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2020年10月31日 (土)

小説「死の川を越えて」第285回

「この医師の態度は決して重監房だけの問題ではないと思います。全国の収容所の隔離政策に共通した問題に違いありません」

「そうだ、その通りだ」

「しー、静かに」

 講堂内の熱気は抑え難い程に高まっていた。

 沢田は自らの胸の高鳴りを静めるようにしばし唇を閉じていたが、やがて一枚のメモ用紙を取り出した。

「私はここで重監房の悲劇を数字で示したい。どうかお聞き下さい。この施設への収監は昭和14年9月30日から始まり昭和22年8月まで続きました。収監された数は、2回収監された4名を含め延べ93名であります。

 入室中または退室後1年未満の死亡者は合計23名です。冬期の死亡者が最も多く13名であります。これは凍死に違いありません。収監者のうち女性は6名、拘留日数の最長者は549日でありました」

 これらの数字に対し冷静な筈の裁判官の顔に大きな驚きが現われていた。

 

成田明の登場

 

 再び舞台は東京に戻った。

 東京地裁大法廷に登場した成田明の証言は衝撃的であった。それは、熊本地裁に於ける和泉眞一、大谷富男、犀川佐一等の証言を別の立場から更に押し進める意味を持ち、首都の司法の舞台での発言は誤った国政にとどめを刺すかと思われる迫力があった。

 かつて療養所の最高責任者の立場にあり、彼の医師としての人道主義の姿勢は療養所職員の尊敬を得ていた。医師としての成田は療養所の現場で入所者と接し、隔離政策の誤りを意識するようになり、そのことを講演や著書でも訴えていた。

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

 

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2020年10月30日 (金)

人生意気に感ず「環境重視と国際協調こそ世界が生き残る道。オリンピックの実現は日本再生のステップ」

◇「バイデンが当選すれば株は暴落し経済はどん底に落ちる」。トランプ氏はこう絶叫する。トランプ政権の下で株が上がり経済は急上昇しただけにトランプ氏のこの叫びは一見真実のように響く。バイデン氏は近い将来の温室効果ガスゼロを強く訴える。即ち2035年までに電力部門のゼロ、50年までに全体のゼロを実現すること。そのために石油・ガス産業への連邦補助金を廃止する考えだ。バイデン氏は石油ガス産業を抱える地でこのことを訴えている。私には勝利への自信を示す姿に見える。権威ある研究機関の分析ではバイデン氏の政策の方が米経済の成長率は高くなるという。新しい分野の技術の革新が進み、新産業が発展するからだろう。これは菅政権が目指す温室効果ガスゼロと基本方針は同じである。ひょっとすると、菅政権は次はバイデン政権であることを見越して政策を立てているのかもしれない。恐らく短期的にはバイデン勝利は株価の下落などの混乱を招くが中期的にはアメリカ経済は息吹を吹き返し大きく成長するに違いない。

 バイデン氏は環境重視と国際協調を目指す。これは地球的規模の経済発展のうねりを起こすに違いない。環境重視は地球を甦らせる。経済の発展はその一環という意味を持つ。

◇昨夜、中国人の実業家を入れた4人の友人が私の誕生会をしてくれた。久しぶりの河豚料理が美味しかった。この中国人は私に日中友好協会として現在の中国をどう思うかと訊ねた。私は次のように答えた。「中国はコロナの克服に成功し、内需拡大に向っている。日本が経済面で協調できる余地は極めて大きい」同時に私の胸の内には、中国の暴走を抑えるために友人として言うべきことを行動で示さねばという思いがあった。日本は戦略的にしたたかに成らねばならない。アジア諸国と連携して中国の覇権主義を食い止めることは長期的には中国のためでもある。米中の対立とアメリカの新たな、そして大きな変化の中で日本の役割は益々大きくなった。世界中がコロナによって金縛りの状況である。その中で日本は奇跡的に被害が少ない。この点は中国と同様なのだ。日本が来年オリンピック・パラリンピックを実現できれば、日本がコロナを征した証となる。コロナ後の地球は様相を一変させるだろう。オリンピックはそのためのスタートラインに違いない。それはまた、新大統領を得たアメリカの再生と軌を一にすることになるだろう。(読者に感謝)

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2020年10月29日 (木)

人生意気に感ず「期日前投票が語ること。各国首脳のトランプ離れ。私の80歳誕生会」

◇大統領選の期日前投票数が記録的に増加している。26日までに6,470万人超に達したというから驚きである。そのうち約4,380万人が郵便投票であるという。その主な理由はコロナへの恐れに違いない。期日前投票の多さは今回の選挙に対する関心の高さを窺わせる。私たちの最大の関心事はどちらが勝つかである。総じて民主党のバイデン優勢が伝えられるが私たちが得られるのは限られた情報である。期日前投票の数は情勢の推移を雄弁に語る。出口調査その他により実際の動きは遥かに進んでいるに違いない。世界の主要国にとってアメリカの次期大統領が誰になるかは国家的利益と結び着く重大事である。恐らくあらゆる手段を駆使して情報を集めているだろう。

