« 2023年9月 | トップページ | 2023年11月 »

2023年10月31日 (火)

人生意気に感ず「マラソンの番号決まる。多くの留学生に日本で学ぶ意義を語る。北京の交流会議へ向けて」

◇第33回ぐんまマラソンが近づいた。11月3日、1万4,726人が参加する。私は10キロの部で走る。総勢1万4,726人。私は11737番。先日名前と番号を記載した冊子を手にしていよいよだなと思った。人生の大きな節目である。それは直前の10月30日、満83歳の誕生日を迎えるからだ。振り返って、人生はマラソンだ。山あり谷あり、幾つもの危機もあった。昨年のマラソン以来、毎日の生活習慣として、一日も休むことなく走り続けてきた。マラソンは体力気力の総合で走る。筋力の衰えは否定できない。コースをイメージして完走は自信があるが制限時間内で走れるか少々不安だ。健康寿命の平均を遥かに超えたが人生百年の時代である。冒険の人生の先に何が待ち受けるのか。確実な存在は死である。私は死が恐い。死の森に入り見事な対決を果たすために走り続けなければならない。

◇27日、日本語学校日本アカデミーの入学式があった。コロナ禍で低迷し危機にあった学園は勢いを回復し、段階的に入学してくる生徒数はコロナ前を大きく上回り、間もなく定員の900名に達する。多くの若者の姿を見て時代の変化を強く感じる。人口減少が加速する中でこれからは彼らと共存しなければならない。日本の文化、伝統、国力を彼らと共に支えていくのだ。

 入学生代表として中国の女性が挨拶した。「日本が好きです。日本で生きるために日本語をしっかり学びます」と決意を語った。私は式の後、この人に日中友好協会の会長であること、来月6日から北京を訪ねることを話した。

 私の挨拶には自然と力が入っていた。

「この学園には長い歴史がありますが、今回の入学には特別の意味があります。世界各地で戦いが行われています。皆さんは平和な日本で平和の尊さ、人の命と自由の大切さを学ばねばなりません。多くの国の人が学ぶこの学園は絶好の機会です。国境、宗教、肌の色を超えて力を合わせることを学ぶ場です。皆さんがここで学ぶことは人生の宝になるでしょう。そのことをしっかり胸において学んで下さい」

 歓迎会では多くの国の若者が次々に登壇して自国の歌をうたって盛り上がった。

◇この日の午後、6日出発の北京での日中友好会議の打ち合わせを行った。本県からは5人。午前3時、タクシーで羽田に向う。8時50分のフライトで12時20分に北京空港着。その日は歓迎レセプション。揺れる中国・米と対立する中国・ロシアと提携しつつも独自色を出す中国・日本とは一衣帯水の国中国を肌で感じ取るつもり。(読者に感謝)

| | コメント (0)

2023年10月30日 (月)

人生意気に感ず「今日83歳を迎えた。袴田死刑囚の再審に思う。薄れるウクライナへの関心」

◇「やったー」と快哉を叫ぶ思いで30日の朝を迎えた。人生の一つの高峰、満83歳の頂きに立ったのだ。見下ろせば幾つもの山や谷が見える。私は1940(昭和15)年10月30日に生まれた。前年に第二次世界大戦が勃発し、ナチスドイツは破竹の勢いであった。これに乗り遅れるなとばかりに、私の誕生日の直前9月27日日本は三国同盟の調印を行い、翌16年太平洋戦争に突入した。私は幼少期の体験と共に戦中派だと思っている。後に物心ついて無数の若者が特攻隊として命を落としたことを知った。歴史は繰り返される。現在、ウクライナ及び中東の争いが激化し大戦争の危機が迫っている。少子高齢化が加速する中で戦争を知らない世代が人口の大半を占めるに到っている。正に国難である。国と自由と民主主義を守ることを一人一人が自覚すべき時なのだ。

◇27日、死刑囚袴田巌さんの再審が開始された。専制主義の国と違って民主主義の日本では健全な司法制度が存在する。従って確定した裁判をやり直す再審は例外中の例外。かつて再審開始は針の目を通る程難しいと言われた。しかし人間は誤りを犯す。裁判も人の作業である以上、誤りは必ず生じる。事実冤罪が次々に明るみに出た。死刑囚の冤罪もあり得るとして臨まねばならない。人の命を国が奪うという最も深刻な人権侵害の可能性に厳粛に立ち向わねばならない。死刑事件の再審は過去4件ありいずれも無罪となった。姉の秀子さんは「弟に真の自由をお与え下さい」と無実を主張した。袴田さんは逮捕後1日平均12時間にも及ぶ取り調べを受け自白した。再審請求審で数々の証拠が明らかになった。有利な証拠が隠されていたのだ。

 私は死刑制度に反対である。冤罪による死刑は取り返しがつかない結果となる。また、執行に怯える中で精神の崩壊状態を生ずる。袴田さんの例はこれらのことを如実に物語る。無罪となる公算が大きいと言われる判決は来春らしい。袴田さんの無罪判決は世界の文明国から批判されている日本の死刑制度を考え直す一つの契機になる可能性がある。

◇イスラエルのガザ空爆に世界の目が集まる中ウクライナが気になる。アメリカの戦争研究所等はウクライナの善戦とロシアの窮状を指摘。またウクライナの猛攻でロシアは軍用車両100台以上の破壊、兵数千人の死傷、従わない兵士の処刑などを報じた。訓練と装備不足の兵を前戦に出していると言われる。別の情報はロシア国内の大規模な徴兵逃れを指揮する。(読者に感謝)

|

2023年10月29日 (日)

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一一〇

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

 それから三日後、貨車に乗せられ東に向かった。

「今度は本物だ」

 誰かがつぶやいた。その声にうなづく気配があった。終戦直後、帰国させると騙されて貨車でソ連領内へ連行されたことが、誰の頭にも生々しく残っていたのだ。

 その時、貨車の一角からどっとどよめきが起こった。

「海だ、日本海だぞ」

 叫ぶ声に人々は歓声で応じた。折り重なるように窓に殺到する。そこには、初夏の海が陽光を浴びて光っているのが木々の間から見えた。

 ナホトカ湾だ。十九世紀中ごろ、漂流中のロシアの軍艦が偶然にも波静かな入り江を発見し、「ナホトカ(掘り出し物)」と叫んだことに由来するというナホトカの海は、地獄からの生還者を癒すように静かに広がっている。そして、水平線は春の霞の中に溶け込んでいた。毎日、夢に見た光景であった。

 人々の目は輝いていた。栄養失調のつやのない表情に生気が蘇ったようである。青柳さんは、身体の疲れも忘れ、新しい力がみなぎってくるのを感じるのであった。

 ナホトカは、各地の収容所から集まった日本人であふれていた。

 ナホトカからの抑留者の送還は、昭和21年12月8日に第一回が行われ、以後翌年一月にかけて何回か行われたが、昭和22年4月からは本格化されていた。

 ちなみに、舞鶴引揚援護局の記録によれば一船に乗れる数は二千人から三千人の間であった。

 そして、昭和25年4月22日の信濃丸の入港で、短期抑留者の帰還は終わる。なお、戦犯として長期間抑留されていた日本人の最後の帰国は、昭和31年12月のことであった(別の所で書く瀬島隆三の帰国は昭和31年8月、ハバロフスク事件の責任者医師だ三郎の帰国は昭和31年12月)。

 このように、ナホトカはダモイ(帰国)の基地であった。青柳さんがナホトカに着いたのは昭和22年6月であるから、正に引き揚げ用の日本船が順調に動き出していた時であった。

つづく

|

2023年10月28日 (土)

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一〇九

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

七 ダモイ(帰国)の基地・ナホトカ

 

 二度目の冬をなんとか抜け出して再び春を迎えた六月の半ばのある日、突然ロシア警備隊の兵士が青柳さんたちの所へ近づいて言った。

「本日かぎりで日本に返す。しかし、日本国土に上陸しても、ここで学んだ共産主義の根本をわすれないで米軍と精神的にも闘ってほしい」

「本当に帰国できるのか」

 皆、疑った。ソ連兵には何度も欺かれてきたのだから信じられないのも無理はなかった。

 翌日、青柳さんたちはダガラスナの山地を下り、元のビアゼンスカヤに向かった。ダガラスナの森を振り返って青柳さんは感無量であった。良く働き作業実績をあげた。収容所側もハラショー・ラボーター(良い労働者)と評価しているようであった。このハラショー・ラボーターの評価が仇となろうとは、この時想像もできなかった。いよいよナホトカへ向かうということになった。

 青柳さんたちは、ナホトカ港に向かう前に、大きな集会場に集められた。そこにはいくつかの収容所から来た多くの日本人が集結し騒然としていた。ソ同盟万歳、スターリン大元師に感謝、あくまで反動と戦うぞ、などと書かれたのはのぼり旗が林立し、仮設の舞台には、アジ演説をする男たちが次々に立ち、その絶叫があたりに響いていた。いわゆる「民主運動」の総仕上げともいえる光景である。

〈これが、同僚を何百二ン、何千人と餓死させたソ連に対してとる日本人同志の姿なのか〉

 青柳さんは、帰国を夢見ながら亡くなった仲間の顔を思い出し、悔しくてならなかった。しかしその思いはすぐに消え、今は一刻も早く祖国へ帰りたいという気持ちでいっぱいになり、周りの人々と声をそろえて、そうだ、そうだ、と壇上のアクチーブに対して声援を送るのであった。

つづく

|

2023年10月27日 (金)

人生意気に感ず「人々は手に名前を刻む。死後身元が分かるため。国連事務総長イスラエルを批判。首相支持率は更に低下へ」

◇イスラエルの空爆は激しさを増しガザは「死の街」と化し、死を覚悟した人々に今大きな変化が起きていると言われる。人々は数日前までは生き延びたいと考えていたが、今は死を覚悟して手のひらに名前を書いているという。遺体確認の時、身元が分かるためだ。世界の轟々たる非難が渦巻く中、イスラエルは地上作戦に踏み切るのか。私は自らの首を絞めることに繋がる作戦は出来ないと思う。

