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2024年3月31日 (日)

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一五九

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

 

 ハバロフスク事件で闘った日本人は、今日の日本とは対極にある極限の状況下で、人間の尊厳を守るために闘った。その姿は、ロシア人の目にもまぶしく輝いて見えたに違いない。アレクセイ・キリチェンコは、それをシベリアの「サムライ」と表現し、高く評価した。「ハバロフスク事件の真実」とともに、ロシアの学者が提示した、この懐かしい「サムライ」という言葉を、私たちは今日の日本人の「心」を考える上で、重要なメッセージとして受け止めるべきではないか。戦後の日本は、日本人が大切にしてきた、伝統的価値観の多くを捨て去ってしまったが、その中には時代を超えて、新憲法のもとにおいても、日本人の心の芯として守ってゆくべきものが数多くある。サムライの心、かつてはそれを武士道といったが、これは日本人の伝統的な精神文化として、今改めて注目すべきものと私は考える。

 武士は、階級社会に於ける支配層であった。そして武士道は、この支配層のモラルであったから、今日の本質は発展して、武士階級だけでなく、それを見習った日本人全体の精神構造を支えるものとなっていたのではないか。そして、その中心は、自分という「個」を越えた社会のために貢献する志である。これは、今日の社会においても立派に通用する価値、いや、むしろ、物資万能に傾いた今日の社会において、より重視されなければならない理念である。それは、故人の存在よりも国家を尊重するという理念ではない。個人としての人間の尊重をより実現するために、言いかえれば、個人としての人間を高めるために、「義」、「信」、「孝」、あるいは「恥を知る」ということを、社会貢献に結びつける考えなのだ。

 

つづく

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2024年3月30日 (土)

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一五八

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

 また、日本人の側面として述べる、次の部分は痛烈である。これは図らずも「民主運動」を、その本質をつきながら通説に批判している。

「日本人捕虜の中に浮薄な、マルクス・レーニン主義理論を安易に信じ、天皇制打倒を先頭に立って叫ぶ者、食料ほしさに仲間を密告する者、ソ連当局の手先になって特権生活を営む者なども多く、この点も日本研究者である私にとって、日本人の別の側面を垣間見せてくれた」

 戦後半世紀意所が経ち、あの戦争がすっかり遠くなった。そして戦争を知らない人々が大半を占めるようになり、人々は平和と飽食の中で今を楽しんで生きている。しかし、日本の社会は、さまざまな難問を抱え、国の危機が叫ばれている。この危機の一因は、日本人の心の問題ではなかろうか。

 戦後、瓦礫の中から立ち上がった時、最大の目標は食べること、つまり物質的な豊かさだった。そして、遂にこの豊かさを手に入れてみると、豊かさというものは素晴らしいということになり、日本人は皆、物の豊かさに酔った。しかし、やがて物の豊かさはそれだけでは人を幸せになるものではないことを思い知らされる。

 今日の日本の社会は、物欲万能の底なし沼に足を踏み入れたようだ。物欲はさらに大きな物欲を生み、金のためには他人はおろか、妻や夫も手にかけるという信じられない事件が日常のように起こるようになった。青少年の凶悪事件の多発、少女の援助交際等々、これらも豊かさに目が眩んで正しい目標を失った今日の社会状況が背景となっている。戦後、社会を再建するための理念をしっかりと確率しなかったことのツケを今突きつけられているのだ。

 シベリア強制抑留で苦しんだ日本人の姿は、今日の私たちの対極にあるものである。衣食足りて礼節を知るという諺があるが、「衣食」不足の極限にあっては、人は人間の姿を貫くことが難しい。また、「衣食」が足り過ぎた中でも、人間の尊厳を貫くことが難しくなる。まして、人間としてのしっかりとした歩みを支える「心の文化」が定着していない場合には、このことが言える。シベリア抑留と今日の社会は、このことを私たちに教えてくれる。

つづく

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2024年3月29日 (金)

人生意気に感ず「紅麹が問う国と行政の役割。地方自治と民主主義。対等が変わる。」

◇「紅麹」問題が大きな社会の混乱を起こしている。28日の時点で4人の死者、入院は100人超に。人の命に関わる食品については情報とその提供の速さがいかに重要であるかを痛感する。今この事がひしひしと迫る。小林製薬という一民間企業の手に負える問題ではない。国民の健康と生命は社会全体の問題であり国と行政の最大の課題。小林製薬の対応は遅れ、問題発生から国が報告を受けるまで2ヶ月以上要した。林官房長官は誠に遺憾と繰り返し、武見厚労相は被害の拡大を防ぐため国の直接介入を行った。

 政府には危機感が広がっているが当然である。裏金問題で内閣支持率が過去最低の折りだ。これ程広範囲の食品販売被害は例がないという。健康は誰にとっても最大の課題。毎日食卓に並ぶ食料品と違い、サプリメントは成分が濃縮されている。赤い浄財を一般の人は救い主のように思ったに違いない。今は悪魔の使いのように見える。民間や地方行政に任せられない課題であり、国の強い権限が必要とされる分野である。

◇国と地方自治体の関係が大きく変わろうとしている。私は長いこと県議会にあったが、その間常に地方分権を意識して行動した。地方は国と対等が基本原則なのに地方の非力を痛感した。地方議会の形骸化も重なっていた。

 現在大規模な災害や感染症に絶えず脅かされる時代となった。そして私たちは専制国家の即決即断を羨ましく思い、同時に民主主義の非効率を歯がゆく思う。現在は民主主義の危機である。

 4月、地方自治法改正案の国会審議が始まる。ポイントは重大事態に於いて国が自治体に対応を指示できる点である。「対等」が変わる可能性がある。「地方は民主主義の学校」と言われる。主権者に密着しその実態に根ざしているからだ。非常時の国の介入は重要であるが地方の実情を無視する恐れがある。バランスが重要なのだ。それは、地方の力にかかっているといえる。重大事態を私たちはコロナ禍で痛感した。それを活かさねばならない。巨大災害は足音が聞こえるように迫っている。国と地方が力を合わせる必要は自明の理だ。最大の妨げは政治不信である。キックバックで右往左往し、支持率最低の政権に何を期待できるのか。

◇政治不信ともつながる重要な要素として政権交替の可能性がほとんどゼロに近い政治的閉塞状況がある。野党には力がなく多くの国民は信頼しない。政権を謙虚にさせる必要がある。そのための最大の力は国民の批判力である。(読者に感謝)

 

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2024年3月28日 (木)

人生意気に感ず「大谷を覆う暗雲は。紅麹はどこまで。石橋湛山の覚悟“機嫌取りはしない”

◇大谷選手が違法賭博問題で声明した。全世界を明るい興奮に巻き込んだ大谷現象に暗雲が立ち込めたかの感が。声明後の連続三振は心の動揺を示すものか。順風過ぎると見える流れに何か起こらねばよいがと心配していた矢先だった。6億円を超える金が自身の口座から送金されたのをなぜ気付かなかったのか。送金は何回にも渡っているに違いない。十分に説明していないことが疑惑を生んでいる。当局の捜査が本格化することは大谷の野球行動にどう影響するか心配である。「僕の口座からお金を盗んだ」と主張している。全世界の人々が推理小説を読むように関心を高めている。前代未聞の大波を無事乗り越えることを願うばかりだ。

◇小林製薬の「紅麹」の波紋が広がっている。継続的使用者の腎疾患死亡が報じられた。入院している者は106人に達した。死者は2人とも。小林製薬は死亡とサプリ摂取の間に「因果関係が疑われる」とし確認中という。また同社は紅麹の原料の一部に「未知の成分」が含まれていたとも説明。一大ミステリーである。この闇は一民間会社の手に負える問題ではない。国は同社から聞き取りを実施した。薬は健康と命に関わる。小林製薬は多くの事実を抱えている筈。国民には知る権利がある。この権利に応えるために国は大きな責任を負う。国及び大阪市は紅麹サプリの回収命令に動き出した。

◇キックバックという奇怪な出来事に端を発した政治不信の黒雲が国会を覆っている。正に国難である。保身に走る政治屋が右往左往している。骨太の本物の政治家はいないのか。

 26日県立図書館から石橋湛山の資料10数冊を借りた。次回のふるさと塾に備えるために本腰を入れ始めた。その中で湛山の本分を示す部分を確認した。塾生の目を覚ますに違いない衝撃の箇所である。湛山は岸信介を制して総理の座を得て言ったのだ。「私は(国民のために)ご機嫌取りはしない」。そして次の点は一層大胆で湛山らしい。「国民諸君、私は諸君を楽にすることは出来ない。もう一汗かいてもらわねばならない。湛山の政治に安楽を期待してもらっては困る」。聴衆は割れんばかりの拍手で応えた。ケネディの有名な同趣旨の演説はこの4年後である。ケネディは言った。「諸君は国が何をしてくれるかを問うのでなく、諸君が国に何をなすべきかを問わねばならない」小日本主義を貫こうとした。病を得て総理の座を65日で退いた。その引け際の覚悟と意味も語らねばならない。(読者に感謝)

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2024年3月27日 (水)