 そのことを窺わせる主要国の興味ある動きが伝えられている。現職のトランプ氏に距離を置き始めバイデン氏に近づいているという。ロシアのプーチン大統領、イギリスのジョンソン首相、イスラエルのエタニエフ首相等の動きである。中でも面白いのはプーチンの動き。バイデンの次男の疑惑を否定しているのだ。ロシア関係のビジネスで不当な利益を得ていることをトランプは必死で追求しようとした。プーチンはそれを明確に否定した。プーチンの態度は何を意味するかは明らかである。バイデンに接近する動きは与党の共和党内にも出始めた。主要な上院議員がバイデン支持を打ち出している。ある共和党の重鎮の言葉「私は国を選ぶ」は私の胸を打つ。アメリカ最大の国難に直面し国家を救うのが誰かという視点を表明した言葉であるからだ。この文を書いている時にもアメリカのコロナの猖獗(しょうけつ)は進む。

◇明日30日は私の誕生日。国内外の大変な時に私は満80歳を迎える。私の人生の歩みはささやかな歴史であるが、私にとっては激流の中の木の葉であった。昨夜数人の同志が誕生祝いをしてくれた。「人生を振り返って最大の喜びは」と訊ねられた。様々な出来事が甦る。私は「初当選です」と答えた。西片貝町の赤城県道沿いの田圃は支援者の歓声が響き興奮の渦であった。各紙は「中村市初陣を制す」と報じた。その夜私は恩師林健太郎先生に報告した。先生は前年の県民会館の集会に出席し、「歴史を活かした政治家になれ」と励ましてくれた。元東大総長の言葉はその後の私の人生の道標となった。先生は平成16年91歳で世を去られた。(読者に感謝)

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2020年10月28日 (水)

人生意気に感ず「所信表明・温室ガスゼロの衝撃。私はセンテナリアンを目指す」

◇26日、臨時国会が召集され菅首相が初の所信表明演説を行った。その中で最重要と感じたの「温室ガスゼロ」を名言、約束したことだ。最近の温暖化、超異常気象は地球の崩壊を思わせる。このままでは日本は呑み込まれるとの危機感が迫っている。首相の発言に対し「企業が成り立たなくなる」との経済人の泣き声が聞こえる。しかし首相が目指す本質は発想の転換で、経済と環境の両立を実現させ新しいビジネスを生み出すことだ。日本は最大の国難を迎えている。国政の指導者の役割は大きな目標を掲げそれへの決意を示すことだ。それに向けて日本の総合力が動き出す。私は菅氏の所信を聞いてタイムリーな勇気を感じた。トランプ氏は地球環境に後ろ向きである。

環境と経済の両立を図ることはコロナに対する有効打となる。異常気象による海面上昇に怯えるアジア諸国に対する意義あるメッセージであり、それらの国々との連携を高め日本の存在感を示せるだろう。

◇その他の注目すべき「所信」として次の点があった。まずコロナにつき「爆発的感染を絶対に防ぎ国民の命と健康を守り抜く」と誓ったこと。コロナ対策はむしろ政権が第一に国民に示すべきことだ。コロナは巨大な蛇のようだ。地にもぐったと思ったら鎌首をもたげる怪物である。経済の活発化を図ればこの怪物を勢いづかせる恐れが生じる。コロナ対策の調整が求められるわけである。

次に来夏の五輪パラリンピックだ。菅氏は「コロナに打ち勝った証として開催する」と決意を述べた。「打ち勝った」と完了形で表現できるかについては多くの人々が懸念を抱くだろう。日本の総合力が試される。ワクチンの動向が一つの鍵である。首相は来年の前半までに全国民に提供できる数量を確保すると決意を示した。

◇あさって30日、私は満80歳を迎える。昨夜少数の友人が誕生日を祝ってくれた。普段酒を飲まない私であるが、「80年の感慨」をもって飲む生ビールはうまかった。菅首相が所信表明で「発想の転換」を語ったが私は個人のレベルでもこの転換の必要を思う。人生観、死生観についての転換である。かつては「人間50年」と言った。今はセンテナリアン(百寿者)の時代である。群馬マラソン10キロの挑戦が近づいた。今年はスマホを手に独特のスタイルで行う。毎朝全速疾走で備えている。Facebookに不動滝での滝行の写真を載せたら多くの人から「いいね!」を頂いた。センテナリアンは健在で首相の約束を確かめたい。(読者に感謝)

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2020年10月27日 (火)