 国連のグテーレス事務総長は、安保理に人道的停戦を訴え、イスラエルを強く批判した。「何もないところから起きた事態ではない。パレスチナの人々は56年息が詰まるような占領下に置かれてきた。ガザで目撃している明確な国際人道法違反を深く憂慮している」と述べたのだ。憂慮の中心には2,000人以上の子どもが死んだ事実があるに違いない。

◇岸田政権の支持率低迷は加速するのではないか。参院自民の山田太郎政務官が不倫関係を報じられ辞任したのだ。週刊文春は「国会前夜ラブホテル買春」と大見出しで特集を組み、スクープ撮としてラブホテルから出てくる姿を報じている。かつて群馬一区の国会議員が女子大生を買春しラブホテルから出て来たところを撮られた事態を思い出す。

◇岸田首相は末期ともとれる事態を乗り切れるのか。自民党内からも批判の声が上がり始めた。世耕参院幹事長の発言は誠に厳しい。25日の代表質問の場面には驚かされた。

「支持率が向上しない最大の原因は国民が期待するリーダーとしての姿が示せないことに尽きる」と発言した。野党議員のような発言に議場が沸いた。

◇岸田首相は、定額減税の方針を政府与党政策懇談会で示した。党首の減税策には与党内にも批判が強い。1品4万円の現在は来年6月から実施し、非課税の低所得者層は現在の対象にならないから1世帯あたり7万円を給付するという中味だ。かつて税制調査会が税の中味を決めた。首相が現在の中味を決めてしまったことに、何のための税制調査会なのかという不満も出ている。党税調は国民の声を尊重し、国民のための税の在り方を調査する目的である。首相がないようを決めてしまうことに対する批判はこの点にある。首相はイメージアップに走り過ぎている。国民に所得減税を十分に説明できていない、こういう批判が加速しているようだ。世耕参院幹事長の首相の資質を疑う発言が改めて重みをもって感じられる。(読者に感謝)

|

2023年10月26日 (木)

人生意気に感ず「旧統一教会の息の根を止めねば。トランプ氏の3億よ安倍氏の無償。今、石橋湛山が甦る」

◇24日、代表質問が始まった。その焦点の一つは旧統一教会の財産保全だ。被害者救済に当てるべき協会の財産が処分されるのを防止するためには法律を設けねばならない。与党の消極姿勢を憤るように世論は教団追及に強い関心を示している。一方で、日本の主権を侵害するような韓国及び教団の構造的な献金問題に対し一般民衆の関心は薄れつつある。従って国会にとって正念場なのだ。公明党は現行法でという姿勢を示し、野党は特別の法律制定を主張する。公明が消極的なのは創価学会が抱える問題と関係があるのかも知れない。

◇このような状況に合わせるかのように、トランプ・安倍両氏の教団支援を窺わせる問題が浮上している。トランプ前大統領は旧統一教会支持の講演の報酬約3億円を受け取ったのに安倍氏は「無償」で行った点である。この無償は何を意味するのか。教会が組織として選挙の支持を行ったのは明らかで、それへの御礼と見るのが一般人の常識であろう。安倍氏の御礼の重さを測る一つの資料がトランプ氏への3億円に違いない。

◇岸田首相が所信表明で「経済、経済、経済」と連呼したのは、この国会が歴史的ともいえる重大な課題を抱えていることを考えると、ちぐはぐではないか。議場の反応及び国会外の冷ややかな受け止めを見て「空振り」の感は否めない。この連呼に込めた首相の熱意の意味は国会論戦の全体像から確かめねばならない。

 首相は税収入の増大を国民に還元しようとしている。実効性を含めその点がすっきりしない。目先の人気取りという声が大きい。

 日本の国債発行高は空前のものだ。この国民に対する借金を重ねつつ「還元」を主張し、経済を連呼する。その声は虚しく響く。

◇国民の政治意識の質が問われている。個々の人々はともかく全体としての国民は愚かではない。支持率最低の国民の判断はそれを示す。

 首相の言葉と姿勢の重さは国民の信頼を得る上で極めて重大だ。この点で湛山和尚が今注目されている。軍国主義が燃え盛り言論の自由が制限された時、石橋湛山は小日本主義を敢然と訴え中国大陸への進出に反対した。後に首相となった石橋はご機嫌とりは国のためにならないという信念をもっていた。首相としてその決意を述べた言葉が今甦る。「私は首相として皆さんに嫌がられることをするかも知れない」と。戦後78年、日本の役割と使命が全世界的に問われる中、存在感を示せる政治家が少ないのは淋しい。世襲議員の増加は民主主義の基盤を危うくするという理念を重く受け止める。(読者に感謝)

|

2023年10月25日 (水)

人生意気に感ず「日中平和友好条約45周年を振り返って。首相の演説への評価は。ガザの地獄は更に」

◇23日、ホテルニューオータニの集会に参加。日中平和友好条約45周年レセプションである。開会の挨拶は日中交流促進実行委員長の十倉雅和氏。言うまでもなく経団連会長である。十倉氏は平坦ではなかったと45年を振り返った。そして、現在も困難はあるが、中国は永遠の隣人。45周年を契機に対話を重ね建設的で安定した未来を築くことを祈念すると述べた。

 日中平和友好条約はすべての紛争を平和的手段で解決することや覇権主義に反対することなどを両国が誓ったもの。両国の首相はメッセージを寄せ、困難な国際情勢の中で条約の精神に立ち返る必要性を強調した。

 呉江浩駐日大使は私の手をしっかりと握り「群馬から見えたのですか、ご苦労さまです」と語り、私は「来月6日から北京です」と思いを込めた会話を交わした。大使は人気があって、面会を求める人の長い列ができていた。私は、厳しい国際情勢が凝縮されたような雰囲気の中でイスラエルの爆撃とガザの人々の地獄を想像した。

◇23日、臨時国会で首相の所信表明演説が行われた。支持率最低、衆参の補欠選での不振など窮地に立たされた中で、起死回生の思いが窺えた。それは「経済、経済、経済」と連呼する異様な光景に現われていた。「国会議員の皆さん共に挑戦しようではありませんか」との首相の決意に会場の反応は冷たく、空振りの感があった。この所信表明に対しこれから質問、論戦が展開される。いつもの国会と違うのは未曾有の内憂外患の状況下ということである。野党は存在感を示せるか、首相及び閣僚は少しでも国民及び世界に覚悟の程を伝えられるか注目したい。

◇イスラエルへの非難が強まりイスラエル擁護のアメリカへの避難も強まる中、中国がしたたかさを発揮している。反イスラエルを鮮明にし、アラブ諸国と連携を深めアメリカを非難しているのだ。国連でイスラエルとハマスの戦闘を一時停止する決議案がアメリカの拒否権行使で否決された。中国は環球時報でこれを大きく取り上げた。「米国の反対票は罪のない人々の血に染められたもので罪悪だ」。ガザ地区では子どもの死者が2,000人以上といわれる。娘を失ったガザの親は「娘は殉教者だ」と叫ぶ。ハマスはこれ迄に4人の人質を解放した。まだ220人もの人質がいる。西側主要国も揺れている。マクロン仏大統領はイスラエル首相に人道上の対応を求めたと思われる。(読者に感謝

|

2023年10月24日 (火)

人生意気に感ず「支援物資20台は続くのか。中東各地のデモはどこまで広がるのか。ウクライナ支援の行方は」

◇21日ガザへの支援物資搬入が開始された。医療品や食糧を積んだトラック20台が検問を通過した。しかし国連は1日当たりトラック100台分が必要だとしている。想像を絶する窮状が窺える。江戸時代、東北などを襲った大飢饉の惨状が偲ばれる。草や木の根、人肉までも食ったと言われる。時代は大きく変わり、飽食の時代と言われ日本では多くの事業所で売れ残りや賞味期限切れ等が処分対象となり大きな環境問題になっている。この壮大な矛盾は何とか成らないものか。

 注目すべきことはこのトラック20台により人道支援を実行したとしてイスラエルの侵攻が開始されるかだ。欧米諸国の反応を窺っていると思われる。欧米はそれを許してはならない。せっかくの人道支援が水の泡になる。

 ガザでは救済を持つ人々がおよそ140万人もいる。今回のトラック20台では焼け石に水に違いない。国連の担当官はこれが最後であってはならないと訴える。

◇現在エジプトでは30カ国以上の首脳らが集まり「カイロ平和サミット」が開催中。この会議で第一になすべきはガザの人道支援増加と情勢悪化を防ぐことである。この会議にはエジプト大統領、国連事務総長、パレスチナ自治政府の議長などの他、カタールやイタリアの元首級が参加している。日本からは川上陽子外相が出席。日本は発展途上国に信頼されているし、これまでも様々な支援を重ねてきた実績がある。このような時こそそれを活かして存在感を発揮すべきである。それは、中東の石油が日本の生命線であることと結びついている。平和サミット主催国のエジプトをはじめ中東諸国はガザの住民が難民として流出すれば、パレスチナの土地を守るという「パレスチナの大義」が失われるとして住民の国外避難に強く反対している。

◇20日中東各国でパレスチナに連帯を示すデモが行われた。その矛先はイスラエルだけでなくイスラエルを支持する米国にも向っている。

 エジプトのカイロではイスラム教の金曜礼拝後に数千人がデモをした。参加者のある若者は訴える。「パレスチナは70年以上抑圧されてきた、国家として認めるべきだ」

 ヨルダンの首都アンマンでは数千人がイスラエル大使館近くを行進、チュニジアやイラクでも米大使館近くでデモが行われた。

 イスラエルに対するこのような批判の渦は全世界に広がっているようだ。このような動きはロシア・ウクライナ戦にどう影響するのか。(読者に感謝)

|

2023年10月23日 (月)

