死の川を越えて 第49回
※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。
「ところでな、人の縁というものは実に不思議じゃ。湯の川地区に韓国から来た李という男がおる。昔、ある事件に巻き込まれた時、わしが助けたことがあった。正助が韓国、京城にいることは、別のさる筋から知った。わしは気がかりでな、どうしたものかと悩んでいた時、この李のことを思い出した。正助が京城の部隊にいるが心配じゃと話したら、そういうことなら任せてくれ、恩返しがしたいと。ハンセン病の仲間と組織があるから、まさかの時には力になると言う。実はな、聞いてみるとそのハンセン病の統領は、わしとつながりのある者じゃ。そして、驚いたことに、しばらくして、李の弟が正助とひそかに連絡をとることができたと申しておる。今後の正助のことは、この筋から連絡があるはず。動静を見守るつもりじゃ」
さやは、万場老人の話を手に汗してじっと聞き入っていた。
「ところで、正助は正太郎のことを知らんわけじゃな。悪いことを予想するわけではないが、今こそ知らせる時ではなかろうか。大いなる生きる力が生まれるはずじゃ」
「わたしも、そのとをずっと考えていました。でも、どうしたら知らせることができるでしょうか」
さやは、身を乗り出し、瞳を輝かせて言った。
「それは大丈夫。正助のことを知らせてくれる、軍の人脈がある。さやさん、まず手紙を書いてごらん」
万場老人の表情が、手紙の先の光明を暗示するように緩んだ。
つづく
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