人生意気に感ず「最後の討論は。女性と高齢者、最高裁女性判事」

◇大統領選の息詰まる瞬間が続いている。それもいよいよ大詰めを迎えた。22日最後の討論会が行われた。大荒れで「史上最悪」と言われた前回と比べ一転したと言われるが状況を覆すサプライズはなかったらしい。それはトランプの戦略が狂ったまま終局を迎えることを意味する。コロナを軽視しコロナに立ち向かう強い大統領の姿はピエロで終るかもしれない。トランプ氏の「間もなく終る」の発言は海を越えて空しく響いてくるようだ。

 討論会の時点でも「感染者拡大の加速」が指摘され取り上げられた。ここに至っても「間もなく終るだろう」という楽観的見通しを語った。これは政策なしを意味する。煽動家の言葉は今や煽動力を失ったといえるだろう。

 コロナに最も深く関わるのは女性と高齢者である。女性は一般に高齢者の面倒を見、子どもを守る立場にあり、高齢者は感染した場合に重症化のリスクを負うからである。このために全米の女性及び高齢者がトランプ氏支持をやめる傾向にあると言われる。日本の選挙では女性票の支持がなければ勝てない。このことを私は長年の経験で骨身にしみる程感じてきた。アメリカの選挙でも同じことが言われているのだ。更に加えてアメリカも高齢化の時代で高齢者はコロナの猛威の前に怯えている。無策のトランプ氏をコロナはあざ笑っているに違いない。

◇米最高裁の女性判事ギンジスバーク氏が9月18日87歳で亡くなり、その翌日多くの女性が米最高裁の追悼集会に集まった。この人はアメリカの女性の地位向上に尽くした偉大な裁判官だった。民主党のクリントン大統領が指名したリベラル派の裁判官であった。この後任の指名時期を巡りトランプ、バイデン両候補が激しく対立し討論会の争点にもなった。トランプ氏は大統領選で負けた場合の法廷闘争に備え選挙前の指名に懸命であった。バイデン候補はこの点、選挙後の指名を主張した。トランプ候補は大統領の権利を主張し9月26日指名を発表した。最高裁判事を政治(選挙)と結びつけているとの批判を免れない。ギンジスバーク氏はコロンビア大学を首席で卒業し弁護しになったが女性という理由で弁護士事務所は彼女を雇わなかった。この人は性別に基づく差別を最高裁に持ち込み4年間で5件の違憲判決を勝ち取った。最高裁判事に指名された時、女性では史上2人目であった。後任指名を巡るトランプ氏の姿勢も選挙の結果に影響を与えるに違いない。(読者に感謝)

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2020年10月26日 (月)

人生意気に感ず「ふるさと塾に珍客。それでもトランプは勝つのか。フロリダとアリゾナ両州は」

◇24日の「ふるさと塾」は新たな状況のコロナ禍にも拘わらず盛会だった。新たな状況には日本アカデミーの件がある。留学生にコロナが増え、私の感染を懸念する人もいると思えるのだ。注目すべき出席者が何人かいた。その中に尾身朝子代議士、平塚群大学長の姿も。尾身さんは最後までメモを取りながら熱心に耳を傾けていた。終わりの部分で極く短い時間を提供しコロナについて発言してもらった。この人は来年のオリンピックに触れコロナ対策に万全を期しながら経済再生にも繋げることを述べた。お父さんの幸次氏はその現役時代、私は長く選対本部長としてお世話になった。その他私が驚いたのが出席者に私の長男周平の小学生の時担任だった先生が居られたことだ。実は過日この方から突然電話を頂いた。私が周平のことを書いた「遥かなる白根」を久しぶりに読んで夜眠れなかったといっておられた。

◇塾のテーマは大統領選の行方を探るということもあって自然熱が入った。話をしている間にもアメリカでは熱い戦いが展開されていると思った。「それでもトランプが勝つ。それがアメリカにとっても世界にとってもむしろ良い」というエマニュエル・トッドの主張及びその論拠にも触れた。私個人としては最早トランプの小細工は通用しないと考えている。そのことを女性及び高齢者の動向を取り上げて話した。

 女性に関する変化としてアリゾナ州のある町の女性弁護士の動きを紹介した。この町は伝統的に共和党が圧倒的である。この女性はトランプの行動を見て独裁者のようだと大きな危惧を抱いた。トランプ氏のせいで差別主義者がその考えを隠そうともしなくなったと感じたのだ。バイデン氏の票を一票でも増やそうとバイデン応援を示すプラカードを持って毎日道路に立った。アリゾナ州では今バイデン支持の女性が増えている。コロナの状況も女性を後押ししている。コロナに罹患した高齢者や子どもを守るのは主に女性の役目である。このような女性の変化は全米に広がっていると言われる。

 高齢者層の変化はフロリダ州に現われている。フロリダはアリゾナと共に激戦州であり共和党が強い所。富裕な高齢者が集まっているがこの人達はコロナの猛威を恐れている。コロナのリスクは高齢者に高いからである。トランプ氏はコロナを軽視して恐れるなと言うが、高齢者はこれを受入れることは出来ない。ある高齢者は「トランプをホワイトハウスから追い出したい」と言った。この動きも全米的になっている。(読者に感謝)