人生意気に感ず「ミライズクラブで政府の原子力政策の非を語り、ふるさと未来塾では管直人と高木仁三郎を語った。共に学ぶべき人。クマの異常事態に思う」

◇ミライズクラブでの私の話の大筋は次の点だった。8月24日の処理水放出開始から10

月5日の2回目放出までを新聞三紙の記事を材料とし、放出問題の基底に原子力政策の誤

りがあるとして語った。午前11時から午後1時まで。

 帰宅後一休みしていつものコースを走りふるさと未来塾の準備。テーマは「巨大災害

は必ず来る」。切り口を少し変え、災害対応につき歴史から教訓を得ること、及び歴史

に関わった人物から学ぶことの大切さを述べた。そしてそのような人物の例として原子

力科学者高木仁三郎と元首相菅直人等を挙げた。

 高木は前橋高校から東大理科を経て原子力の研究に入った人物。一貫して脱原発を主張し、大地震の際の原発の危険性を訴えた。その数々の警鐘は現実となった。62歳でガン死したが死の床からのメッセージは重く胸を打つ。

 当時の首相菅直人氏は福島第一原発事故の時、現場に駆けつけ混乱を招き強く批判された。非常時の指揮官の在るべき姿を話した。また、菅は原発事故の最悪のシナリオをつくらせた。放射能被害の及ぶ範囲は首都圏をのみ込み避難の対象は3,000万人という衝撃的なものであったが、パニックになるからと公表はされなかった。ここでは情報は誰のものか、公表した上で対策をとるべきではと話し、塾生から意見も出た。

 この日は風が非常に強く、出席者は少ないと思われたが30数人が熱心に耳を傾けた。塾を終えると緊張が解け、同時に疲労と高揚感と達成感に包まれた。あと10日で83歳の老体から発するメッセージが人々の胸に届いていると感じた瞬間であった。

 疲れると辛いものが食べたくなり、帰り道辛ネギしょうゆラーメンを食べた。

◇上に菅直人氏のことに触れたが、菅氏は次の衆院選に不出馬の意向という。福島第一原発事故の対応などでは批判されたが信念と行動力の政治家であった。薬害エイズの問題では橋本龍太郎内閣の厚相として国の責任を認め謝罪した。首相退任後は脱原発を訴えていた。

◇クマの人身被害が全国的に最悪状態で本県も深刻だ。親子連れの姿に同情してしまうが被害は防がねばならない。冬が迫り彼らは冬眠に備え食べる必要があるが今年はドングリが不足だという。環境省によれば被害状況は東北が酷く、秋田・岩手・福島の順である。

 本県では東吾妻町の高齢女性が重傷を負い、片品村や川場村で複数人の軽傷者が出ている。クマを責めることはできない。クマのためにも人間側が行政民間総動員で知恵を絞り対策を立てねばならない。人間が試されている。(読者に感謝)

|

2023年10月22日 (日)

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一〇八

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

 国営農場で働いたある日本人の証言によれば、広い国営農場には農家が点在し、その周りには自作地があり、針金や柵で囲まれている。その自作地と国営農場がいかにも対照的なのだという。国営農場は草だらけなのに自作地の畑は草一本なく整然と耕されている。ジャガイモも国営農場のは小さく、自作地のは大きいという。これは、人間の意欲や本性を無視した共産国の制度の欠陥を雄弁に物語る事実であろう。

 シベリアの夏は短い。九月に入り、夏が終わったと思うと、秋を飛び越したように冬がやってくる。青柳さんたちは、二度目の冬を迎えた。

 捕虜たちの目を楽しませ心を和ませてくれた陽光の中の自然は消えて、あらゆる妥協を拒否するかのような無慈悲な白の世界が再びやってきた。

 最初の冬の試練にかろうじて耐えた者も狂おしいほどの望郷の思いと重くのしかかる絶望感にはどうすることもできない。最初の冬で体験してきたことは、生きるためには他を顧みる余裕はない、徹底的に自己主義を貫き、生と死の境を獣のようにただ生きることであった。そこには、人間としての誇りも羞恥心もなかった。

 しかし、二度目の冬に閉じ込められて、捕虜たちは生き抜くために、人間の心を取り戻すことの必要性を感じるようになった。獣のように生きることは長く続けることはできないのだ。本当の力は人間の心、そして人間らしさから生まれることに人々は本能的に気付くようになった。人々は極限の状況に追い詰められ、人間の心を失いかけて、初めて人間の心の大切さを発見したのであった。そこで、いろいろな形の文化活動が行われるようになった。皆で歌をうたう、俳句を作る、そして劇団も生まれた。青柳さんも劇団に参加して、何度か舞台に立った。一時の笑いが心の闇を照らし、助け合う心を生んだ。このことは、シベリアのすべての収容所で共通のことであったらしい。別のところで触れた、「異国の丘」の歌がつくられ歌われたのも、このような状況でのことであった。

 

つづく

|

2023年10月21日 (土)

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一〇七

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

 食べ物に飢えている日本人にとって春の野山はいたる所に食べ物が満ちていた。野生のニラは、飯盒で水を使わずに蒸して食べると、甘みがあっておいしかった。アザミの葉はゆで方が早いと口の中でトゲがチクチク痛い。ハコベラは少し伸び過ぎると茎の筋が堅くて美味しさが半減する。青柳さんたちは、情報を交わしながら工夫を重ねてあらゆるものを食べた。しかし失敗もあった。野生のニンジンや楢の木のキクラゲを食事代わりに食べていた者の中から、腹痛を訴える者が出たし、中毒死した者も出たのである。森で暮らす人々や野生の動物は、長い年月の中でこのような失敗に学びながら生きることを学ぶのであろう。

 嬉しい発見があった。白樺の幹に斧で傷をつけると甘い樹液が出るのだ。空き腹にしみ込んで身体の奥から力が湧いてくるように感じられる。作業をしながら、朝、傷口に飯盒をあてておくと昼までに半分くらいは溜まる。作業の現場近くで白樺の木を見つけるのが楽しみであった。冬の間は、仲間が死ぬと人々は、「あいつも白樺の肥しになる」と言い合った。雪の中に音もなく立つ白樺は厳冬を支配するもののごとく恐ろしく思えた。それが今や人間に恵みの樹液を与えてくれる。半透明の液体は、青柳さんには零下40度の凍土を生き抜いた生命力の源のように思え、頼もしくさえ感じられるのであった。

 初めての冬を越して、シベリアの生活にもいくぶん慣れた頃、青柳さんに国営農場の作業がまわってきた。それは収容所の者がみな希望する作業であった。ジャガイモ掘りの場合にはジャガイモをかじることができたし、そのいくつかをひそかに持ち帰ることもできたからである。マメや果物の場合にも同様であった。

 共産主義の農場としてソフホーズ(国営農場)とコルホーズ(集団農場)があった。青柳さんが動員されたのはソフホーズである。ジャガイモは九月下旬の霜がおりる前に収穫しなければならない。青柳さんたちは長い畝を受け持たされ、バケツと熊手を持って芋を掘り起こした。手のひらに乗るような手頃なジャガイモを見つけると、看守の目を盗んで落とし、かじった。

 生のジャガイモを食べるのは初めてのことであった。シャキシャキとかみ砕くと冷たい粒々がのどを伝って胃袋に落ちてゆく。飢えた胃が中から手を伸ばして引きずり込んでいるようだ。青柳さんは久しぶりの満腹感に酔った。

つづく

|

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一〇七

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

 食べ物に飢えている日本人にとって春の野山はいたる所に食べ物が満ちていた。野生のニラは、飯盒で水を使わずに蒸して食べると、甘みがあっておいしかった。アザミの葉はゆで方が早いと口の中でトゲがチクチク痛い。ハコベラは少し伸び過ぎると茎の筋が堅くて美味しさが半減する。青柳さんたちは、情報を交わしながら工夫を重ねてあらゆるものを食べた。しかし失敗もあった。野生のニンジンや楢の木のキクラゲを食事代わりに食べていた者の中から、腹痛を訴える者が出たし、中毒死した者も出たのである。森で暮らす人々や野生の動物は、長い年月の中でこのような失敗に学びながら生きることを学ぶのであろう。

 嬉しい発見があった。白樺の幹に斧で傷をつけると甘い樹液が出るのだ。空き腹にしみ込んで身体の奥から力が湧いてくるように感じられる。作業をしながら、朝、傷口に飯盒をあてておくと昼までに半分くらいは溜まる。作業の現場近くで白樺の木を見つけるのが楽しみであった。冬の間は、仲間が死ぬと人々は、「あいつも白樺の肥しになる」と言い合った。雪の中に音もなく立つ白樺は厳冬を支配するもののごとく恐ろしく思えた。それが今や人間に恵みの樹液を与えてくれる。半透明の液体は、青柳さんには零下40度の凍土を生き抜いた生命力の源のように思え、頼もしくさえ感じられるのであった。

 初めての冬を越して、シベリアの生活にもいくぶん慣れた頃、青柳さんに国営農場の作業がまわってきた。それは収容所の者がみな希望する作業であった。ジャガイモ掘りの場合にはジャガイモをかじることができたし、そのいくつかをひそかに持ち帰ることもできたからである。マメや果物の場合にも同様であった。

 共産主義の農場としてソフホーズ(国営農場)とコルホーズ(集団農場)があった。青柳さんが動員されたのはソフホーズである。ジャガイモは九月下旬の霜がおりる前に収穫しなければならない。青柳さんたちは長い畝を受け持たされ、バケツと熊手を持って芋を掘り起こした。手のひらに乗るような手頃なジャガイモを見つけると、看守の目を盗んで落とし、かじった。

 生のジャガイモを食べるのは初めてのことであった。シャキシャキとかみ砕くと冷たい粒々がのどを伝って胃袋に落ちてゆく。飢えた胃が中から手を伸ばして引きずり込んでいるようだ。青柳さんは久しぶりの満腹感に酔った。

つづく

|

2023年10月20日 (金)