人生意気に感ず「二階氏のバカヤロー発言を吉田のそれと比べる。紅麹の被害はどこまで。石橋湛山を読む」

◇最長の幹事長として権勢を誇った二階氏が次回衆院選不出馬を表明した。記者会見でバカヤローが飛び出したが、かつて吉田茂が放った「バカヤロー」と比べると響きが弱く品格が格段に劣る。自民党の断末魔の声に聞こえる。吉田茂のバカヤローは国民に温かく受入れられた面があることが重要である。二階氏は85歳。日中友好協会の集いなどで登壇する姿をしばしば見てきた。支えられてやっと歩く様は哀れだった。

 二階氏を巡っては党の重い処分が下るとの予想が広がっていた。それは選挙での非公認、あるいは党員資格停止などだ。処分を免れる絶好のタイミングと評する見方がある一方与党内にも厳しい批判の声が。「実際は何の反省も謝罪もしていないことがよく分かった」と。

◇天下大乱の様相は政治の世界だけではない。大手製薬会社の「紅麹」による健康被害が拡大している。大規模な自主回収が広がる。腎疾患などの健康被害の恐れである。多くの入院患者が出ている。小林製薬が「紅麹」サプリメントの自主回収を呼びかけた影響は甚大である。県内のドラッグストアやスーパーで関連商品が続々撤去されている。

 問題はどのような健康被害かという科学的事実関係が一般人に不明なまま回収が呼びかけられている点だ。疑心暗鬼が広がっている。大手製薬会社の社会的責任は極めて大きい。

◇改めて石橋湛山を読み始めた。前代未聞の形で政治不信の嵐が吹き荒れる中、ふるさと塾で個人の政治家を取り上げて欲しいという声が上がった。政治不信に応える政治家として私が第一に思いつくのは石橋湛山である。この人の信念の中心は「小日本主義」。領土を拡大しなくとも貿易立国でやっていけるという考えだ。日本は世界恐慌を切り抜けるために満州侵略に乗り出し結果として墓穴を掘った。

 湛山の第一の特色は大衆に迎合しない点である。現在民主主義は危機にあるがその主因は政治が大衆に迎合するために衆愚政治に陥っていることである。湛山は岸信介と争って手に入れた総理大臣のイスを病を得て65日で投げ出した。波乱万丈の生涯をふるさと塾で解剖してみたい。「棺を覆って事定まる」の諺があるが湛山の評価はその死後益々高まっている。

◇健大高崎が明豊を下し準々決勝に進んだ。スタンドと一体となった若者たちの弾けるような姿が眩しい。コロナのトンネルを抜けたということもあり勝利を喜ぶ満面の笑顔は私たちに勇気と希望を与える。先日彼らが厳しく精神を鍛える姿に打たれた。更なる勝利を祈る。(読者に感謝)

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2024年3月26日 (火)

人生意気に感ず「死亡適齢期になって死とは何か。大相撲の夜明け尊富士の快挙」

◇死屍累々は死を遠くに眺める者にとっては大袈裟かも知れない。83歳の私は多くの同級生がこの世を去る状況の中で死の山を身近に感じざるを得ない。転校があったから複数の小中学校を経験した。そして高校、大学を見ると少なからずの人々が鬼籍に入っている。

 毎日書いて走り多方面の社会活動を続ける私にとり現実の自分の死は遠い存在だが、死亡適齢期の真只中にいて、死とは何か真剣に考えるようになった。死と宗教は切り離せない。死があるから天国、地獄、浄土の思想が生まれ宗教が出来たに違いない。私は宗教を持つ身だがそれは死を乗り越える力になっていない。死を怖いと思う。死は絶対的存在なのだ。死の怖さは生きる意欲と綱引きである。この意欲が弱くなれば死に絡めとられる。死の軍門に下ることをその時の心理により死を受入れるともいえる。私は迷いを抱きつつ死の山を探検の心で突き進む。

◇137人が死亡し更に増えるかも知れない。とんでもないテロ事件が発生した。モスクワのコンサート会場でのことだ。何者がいかなる動機で大惨事を起こしたのか。

 事件後過激派組織「イスラム国」が犯行声明を出した。ロシア側はウクライナとの関連を指摘しウクライナは否定している。奇怪なのは、今月7日モスクワの米大使館が情報を把握していたとされる点。大使館の公式ウェブサイトに警告文が載った。在留米国人に「48時間以内は大規模イベントへの参加は避けるように」というものだ。

 ウクライナが関与しているとしてウクライナに対しこれまでにない激しい攻撃が行われる可能性が言われている。ロシアは事前に情報を把握しながらなぜ防げなかったのか。ロシアの危機を国民に認識させ団結させるために敢えて放置したのではという見方もある。時の経過により事実関係は明らかになるだろうが、ウクライナ戦争が一層複雑になった感がする。

◇大相撲が劇的な千秋楽を迎えた。24日、重要な予定があり午後4時過ぎ、ドキドキしながらテレビを観ていた。前日尊富士が敗れ車イスで救急車で運ばれた時は、翌日の土俵は不可能かと思った。その点、元気に歩く姿を見てほっとした。尊富士は休場も考慮する重傷だったと言われる。痛み止めの注射をしてでも出たいと親方に訴えて出場が決まったらしい。乾坤一擲の大勝負に全てを賭けたのだ。豪ノ山を下した時思わず笑みがこぼれた。大相撲の世界の新しい夜明けが訪れたのだ。(読者に感謝)

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2024年3月25日 (月)

人生意気に感ず「形だけのロシアの選挙に正当性はない。バイデンの教書演説の凄さ」

◇ふるさと塾は真剣勝負の場。対峙する多くの人が私の話に静かに耳を傾ける。多くの視線が一つになって私に集中する光景には鋭い一剣が迫る感がある。

 この日のテーマは予告を少し変えて「世界のモンスター・プーチンとトランプ。そしてバイデンの役割」。モンスターの国ロシアは暗殺や投獄が渦巻く。今年は全世界で大きな選挙が行われロシアでもプーチンの再選が行われたばかり。政敵を手段を選ばず葬る国で選挙とは片腹痛い。選挙の言葉が泣くだろう。

 冒頭反体制派の指導者ナワリヌイ氏とその妻の写真を取り上げた。危うく毒殺されそうになりドイツの医療により助けられロシアに帰国し投獄された。北極圏の酷寒の刑務所で死去。妻は「殺された」と訴える。夫の遺志を継ぐ彼女はプーチンに投票しないよう呼びかけた。投票日、それに応える人々の長蛇の列が各地でできた。プーチンの圧倒的な勝利に対し自由主義陣営は「作られた選挙に正当性はない」と非難。

 プーチンはウクライナ侵攻につき国民の信任を得たとして戦争継続を強調している。プーチンのウクライナ侵攻はウクライナだけの問題ではない。次は自分のところが危ないとヨーロッパ各国、特にNATOの国々は戦戦恐恐である。その端的な現れがスウェーデン。200年以上続いた中立政策を転換させNATO参加に踏み切った。ブリンケン米国務長官は言う。「ロシアにとって、ウクライナ侵攻が戦略的に大失敗であることをこれ程示す例はない」と。これでスカンジナビア半島三国は全てNATOに参加した。

◇プーチンと比すべきモンスターはトランプ前大統領。私はトランプ問題をバイデン大統領の一般教書演説の中で扱った。その演説は画期的なものである。バイデン氏は現在のアメリカにつき南北戦争以来の内外の危機に直面していると訴えた。内なる危機はトランプの言動であり外なるそれはプーチン侵攻政策だ。バイデン氏が特に強調したのは国会議事堂襲撃事件である。トランプ氏は彼らを英雄のように称え再選されたら恩赦を与え、起訴した人々に復讐すると広言している。バイデン氏はこのような怒りや復讐は後ろ向きであり古さの極致だと指摘した。上智大前嶋教授のバイデン評価に注目が集まる。80~85点をつけた。某大新聞は、これにより11月の大統領選の結果を変える可能性があると評した。共和党内でトランプを支持した人々が反トランプを表明しつつある。私はバイデン当選に賭けると表明した。(読者に感謝)

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2024年3月24日 (日)

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一五七

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

「(抵抗運動のことを)ソ連の公文書を読みながら、捕虜の身でスターリン体制に捨て身の抵抗を挑んだサムライたちのドラマは、日本研究者である私にも新鮮な驚きを与えた」

 この文から、羊のように従順で、奴隷のように惨めで骨のない日本人と言われていたが、シベリア全体から集められた資料によれば、各地の収容所で様々な抵抗運動を起こしていたことが分かる。しかし、それらの多くは突発的なものであって、計画的あるいは組織的なものではなかったと思われる。そこで彼が最も注目するサムライたちの反乱がハバロフスク事件であった。