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2020年10月25日 (日)

小説「死の川を越えて」第284回

 沢田は裁判官の前に進み出た。これまでにない経験で緊張のため身内が震えていた。

 尋問者は沢田の異常に緊張した表情を見て自分も身構えるようにして尋ねた。

「あなたは重監房の実態につき、医師の責任を追及する考えだそうですが、どういうことがありましたか」

「はい、私が先ず申し上げたいことは、病室、つまり特別病室という看板を掲げながら医者が一度もここに顔を出さないという事実であります。このことは園内の者なら誰もが知っていることです。これが何を意味するのか、長い間私の胸にたまった思いを聴いて頂きたい。特別病室と装って悪魔の牢獄ともいうべき重監房を作ったこと自体、国が私たちを欺いたことですが、それ以上に園内の医師が死と直面している監房の中に一度も足を運ばないとは、これは医師としての本分を忘れたものではありませんか」

 この時声が上がった。

「そうだ。その通りだ」

 そしてどよめきが講堂内に広がった。

「しー。静かに」

 誰かが制した。

「監房の中は、真冬は零下20度近くにもなり、しかも暖房はなく寝具は薄い敷き布団に一枚の薄い掛け布団のみ。凍死する者が出ておりますし、死に瀕した状態の者は多い。このような人たちに手の届く所にいながら医師の責任を果たさないとは医師として人間の心を失っているとしか言いようがないと存じます。

 現在裁判が始まっております。国の隔離政策が追及されていますが、ハンセン病に関わる医師こそ、誤った隔離政策の大きな責任を担うものではありませんか。このような死に直面した患者のことを承知しながら監房で凍死させる医師は殺人罪で裁かれるべきだと思います」

「そうだ、その通りだ」

 どっとざわめきが広がった。

「しー、静かに」

 また誰かがその場の空気を制した。

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

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2020年10月24日 (土)

小説「死の川を越えて」第283回

沢田民夫の証言

 

 中央会館に於ける本人尋問の最後は沢田民夫だった。沢田は園内の中央会館で裁判が開かれることを不思議な気持ちで受け止めた。東京地方裁判所の裁判官が実地検証のため草津に来る、そして証人尋問も行うと聞いた時初めは信じられぬ思いであったがやがてこれは大変なことなのだと確信するようになった。

 そして自分に証言の機会が与えられることを知った時、沢田は重監房を語らなければならないと決意した。

 沢田は群馬県の出身であった。少年の頃発病して入所したが、その後重監房のことをいろいろ見聞きするようになった。初めのうちは、各地の療養所から悪いことをした人が送られてきて入れられる普通の牢屋であるらしいと思っていた。しかし、次第に実態が明らかになるにつれ、その余りの異常さに沢田は恐れおののいた。

 同じハンセンの患者が大したことでもないのに動物のような扱いを受けていることに対する同情はやがて怒りに変わっていった。沢田が入所した翌年、園内に大事件が起きた。重監房襲撃未遂事件である。重監房を襲撃して監舎を打ち壊し、中の者を救い出そうという計画であった。人々は秘密の会議を重ねて計画を練ったが計画は漏れて実行に至らず失敗した。しかし、この事件は沢田の目を開かせる契機となった。

 園内の作業は患者が分担して行う仕組みであったから、沢田は食事の差し入れ、看護婦の手伝い、死体の運び出しなど様々な仕事に関わった。悲惨な現場を見て、何も出来ないもどかしに苦しみ、つのる怒りに身を焼く日々を送ってきたのであった。

 そしてこの度、栗生園に裁判官が出張して中央会館の講堂で原告の尋問が行われることになった。沢田には、重監房の人たちを助けられない自分を責める思いがあったので東京地裁の裁判ではいち早く原告団に加わっていた。だから証言の機会を得て今こそ自分の責任を果たす時とばかりに決意を固めて臨んだ。

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

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2020年10月23日 (金)

人生意気に感ず「人生の歴史に残るふるさと塾を。燃える大統領選。遂にオバマ前大統領までが」

◇明日24日は「ふるさと未来塾」だが記念すべき講義の日になる。一週間後の30日に私は満80歳を迎える。そういう心の問題もさることながら世紀の世界劇場ともいうべきアメリカ大統領選を扱うからだ。コロナ禍の選挙ということで格別の意味を持っている。トランプ氏は特異な人物で正に怪物である。米メディアの世論調査では民主党のバイデンがどの州でも優勢らしい。しかしトランプ陣営にはなり振り構わぬ凄まじいものがある。私の目には南北戦争の時のようなアメリカを分断した内乱に見える。トランプ氏の大統領としての言動は異常であった。トランプ氏が再選されればアメリカの民主主義は消えるという意見がある。その一方でトランプでなければアメリカが直面する難局は乗り切れないという見方も現実論として強い。