人生意気に感ず「バイデン氏は老いたアメリカの象徴か。国連での拒否権に失望。クマの異常出没は何を物語る」

◇世界の世論がイスラエル批判で渦巻く中、バイデン大統領はイスラエル支持を強く表明しネタニヤフイスラエル首相を抱擁する。その光景を不思議に思う人は多い筈だ。その背景には世界に広がる底知れないユダヤの力がある。近代における大きな戦争はロスチャイルド家の力が示すようにユダヤの金が動かしたと言われた。現在のアメリカ社会でもユダヤの力は測り知れない程大きく、マスコミ・金融・政治の世界で大きな影響力を発揮しているのだ。

 しかし、バイデン氏の今回のイスラエル訪問の成果については光と影、誤算もあったと思われる。

 病院爆発で500人にも及ぶ死者が出た。イスラエル、ハマス双方が相手の非をあげて非難しているが、イスラエル及びアメリカに対し挙を突き上げる各地の空前のデモは世界を動かす感がある。アラブ地域のデモで、民衆は「神よ、神よ」、「アラーは偉大なり」と叫んでいる。正に宗教戦争を思わせる。これらに押されるように救護物資の列車が唯一の関門を通ってガザに運び込まれようとしている。アラブの国々との予定された接触もできなくなりバイデン氏はワシントンに引き上げた。

◇国連におけるイスラエルとハマスの戦いの一時停止を求める決議が否決された。常任理事国のアメリカが唯一反対したためである。従来拒否権行使の常連はロシアであった。アメリカはこれによってロシアを批判できなくなると言われても仕方がない。

 世界に広くひろがる発展途上国、その中でも小さい貧しい国々はイスラエルとアメリカに反対するに違いない。このようなうねりは今は一致してイスラエルを支持する西側諸国に大きな影響を与える筈だ。西側の基底には人権、自由などの理念があるからだ。

 大統領選を控えバイデン氏の高齢に不安を感じるアメリカ人は多いと言われる。イスラエル訪問、国連での拒否権行使などと合せ、現在は理想を失った老いた大木に見える。私は全世界が固唾を呑んで見守ったキューバ危機を思い出す。あの時のケネディ大統領は理想の国アメリカを象徴するように輝いていた。今のバイデン氏にあの輝きは見られない。世界は指導者と理想を失いどこに向うのか。

◇クマの世界に異常が起きている。襲われて命を失う人、住宅街やにぎわう大通りまで出没しバスを待つ女子高生を脅かすとは。東北では学校を休校するところまで出た。子連れの母クマは子を木に登らせて人を襲うという。“くまさん”の愛称で親しまれた姿に同情が湧く。人間が作り出した環境下、共存を探らねばならない。(読者に感謝)

|

2023年10月19日 (木)

人生意気に感ず「地獄の戦場ガザに世界が注目。アメリカの存在感は低下か。ミライズは処理水、ふるさと未来塾は高木仁三郎」

◇ガザはイスラエルの攻撃で地獄のような状況となり「医療はすでに崩壊」と報じられた。阿鼻叫喚の医療の光景が想像できる。かつてニューギニアの「地獄の戦場」を書いたことがある。麻酔なしで脚を切断する場面からは極限の苦痛が伝わるようで書きながら自分の脚を思わず見詰めた。私は地獄の戦場から生還した岩田亀作氏から状況を聞いた。この人は衛生兵として医療に携わった。太ももは油で滑ってなかなか切れない。早く切らないとエソで命を失う。大工の心得のある者がノコギリをひいた。岩田さんは「コリコリ、コリコリ」と表現した。「これが戦争ですよ」と語る。現在、ガザの死者は2,800人を超え、負傷者は医療施設にあふれているという。ここではニューギニアのような状況が起きているのか。バイデン大統領はイスラエルを訪ねたが住民の悲惨さを救うことはアメリカの使命である。世界の世論は閉ざされたスペースでパニック状態にある住民に同情を寄せている。各国から届く支援物資は人々の所へ搬入できないと言われる。ガザ北部から数十万人が避難している南部ではパンを求める長蛇の列が出来、数時間も並んでいる。北部の人々は狭いスペースに百万を超えて閉じ込められている。想像を遥かに超える状況は歴史に残る惨状に違いない。このような所へイスラエルはなお地上侵攻を行うのか。ネタニエフ首相には内外の批判が増えていると言われる。イスラエル・パレスチナ、それぞれが大義を主張しているが空前の住民の犠牲を前にして双方の大義も吹き飛んでしまう。

 18日、ガザの病院で爆発があり471人が死亡。ハマスはイスラエルの空爆だと主張し、イスラエルは否定。病院は負傷者であふれ、廊下で麻酔なしの手術が行われているという。

◇今度の土曜日は厳しいスケジュール。11時から昼をはさんでロイヤルホテルでミライズクラブの講演をし、午後はふるさと未来塾である。ミライズでのテーマは処理水放出の現状と課題で、原発反対をベースに政府と東電を批判する立場で話す。ふるさと未来塾は迫る大災害を新たな切り口で話し警鐘を鳴らしたい。一例として高木仁三郎に触れる。前高から東大の理科に進み原子力科学者の道に入ったが、市民科学者として原発文化を根本から考え過酷事故に警鐘を鳴らした。2000年10月、62歳で癌死したが、福島第一原発は2011年3月であった。高木の警告は予言でもあった。彼は情報がいかに重要かを訴えた。パニックを恐れて情報を隠すことの是非を考える。(読者に感謝)

|

2023年10月18日 (水)

人生意気に感ず「バイデン大統領のイスラエル訪問。北朝鮮の無法ぶり。お産報道の衝撃。最低の首相支持率」

◇バイデン大統領が今週後半にもイスラエルを訪問するらしい。米イスラエルの結束をアピールするらしい。米イスラエルの結束をアピールしイランを牽制する狙いと言われる。表向きはその通りであろうが落とし所を探る意図もあるのではないか。世界の世論はハマスへの同情論が強くなりつつある。先制攻撃はハマスでありイスラエルは自衛権を主張するが、自衛の範囲を超えているのは明らかだ。120万人のガザ地区の住民を南部に移動させることは物理的に不可能である。「どうせ死ぬなら家で」と語る住民が多い。高齢者や病人にとって「死刑の宣告に等しい」とも言える。

 パレスチナ、イスラエルの争いの根本は神との約束だといって強引に国家を建設したイスラエルにあるのは明らかである。英BBCがハマスをテロと呼ばない立場を貫いているのはこの歴史事実を踏まえ、建国を後押ししたイギリスの誤りを意識しているに違いない。アメリカは承知の上でイスラエルを支持しているが超大国の責任を示さないとその存在感を低下させることになる。習近平氏やプーチン氏を利する結果を避けねばならない。どさくさに紛れて北朝鮮が国際規約に反してロシアとの連携を深めている。北朝鮮の軍拡一辺倒の動きは日本の安全保障に直接関わる。このことは現在の世界の動乱が私たちにも強く係わっていることを示している。

◇NHKが報じるお産の場面に衝撃を受けた。カメラは出産する女性を頭の方から映し、看護師たちが励ましている。やがて「あっ出た」と言って赤ちゃんを取り上げる姿。時代が大きく変わったのだ。出産に夫が立ち会うのが通例になっているという。信じられない感がする。娘にこの思いを話すと「パパは古いのよ」と言われた。出産は女性にとって命懸け。生命の誕生は崇高な出来事だから夫婦にとって共同作業に違いない。

 安田靱彦の名画「御産の祷」を観た。真言宗の僧が護摩を焚いて祈っている。手を合せ祈る女がいる。産む女性は描かれない。全体として神秘的な雰囲気が漂っている。「パパは古い」を重く受け止めようと思った。この時代の変化を現す姿が生命の尊重と結び付くことを願うばかりだ。離婚や幼児虐待が日常茶飯事のように行われている実態とどう整合するのか。

◇世界の戦乱が拡大と混迷を深め日本の役割が大きい中で岸田首相の支持率最低が続く。25%は政権の危険域を示す。打ち出す政策も国民の目には支持率を上げるためと映る。救国の英雄が今の選挙制度と体勢から生まれるのは難しい。(読者に感謝)

|

2023年10月17日 (火)

人生意気に感ず「地獄のガザと大国の責任。同時進行の二つの戦争と日本の役割」

◇地獄のガザ地区はどうなるのか。電気が尽き、病人に為す術もなく、水もない状態。世界はこれを放置するのか。イスラエルは南部への移動を勧告しているが100万を遥かに超える人々の移動は物理的に不可能である。残虐な攻撃を仕掛けたハマスに対してイスラエルには報復の権利があると主張する。しかし、そのことと極限の人々を救う人道上の問題は別ではないか。

 救急医療を担うパレスチナの団体は患者を見殺しにできないとして避難拒否を表明した。イスラエルは避難しない住民はハマス側とみなすと警告。ハマスはガザの地下に縦横の穴を設け徹底抗戦の構えで、住民に自宅にとどまるように呼びかけている。この事態に国連は何をしているのか。国連はイスラエルの退避勧告に対し、ガザの人々を更に奈落の底に突き落とすだけと主張。そして国際人道法の順守、民間人保護最優先を呼びかけている。世界保健機関も重病患者に移動を強いることは死刑宣告だと指摘。

 注目すべきは英BBCが敢えてテロリストの表現を避けている点だ。政府や与野党の批判に対し自分たちは中立の立場なのだと主張する。テロと呼ぶのは片方の側に立つことで、公平中立に報じないことになる。感情に走らず事実を示すことがBBCの仕事だと述べた。私の想像だが、BBCの基底にはパレスチナに対する歴史的同情とイギリスが犯した誤りへの思いがあるに違いない。

 アメリカはイスラエル支援をいち早く打ち出すと同時に民間人救出に力を注いでいる。この戦争を抑えるために力を尽くすことは超大国の使命である。効果を挙げられなければ世界の批判を受け、存在感を低下させることになる。