 アレクセイ・キリチェンコは日本人抑留者の最大のレジスタンス、ハバロフスク事件に特に触れたいとして、次のように述べる。

「これは、総じて黙々と労働に従事してきた日本人捕虜が一斉に決起した点でソ連当局にも大きな衝撃を与えた。更に、この統一行動は十分組織化され、秘密裏に準備され、密告による情報漏れもなかった。当初ハバロフスク地方当局は威嚇や切り崩しによって地方レベルでの解決を図ったが、日本人側は断食闘争に入るなど闘争を拡大。事件はフルシチョフの元にも報告され、アリストフ党書記を団長とする政府対策委が組織された。交渉が難航する中、ストライキは三ヶ月続いたが、結局内務省軍二五〇〇人がラーゲル内に強行突入し、首謀者もほとんどなかった。スト解除後の交渉では、帰国問題を除いて日本人側の要望はほぼ満たされ、その後、労働条件やソ連官憲の態度も大幅に改善された。五十六年末までには全員の帰国が実現し、ソ連側は驚くほどの寛大さで対処したのである」

 これらは、既に述べた石田三郎を代表とする日本人の闘争をソ連側の資料から見たもので、両方からの見方が一致していることを示している。

 そしてこの論文は、最後の日本人の「特性」について次のように述べている。

「極寒、酷寒、飢えという極限のシベリア収容所でソ連当局の措置に抵抗を試みた人々の存在は今日では冷静に評価でき、日本研究者である私に民族としての日本人の特性を垣間見せてくれた」

つづく

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2024年3月23日 (土)

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一五六

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

 これは、冒頭の文章であるが、その中に注目すべき部分がいくつかある。まず、抑留者の数を六十四万人、死者を六万二千人としている点である。これは、日本が発表している数より多いが、本来、加害者として少なく発表することが予想されるにもかかわらず、このような数字が発表されることが注目される。今後、多くの資料の整理研究が進めば、さらに正確な数字が分かるのではなかろうか。

 次に、ロシア人の名誉にかけて日本人抑留者に対する歴史的公正を回復したいと述べている点に、私は驚きを覚える。日本人が最も嫌いな国、あるいは最も怖い国としてあげるのが通常ソ連である。これは、日ロ戦争という形でソ連と出合って以来のことと思われる。北極につながる酷寒の大国ということで、寒さに弱い日本人はほんの言う的に恐怖感を抱くのかもしれない。その上に、過酷な強制抑留や北方領土の占領などが重なって信用できない理不尽な国というイメージが私たちの心の底に定着しているものと思う。奴隷のような苦しみを長い間加えられた抑留体験者やその家族の苦しみと恨みは、私たちの想像をはるかに越えるものがあろう。来日したエリツィンが、「謝罪の意を表します」と深々と頭を下げた姿には多くの日本人が注目したが、政治家の儀礼的な態度と受け止めた人も多いであろう。

 そこで、民間人である学者が、「民俗の名誉にかけても日本人抑留者に対する歴史的公正を回復したい」と発言していることは、ロシア人にも温かい血が流れていて、私たち日本人に対して正しい人間関係を築くためのメッセージを送る姿と受け取れて、心温まるものを感じる。

 アレクセイ・キリチェンコを動かしたものは、地獄のような環境の下でも理想と信念を捨てず、自己と祖国日本に忠実であり続けたサムライたちのドラマであった。彼は、スターリン体制に捨て身の抵抗をしたサムライの行動に新鮮な驚きを感じたのである。次の分にこのことが述べられている。

「敵の捕虜としてスターリン時代のラーゲリという地獄の生活環境に置かれながら、自らの理念と信念を捨てず、あくまで自己と祖国日本に忠実であり続けた人々がいた。― 彼らは、自殺、脱走、ハンストなどの形で、不当なスターリン体制に抵抗を試み、収容所当局を困惑させた。様々な形態の日本人捕虜の抵抗は、ほぼすべてのラーゲリで起きており、四十五年秋の抑留開始から最後の抑留者が帰還する五十六年まで続いた」

 つづく

 

 

 

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2024年3月22日 (金)

人生意気に感ず「天安門を振り返るとぞっとする。反スパイ法の恐怖。大相撲にはまる」

◇昨年暮れの天安門広場を思うと背筋が寒くなる。厳冬の日の出前、広大な広場には黒く動く多くの影があった。隊列を組んで動く兵士の姿も。久しぶりに北京訪問の機会を得た時、私は天安門に行きたいと思った。1989年の天安門事件に強い関心を持っていた私には最近の緊迫の国際状況下の天安門に惹かれるものがあった。毎朝日の出に合せて国旗掲揚の儀式があるという情報が背を押した。出国前元外務高官の知人は「スパイ容疑には特に注意を」と言っていたのだ。日中友好交流会議で多くの人と友好交流の雰囲気に浸る中、反スパイ法のことも忘れていた。今思えば会議で発言した内容もチェックされていたのかもしれない。真の友情を築くためには時には耳に痛いことも言わねばという信念があった。「日中友好条約には覇権を求めないとあります。この原点を大切にすべきです」。このような内容であった。天安門は予約制である。その上で飛行機搭乗のような検査があった。その先のボディチェックに引っかかった。両手を上げ足を開かされる。胸のゴワゴワに官憲の手がピタリと止まった。手書きの原稿用紙3枚である。「これは何か。説明して下さい」。改正反スパイ法はスパイ活動に厳しくなっていた。外国人の文書には神経過敏になっていたのだ。同行の黄さんが必死で説明する。原稿は没収され緊迫の時間が過ぎて解放されたが一歩間違えば面倒なことになっていたかも知れない。

 アステラス製薬社員が北京で拘束されてから20日で一年。そのスパイ容疑の内容は依然明らかにされない。司法手続きへの透明性は日本と格段の差である。6年とか12年とかの懲役の判決を受けた人も。多くの若者が中国ビジネスを怖がっている。この傾向は日中友好を進める上で、そしてアジアと世界の平和と安定のため日本の役割を果たす上で憂うべきことだ。

◇ブログの原稿を書き終え、午前2時40分寒気の中を走る。空には満月に近い月。いつもの所で交わす〈すかいらーく〉さんとの会話は大相撲。「尊富士が負けました。大の里も負けたね」食品会社勤務のこの人との縁で相撲文化に接近した。一瞬に全てを賭ける若者には古里があり自分との厳しい闘いがある。熱海富士の愛嬌のある表情からその生い立ちを想像すると楽しい。宇良、翔猿なども同様だ。立ち会い時の姿は侍の真剣勝負が。優勝はどうやら尊富士と大の里に絞られた。大相撲界にも変化の波が。伝統文化を支える彼らの心中はいかに。(読者に感謝)

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2024年3月21日 (木)

人生意気に感ず「プーチン再選は壮大な虚構。アメリカの再生を期待させるバイデンの教書演説」

◇ふるさと塾が明後日に迫った。テーマに繋がる世界の大事件はプーチンの再選。各紙はこのニュース一色である。主な記事を読み込んだ。約40コマを画像にして私の思いを伝える。

 極寒の刑務所で死んだナワリヌイ氏、選挙の不当を訴える美貌の妻、選挙の真似事に正当性はないと叫ぶゼレンスキー氏。これらを冒頭部の材料にして私の話は進む予定だ。

 ロシアは謎の国で不気味なモンスターである。「モンスター選挙年」の実態が形となって現れたといえる。ある新聞は「作られた歴史的勝利」と大見出しを掲げる。政敵を暗殺しその血の上を歴史の歯車が進む。選挙という言葉が泣く。こうしていつわりの既成事実が形成されていくのだ。

 ロシアの事態と対照的な出来事がアメリカ国内で進んでいる。ロシアとアメリカの出来事は呼応するように全世界を混乱の渦に巻き込もうとしている。プーチン再選と合せふるさと塾で強調すべきポイントはバイデン大統領の一般教書演説である。老いた政治家の叫びは意外な響きで胸を打つ。それは、「人は信念と共に若い」、「人は自信と共に若い」、「年を重ねただけで人は老いない」。このウルマンの詩を想起させるのだ。バイデン氏の教書演説はアメリカの建国の理想を甦らせる。南北戦争以来の分断と混乱を乗り越えようとするものだからだ。私は教書演説の全文を読んだ。それはアメリカのプーチンとも呼ぶべきトランプに天の鉄槌を加えるものだ。バイデン氏は対立を超えたアメリカの未来を目指し、トランプ氏は過去の栄光をもう一度とアメリカ・ナンバーワンを訴えこれは後ろ向きである。バイデン氏のこのような登場はアメリカばかりでなく世界にとって大きな救いである。上智大の前嶋教授は高齢を感じさせぬ本来の姿と称え80~85点の評価を与えた。鉄槌の効果と思える現象が生じ始めた。それは共和党内における重要人物のトランプ離れである。

 トランプ前政権の閣僚や高官の多くが11月の大統領選に臨んでトランプ氏を批判し支持をしないと表明しているのだ。この動きは今後加速すると私は期待する。東大の教養学部時代の中屋ゼミが甦る。中屋健一さんのゼミ「米国史」は入るのが難しい程人気があった。ここで先生はケネディ等を取り上げアメリカの開拓史、アメリカのフロンティアを熱く語った。今、バイデン大統領の一般教書の行間には中屋さんと共通する熱い情熱と理想がにじんでいる。11月の大統領選に向け理想の潮流が息を吹き返し力強さを増すに違いない。塾で訴えたい。(読者に感謝)

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2024年3月20日 (水)

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一五五

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

十 シベリアのサムライたち

 