◇信じがたいサプライズが続く。コロナを軽視してきたトランプ氏がまさかの陽性となった。陸軍病院に入院したと思ったらわずか3日で不死鳥のように退院した。その姿に支持者は熱狂的な声援を送っている。しかし最近、このトランプ氏の動きに止めを刺すかの如き動きも伝えられる。それは女性と高齢層のトランプ離れである。トランプ支持者の熱狂ぶりはかつてのナチスのヒトラーとその支持者を思わせる。

◇私は学生の時、中屋健一の「米国史」のゼミに出ていた。ふるさと塾に備えてその著を通読した。懐かしい言葉が甦る。それは独立宣言の文言である・「すべての人は平等に造られ造化の神によって譲ることのできない権利を与えられている。その中には生命、自由、幸福追求の権利がある。それを守るために政府がある」。トランプが国の分断を煽るのはこの政府の役割を踏みにじるものだ。民主主義の危機とはこれを指すものである。

◇アメリカの独立宣言の理念は人類普遍の価値であるからアメリカの民主主義の危機は世界の民主主義の危機に他ならない。コロナに勝つには全世界の協力が不可欠である。明日の塾はこのようなことを胸に置いて語ろうと思う。

◇激しく燃える上がる対決を象徴するような出来事である。民主党前大統領が聴衆の前で応援演説に立ったのだ。過去に大統領を務めた人が現職大統領を批判するのは極めて異例なのだ。「自分の予防ができぬ人間が国民を守ることは出来ない」と発言した。(読者に感謝)

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2020年10月22日 (木)

人生意気に感ず「大統領選の狂気。それでもトランプなのか。免許更新手続きを済ませる」

◇アメリカが大統領選で沸騰している。弾丸は飛び交わないが内乱状態を呈している。社会が分断し戦う様は南北戦争を想像させる。トランプは不思議な男である。目先の実利を重んずる人々はトランプの勝利を望んでいる。目先の利益は先ず株である。トランプが勝てば大きく上がると言われる。それに中国だ。トランプは何をするか分からないからということでトランプの再選を恐れているだろう。

◇私が関わる日本語学校でコロナ患者が複数人発生してしまった。誠に残念だ。学園では徹底したコロナ対策を実施していた。多くの国の留学生が学ぶ。彼らの本国では感染者が急増している国もある。その感染状況と直接結び着いている訳ではないが日常の生活習慣はつながっている。学園外の私生活までは対策を徹底させることが出来なかった。来週月曜日(26日)の私の合同授業は中止となった。もちろん他の教室の授業も中止である。日本アカデミーでは遠隔授業の優れた技術と設備が存在する。コロナの大波に襲われたことを実感する。そしてグローバリゼーションの渦中にいることも。

◇そして改めてアメリカの惨状に思いを馳せた。接戦州に於けるトランプ支持者の行動は狂気の沙汰といえる。激戦州ミシガン州で起きていることは信じがたい。この州はコロナ対策として経済活動を制限している。これに反発した民衆の知事拉致未遂事件まで起きた。この州の捜査当局はこの事件に関与した武装組織メンバーら13人を起訴したのだ。このような状況にも拘わらずこの州の集会でトランプは民衆を煽り火に油を注ぐようなことをした。支持者は選挙集会で「知事を刑務所に入れろ」と叫び、トランプは「全員を刑務所に入れろ」と呟いた。知事は「私と家族、州政府当局者の命を危険に晒すものだ」と批判した。トランプの言動は犯罪行為に当たるものだと思う。アメリカ国民はこのような人物を目先の経済効果につられて大統領に選ぶのだろうか。

◇昨日(21日)、免許証更新手続きを終えた。過日交付を受けた高齢者講習修了証を持参し、この日は視力の簡単な検査もパスした。あと一週間余で私は満80歳を迎える。世の中では高齢者の免許証返上の流れがあるが、車は私にとって不可欠の足。万全の注意を重ねてこれからも運転を続けるつもりである。11月3日は新スタイルの群馬マラソン10キロに挑戦する。(読者に感謝)

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2020年10月21日 (水)

人生意気に感ず「コロナに追い詰められる女性。性を売る女子大生。コロナ後の社会は」

◇某大手新聞の一面の半分以上を占める記事に驚いた。19歳の女性が一人で赤ちゃんを育てている。この人は「ごはんない」とスマホで訴えた。コロナは社会的弱者に対して容赦しない。子どもの父親に当たる男性は妊娠を知ると女性の元を去ったという。この記事を知人の女性に話したら「男は無責任」と怒りをあらわにした。私も大いに憤りを感じる。