◇イラクに加えて中東に火がつき二つの戦争が同時に進行し大戦争のリスクが感じられる。中東の大国サウジアラビアはイスラエルに接近しつつあったがその姿勢を改めると表明。世界のイスラム教徒の批判を恐れてのことだ。もう一つの中東の大国イランは始めからハマスの支援を鮮明にしている。ロシアはこれらの国を支持する気配である。アメリカが複数の空母を派遣しているのはこれらの動きを牽制する目的に違いない。

 私は日本の役割は重大かつ困難だと思う。発展途上国に信頼されている立場を最大に活かさねばならない。同時にアラブから最大の原油を頼っている。オイルショックの再来は避けねばならない。政府はテロだとして許さない立場だが外交力の真価が問われる時だ。その時、現実と理念と歴史を重視することが重要だ。(読者に感謝)

|

2023年10月16日 (月)

人生意気に感ず「雨の中女子マラソンはパリを目指す。日本スポーツの進化の意見。哀れな衆院議長辞任」

◇雨の中の女子マラソン・グランドチャンピオンシップを観た。この日の早朝、まだ深夜、雨の中を走ったので彼女たちの走りの中に自分が存在するようなリアルさが伝わる。降りしきる雨は容赦なく若い肌を打つ。女性たちを駆り立てるのは来年のパリ五輪だ。上位2人が切符を得る。冷たさが伝わってくるがそれをはねのけているのがパリへの思いに違いない。マラソンのお決まりの展開でトップ集団が出来、それを追う集団との距離を広げる。そしてトップの一団から2~3人が抜け出すのだ。トップの二人にはパリの光景が浮かんでいるに違いない。番狂わせのスピードで一位となったのは第一生命グループの鈴木優花、二位は資生堂の一山麻緒であった。激しい雨の中で得た成果はひとしおのものがあるだろう。試練に勝った思いがインタビューに現われていた。

◇来年のパリ五輪は日本のスポーツが世界の舞台で存在感を発揮する場面が目白押しだ。大谷の野球がアメリカの大リーグでエイリアン扱いされているが、野球も次のオリンピックで正式種目になるようだ。大谷現象は日本人の変化の象徴である。サムライ日本の存在感を発揮する時が来ている。オリンピックの花はマラソンである。今回の雨中の女子マラソンはパリ五輪に大きな期待を添えることになった。オリンピックの女子の活躍といえば1928年第9回、アムステルダム大会の人見絹枝である。陸上800メートル競争で日本の女子選手初の銀を得た。人見のパンツ姿に「お嫁に行けない」という声が上がったという逸話がある。あれから95年を経た。今回の雨の中の女性たちの眩しいパンツ姿を見て隔世の感をもった。

◇細田衆院議長の辞任会見の表情はいかにも哀れだ。追い詰められ困惑した表情は泣きそうにも見える。国会は国権の最高機関で唯一の立法機関である。細田氏はその国会で、参院に比し重要な役割を担う衆院のトップである。旧統一教会と自民党との関係のキーマンと言われながら公開の場での説明を逃げてきた。やっと開いた会見は極めて不十分で核心の質問にはまともに答えない。質問の挙手はやまず最後は振り切るように立ち去った。

 任期中の辞任は極めて異例。それは旧統一教会の問題やセクハラ発言の追及から逃げる姿に見える。国民の政治不信は一層募るに違いない。議長職は形だけのものであってはならない。地方議会の議長職が形骸化しているだけにそう思う。地方議会の議長の任期は4年なのに多くは一年のたらい回しだ。要改革である。(読者に感謝)

|

2023年10月15日 (日)

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一〇六

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

 強制収容所では、栄養失調が進むと顔も身体も太ってきて、皮膚の色は水のように半透明になり表面がぶよぶよしてくる。そして、体力は急激に低下して自分の身体を支えることもおぼつかなくなり、口元がもつれ、何を言っているのか分からない。まわりの者が、あいつはちょっと変だと気付くようになると死期が近いのだという。

 このような過酷な生活に耐えられず、脱走を試みる者が時々あった。二人、あるいは三人が一組になって計画を立てて実行するが、三日~四日するといつも射殺されて死体で戻って来た。死体は見せしめとして宿舎の前で一日中雪の上に放置された。

〈こんなむごたらしいことが、この世にあるだろうか。50年以上もたった今でも、あの光景は頭から離れません〉青柳さんは怒りを目に表して振り返るのであった。

 

六 ダガラスナの春

 

 青柳さんは、初めてのシベリアの冬を生き抜くことができた。自分が生きることだけで精いっぱいで他人のことを考える余裕などまったくなかった。改めて周りを見ると多くの仲間が姿を消していた。シベリアの各地の収容所で初めての冬に多くの犠牲者が出た。適者生存の原理のフルイにかけられたといえるかもしれない。精神的条件も含め極限を生きる力を備えた者だけが春を迎えることができたのだ。

 ダガラスナの山地は氷が溶け、どこも湿地帯となり、水がビショビショと流れ出ている。春から夏にかけての重要な仕事に鉄道の敷設があった。冬の材木運搬用の鉄道であるが、私たちが通常考える鉄道建設とはかけ離れている。水が流れる湿地の上に丸太を並べ、その上にレールを置くのだ。レールの上を歩くとふわふわ動く。これが冬になると丸太はコンクリートで固めたのと同じ状態になり重い貨車に耐えることができるのだ。

 氷が溶けるのを待つように、野山には春の息吹があふれてくる。青柳さんは小さな草花を見て、この小さな命がどのようにしてあの冬を越すことができたのかと驚き、改めて生きていることの喜びをかみしめるのであった。

つづく

 

|

2023年10月14日 (土)

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一〇五

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

 ノルマが達成できない場合には、懲罰を加えられる場合もあった。それは、例えば意識的に怠けているとみなされる者が目をつけられ、営倉に入れられるのである。営倉は窓もない狭い地下で暖房はなく、夜は零下20度にもなる。収容された者は、凍死を免れるため、絶えず、身体を動かし足踏みをしていなければならない。ある体験者は、一生、絶対に忘れることのできない恐ろしい出来事だったと証言しているのである。

 飢えた日本人は、ノルマを超過達成して増量の食事を得ることに懸命であった。しかし、そのために体力を消耗させて倒れ、ついに死に至るものが多かった。

 ソ連の囚人は、増食を求めて余分に体力を使うことは決してなかったという。彼らは懲罰では死ぬことはないが、無理をして体力を消耗させることは死の原因になることをよく知っていたのである。

 日本人の中にも増食に釣られることの危険性を見抜いている者もいた。ノルマ万能の中で80パーセント主義を貫いたというある日本人は次のように証言している。

「屈強な若者は、みな超過ノルマを目指して夢中で働いたが、長くは続かなかった。一、二ヶ月過ぎるとみな身体をこわして病床に伏する状態になった。しかし、私は、ソ連のために身体をこわしてまで働く愚はないと思い、最初から80パーセントしか働かなかった。お陰で私は、長い捕虜生活の間一度も病気になったことはない」

 とにかく、ダガラスナの冬は厳しかった。森の近くではところどころ水が湧き出ているが、流れる間もなく氷となってゆく。凍った地面は上へ上へと盛り上がる。初めての冬の厳しさは青柳さんたち日本人捕虜の心までも凍結するかのようであった。その上に、ノルマで苦しめられ僅かな食べ物しか与えられない人々は、次々に栄養失調で倒れていった。

〈同僚が栄養失調で息を引き取る時は、誠に哀れでした。私はやせるタイプだからよかったのです。太るタイプの人は、早く倒れたようです〉青柳さんは、しみじみと述懐した。

つづく

 

|

2023年10月13日 (金)

人生意気に感ず「藤井八冠と大谷、二人の天才は新しい日本の象徴。ハマスとイスラエル、憎しみは深い。旧統一教会は解散へ」

◇日本中が八冠に沸いている。柔和な表情の奥にどんな力が潜んでいるのか不思議だ。将棋といえば村田英雄が歌う王将の世界だけをイメージしてきたが、いつしか藤井少年の存在を気にするようになった。村田は歌う。「吹けば飛ぶような将棋の駒に賭けた命を笑わば笑え」、「やぶれ長屋で今年も暮れた愚痴も言わずに女房の小春つくる笑顔がいじらしい」、「明日は東京に出ていくからは何がなんでも勝たねばならぬ・・・おれの闘志がまた燃える」。

 この歌に現われる棋士の姿は、むきだしの闘志であり藤井八冠の姿はその対極にある。30分間長考する場面があった。この間少年棋士の頭の中は何を辿っているのか不思議に思った。この人の師は「人間力の十全の発揮」という。将棋の深さと共に人間の深さに感銘する。

 愛知県の地元は沸き立っている。その興奮度は野球のサムライジャパンの優勝の時のようだ。私は大谷と八冠を並べて思う。二人とも性格がよい。日本の新しいヒーローである。二人とも一見穏やかな春の海を連想させるが日常生活での自己の鍛錬は凄いに違いない。結果が物語っている。勝負の世界の厳しさは昔から変わらない。私は少年の頃、武蔵に憧れた。大谷も藤井もその中に武蔵に通じるものを持ち修練を重ねているに違いない。外の世界は、ウクライナ・ハマス・北朝鮮と戦火が続く。そんな中、藤井と大谷の存在は平和な日本、そして新しい日本を象徴する姿である。

◇ハマスとの戦いのためイスラエルは挙国一致内閣を表明。国外のイスラエル人も祖国の戦いに参加するため続々帰国している。ハマスの残虐性がイスラエルの怒りを増大させている。イスラエル人捕虜の斬首が伝えられる。イスラエルの指導部はハマスの残虐をナチスのホロコースト以来だ、ハマスを地球上から消すと語る。イスラエルはガザを完全封鎖した。電気も水も絶たれた状況は悲惨だ。病院は発電機を使用しているがその燃料も数日で尽きると言われる。欧米は人道的立場からもハマスの人々の救済には消極的である。しかし人道主義を深く考えるなら、子ども・女性・老人・病人などは救わねばならない。何とかならないものか。