 最近、ハバロフスク事件をソ連の学者が取り上げて評価するという、従来考えられないようなことが起きている。その一例が、ロシア科学アカデミー東洋学研究所国際学術交流部長アレクセイ・キリチェンコの「シベリアのサムライたち」と題する論文である。

 背景として大きな政治的な変化があった。その現れとして、平成三年四月ゴルバチョフ大統領が訪日して、日本人抑留者の死亡者名簿三万七千人を手渡したこと、および平成五年十月にはエリツィン大統領が訪日して、シベリア強制抑留の事実に対して、日本国民に対して「謝罪の意を表します」と深々と頭を下げたことなどがあげられる。

 特に、ゴルバチョフ大統領になって、新しい政策としてペレストロイカ(政治の再編・建て直し)およびグラスノスチ(情報公開)が打ち出され、新しい資料の公開が正式に可能になったことが重要である。

 アレクセイ・キリチェンコの論文は、モスクワの国立中央古文書保管総局に保存された資料に基づくものである。

 現在のロシア人が、しかも公的立場にある重要な人物が発掘した資料に基づいて、強制収容所の抵抗運動をどのように見ているかということは、大いに興味あることである。その主な部分を紹介したい。

「第二次世界大戦後、六十四万人に上る日本軍捕虜がスターリンによって旧ソ連領内へ不法護送され、共産主義建設現場で奴隷のように使役されたシベリア抑留問題は、近年ロシアでも広く知られるようになった。しかし、ロシア人は当局によって長くひた隠しにされた抑留問題の実態が明るみに出されても、誰一人驚きはしなかった。旧ソ連国民自体がスターリンによってあまりに多くの辛酸をなめ、犠牲を払ったため、シベリアのラーゲルで六万二千人の日本人捕虜が死亡したと聞かされても別に驚くほどのことではなかったからだ。とはいえ、ロシア人が人間的価値観を失ったわけでは決してなく、民俗の名誉にかけても日本人抑留者に対する歴史的公正を回復したいと考えている。― 今回ここで紹介するのは、私が同総局などの古文書保管所で資料を捜査中、偶然に発見したラーゲリでの日本人抑留者の抵抗の記録である」

つづく

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2024年3月18日 (月)

人生意気に感ず「女性市長の講演に満堂は沸いた。自民の解党的危機は迫る。

◇「中村先生が何かしゃべれというので実現しました」。こう言って始まった女性市長の話は満堂の人々を終始引きつけた。

 私は冒頭の挨拶で述べた。前橋の歴史、下村善太郎翁以来130年間で女性市長は初めて。前橋が時代の波に乗って大きく進化することを期待する、と。反対陣営にいた私には初耳のこともあった。彼女の出馬には皆反対したという。市政引き継ぎで山本前市長が立ち会ったツーショットも紹介された。激しい戦いの後のことで立ち会いの無い例もあるという。憎悪の情が残るのは分かる。隣りの席で誰かが呟いた。「龍ちゃんは懐が深い」。敗戦が決まった直後の姿を思い出す。「私の責任」という表現は決まり文句であるが「敗軍の将兵を語らず」という潔さが素直に現れていたのだ。前政権を基本的に継承して自分のカラーを出していくという強かさが窺えた。

 質疑の時、ふるさと塾の某氏が知事との連携につき発言した。私も注目していたことである。「全面的に協力する。小川さんの特色を出して欲しい」知事の発言を紹介しながら答えていた。県と前橋市の協力は非常に重要である。きっとうまく行くに違いない。山本知事も女性市長誕生の歴史的意味を十二分に理解しているに違いないからだ。

 群馬県日中友好協会の立春パーティ、大勢での中国大使館訪問などスケジュールが続いたが山を越した感である。これから楫取素彦の総会に取り組む。御礼の挨拶の中でふるさと塾に顔を出して欲しいと言ったらにっこりと頷いていた。

◇小川市長の講演はミライズクラブの行事として行われた。講演後、階を移して食事をしながら次回の計画等を話し合った。市長の議会に於ける所信表明、議員の質問等を踏まえて市長の今後の動きを検討しようという意見が出た。市長への政策提言も検討されるかも。

◇小川市長の話を聞きながら自民党国政の危機を思った。トリプル補選告示まで一ヶ月を切った。東京15区、島根1区、長崎3区である。この中、東京と長崎で自民は独自候補を立てられず、不戦敗の方向だ。残るは細田前衆院議長の死に伴う島根1区。元財務官僚は背水の陣である。自民党が伝統的に強固なところであるが予断を許さない。前橋の市長選は他でも地殻変動が容易に起こり得ることを物語る。

◇春場所は荒れる。横綱が土俵から消えた。大関霧島が連敗。思わず声援を送るのは熱海富士、大の里、翔猿、宇良等、一瞬の勝負に全てをかけている。(読者に感謝)

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2024年3月17日 (日)

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一五四

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

 瀬島龍三は、その回顧録で次のように述べている。「この闘争が成功したのは国際情勢の好転にも恵まれたからであり、仮にこの闘争が四、五年前に起きていたなら惨たんたる結果に終わったかもしれない」

 このハバロフスク事件は、昭和三十年十二月十九日に発生し、ソ連の武力弾圧は、翌年三月十一日のことである。この間、鳩山内閣によって、日本人収容所の運命のかかった日ソ交渉が行われていた。首相鳩山一郎が自らモスクワに乗り込んで、日ソ交渉をまとめ、日ソ共同宣言の調印が行われたのは、昭和三十一年十月十九日のことであった。この宣言の中で、この条約が批准されたときに日本人抑留者を帰国させることになっていた。そしてこの年十一月二十七日、条約案は、衆参院本会議を通過した。ソ連はただちに動き、最終の帰国集団、一千二十五人の抑留者を乗せた興安丸はナホトカを出港し、十二月二十六日舞鶴港に入港した。

 ハバロフスク事件の責任者、石田三郎の姿もその中にあった。一足先に帰国していた瀬島龍三は、平桟橋の上で、石田三郎と抱き合って再会を喜びあった。死を覚悟して戦った日本男児石田三郎の目に祖国の山河は限りなく温かく映った。

つづく

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2024年3月16日 (土)

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一五三

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

 石田の言葉を遮って発言したポチコフ中将の言葉には、立派な文章だと褒めている様子が言外に感じられた。

「しかし」

 とポチコフ中将は、鋭い目で石田を見据え、一瞬、間をおいて強い語気で言い放った。

「お前たち日本人は、ロシア人は入るべからずという標札を立ててロシア人の立ち入りを拒んだ。これはソ連の領土に日本の租界をつくったことで許せないことだ」

 これは、石田が拉致されるのを阻止しようとする青年たちが、自分たちの断固とした決意を示すために収容所の建物前に立てた立札を指している。

 石田は、自分が厳しく処罰されることは初めから覚悟していたことであり、驚かなかった。ポチコフの言葉には、処罰するということが含まれているのだ。石田が黙っていると、ポチコフ中将は、今度は静かな声できいた。

「日本人側にけが人はなかったか」

「ありませんでした。お願いがあります。私たちの考えと要求事項は、この日のために、書面で準備しておきました。ぜひ調査して、私たちの要求を聞き入れていただきたい。このために日本人は、死を覚悟で頑張ってきました。私の命はどうなってもいい。他の日本人は処罰しないでいただきたい」

「検討し、おって結論を出すから、待て」

 会見は終わった。形の上では、ソ連の武力弾圧に屈することになったが、日本人の要求事項は、事実上ほとんど受け入れられたのであった。その中心は、病人の治療体制の改善、即ち、中央の病院を拡大し、医師は外部の圧力や干渉を受けずにその良心に基づいて治療を行うこと等が実現された。また、第一分所を保養収容所として経営し、各分所の営内生活一般に関しては日本人の自治も認められた。その他の日本人に対する扱いも従来と比べて驚くほど改善された。ただ、石田を中心とした闘争の指導者に対しては、禁固一年の刑が科され、彼らは別の刑務所に収容された。

つづく

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2024年3月15日 (金)

人生意気に感ず「県立高校で憲法を語る。定時制から東大へと紹介される。同性婚を認める判決に驚く」

◇14日は嵐のような一日だった。いくつもの日程が重なった。力を入れて臨んだのは県立清陵高校の「主権者教育」。通信制もあり複雑な社会問題とも繋がる存在と漠然と捉えていた。憲法の話を求められたとき正直惑った。固い理屈にも触れねばならない。話が伝わるだろうか。担当の先生の言葉が後押した。「消極的な生徒が多い、社会で前向きに生きる力を与えて下さい」。100人を超える生徒が体育館に集まった。私のプロフィールが紹介される。「本校の前身である前橋高校夜間部で働きながら学び東京大学へ進まれました」。当時の状況が甦る。「午後5時45に始まります。疲れて眠っている生徒もいました。伊勢崎のサンデンから通う熱心な仲間もいました」