 厚労省の推計では国内の一人親は142万世帯。そこにコロナが襲った。日本ではコロナが影響した解雇や雇い止めは6万人を超えたと言われる。

◇戦後75年、世の中はすっかり変化したが日本の精神状態の変わり方も著しい。ハングリー精神は過去のものになり欲望が渦巻く享楽の世となった。それと共に人の命も木の葉のように軽くなった感がある。ある老婆が私に言った。「昔は命懸けで子ども!だったが今は男をとる」と。子どもをアパートに置き去りにして餓死させる。虐待して殺す。こんな事件が跡を絶たない。子どもは欲望の副産物に過ぎないと見ているのかもしれない。

 そんな中でコロナが襲った。コロナは社会の経済のシステムを壊し、生活困窮者を打ちのめしている。非正規職員は真っ先に職場を失った。貧困はコロナと共に地球を覆う

現象となっている。コロナはこれからも続くと見なくてはならない。

◇4月23日の放送番組「オールナイトニッポン」の岡村隆史の発言はネットで大炎上し社会から大糾弾された。それはコロナで困った美人が性風俗をやることは「絶対面白いこと」と発言したことだ。追い詰められた女性が性を売ることを面白がる発言は許されないが現実には悲惨な事実が進んでいると言われる。私は最近、外国人留学生に、敗戦後の東京で生きる為に性を売る日本女性の姿を語った。現在、コロナ戦争の下であの時代以上の現実が広がっていると言われる。私は最近権威ある雑誌の衝撃的報告を読んだ。そこでは職を失った非正規雇用の女性たちの生々しい事実が描かれている。貧困の実態は現役女子大生にも及んでいるという。大都市の高級風俗店は「現役女子大生だらけ」だというのだ。このような地獄を経過しながらコロナ後の社会が形成されていくのだろう。その時、75年前にスタートしたハングリーな社会と日本の伝統である礼儀や助け合う精神が尊重され基盤になるに違いない。現在は産みの苦痛を味わっているのだ。(読者に感謝)

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2020年10月20日 (火)

人生意気に感ず「コロナで閉じこもる子ども、学生たち。自殺の急増。副大統領候補カマラ・ハリスとは」

◇コロナは意外なところに深刻な影響を及ぼしている。地方大学の学生の一割以上がかなりの程度のうつ状態になっている。秋田大学の例であるが、他の大学についても同様の危機が予想される。コロナによりキャンパスへの入構が禁止されたため他とコミュニケーションがとれず孤独に耐えられない生徒が多いという。

 コロナ禍で大学は多く遠隔授業になっている。私が運営協議員となっている県内大学でもオンライン授業が増えている。私は人間関係が築けないのではと協議委員会で発言した。大学生は未だ子どもである。勉強だけしてきて世界を知らない若者は心が弱いだろう。県内にはふるさとを離れて暮らす多くの大学生がいる。コロナが長引く中で心配である。

◇自殺者が急増している。警察庁の統計では7月からの自殺者が急増し、中でも女性と子どもの自殺が増えている。8月の統計で、女性は前年比4割増という。女性は非正規雇用が多く、シングルマザーも多い時代である。ただでも生きずらい社会なのにコロナが追い打ちをかけている。子どもたちの心は慣れないオンライン授業でストレスが増しているだろう。学校問題を理由とした子どもの自殺は数年前の16人から51人に増えた。厚労省は「コロナうつ」の実態調査を始めたが文科省も小学校から大学まで実態調査を進めるべきだ。

◇民主党副大統領候補のハリス氏がコロナを心配して遊説を見送るという。カマラ・ハリスの存在はこの選挙戦で大きい。77歳のバイデン氏とこの女性は一体的に捉えられることが重要である。ハリスは将来まさかの時アメリカの女性大統領になる可能性がある。この女性は賢く逞しくどこか神秘的なものさえ感じる。カマラはヒンドゥー教の女神の名に由来する。母親はインド人なのだ。南アジア系アメリカ人としては初の合衆国上院議員である。地方検事の時のエピソードがある。殉職警察官の犯人に対して死刑求刑を拒否した時のことだ。警官の葬儀で最前列のハリスにサンフランシスコ市長は死刑求刑を要望した。ハリスは死刑求刑をしないと表明し警察組合の反発を招いていた。市長の要望に参列した2000名の警官がスタンディング・オベーションを送った。それでもハリスは死刑を求刑しなかった。犯人は結局終身刑となった。ハリスへの有権者の評価は高い。トランプの対極にあり、人権の国の正統派の女性政治家というべきだ。コロナの渦の中で輝く存在。11月3日が楽しみである。(読者に感謝)

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2020年10月19日 (月)

人生意気に感ず「大統領選の火蓋。接戦州の攻防。フロリダの行方」

◇遂に明日、米大統領選の火蓋が切られる。両陣営は激戦州に死力を傾注している。これらの州は4年前の激戦結果を引きずっているようだ。今回の大統領選の世論調査では激戦6州は全てバイデンが上になっている。それらの州とはフロリダ、ペンシルベニア、ミシガン、ノースカロライナ、アリゾナ、ウィスコンシンの各州である。最終盤で両陣営がフロリダとペンシルベニアに力を注いだ主な理由は選挙人が多い州であるからだ。フロリダの選挙人は29人で6つの激戦州の中で一番である。またペンシルベニアの選挙人は2番目の20人である。