◇旧統一教会解散の動きがやっと現実になりつつある。かねて私はオウムと同類の神を欺く所業と考えてきた。文科省は12日、解散命令を東京地裁に請求すると発表した。一連の過酷な搾取は「著しく公共の福祉を害し」、「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為」であることは明らかだと思う。東京地裁に注目したい。(読者に感謝)

|

2023年10月12日 (木)

人生意気に感ず「イスラエルとハマスの戦いの行方は。中東の火薬庫の歴史。土下座と二千万円と下村博文」

◇ウクライナ戦争が果てしなく続く中、今度は「悪夢」のような戦闘がハマスとイスラエルの間で始まった。双方の死者は10日の段階で合せて1,600人を超えた。ハマスの長期にわたる周到な準備があり、イスラエルには油断があり虚を突かれた感がある。ハマスはイスラエルの建国を不正とみなし武装闘争を続けイスラム国の樹立を目指しガザ地区を実効支配している。ハマスの攻撃に対し轟々たる世界の非難が起きているがこの事態を理解するにはイスラエル建国の歴史に迫ることも必要だ。世界を放浪するユダヤ人は第二次世界大戦後1948年、神に約束された地イスラエルにイギリスなどの支援を受けて国家を建設した。長い間ここに住んでいた人々の追い出された怨みは大きい。強大なイスラエルに抵抗する民衆蜂起(インティフィアーダ)は世界の注目と同情を集めた。若者がイスラエル軍に石を投げ始め、これに子どもや女性も加わった。圧倒的な強者に対する弱者の抵抗運動は新たな戦術であった。しかし、ハマスの抵抗はやがて銃を使い始め自爆テロは発展し血で血を洗う地獄のような様相を呈するようになった。民衆の怨みは想像を絶するものがあるようだ。ある母親は息子を自爆テロで失ったが後悔はなく残りの息子も神アラーに捧げると語った。イスラエルのユダヤ人は選民思想を信じハマスはアラーで、正に背景は宗教戦争である。

 ハマスの攻撃は狂気の沙汰である。多くの人を拉致して人質にし処刑すると脅迫している。ハマスの勢力は小さいが大国イランが支援の姿勢を鮮明にしている。中東は世界の火薬庫だが今回にわかにそれに火が付いた。イスラエルの最大の同盟国アメリカは今回イスラエル支援を打ち出しているが、どこかで戦争を止めさせる方向で動くべきだ。

◇今月発売の文藝春秋に醜悪な派閥の跡目争いの話が載った。土下座と二千万円の話である。下村博文衆院議員が清和会の会長になりたくて森元総理に土下座して頼み、厚い袋を差し出して言った。「二つ入っています。二千万入っています。受け取って頂けませんか。会長になりたいのです」。森氏は怒気を込めて言う。「君は何と馬鹿なことを。清和会の会長を二千万円で買えると思っているのか」。下村氏は土下座と二千万円については否定しているが事実らしい。このようなことが報じられて下村氏の政治生命は絶たれた。国民の政治不信はまた加速するだろう。(読者に感謝)

|

2023年10月11日 (水)

人生意気に感ず「世界の地震状況はただ事ではない。日本も不気味な動きが。高齢者の運動能力。本格戦争か」

◇アフガンの地震はこの世のものとは思えない。瓦礫の山は天の怒りを示すかのようだ。死者は2,000人を大きく超えた。昨年も1,000人を超える死者が出た。遺跡を捜すように土を除く人の指先に人の顔が現われた。やがて女児と分かる。掘り進めると女児を抱く母親の手が。女児は助かった。正に奇跡である。タリバンの支配地域である。その非人道的な行動が国際的な人道支援の大きな妨げとなっている。タリバンが実権を握って以来、女性差別は極端になっている。そこへ今回の大地震だ。昔の日本では大地震は悪い政治に対する神の怒りと人々は考えた。そんな思いが甦るようだ。

◇近年世界の巨大地震が増えている。2015年ネパールではM7.8、約9,000人の死者、今年2月トルコで死者5万7,000人以上、それに前記のアフガンの昨年に続く死者数である。これらは日本の地震状況とは無関係に違いないが、それでも不安をかき立てる。日本の周りでM6級の地震が頻発している。私たちは慣れっこになり、あるいは刺激に麻痺しているがここで自然を恐れ天を恐れるという原点に立つべきではないか。

 つい先日、不思議な地下の動きに起因して高知県を初めとした各地で60センチを超える津波が生まれた。迫る南海トラフでは高知県あたりに予想される津波の大きさは想像を絶する。

◇スポーツ庁は8日、体力・運動能力調査で高齢者の持久力が低下したと公表。持久力は6分間歩行の記録で測る。これは持久力が日常の運動習慣と結びついていることを示すものだろう。コロナ禍での外出自粛が影響していると言われる。

 ぐんまマラソンが迫った。マラソンは持久力の闘いである。私にとりマラソンは人生の生き方とつながる。今月30日、83歳を迎えその直後10キロを走る。完走には自信があるが制限時間での達成には不安が残る。最近ウォーキングシューズをランニングシューズに替えた。足裏に貼りつくようでフィット感が違う。朝の走りには楽しみがある。コース上で西へ向う時、朝日が影をつくる。もう一人の自分の姿である。82歳には見えない若者に思いを込めて走る。

◇本格的な戦争が始まった。ハマスは2,000発とも言われるロケットをイスラエルに打ち込んだ。イスラエルの報復が始まっている。ハマスを公然と支援するのはイランである。ハマスに世界の非難が集まるが、この際イスラエルの建国の歴史を振り返りたい。太古の神の約束で建国した。追い払われた人々の怨みは深い。明日のブログで私の思いを書く。(読者の広がりに感謝)

|

2023年10月10日 (火)

人生意気に感ず「胸を打つイラン女性獄中のノーベル賞。練炭による奇怪な犯罪の行方」

◇今年のノーベル平和賞はストーンと胸に落ちるものがある。女性人権活動家のモハンマデイ氏の受賞理由は「イランにおける女性の抑圧と闘い、すべての人の人権と自由を促進した」である。昔、佐藤栄作元首相がこの賞を得た時、ノーベル平和賞は何なのかと賞の意義を疑ったことが甦る。イランの女性抑圧とその人権侵害状況は信じ難い程だ。モハンマデイさんは反体制的な活動をしたとしてテヘランの刑務所に収監中である。獄中からイラン政府を非難するSNS投稿を続けている。

 イスラム教は女性は家庭に居るべきだと教える。その厳格な教義にも最近わずかな変化が見られるらしい。その例がサッカーの観戦を認める動きだ。モハンマデイ氏の受賞はこの動きに変化を与えるに違いない。この人の次の訴えが重く響く。「変化は一気に起こらない。長く大変な道のりだが変化が起ころうとしているのは明らかだ」。今年9月には、反政府活動の若者を路上で殺害することに抗議して訴えた。「彼らの墓は抗議者の強さの象徴となった。勝利が近い印しだ」。また、ニューヨークタイムでのインタビューで語る。「私は毎日窓際に座り、緑を眺めながら自由なイランを夢見ている。当局が私を罰し、私から多くのものを奪うほど、民主主義と自由のために闘う覚悟が固まっていく」。

 モハンマデイ氏は一貫した死刑廃止論者である。自由の尊重に命をかける者として命を奪う死刑に反対することには大きな説得力がある。今回のノーベル賞がイラン及び世界にどのように影響するか見守りたいと思う。

 女性抑圧の一つの象徴がヒジャブ着用義務である。公共の場で髪を隠さねばならない。アフガニスタンの女子バレー選手がヒジャブ姿で戦う姿は痛々しく見えた。日本に25対0と完敗したがあの布が運動能力の妨げになっていたと思えてならない。

◇奇怪な犯罪が起こるものだ。大量の練炭で一酸化炭素中毒死を起こした容疑である。殺害されたのは寺の住職。二人の容疑者は墓石販売会社の代表及び役員である。地下納骨堂には28個の練炭が並べられ着火された。これに気付いた住職が下に下りようとして中毒死したのだ。一酸化炭素(CO)は無色無臭で空気より重く猛毒である。

 この事件にミステリアスな要素を加えているのは容疑者の一人が特殊な墓石の技術者ということ。ステンドグラスを使った墓石は業界でも画期的とされ、専門誌も第一人者と取り上げる。寺離れが進む中、魅力的な墓つくりは重要。犯行との結び付きはミステリーだ。(読者に感謝)

|

2023年10月 9日 (月)

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一〇四

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

 ところが当時のソ連の社会主義では、個人の利益追求という経済活動の自由が否定されるのだから(この点は、基本的には現在も〃であるが)、人々は自分から進んで働こうとはしない。そこで、人々を働かせるためには、制度として労働の義務を課さねばならない。ここに、ソ連の社会主義を支える制度としてノルマが登場し、また、「働かざる者は食うべからず」ということが叫ばれ、労働意欲を高めるために工夫が国をあげて行われたのである。

 ソ連の社会ではあらゆる面でノルマが行われた。それを象徴する次のような笑い話もある。「夫婦の夜の営みにまでノルマがあり、それを果たせない亭主は尻を叩かれ、朝早く起きて朝食の用意をさせられる」と。

 このように、ソ連の社会にしみわたったノルマが、当然のことながら強制収容所にも持ち込まれた。捕虜であり、また、人権など全く無視される状況であったから、収容所におけるノルマの適用の仕方はより不合理で、かつ過酷であった。

 正直で勤勉な日本人がノルマを達成すると次にはより厳しいノルマが課された。ノルマの達成度は、例えば、110パーセント以上が一級、その下の100パーセント以上は二級、その下の80パーセント以上は三級、それ以下は四級と評価され、それに応じて食事も差別された。

 人々にとって飢えは、最も耐え難い苦しみである。だから食事の量とノルマを結びつけることは、収容所側として最も効果的な労働強制の手段であった。そこで、収容所は食べ物を餌にあらゆる手を使って人々をノルマに駆り立てた。

