人生意気に感ず「パリ五輪で女性の歩みを見る。永瀬81キロの爽快な執念。佐渡金山世界遺産に。虎に翼と朝鮮人差別」
◇パリ五輪がメダルの数に目を奪われる中で過ぎていく。ふと気付くことはメダルの背景の壮絶なドラマ、そしてメダルに現れない出来事である。五輪が人類の矛盾と理想の狭間でもがきながらも進化を続けていることに救いを感じる。出産育児とスポーツの継続は最大の課題の一つ。今大会では育児中の選手が授乳できる工夫を実現させた。女子柔道フランス代表の黒人ママ、アグベニェヌが女児を抱く姿は胸を打つ。柔道界で出産後のメダル獲得は少ないという。アグベニェヌは出産で身体が別人になったと語る。力を発揮できなくなったのだろう。しかし娘がかわいくてその愛情に力をもらったと話すことはスポーツでメンタルの要素がいかに大きいかを物語る。銅を得て娘を抱く姿は輝いている。女性の参加が認められなかった五輪の歴史を振り返るとき、遙かな谷底から登り詰めてきた人類の歩みに感動する。
◇男子81キロ級を制した永瀬選手の爽やかな執念は胸を打つ。30歳9ヶ月の金獲得は柔道日本男子史上最年長の偉業。それを支えたのは一筋のひたむきな努力であった。母校筑波大の道場では学生と同じメニューを最初から最後までこなす。年齢や疲労で、途中で休むOBが多いという。永瀬は語る。「紙一重の試合で、俺はこれだけやってきたということが自信になる」。永瀬の心中には剣の道に命をかけたかつての武士の姿があるのかも知れない。
◇佐渡金山世界遺産登録が決まった。朝鮮人強制労働問題が壁になっていた。朝鮮半島を不当に支配した暗い歴史がある。韓国を併合し植民地とし朝鮮人の誇りと人権を踏みにじった。金山の労働は過酷を極めるものだった。ここに多くの朝鮮人が強制連行された。金山の遺跡が世界遺産として脚光を浴び暗い歴史に蓋をされるようなことに韓国が異を唱えるのは当然である。文化遺産を守るという世界遺産条約の主旨に添わない恐れも生じる。政府は韓国の理解を得る努力を重ねた。その方向は歴史を一点だけで見るのでなく総合的に判断するのだ。強制労働の事実を客観的に示して反省材料とし今後の教訓として活かすことには大きな意義があるに違いない。
◇いつしか「虎に翼」にはまり込んだ。朝鮮人差別が司法の場で扱われる。放火事件の朝鮮人被告人は公正な裁判を諦めていた。主人公寅子裁判官の異例な努力で無罪を言い渡された朝鮮人は法廷で泣き崩れた。憲法が変わってもなかなか変わらない差別の現実があった。憲法の理想を信じて前進する人々の姿が胸を打つ。(読者に感謝)
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