 これらの州で一票でも多く票を得た候補者はその州の選挙人の全部を獲得する。4年前の選挙では、これら激戦州の全てでトランプはクリントンに勝利した。今回の選挙で違う点はコロナの存在である。トランプはコロナを軽視しコロナと闘う姿勢をアピールしているが自らが感染し自らの集会で感染者が広がっている。トランプは初め、コロナを選挙戦の主な争点としたくなかった。しかし、コロナの勢いは止まず今やコロナはアメリカ社会を危機に陥れている。コロナ対策は大統領選の最重要な争点である。

◇フロリダ州の選挙戦はコロナ対策が正に主要な争点となっている。フロリダは南の楽園ともいうべき温暖な地で、多くの豊かな高齢者が人生の残りを静かに過ごしている。彼らにとってコロナは脅威に違いない。民主党のバイデンは77歳という最高齢の候補者で終止コロナ対策を訴えている人だ。

◇日本の歴史で天王山ともいうべきフロリダ州でなり振り構わぬ泥試合のようなことが行われている。日本でも悪質なデマや文書は選挙につきものだが、フロリダでは新技術を駆使した動画がフェイスブックなどで拡散されていると言われる。バイデンを「小児性愛者」であるとして、それを救うトランプの姿が恐ろしいバックで編集されている。フロリダ州は地理的状況からして南米(ラテン)系の移民が多い。彼らを「ラティーノ(ラテン系の人)」という。この人たちは一般に教育レベルが低いと言われる。この人たちをターゲットにして陰謀論やデマ情報が流布されている。選挙は民主主義を支える柱である。アメリカの大統領選の攻防を見ていると仁義なき戦いに見える。勝つためには手段を選ばず外国の力も利用する。民主主義が挑戦を受けている光景だ。それを含めて間もなく審判が下る。(読者に感謝)

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2020年10月18日 (日)

小説「死の川を越えて」第282回

「私の骨は利根の水に浮かび昼間はぽかぽか陽に照らされ、夜は星を眺めながらゆらゆら流れていく。それこそ、本当の自由だと思いました。骨になって利根川に流されなければ自由になれないことを私は訴えたいのです。

 裁判が始まり骨になって利根川に撒かれなくても自由になれる可能性が見えてきたのです。信じられない思いでしたが、裁判官がこんな山奥に出向いて裁判を開いてくれたことで私は今それを信じることができます。この千載一隅の好機は天が与えたものに違いありません。灰となって利根川に撒かれるのも理想ですが、裁判に勝ってこの世で胸を張れるなんて何と素晴らしいことか。夢のようです。その時は草津の自然、白根の雪景色も別の世界になるかもしれません。

 最後に私と絵について話すことをお許し下さい」

 時一郎の顔に明るさが流れた。

「アウシュビッツで絵を描いて奇跡的に生き延びた子どもの話に触発されて、私は絵を描き続けました。そして、この療養所でも心の光明を見つける思いが致しています。私は療養所の全ての人が、心のそういう可能性を秘めていると思います。

この療養所だけでなく全国の患者が心にその可能性をもっています。それが人間なのです。だから裁判で国の誤りを糾弾することはハンセンの患者の心の呪縛を解くことになります。裁判官様、どうかこの願いを実現して下さい」

中央会館の講堂にどっと拍手が起きた。

尋問の前に、拍手や声を上げることは禁止と注意されていたが、鈴木時一郎の言葉がそのような約束ごとを瞬間的に吹き飛ばしていたのだ。鈴木の一語一語は共通の苦しみを生きていた人々の心を深くえぐった。

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

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2020年10月17日 (土)

小説「死の川を越えて」第281回

「今、私は裁判が行われる中で、国の絶対隔離政策を改めて考える時、このハンセン病患者の療養所はナチスのアウシュビッツと変わらないものであることを訴えます。裁判官様は重監房跡をご覧になって人間性を全く否定した死の牢獄を肌でお感じになったと思います。あれは人間性を否定した国の隔離政策が生んだことに間違いありません。重監房だけを切り離して例外的な施設と考えるべきでないことを私はここで強調したいと存じます」

「そうだ」

 押し殺したような声が上がり、賛同のどよめきが講堂内に広がった。

「昭和17年に園内の患者有志が立ち上がり、重監房の存在は許せない、打ち壊そうと秘かに計画したことがありました。未遂に終わりましたがそれもこの重監房を国の隔離政策全体の中で捉え隔離政策の全体を攻撃したからだと私は信じています」