「分隊ごとに、二人のハラショー・ラボーターを選び、これに20パーセントの増食とし、また、四人のニエ・ハラショー・ラボーターを選び10パーセントの減食とせよ」と。

 ハラショー・ラボーターとは優秀な労働者、ニエ・ハラショー・ラボーターとは不良労働者という意味である。ハラショーじゃ、良いという意味で、私たちが、ハバロフスクを訪ねた時も、日常会話の中で時々使われているのを耳にした。ニエは否定を意味する。ラボーターは労働者である。

 

つづく

|

2023年10月 8日 (日)

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一〇三

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

 青柳さんは伐採の仕事が危険で並々ならぬことを初日から味わった。そしてその夜、大変な事実を知らされた。それは、このダガラスナ収容所では、伐採中に木の下敷きになって死ぬ者、貨車に木材を積む時にくずれた木に押し潰されて死ぬ者、また、栄養失調で死ぬ者など、死者が続出し、その欠員を補うために青柳さんたち五十名が回されたということであった。前年、つまり昭和二十年の十月に、五百人の日本人がこの収容所に入り、まだ三ヶ月ほどしかたっていないのに、五十人を超える死者が出たとは、何と恐ろしい所か。青柳さんは絶望感で目の前が真っ暗になった。

〈ソ連では、何でもみなノルマです。ノルマを達成することは容易なことではありません。それができないと食事を減らされるのです。シベリアの収容所では、ノルマには本当に苦しめられました。〉

 青柳さんは、しみじみとノルマについて振り返った。

 ノルマというコトバは、私たちも日頃、無意識に使うことがあるが、これはロシア語で、シベリア抑留者によって日本に伝えられたコトバだという。これは、決められた時間にやらなければならない仕事量のことである。シベリア抑留の中で、日本人を悩ませたこのノルマは、ソ連の社会制度と不可分な制度であった。

 ソ連では、社会主義の建設は労働者の労働にかかっている。そして、労働の成果は労働者の労働意欲にかかっている。この点は、基本的には私たちの資本主義の社会でも同じことであるが、労働意欲を起こさせる要因が大きく異なるともいえる。私たちの社会では、働けばその成果は自分のものになり、より豊かになることができるし、働かなければ収入が減る。事業をやっている者は、努力しなければ倒産ということにもなり大変な憂き目を見ることにもなる。思想の自由、行動の自由が保障された制度の下で、人々は必死で働き、他より少しでも豊かにと競争する。その結果が資本主義社会の繁栄を支えている。だから資本主義の社会では社会全体の生産性を上げるために、労働を義務づける必要はない。

 

つづく

|

2023年10月 7日 (土)

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一〇二

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

 青柳さんたちは、規定の太さの木を選び、根本の雪を除いて、作業の場所をつくる。見上げると黒い松の巨木が天を突くようにそびえている。巨木は切れるものなら切ってみろとばかりの威圧感を示している。これの下敷きになったらひとたまりもないだろうと青柳さんは背筋が寒くなるのを覚えた。巨木との対話が始まろうとしていた。木が倒れる方向を見定め、そちらの方向の幹に斧をふるって斜めの切り口をつくり、その反対側から、大きな両引きのノコギリで二人でひき始める。二人の呼吸が合わないとなかなか進まない。反対側の切り口を目指してノコギリの刃を進めるが思い通りに進まない。刃先の方向がずれると巨木の重心は切り口に向かわず、想定外の方向に倒れることになる。その下敷きになって命を失う日本人は多くいた。青柳さんたちは長い時間をかけ、何度も刃先の軌道修正をしながら、ようやく目的を遂げようとしていた。ミシミシときしむ音が始まった。青柳さんと相棒は顔を見合わせた。やったなと互いの目が語っている。

「倒れるぞ、逃げろ」

 青柳さんは大声で叫んだ。二人が身を引くと同時に、巨木は森中を震わすような咆哮を上げて倒れた。ドドーと地響きがして、同時に根本から離れた太い幹が白い切り口を見せて跳ね上がった。青柳さんは出現した切り口をじっと見つめていた。無数の年輪が詰まっている。それは、この酷寒の凍土で長い年月を耐え抜いた生命力のしたたかさを物語っていた。青柳さんは一仕事終えたという達成感とともに、森の木々の生命力に触れた感慨にしばしひたっていた。

 青柳さんの身に事件が起きたのは、やっとの思いで切り倒したこの巨木の枝を落としている時であった。振り下ろした斧の先が、わずかの手元の狂いから幹の表面をすべり、右足の防寒靴の上に落ちた。瞬間、親指の付け根から激痛が走った。斧の刃は防寒靴の先をざっくりと切り裂き骨にまで達していた。すんでのところで、指の切断までゆくところであった。このような事故は伐採に当る人々の間では常に起きていたのである。半世紀以上たった今でも冬になると痛みを覚える。また、親指の先は常に感覚が鈍くなっているのである。

つづく

|

2023年10月 6日 (金)

人生意気に感ず「ジャニーズ事件の驚くべき展開。マスコミの使命を問う。袴田事件と死刑制度」

◇ジャニーズの性加害につき私はマスコミの責任が大きいことを指摘してきたが、それ見よと思わせる事実が明らかになった。日本テレビが社内調査を行った結果である。長きにわたってジャニーズ事務所を特別扱いしてきたことを認めたのだ。事務所を怒らせるとキャスティングや取材が出来なくなるのではという認識や雰囲気があったことを社内関係者が証言した。これは日テレだけの問題ではない筈だ。週刊文春が大きく報じ、それを裁判所も真実と認めながらほとんどのマスコミは動かなかったからだ。今年3月、英BBCが特集で報じ、国連でも取り上げた。私たちは、人間尊重の日本国憲法に立っている。マスコミの使命は人権への奉仕ではないか。日本のマスコミは世界に恥を晒したと言っても過言ではない。この期に及んで、日本を代表する新聞はジャニー喜多川を「氏」付けで報じているのは特別扱いではないか。日本丸は現在重要な岐路にある。マスコミは本来の使命を果たせるのか懸念される。

◇驚くべき事実が次々に明らかになる。ジャニーズ事務所の記者会見に逃げの姿勢を感じた。2時間という時間設定を設けたこと、その中で質問する記者につき指名リスト、指名しないリストを用意していたという。この点を追及された事務所は記者会見運営組織に「指名しない」のは良くないと注文をつけたら、時間の後半に指名することになったという。何ということか、時間切れに逃げこむことを予想した言い訳と言われても致し方ない。

◇挙手を繰り返しながら指名されなかった一部の記者らが大声を出すなど会場は一時騒然となった。会見に出席したあるジャーナリストは言う。「市民やファンを愚弄するもので会見のやり直しが必要だ」。

 前記のように問題の深さを考えると国が積極的に関与する必要があると思う。4日、「性加害問題当時者の会」は国会で立憲民主党のヒヤリングに応じた。当時者の会代表は事務所の救済策だけでは不備があるから国が事務所を指導する必要があると述べたがその通りである。

◇死刑囚袴田さんの再審が27日に始まる。87歳の弟を支える姉秀子さんの姿から無罪を確信していることが窺える。袴田さんは30歳で逮捕された。余りに長い再審の道のり。証拠の一つに犯人が着ていたとされるズボンがある。小さすぎて袴田さんにははけないのに一審では着用実験もしなかった。死刑囚の日常は死の影に怯え過酷である。憲法は残虐な刑を禁じるが残虐性は執行までの過程を含めて考えるべきだ。(読者に感謝)

|

2023年10月 5日 (木)

人生意気に感ず「不登校、いじめの激増は社会崩壊に通じる。ジャニーズの怪。処理水放出第2段」

◇学校が崩壊していく。不登校やいじめの激増から受ける恐怖感である。文科省の調査によると、2022年度、全国の小中学生の不登校は29万9,048人で過去最多、いじめの認知件数は68万1,948件でこれも過去最多。不登校は20年度と比べ10万人以上増えた。

 その要因は何か。複雑な社会の闇と繋がっているに違いない。昔から不登校の子は劣悪な家庭環境に置かれていることが多かった。今日の社会はそれが加速しているように見える。離婚による家庭崩壊は深刻。母親だけで子どもを育てる困難な状況を私は多く知っている。子どもの心理を想像すると学校という集団に入っていく勇気が湧かないのではないか。

 不登校やいじめの状況の子どもたちは心に傷を抱いて大人の社会に移行していく。それは社会の弱体化と崩壊に通じる。それはまた少子化の要因にもなるだろう。政府は異次元の少子化対策を主張しているが、現在小中学校で起きている現象をどのように受け止めているか。子どもの人権にも係わることだけに根本的な対策が求められる。

◇ジャニーズの性加害問題は今年の10大ニュースの上位を占めるだろう。前代未聞の性犯罪の主はなぜ生前摘発されなかったのか不思議でならない。

 ジャニーズ事務所は記者会見で再編策を打ち出した。その内容は屋号を変え被害者への補償が済んだら廃業するというもの。そして所属するタレントは新設の会社が引き継ぐとしている。しかし、新会社の実質は変わらず看板を替えただけになるのではとの懸念が指摘されている。旧体制の中心であった東山氏が新会社の社長を務め、更にジャニーズの資産などを広く引き継ぐと見られるからだ。

 新会社への信頼関係が揺らいでいる。スポンサー企業が次々に契約の打ち切りや見直しを進めているのはその現われだ。

◇福島第一原発の処理水の2回目放出が今日5日から始まる。8月に行った第一回分と同様7,800トンである。放出前のトリチウム検査は基準以下で異常はなかった。世界の大勢は日本が主張する科学的安全性を認めており中国の態度にも微妙な変化が感じられる。

 中国では民族大移動のような旅行の動きが起きており日本にもコロナ以前のように中国の観光客が訪れている。私の知人の多くの中国人も寿司など日本の魚をおいしいと言って食べている。中国船が漁獲した魚は中国産として流通を許していることを彼らは知っていた。(読者に感謝)

|

2023年10月 4日 (水)