 マッカーサー元師の写真を指して言った。「憲法はアメリカの強い圧力によって押し付けられたから変えねばならないという意見がありますが、問題はその中味です。素晴らしいものでした。百条に及ぶその内容を一つのストーリーとして語ります。最初は天皇で、天皇は象徴です」。私は象徴の意味を説明する。続いて画面に登場するのは自衛隊と艦艇。ここでは9条を取り上げた。「憲法は陸海空軍は持たないと定めます。憲法と現実が大きく食い違っています。このままで良いのかが激しく議論されているのです」。

「日本国憲法の柱として最も大切なことは何か。それは人間の尊重です」として各種基本的人権を説明した。

◇話はこの国を支える基本的な構造、三権分立に進む。立法権は国会、行政は内閣、司法は裁判所にと。国会では衆院と参院の役割とその違いについて、内閣では群馬県出身の4人の総理にも。そして司法では最高裁と前橋地裁の写真も紹介した。そしてこのような組織と仕組みの究極の目的は人間の尊重を支えるものだと強調した。

◇生徒は私語もなく熱心に耳を傾けてくれた。私はこの学校に対する先入観を拭い認識を改めた。質の高い質問もあった。複雑で難しい社会を生きる若者の話が刺激となり後押しになることを願った。高揚した気持ちだった。83歳で毎日走る日常を語ると拍手が起きた。

◇社会もここまで来たかと驚く。札幌高裁は同性婚を認めないのは違憲と判断した。憲法24条1項は「結婚は両性の合意」に基づいて成立すると定めるが、人と人との自由な結び付きとしての婚姻も保障されているとした。社会は進歩しているのか崩壊の道を辿るのか惑う。(読者に感謝)

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2024年3月14日 (木)

人生意気に感ず「女性市長我がミライズで講演。外国人スピーチコンテスト。高校で主権者教育を。若者を𠮟咤」

◇13日市役所で女性市長小川さんと会った。16日ミライズでの講演の打ち合わせだ。市長との面会は久しぶり。市長選では前市長側で激しく戦った仲。今は前橋の発展のため力を合わせることで一致している。「市職員には肩書きでなく“さん”づけて呼んで欲しいと望んでいますが私は何と呼んだら」と言ったら「先生は呼び捨てで結構です」と笑顔。県議時代が一期重なっており交流があった。楫取素彦の会で一緒に萩市へ行ったこと、ふるさと塾に出席したことも話題になった。講演は16日(土)11時からロイヤル9階。テーマは女性市長としての抱負が中心。参加は自由。立ち見が出たらお許し願いたい。

◇13日、理事を勤める日本語学校で外国人日本語弁論大会の審査員として審査と講評を行った。テーマは「共生」。発表者は7人。若者たちは激動の日本で何を学んだか私の期待は高かった。キルギスの男性は「人間とは何か、皆さんも考えて下さい」と呼びかけた。アリストテレスに触れていたのには驚いた。講評で言った。「共生は日本人にとって、また世界の人々にとって重要なテーマであり課題です。皆さん、よく考えておられることに感動しました。共生を進めるには人間への理解が必要です。古代ギリシャの哲学者アリストテレスの登場には驚きましたよ」と。

◇14日はある高校で1時から「主権者教育」をテーマに講演する。「憲法をやさしく説明して欲しい」と要望があった。多くの映像を用意した。原爆のきのこ雲とパイプをくわえたマッカーサー元師がタラップを下りる姿で始まる。「原爆で無条件降伏し、アメリカの支配下で日本国憲法は実現しました」と語るつもり。

 クイズ形式の画面も。「天皇は国の   である」、「主権は次のどれか」等。自衛隊員及び艦艇の写真は9条の戦争放棄の材料。基本的人権を説明した後国会議事堂の写真が。ここでは衆院、参院の違いと役割を語る。福田赳夫をはじめ4人の元総理の顔が並ぶが若者は果たして知っているだろうか。三権分立の流れであるが、立法権に続く司法権では最高裁と前橋地裁の写真が。地方自治では群馬県庁及び前橋市役所を登場させ、山本知事と初の女性市長を語るつもり。

◇主権者教育として力を入れるのは15条が定める公務員の選挙。主権者として登場する非常に重要な場面なのに投票率が極めて低い。選挙の歴史に触れて彼らを𠮟咤しよう。日本が沈没していくのを自覚しないのは茹蛙と同じではないかと。(読者に感謝)

 

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2024年3月13日 (水)

人生意気に感ず「バイデン氏は明るい未来を語る。南北戦争以来の対立の先は。平等実現の税制。モンスター選挙の行方」

◇バイデン氏の叫ぶ姿はウルマンの詩を想起させる。「人は信念と共に若く疑惑と共に老ゆる」。最後に総括として教書のポイントを書く。バイデン氏の前向きな姿に対しトランプ氏は過去の栄光にしがみつく。勝敗は歴然だ。

アメリカの歴史は建国以来対立を乗り越えフロンティアを開拓する歩みであった。バイデン氏は現状を南北戦争以来の深刻さと訴える。対立の象徴は3年前の議事堂乱入事件。トランプ氏は民衆を扇動した。バイデン氏はこの点をこう訴える。「米国の民主主義の喉元に短剣を突きつけた」、更に主張する。「米国民は倒れてもまた起き上がる。我々は突き進む。それこそが米国だ。あなたたちのお陰で米国の未来は明るい」。議場の民主党の議員たちは総立ちになって賛意を示した。議場の様子が我々の胸に伝わってくる。祖先たちがメイフラワー号でプリマスに上陸したことが示すようにアメリカは移民の国。その流れを障壁で阻止するのは無策という他はない。

◇バイデン大統領はアメリカが世界最強の経済大国であり続けるためには世界最高の教育システムが必要だと訴える。そして大学の学費を安くしたい、歴史的黒人大学やヒスパニック系など少数派に配慮した教育機関に過去最高の投資を増やし続けようと呼びかける。これは平等の主張であり、平等こそ人間尊重の根幹なのだ。バイデン大統領は公平な税制度を実現しようと決意を述べる。「アメリカには1,000人の億万長者がいる。その平均連邦税率はたったの8.2%。私はそれを25%にすることを提案する。それにより今後10年間で5,000億ドルの税収が見込める」

 バイデン大統領はトランプ氏が恨みと復讐に燃えていることを厳しく指摘する。恨みとは4つの事件で刑事訴追されていることを指す。トランプ氏は当選したらその報復として「政敵を訴追する」と宣言している。滅茶苦茶な子どもの喧嘩である。

◇前嶋上智大教授は今回のバイデン氏の教書演説に80~85点の評価を与えた。そして、現在トランプ氏が優勢に見えるのは、これまで実質的に共和党しか候補指名争いの選挙戦が行われていなかったためと分析する。

 アメリカ大統領選はアメリカだけの問題ではない。教書を読んでアメリカの民主主義は健在の根をもっていると感じることができた。これに対してロシア、プーチンの選挙は偽物である。「モンスター選挙年」が世界を巻き込んで動き出した。歴史的世界劇場に興味は尽きない。日本の役割は益々重要である。(読者に感謝)

 

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2024年3月12日 (火)

人生意気に感ず「ルーズベルトの議会演説とバイデン。元CIA長官は訴える。プーチンの狂気」

◇バイデン氏は1941年1月のルーズベルト大統領の有名な議会演説を引き合いに出した。この年欧州ではナチスのヒトラーが台頭し戦争が荒れ狂っていた。ルーズベルトは1月6日の年頭教書で議会を目覚めさせようとした。ルーズベルトは「我が国の歴史で前例のない時に演説している」と訴えた。バイデン氏はこれを踏まえて叫んだ。「私はルーズベルトと同じ議場にいる。今米国の歴史で前例のない時に直面している。私の目的は議会を目覚めさせ、米国の人々に警告するためだ。この議場でプーチンの侵略がウクライナで止まると考える人がいたら、私は保証する。プーチンの侵略は決して止まらない」

 バイデン氏の警告はどうなるのか。プーチンの侵略を阻止するためには議会のウクライナ支援予算の議決が必要である。下院ではトランプ支持の共和党が多数なのだ。議会の行方が大いに懸念される。

◇ここに注目すべき主張がある。元CIA長官にして国防長官だったレオン・パネット氏である。米議会で予算がつっかえているが、これにはウクライナ侵攻の膨大な額が計上されている。パネット氏は最終的に超党派で通過するだろうと見る。その理由はプーチンの手助けをしていると非難されるのは共和党が最も避けたいことだからという。トランプは「プーチンに好きにさせればいい」と言った。この発言はトランプの異常さを示すものだと思う。パネット氏は50年以上の諜報と防衛に取り組んで学んだ者としてプーチンを絶対に信用すべきでないと訴える。

 トランプの異常さを示す事実がある。それはバイデン氏の教書演説中50回超の感情的と思える批判の投稿をSNSで行ったことだ。「最も怒りに満ち情熱的でない教書演説だったかも知れない」、「我が国の恥だった」とバイデン氏を糾弾したのだ。問題はこのような人物が有力な大統領候補にあがっていること。私は第二次大戦下のヒトラーの演説とそれに熱狂するドイツ国民を想像する。ドイツのように優れた文化の国でも追い詰められるとあのように狂うのだ。日本はあの時、ナチスドイツの快進撃に目を奪われ乗り遅れるなと錯覚した。1940年に独伊と三国同盟を結び翌年真珠湾を攻撃し奈落の底に落ちるように破局に向った。歴史は繰り返す。同じような世界情勢下で日本の役割が問われている。トランプ氏はインド、オーストラリア、日本などとの連携を深めることを訴えている。あの時と異なるのは平和憲法の存在だ。絶好のカードを活かす時である。[ 続く ]

