死の川を越えて 第24回
※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。
「これが神というものなのか」
正助はそう感じるのだった。
若者たちが不思議そうな顔をしているのを見て、マーガレットは言った。
「イエス様は、昔、王さまに逆らって十字架にかけられて死にました。イエス様は人類のために身をささげ、そして教えを示されたのです。イエス様を思えば何でも耐えられます。この世の中は矛盾でいっぱいですが、神を信じて戦うことで一歩一歩進んでいくのです。私はこの谷の病と闘うことを考えています。皆さんと会えたのも神様の力です」
マーガレットは、言葉を選び、短く区切りながら、語り掛けた。万場老人が口を挟んだ。
「西洋の神のことは、すぐには分かるまい。この国では、昔の戦国時代、ザビエルというキリスト教徒が来てキリスト教を広めた。江戸時代に入って、キリスト教は厳罰となった。明治になって、それが許され、群馬にもキリスト教が少しずつ広まっておる」
「安中の新島襄ですね」
正助が言った。
「おお、そうじゃ。昔、その教えを受けてキリスト教徒になった県会議員がおった。最近の県会には、わしの友人の森山抱月さんがいる。信者になるならぬは別のこととして、お前たち、異国の神を白い目で見たりせぬことが、この集落のためじゃぞ」
万場老人はそう言って正助たちを鋭く見据えた。
「前に話したハンセン病患者の光を育てることにもなる。マーガレット先生に協力してやってくれぬか」
うなづく若者の姿を見て、マーガレットが笑顔をつくって言った。
「皆さん、ありがとう。私の下に、岡本トヨさんという優秀な女医さんがいます。病気で心配なことは、この人にお気軽に相談なさってください。
注)作中のエリザベス・リデルはハンナ・リデル、マーガレット・リーはコンウォール・リーをそれぞれモデルにしています。
つづく
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