった。

「さやちゃん、やったぁ。万歳」

 正助は両手を挙げて大きな声で叫んだ。興奮の中で改めて紙面に視線を落として、正助ははっと息を呑んだ。もみじの絵かと思ったのは、赤ちゃんの手のひらではないか。

〈ふふ、正太郎の手よ〉。さやの明るい声が聞こえるようであった。

「さやちゃん、正太郎、待っていておくれ。必ず生きて帰るから」

 正助は、さやとまだ見ぬわが子の姿をまぶたに呼びかけた。

つづく

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2024年11月 1日 (金)

「同性婚否定は違憲とする判決は衝撃。地球温暖化防止は手遅れか。兵庫県知事選の行方」

◇同性婚を認めないのは違憲とする判決が出た。NHKの朝ドラ「虎に翼」には大書した憲法14条の文言がしばしば登場した。「すべて国民は法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分または門地により、政治的、経済的または社会的関係において差別されない」である。

 女性の同性愛者の関係につき、異性間の夫婦と同様な法的保護を認める東京高裁の判決。私は長いこと婚姻とは異性関係と捉え疑わなかった。それだけにこの判決に社会の大きな変化を感じる。辞書には婚姻とは男女の継続的な性的結合であり社会的に承認されたものとある。未知の世界に人権の光が当たったと見える。具体的な効果として配偶者として相続権が認められるなどがある。

 同性カップルら7人が同性婚を認めないのは憲法違反だとして国を訴えた裁判である。海外では同性婚の法制化が進み国連人権機関は日本に同性婚導入を勧告している。今回の判決の背景にはこのような動きがあるに違いない。この判決は今後日本の社会にどのような影響を及ぼすのか見守りたいと思う。

◇11月である。「沸騰」と表現された酷暑ががらりと変わった。寒暖の差は凄く身体の弱い人や高齢者は対応が大変である。地球温暖化はこの時にも進む。海面は上がり、上昇した水分は天が海と化したかと疑う程の降雨となり各地は大洪水をもたらしている。

 世界保健機関は暑さに伴う高齢者の死の急増を報じている。2023年、酷暑の中65歳以上高齢者の死が1990年代の2.67倍に達した。世界保健機関は化石燃料利用を続ける各国政府や企業に対し「世界中の人々の生存可能性を狭めている」と厳しく批判する。高齢化が加速する中地球は今後どうなるのだろうか。もう手遅れだと指摘する専門家は多い。人間が特に先進工業国が身勝手に利益を追求した結果である。各国が国連を中心に危機意識を共有して力を合わせるより他はない。アメリカは地球環境につき指導的役割を果たさねばならないがトランプのアメリカ第一主義は逆行するものだ。日本の役割も大きいことを私たちは自覚すべきだ。

◇昨日(10月31日)、兵庫県知事選が告示された。投開票は今月17日である。天下の悪人の如く言われ、袋叩きの状態だった前知事を囲む状況に変化が現れているようだ。都知事選で一大旋風を起こした石丸氏のようにネットを利用した動きが強まっているとも言われる。大衆が愚かだったのだろうか。民主主義の本質に関わる問題である。(読者に感謝)

 

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