(読者に感謝)

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2024年3月11日 (月)

人生意気に感ず「歩け歩け大会で人々と触れ合う。バイデン氏の一般教書を一気に読む。ロシアの大失敗だ」

◇天気晴朗なれど風冷たし。ふれあい歩け歩け大会に参加した。薄化粧の赤城山から吹き下ろす風は肌を刺すようだ。地域の行事には長いこと顔を出していない。深夜、走る時星がきれいだった。高揚した気分で鍋割を見た時なぜか地域の行事に参加したくなった。申し込んでいなかったが欠員があって参加を認められたのだ。芳賀体育協会が主催で参加者はおよそ100人。コースは約7.3キロ。顔見知りもちらほら。何歳ですかと訊かれ83歳と答えると驚いた目をする。しかし久しぶりですと声をかけた人はもう少しで90歳とか。妻に先立たれ毎日歩くことを日課にしているという。この人は歩きながらこの小川ではセリが採れ、今食べ頃だと教えてくれた。行列は細い道に入る。「こんなところ初めて」という声が聞こえる。私はどんな細い道も懐かしい。約30年の選挙で行かぬ所はないのだ。ある老人が隣りに来て話しかけた。「満州生まれ、父はシベリア強制抑留の生き残りです。100歳で天国へ、母は私を抱えて引き上げた人で98歳で亡くなりました」。どうやら拙著「望郷の叫び」を知って話しかけてくれたらしい。聞きながらシベリア強制抑留のことに話がはずんだ。「ロシアは恐い国です」と話すとしきりに頷いていた。

◇バイデン大統領の一般教書演説を一気に読んだ。かつて大学で中屋健一さんの米国史のゼミで理想の国アメリカに胸をときめかせた私は最近のアメリカに失望していた。教書の行間にはバイデン氏の理想と情熱が溢れている。下院の本会議場で民主党議員は総立ちになった。力強くアメリカの理想と明日を語る姿は高齢への不安を払拭させるものだった。バイデン氏は教書で訴える。「私たちを導く北極星は全ての人は平等で生涯を通じて平等に扱われるべきと教えている」と。彼は更に叫んだ。「私には全ての米国人のための未来がみえる。全ての米国人のための国家が見える」と。

 この点トランプの後ろ向きな姿勢と対照的である。なぜならトランプはアメリカナンバーワンを唱え「もう一度アメリカの栄光を取り戻す」と訴える。これは明らかに後ろ向きであるからだ。教書を述べる下院議場で特筆すべき光景がある。それはスウェーデンのクリステション大統領が招かれバイデン氏が歓迎したことだ。スウェーデンは7日NATOへの正式加盟が認められた。プーチンのウクライナ侵攻が招いた結果である。ブリンケン国務長官はロシアにとって戦略的大失敗であることをこれ程示す例はないと語った。教書関連は続く。(読者に感謝)

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2024年3月10日 (日)

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一五二

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

「我慢しろ、手を出すな、すべてが無駄になるぞ」

 引きずり出されてゆく年配の日本人の悲痛な声が、ソ連の怒鳴る声の中に消えてゆく。柱やベッドにしがみつく日本人をひきはがすように抱きかかえ、追い立て、ソ連兵はすべての日本人を建物の外に連れ出した。収容所の営庭で、今、改めて勝者と敗者が対峙していた。敗れた日本人の落胆し肩を落とした姿を見下ろすソ連兵指揮官の目には、それ見たことかという冷笑が浮かんでいた。

 ソ連がこのような直接行動に出ることは、作業拒否を始めたころは常に警戒したことであるが、断食宣言後は、まずは中央政府の代表が交渉のために現れることを期待していたので、予想外のことであった。

 ついに会見のときが来た。石田三郎は、ポチコフ中将の前に立っていた。中央政府から派遣されたこの将官は、あたりをはらう威厳を示してイスに腰掛けていた。石田三郎は敬礼をし、直立不動の姿勢をとって、将官の目を見つめていた。しばし緊張した沈黙の時が流れた。この人物がソ連の中央政府の代表か。そう思うと、かつて満州になだれ込んだソ連軍の暴虐、混乱の中に投げ込まれた兵士や逃げ惑う民間人の姿、そして長い刑務所や収容所のさまざまな出来事が、瞬時に石田の胸によみがえった。

 再び、戦いに敗れてここに立っていると思いながらも、今、ポチコフ中将を前にして、気付くことがあった。それは、兵士が収容所に踏み込んだ時、白樺の棍棒を持ち、銃は使わなかったことだ。石田の胸にずしりと感じるものがあった。石田三郎は、日本人の誇りを支えにして貫いてきたこの長い闘争を改めて思った。こみ上げる熱いものを抑え、彼は胸を張って発言した。

「私たちがなぜ作業拒否に出たか、そして、私たちの要求することは、中央政府に出した数多くの請願書に書いたとおりでありますが、改めて申し上げると・・・」

「いや、主なものは、読んで承知している。改めて説明しなくもよい。いずれも、外交文書としての内容を備えている」

 

つづく

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2024年3月 9日 (土)

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一五一

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

 収容所の提供する食料を拒否し、乾パンを一日一回、一回に二枚をお湯に浸してのどを通す。空腹に耐えることはつらいことであるが、零下30度を超す酷寒の中の作業をはじめ、長いこと耐えてきたさまざまなつらい辛苦を思えば我慢することができた。そして、これまでの苦労と違うことは、ソ連の強制に屈して奴隷のように耐えるのとは違って、胸を張って仲間と心を一つにして、正義の戦いに参加しているのだという誇りがあることであった。

 一週間が過ぎたころ、収容所に異質な空気がかすかに漂うのを日本人の研ぎ澄ました神経は逃さなかった。静かな緊張が支配していた 

 三月十一月の午前5時、異常事態が発生した。夜明け前の収容所は、まだ闇につつまれていた。凍土の上を流れる気温は零下35度、全ての生き物の存在を許さぬような死の世界の静寂を破るただならぬ物音に、日本人は、はっと目を覚ました。人々は反射的に来るものが来たと直感した。

「敵襲」、「起床」

 不寝番が絶叫する。

「ウラー、ウラー」

 威嚇の声とともにすさまじい物音で扉が壊され、ソ連兵がどっと流れ込んできた。

「ソ連邦内務次官ポチコフ中将の命令だ。日本人は、戸外に整列せよ」

 入口に立った大男がひきつった声で叫び、それを並んで立つ通訳が日本語で繰り返した。日本人は動かない。ソ連兵は手に白樺の棍棒を持って、ぎらぎらと殺気だった目で大男の後ろで身構えている。大男が手を上げてなにやら叫んだ。ソ連兵は、主人の命令を待っていた猟犬のように突進し、日本人に襲いかかった。ベッドにしがみつく日本人、腕ずくで引きずり出そうとするソ連兵、飛び交う日本人とロシア人の怒号、収容所の中は一瞬にして修羅場と化していた。

「手を出すな、抵抗するな」

 誰かが叫ぶと、この言葉が収容所の中でこだまし合うように、あちらでもこちらでも響いた。長い間、あらゆる戦術を工夫する中で、いつも合い言葉のように繰り返されたことは、暴力による抵抗をしないということであった。今、棍棒を持ったソ連兵が扉を壊してなだれこんだ行為は、支配者が権力という装いを身につけて、その実むき出しの暴力を突きつけた姿である。暴力に対して暴力で対抗したなら、さらなる情け容赦のない冷酷な暴力を引き出すことは明らかなのだ。そうなれば、すべては水の泡になる。予期せぬ咄嗟の事態に対しても、このことは日本人の頭に電流のように走った。

つづく

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2024年3月 8日 (金)

人生意気に感ず「トランプ再選で世界はどう変わるか。またトランプの弱点は。高校で憲法を語る。その工夫は」

◇トランプ氏の圧勝で世界が大きく変わろうとしている。11月の大統領本選でトランプ氏が勝てばのことであるが世界がどう変化するのか予想しておかねばならない。日本も私たちも世界劇場にどっぷり浸かっているからだ。

 トランプ氏は超大国としての真の威信よりも目先の国益を優先させアメリカナンバーワンを絶叫している。ロシアのウクライナ侵攻につき「好きにやればいいと勧めている」と発言した。プーチンが実力で奪った領域を認めることになるだろう。トランプ氏を支持する米国民は海を隔てた遠い国のことと思っているが、ウクライナと地続きの西欧諸国は、次は自分の国が脅かされると必死になっている。