人生意気に感ず「カリコ氏のノーベル賞に思うこと。多様性と女性の役割。大谷の本塁打王が示すこと」

◇今年のノーベル生理学・医学賞には私たちの健康に結びついた身近さと感動を感じる。新型コロナウイルスに対するカリコ氏等の貢献だ。数百万人の命を救ったと評価された。

 新型コロナウイルスは人類に挑戦し、あっという間に全世界に波及した。最近やっとトンネルを抜けたが、歴史を振り返って過去のウイルスとの闘いと比べて画期的だったのはワクチンの効果だった。

 ワクチンの新時代の基礎を築いたカタリン・カリコ氏の人生は苦難に満ちたものだった。その中で自分の学説を信じて貫いた歩みは研究者のあるべき姿を物語る。

 カリコ氏は共産主義のハンガリーで生まれ科学者など見たこともないという田舎町で育った。名門大学での研究者の生活も研究資金が得られず厳しかった。

 車を売った金を娘のぬいぐるみに隠し「鉄のカーテン」を超えてアメリカに渡った。当時外貨の持ち出しは制限されていたのだ。

 遺伝子を研究しワクチンに使う発想は評価されず、降格も経験した。不遇の時代を支えた同僚が共同受賞者のワイスマン氏だった。二人は大学のコピー機の前で知り合い意気投合した。カリコ氏は受賞のインタビューで「コピー機を増やせば」とユーモアを示した。彼女は言う。「科学は積み重ねの上に成り立っている。私たちの研究はいつどこで役立つか分かりません」

 カリコ氏の成果は常識にとらわれないユニークな発想から生まれた。それは多様性の尊重である。彼女は言う。「多様な立場からの建設的な批判が良い成果に繋がる」。そして、多様性を活かす観点から科学に於ける女性の存在の重要性を訴える。「理系女」という言葉が流行った。科学者を目指す女性が少ないことを物語るもの。女性は科学の分野で未開拓の存在であり、その意味で限りない可能性を秘めている。カリコ氏の受賞から、日本の科学界及び教育界は大いに学ぶべきである。

◇米大リーグで大谷が本塁打王となった。対立するチームの主力選手が天を指して「彼は上から来たエイリアンだ」と賞讃する場面があった。敗戦の焼土を体験している私の頭にはアメリカにはかなわないという観念がすり込まれている。だから昔、力道山が巨体のアメリカ人を空手チョップでぶっ倒す姿に熱狂した。

 最近の日本は正統なスポーツの世界で互角にアメリカと渡り合っている。それを象徴するのが大谷の快挙。大谷の控え目で誠実な人柄は武道とサムライの文化を発信している。(読者に感謝)

|

2023年10月 3日 (火)

人生意気に感ず「墓離れは社会の崩壊に。無縁遺骨の増加は。塾講師の性加害。カジノ解禁と依存症」

◇私の家は代々浄土真宗である。私は人生の途中の出来事がきっかけでカトリックの洗礼を受けたが二つの宗教に関わりをもっている。節操がないようだが浄土真宗にはカトリックと通じるものが流れているのでそれ程の抵抗感はないのだ。清光寺の僧から役員を頼まれたとき洗礼の話をしたが気にしないらしいので引き受けた。この寺は楫取素彦と深い関わりがあることも一つの理由である。

 寺と係わる中で墓が抱える深刻な問題を知った。墓離れ現象である。核家族化が進み、結婚して遠くに住む人は墓から離れていく。その先は、墓は要らないとか樹木葬とかも増える。祖先を敬う意識も薄れ社会の崩壊につながる現象と思われる。

 コロナを機に葬式の形もかわった。家族葬が非常に多くなりかつてのように多くの関係者が集まることもなくりつつある。日本の社会は全体として変化しつつある。死生観が変わり宗教の基盤が薄い社会がより弱体化していく恐怖を感じる。

◇総務省が衝撃の現実を示している。無縁遺骨の問題である。高齢化が加速する中で当然のこととして多死社会が進む。身寄りのない高齢者が亡くなると遺骨の引き取り手がない例が増えているというのだ。総務省はそのほとんどは親族等が引き取りを拒否したり、引き取り手が見つからないという現実を訴える。これは何を物語るのか。倫理観の希薄化や自己主義にも繋がる問題である。社会がこの新しい現象に対し法律を設け社会の崩壊を防がねばならない。

◇子どもに対する性加害が後を絶たない。小学校校長の教え子に対する犯罪に驚きあきれた矢先、今度は大手受験塾の元講師の盗撮が報じられた。逮捕された二人は中学受験塾「四谷大塚」の20代元講師。二人は共謀して女児の下着を盗撮した疑い。うち1人は強制わいせつなどの疑いで逮捕されていた。現在大きな社会問題となっている子どもに対する性加害歴登録義務化と繋がる問題である。学習塾の実態はその規模に於いて様々であるが、今回の事件のような大手塾は学校と同じように扱うべきことが子どもの保護の関点から求められる。

◇大阪のカジノの開業に向けた動きが本格化している。大規模なギャンブルを地域経済発展という理由で許して良いものか。刑法が賭博を重大な犯罪と定めることとの整合性はどうなるのか。何よりも重大な懸念はギャンブル依存症の拡大である。社会一般の射幸心をあおり真面目な勤労精神に水をさすことを恐れる。(読者に感謝)

|

2023年10月 2日 (月)

人生意気に感ず「歴史を追及して20年。人生の放物線は地上に近づく。80代は冒険の旅。統一教会は解散へ」

◇遂に10月だ。今月30日、私は83歳を迎え、その直後ぐんまマラソン10キロに挑戦する。9月30日の「ふるさと未来塾」はやや高揚した気分で臨んだ。

 会場の私のテーブルの上には「祝・ふるさと未来塾20周年記念」と書かれた花がおかれている。塾生のK君の心遣いである。この日のテーマは「日本の運命を決めたダグラス・マッカーサー」。平静13年に芳賀公民館で「コロンブスの新発見は世界を変えた」を話して以来20年以上が過ぎてきた。参加者が増えるにつれ現在の総合福祉会館に会場を移した。振り返えると愚直にある目的を求めてきた。それは元東大総長の言葉である。林健太郎先生は県民会館(現ベイシア文化会館)の私の集いで“歴史を社会のために活かせ”と訴えられた。

 歴史とは何かを基底に据えて様々な出来事を私の歴史観によって解説してきた。感慨深いものがある。

◇ふるさと塾に打ち込んだ私の姿はマラソンに似ている。10キロコースを長く続けてきたが完走証を調べてみると21回であった。56分で走った初めの頃と比べ次第にタイムは落ち、昨年は完走者中のラストであった。奮起して翌日から走り、気がつくとあと一ヶ月余となった。限界への挑戦である。人生の放物線は83年の弧を描いて地上に近づきつつある。落下は宿命であるが落下点を先に伸ばすことは努力によって可能である。

◇毎日更新しているブログは一定期間ごとに冊子にしているが、それは私の時々の思考の産物であると同時に文章修業の軌跡でもある。簡潔に深く平易にを心掛けてきた。今企画しようとしているものがある。80代のブログから選んで一冊にして出版することである。表題(仮題)は「八十代は冒険の旅」である。80代の行く手には死が待ち受けている。私は死が恐い。八十代のブログは表には出さなくも死を意識して書いている。これにどのように対面するのか。その正体は何か。恐怖に破れてひれ伏すのか、堂々と誇りを持って握手するのか。正に人生最大の冒険なのだ。宗教も多くの文学も死への恐れから生まれてきたともいえる。

◇政府は宗教法人に基づき旧統一教会の解散命令を請求する方針を固めた。憲法は信教の自由を認めるがそれも公共の福祉の制限を受ける。宗教法人法は宗教団体が「法令に違反し著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」があった場合、裁判所が解散を命じ得ると定める。高額献金集めを組織的に行い多くの家庭を崩壊させた事実は解散の要件を満たすに違いない。(読者に感謝)

|

2023年10月 1日 (日)

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一〇一

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

 シラミの不気味さと凄さは、その繁殖力と生命力である。成虫は零下十度くらいでは動いているし、衣類に産み付けられたタマゴは零下四十度でも死滅しないのだそうだ。身体中シラミに取り付かれ血を吸われ、気が狂うほどの痒さに苦しめられ、挙げ句の果ては、恐ろしい病原菌を移される。実際に島¥ベリアの抑留者の中には、シラミに命を奪われた人もいたのだ。

 多くの抑留者が語るところによれば、身体中に食いついたシラミは、人間が死ぬと、すっとその身体を離れ、隣の温かい身体に移動するという。極限の飢えと寒さに対して死を賭けた対決を迫られた抑留者は、その生き血を吸って繁殖するこの小さな生命体とも対決しなければならなかった。暖炉でシラミを殺す男の背は、この現実を語っていたのであった。

 ここでの作業は伐採であった。伐採は、主に冬の作業である。それは、冬は屋外での他の作業ができないことが多いこと。また、雪を利用して木材の運び出しに便利だからだという。

 作業の現場は、収容所から四十分ほど歩いた所にあった。気温は零下三十度。シベリアの森は果てしなく深い。雪の森は呼吸を止めたように静かで奥は暗かった。青柳さんたちは、白の世界にのみ込まれるような恐怖心を抱いて森に足を踏み入れていった。現場に着くとこまごまと指示がある。例えば、切り倒すのは、直径三十センチ以上の木であること、切り株は地面から三十センチ以下にせよ、そして、切り倒した木は枝を払って、長さ五メートルに切断せよという風に。そして、切った木は、横二メートル高さ二メートルに積み重ね、これが二人分のノルマと定められる。ノルマを達成できないとそれに応じた食事しか与えられないし、厳しい懲罰もある。作業は、正に命がけであった。

 

つづく

|

« 2023年9月 | トップページ | 2023年11月 »