 トランプ氏が直ぐにも着手すると見られているのが移民政策だ。国境を閉鎖すると宣言している。前政権の時メキシコ国境に実際障壁を造りだして世界を驚かせた。

「スーパー・チューズディ」を終えてトランプ氏の弱点も浮き彫りになった。ヘイリー氏は敗北したものの各地でかなりの得票を得ていることがそれを物語る。そして4つの刑事裁判の行方である。有力メディアの世論調査は面白い質問をしている。「もしトランプ氏が有罪になったら」という質問だ。バイデン氏45%に対しトランプ氏は43%だった。トランプ有罪の事実はヘイリー氏支持者をバイデン支持に向わせるに違いない。とにかく熱狂の渦中にいる多くの米国民は冷静さを失っているだろう。かつてナチスのヒトラーに熱狂したドイツ国民の姿を重ねてしまう。

◇来週木曜日、ある高校で「主権者教育」というテーマの講演を依頼された。憲法の話を易しくと言われている。幾つもの映像を用意した。国会議事堂、昭和天皇、平成天皇、群馬県の4人の元総理大臣等々だ。議事堂では国会が衆参両院から成ること、国会は国権の最高機関で唯一の立法機関であること、総理大臣は国会議員の中から国会の議決で指名されること等だ。4人の映像を示し「これは誰ですか」と生徒に答えさせるつもり。天皇のところでは「象徴」の意味を説明する。クイズ形式の質問映像も準備した。『第14条すべて   は法の下に   である』という風に。パイプ姿のマッカーサーの写真は憲法が占領下アメリカの強い影響下でつくられたことを説明するためである。自衛隊の姿は憲法9条を話題にするため。憲法など恐らく深く考えないと思われる若者がどんな反応を示すか楽しみだ。私にとって一つの挑戦でもある。その結果は後日このブログで報告しようと思う。レジュメを予め高校に送るつもり。(読者に感謝)

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2024年3月 7日 (木)

人生意気に感ず「女性市長の所信表明は。小川さんと呼ぼう。モンスター選挙の行方は」

◇歴史的な女性市長の誕生で前橋がどう変化するかしっかり見守っていきたい。今月16日、私が代表を務めるミライズクラブで小川市長が講演をすることになっている。組織を挙げて戦った現職を大差で破って実現した市長である。大地が動いたと感じた。その要因は信じ難いような自民党への政治不信である。私のある友人はキックバックが生みの親という。女性の時代の叫び声も大きな後押しになった。しかし前橋市の課題は山積し前途は容易ではない。前橋城の主はいかなる決意で一歩を踏み出すのか。そんな思いで市長訓示を読んだ。初登庁での市職員への所信表明である。

 第一声は言う。「赤ちゃんからお年寄りまでみんなが繋がって支えられる社会、笑顔が溢れる前橋にしたい」。そのために「私が大切にしている3つのことを伝えたい」と発言。それは、①市民目線を大切にすること。②風通しのよい組織づくり、③明るく元気に、である。

  • につき「市民のためになるかどうか」が判断基準であること、今までこうだったからではないと強調し、そのために市民の声を聞く機会をこれまで以上に大切にしたいと訴えた。
  • の風通しのよい組織につき、職員は報告・連絡・相談を密にとり市長や副市長が知らなかったということがないようにして頂きたい、と述べた。そうでなければ正しい判断が出来ないというのだ。
  • につき、職場の皆さん同士、あるいは市民に接するとき大きな声で挨拶して欲しい。それだけで市役所の雰囲気が変わる。市役所に来たら元気が出たよ、安心したよ、そう思ってもらえる市役所にしたい。女性市長らしい呼びかけである。

 県議時代から小川氏とは密な行動をとってきた。この人は肩書きでなく「さん」で呼んで欲しいと言っている。近く16日の打ち合わせで新市長と会うが、「小川さん」と呼ぼうと思う。私にとっては自然な姿勢なのである。

◇残念ながらトランプ氏の勢いが止まらない。スーパーチューズデイも大勢は決した感がある。しかし東部のバーモンド州では敗れた。アメリカだけの問題ではない。大統領選は11月である。23日のふるさと塾はロシアとアメリカの政治状況とその影響が中心になる。今年は「モンスター選挙年」。モンスターの実態が明らかになりつつある。ロシアは米大統領選前にウクライナ戦の決着をつけようと躍起という。新米大統領の対応が分からないからだ。(読者に感謝)

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2024年3月 6日 (水)

人生意気に感ず「多胡碑記念館で書展を開く意味。モンスター選挙年のロシアとアメリカ。性被害の告発者」

◇早朝8時、多胡碑記念館に向う。群馬書作家展の開会式は10時である。来賓の挨拶が予定されていた。中山峠を経て目的地に近づく。駐車場から記念館までは少しの距離。多くの人がぞろぞろ歩いていた。

 挨拶の冒頭、私は今回の書道展には格別の意味があると述べた。「それは多胡碑記念館が国指定の特別史跡であり、世界の記憶として登録され文化の拠点であるからです」と続けた。

 目の前の頷く女性の表情を見ながら私は言葉に力を込める。「殺伐として社会が続いています。長く続いたコロナ禍は私たちに反省を迫るものではないでしょうか。異常な機械文明の中で人々は文字を書かなくなっています。これは文明の危機です。伝統文化、精神の文化である書によってこの危機を乗り切らねばなりません。コロナ後の社会は人間の心を大切にしたゆとりあるものであるべきです。書はそのための一つの柱です。多胡碑の書作家展はそのための大切な機会です」。大要このような挨拶をした。書作家の作品は二階であるが挨拶をする私の目の前の壁には地域の子どもたちの書が貼られていた。それらは多胡碑の碑文の一節で「郡を作り羊に給う」などが目についた。

◇モンスター選挙年が不気味に、そしてダイナミックに動いている。ロシアと米国である。共和党の指名獲得争いでトランプ氏の独走が続いている。重罪の被告の身をあのように支持する米国民の姿は不思議である。同じ共和党内で必死に対抗するヘイリー氏を支持する動きはアメリカの良心とも見える。アメリカの良心を窺わせるものとして西部コロラド州最高裁判決があった。トランプ氏が議会襲撃事件に関与したことは国家への反乱だとして出馬資格を剥奪したものである。ところが連邦最高裁は4日、この判決を覆しトランプ氏の出馬資格を認める判決を出したのだ。各州には連邦レベルでの出馬資格を奪う権限はないという理由である。この判決がトランプ氏を勢いづかせるのは間違いない。この流れはどこまで続くのか。バイデン氏との老老対決の行方を全世界は固唾を呑んで見守っている。

◇時代が変わった、そして女性が変わったと強く思う。実名で性被害を告発した女性が多くの女性を勇気付け改革に貢献したとして「世界の勇気ある女性賞」を得た。ホワイトハウスの授賞式にはブリンケン国務長官も出席して元自衛官の五ノ井さんを日本国内のセクハラと闘ったと称えた。かつての日本、そして現在でも多くの女性が泣き寝入りしているに違いない。改革の意味は測り知れない。(読者に感謝)

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2024年3月 5日 (火)

人生意気に感ず「命じられた毒薬を土に埋めた亀作さんの勇気。世界は再び戦争に向うのか」

◇岩田亀作さんの生涯を是非多くの人に知って欲しい。そういう強い思いで弔辞の要点を再現することにした。

「岩田さん、あなたの人生が偉大なのは一〇五年という長さだけではありません。それは極限の苦難の中を人間としての信念を曲げずに見事に生き抜いた素晴らしさにあります。あなたは繰り返しニューギニア戦のことを話してくれました。今、あなたの遺影の前に立って、ダンピール海峡のこと、サラワケット越えのこと、そして毒薬を土に埋めた野戦病院のことが私の胸に甦っています。

 ニューギニアの過酷な戦場は生きて帰れぬニューギニアと言われました。第二次大戦も末期が迫って、日本軍は制空権を失い米軍機のなすがままの状態でした。海に投げ出された亀作さんは機銃掃射する米軍兵士の顔が見えたと言いました。あなたはサメが群れる海を三時間も漂流し救われました。海面を埋め尽くした人々の中で、亀作さんの部隊では一七五名中、生還できたのは十一名でした。

 亀作さん、あなたの体験談の中で最も胸を打つのは、ラエの野戦病院の出来事です。正に地獄でした。負傷者の傷口には赤いウジが動き回り、麻酔のない状態で大腿骨をノコギリで切断したそうです。ひとかたまりになって手榴弾で自決する人、発狂する兵士、そんな中で衛生兵のあなたは上官からあるものを渡されました。〈これを二粒ずつマラリアの薬と言って飲ませよ〉。毒殺の命令でした。

亀作さん、あなたは目の前が真っ暗になり、どうしてこの手で二百名もの戦友を殺さなければならないのかと苦しみました。玉砕命令には〈生きて捕虜となる者一人もあるべからず〉と定められていました。

あなたは銃爆撃に吹き飛ばされ地べたに叩きつけられ、夢中で毒薬を土に埋めたのです。

 私は亀作さんの勇気ある決断は、兵士を消耗品のように扱い、人間性を否定した日本軍の中で一つの救いであるとほっとしたものを感じます。

 私は平成十三年十月、パプアニューギニアを慰霊巡拝しました。そして、ラエ市内の一角にある日本兵の慰霊碑に手を合せて祈りました。そこは亀作さんが泳いだダンピール海峡や毒薬を埋めた野戦病院の近くでもありました。私は亀作さんの胸中を思い、涙を流しました。

 あれから二十三年が経ちました。世界情勢は変化し、また戦争が各地で行われるようになりました。過酷な戦場で人間性を守ろうとしたあなたの行動は、貴重な教訓として受け継がれなくてはなりません。あなたが命がけで守ろうとした人の命、それは平和によって支えられねばなりません。私はそれをしっかり守っていく決意です。

亀作さん、安らかにお眠り下さい。

 

    中村 紀雄」

(読者に感謝)

 

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2024年3月 4日 (月)

人生意気に感ず「衆院優位の憲法を学ぶ。真のセンテナリアンとは。クマが受難の時を。我が家のネズ公」

◇進行中の国会のトラブルは図らずも衆院の優越性に関する良い教材を提供することになった。参院の存在意義については無用論もあるくらいだ。憲法60条は衆院が可決した予算を受け取った後参院が30日以内に議決しない時は衆院の議決を国会の議決とすると定める。

 能登支援の目的もあり政府は年度内予算成立を決意していた。そのためには今月2日中での成立が必要だった。そこで土曜日にもかかわらず深夜まで審議して成立させた。予算案が土曜日に採択されたのは31年ぶり。2日に衆院可決により年度内、つまり3月中の成立が確実となった。

◇先日105歳の天寿を全うした岩田亀作さんはセンテナリアンだった。100年、つまりセンチュリーを超えて生きる人のことだ。数年前の調査で7万人を超えていた。毎日のお悔やみ欄で100歳以上の人がよく目につく。しかし真のセンテナリアンとして目標とすべきは100歳超の健康長寿である。時々スーパーセンテナリアンともいうべき人が報じられる。先日は100歳で、毎日プールで泳ぐ凄い記録保持者の男性、更に驚くべきは107歳の現役理容師。笑顔で働く姿が報じられた。米国の調査会社が世界最高齢の現役理容師と認定した。一筋に打ち込む仕事、そして常に人と接することが健康長寿の秘訣に違いない。

◇自分の事であるが、83歳にして毎日3回楽しく走っている。拙著で102歳まで走ると宣言した。102歳は2042年に当たり団塊ジュニア世代が高齢者となる。認知症があふれるだろう。その時、元気な姿で高齢者の先頭に立って走る姿は多くの人に勇気を与えるだろう。一つの社会貢献になると秘かに決意している。あと19年この間に何が起きるか、社会はどう変化するか、それは期待と共に大きな恐れでもある。

◇クマの被害が相次ぐ中、指定管理鳥獣に指定された。国が捕獲費用などを支援する。人里に出没する要因はドングリの「凶作」である。クマさんの愛称で慕われるクマにとって受難の時だ。クマは繁殖力が低い。よく目にする親子連れも子グマは一匹のことが多い。ニホンジカやイノシシとは異なる独自の管理が必要だと思われる。クマは学習能力が高いと言われる。人間を恐れさせる工夫が求められる。

◇我が家にネズミが増えて困っている。彼らの賢さ、学習能力の高さには驚くばかりだ。強力な粘着力の罠もその縁を巧みに渡って逃げてしまう。彼らとの知恵比べが続いている。(読者に感謝)

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2024年3月 3日 (日)

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一四九

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

 このように上からの力、あるいは外からの力によって強制される制度の下では、真の団結は生まれるはずはない。自律的な、納得づくの心の動きこそ、真の団結を支えるものである。敗戦によって、日本人は惨めにも心を失って、何でもソ連側の言いなりになり、奴隷のような姿になったことは、このような日本人の内なる力の欠如が原因だと私は思う。ハバロフスク事件における闘う姿は、初めて自分の生命を守るために立ち上がった人々の生き生きとした心の表れだった。闘争が長期化してゆく中で、日本人はついに、最後の手段である、まさに死を賭けた断食闘争に突入する。

 

九 ついに、断食闘争に突入する

 

 闘争は膠着状態にあった。作業拒否を宣言してから二ヶ月以上が経つ。主要な戦術として実行してきた中央政府に対する請願文書の送付も、現地収容所に握りつぶされているらしい。人々の団結は固く、志気は高いが、何とかこの状態を打開しなければならないという危機感も高まっていた。日本人は知恵を絞った。人材には事欠かないのである。元満州国や元関東軍の中枢にいた要人が集まっているのだ。

 かつて、天皇の軍隊として戦った力を、今は新たな目標に向け、また新たな大義のために役立てているのだという思いが人々を支えていた。人々は懸命に考えた。収容所側を追い詰め、中央政治に助けを求めざるを得ない状態を作り出す手段は何か。ただ一つである。それは、死を賭けた断食である。収容所の日本人全体が断食し倒れ、最悪の場合、死に至ることになれば、収容所は中央政府から責任を問われる。そういう事態を収容所は最も恐れるはずである。日本人は、全員一致して断食闘争に参同した。密かに計画が練られ準備が進められた。

 

つづく

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2024年3月 2日 (土)

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一四八

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

 日本人は切なる思いを込めて、このような請願を執拗にくり返した。一方、収容所側は、何とかストライキを止めさせようと、さまざまな飴と鞭を使って運動の切り崩しを図った。しかし、初めは、甘く見ていた日本人の団結が信じられぬほどに固いことを知り手を焼いた。

 記録によれば、闘争に参加したほとんどの人が請願書を書いた。これは、闘争に参加した日本人がそれぞれ自らの強い意志に基づいてこの闘争に参加していることを示すものである。そして、この事実が団結の強さを支えた。

 石田三郎が、この闘争の中で日本人の誇りを取り戻すことができたと言ったが、それはこの闘争に参加したすべての日本人が、自らの自発的意思によって、かつての軍隊においても見られなかった真の団結を獲得した喜びと興奮を示す言葉だと思う。

 日本人の団結ということについて、塩原眞資さんは、私との対談の中で、「軍隊の階級制度の厳しさの延長線にあったのか、収容所においては日本人同士の団結が生まれなかった」と語った。

 旧軍隊では、鉄の規律が軍の統制を支えるものとして重視された。これは、世界のどの軍についてもいえる当然のことであるが、旧日本軍では、絶対的な天皇を頂点に「上官の命令は天皇の命令」ということが徹底されたため、軍の規律は冷厳を極めた。そしてこのような上下関係の濫用や悪用も多かった。それが、私的制裁であった。このようなことは、階級の下の者ほど犠牲になる。塩原さんの話の中にも、私的制裁に耐えられず自殺した者のこと、なかでも、糞の中に飛び込んで、両足を上に突き出して死んだ初年兵のことなどがあった。

 

つづく

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2024年3月 1日 (金)

人生意気に感ず「中国大使館の歓迎ぶり。チベットの女性が4月前橋に。プーチンへの怒りは増す」

◇中国大使館の出来事を改めて記す。大型バスは快晴の高速道路を疾走。大使館は初めてという人が大半である。女性事務局員の黄さんの元気な声が響く。一人一人が自己紹介した。群大の5人の学生は中国へ向うような好奇心を示していた。物々しい警備の正門が開けられ大型バスは館内に深く進んだ。職員の人々の姿が見える。私が近づくと呉大使夫妻が現れ、大使は私と握手しながら言った。「福田先生がお待ちです」。大使館あげての歓迎ムードが漂っていた。冒頭の挨拶で大使は発言した。「中日国家間も岸田首相が習主席と会って以来改善しています」。強権力の国の特徴はトップの動きが直ぐに変化として現れる点である。

 私は挨拶で発言した。「中国は一衣帯水と言われますが、地理的関係だけでなく2千年の歴史を基礎に戦略的互恵を発展させねばなりません」。私に次いで小野恭子さんが予定に従って先の北京の交流会の感想を語った。この女性は妻の教え子である。

 食事会を大使夫妻と私たち数人は別室で行ったが、そこで大使から大切な興味ある発言があった。大使の話の進みに合せタイミングよく大型スクリーンがセットされた。映し出されたのは日本人監督によるドキュメンタリー「長江との再会」の要点であった。長江はチベット高原に源流を発する世界の大河。小さな流れが大きくなり断崖を刻みやがてとうとうたる流れになる光景が描かれる。主人公は美しいチベット女性のツーム。子羊を抱く少女は成長し大都会に出、やがてチベットに帰る。ツームは先進国日本に学んで民宿を発展させたいという構想を抱く。このツームが四月前橋に来ることになった。ドキュメンタリーも上映される。民宿の関係者にも参加してもらう。天空の秘境チベットを想像すると胸が躍る。私はこの企画を実りあるものにしようと訴えた。

 その他幾つか話合われた課題があったが身近なものとしてスキー場建設に関する相談があった。中国は現在スキーブームだとか。吉林省の民間計画を大使館がサポートするという。私の仲間でスキー場経営者もいるのでノウハウの提供は難しいことではないと話した。

◇プーチンの核の脅威にはらわたが煮え立つ思いだ。盗人猛々しい状況を国際社会は許してはならない。スウェーデンのNATO加盟が成立したことは一つの救いである。日本の使命は極めて重要。平和憲法は信頼の保証人。成し得ることを最大限尽くさねば。日本人一人一人が試練の時を迎えている。(読者に感謝)

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