「そうだ」

 と、また誰かが叫び呼応する空気が講堂内を震わせた。

「下の村からのおよそ10キロの距離の炭運びの重労働は大変なもので病気を悪化させました。急坂を這うように進みながら身体の弱い私はこの強制労働は奴隷以外の何物でもないと思いました。雪の急斜面を手をつきながら滑るのを必死でこらえて登るときは話に聞くシベリアの強制抑留はこういうことに違いないと思いました。しかし、あちらは戦争の続きの捕虜、こちらは療養の筈。この雪中行軍はもしかして治療行為なのかと悔しくて涙が流れました。雪の中で立ち尽くし凍える身体で死を思いました。死は恐くありません。自殺を図ったこともある私です。しかし、このまま死ぬのはいやだ。国の誤った大きな歯車がぎしぎしと回っている。こんなカラクリがいつまで続くのかと思いました。死ぬのは少しも恐くないが園の納骨堂に入るのはいやです。実家の墓にも例え入れたとしても入りたくない。死んだ後まで閉じ込められるのは絶対に嫌だと思いました。死んだら骨を砕いて粉にして前橋を流れる利根川に流して欲しいです。子どもの頃県庁裏の清流で泳いだことが実に懐かしい。その時やっと自由になれるのだと思いました」

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

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2020年10月16日 (金)

人生意気に感ず「尖閣で中国の挑発。パキスタン大使が日本アカデミー視察。ふるさと未来塾は大統領選。柿の木であわや」

◇中国が尖閣諸島沖への領海侵入を続けている。私は激しさを増す米中対立が小さな島を巡り火花を散らしていることを感じる。中国は民主党のバイデンが勝つと分析しているに違いない。日本に対する挑発的行為は、中国が今後も米国に屈しないとの姿勢を示したものと思われる。加藤官房長官は「断固として日本を守り抜く。冷静かつ毅然と対応していく」と表明した。船出したばかりの菅新政権は早くも試練に晒されている。日米対立の中で日本の重要性は一段と増している。日本国民は国を守ることから逃れるとこは出来ない。

◇昨日、アハマドパキスタン大使一行が日本アカデミーを訪れ、最新の教育システムを視察した。私は名誉学院長として出迎えた。大使らは世界を結ぶ教育システムに強い関心を示していた。現在、我が日本アカデミーでは少数のパキスタン留学生が学んでいるが、今後増加することが予想される。

◇今月24日の「ふるさと未来塾」のテーマは“アメリカ大統領選”である。今回の大統領選は人類史に残る選挙であり、全世界が注目する選挙である。それはアメリカがコロナの最大の被災国であり、米中の対立が激化する中でアメリカが再び世界の指導者の地位を取り戻せるかがかかる選挙だからである。

 冒頭、4人の人物をパワーポイントに登場させ、そのキャラクターを語ろうと思う。4人とはトランプ、バイデン、ペンス、ハリスである。トランプとバイデンは共に波瀾万丈の人生を歩んだ人である。特にトランプの破天荒ぶりは謎の怪物とも言うべきものである。この不気味なエネルギーは今回の選挙で、もしかしたらというサプライズを期待させる一つの理由になっている。次に全米50州の両候補の優劣の情勢と選挙人の獲得によって決まる選挙制度の仕組みを説明するつもりである。

◇昨日、あわやの命拾いをした。青い空を背景に色づいた柿がおいしそうである。我が家の太い柿に登り足を踏み外したのだ。必死で横枝に抱きついた。高い脚立のてっぺんから更に上に手を伸ばした瞬間に脚立が倒れ私の身体は宙に浮いた。柿の木は滑りやすい。日頃鍛えた筋肉が物を言った。毎日欠かさない腕立て伏せ250回、懸垂10回の日課がこんな時役に立つとは思わなかった。間違えば80歳の老人が柿取りに失敗して天国にと話題になったかも知れない。下では柴犬のさん太が尾を振っていた。(読者に感謝)

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2020年10月15日 (木)

人生意気に感ず「第二波の反省と第三波対策。コロナに強い社会を築く時。アメリカの行方は」

◇寒さが増してきた。気づけば10月も半ばに近づく。この時期の最大の課題は新型コロナ対策の第三波対策である。秋冬はインフルエンザの季節でもある。「対策」に関し最も重要なことは第二波から教訓を引き出してそれから学ぶことだ。重要な視点として日本社会の特色と世界の情勢を結び付けて考えるべきだと思う。グローバル化が進む中で両者は密接不可分だからである。その場合歴史的視点も欠かせない。

 私はコロナ対策を進める上で地方の役割が非常に重要だと思う。これは第一波、第二波から学ぶべき重要点である。全国一律に網をかけたのでは無駄な地域が生じるからだ。県は9日、感染状況に応じて市町村ごとに警戒度を定めるよう指針を改定した。市町村の役割が格段に重要になる。市町村会議の議員たちはしっかりしなければ存在意義を疑われることになる。先日、隣県佐野市を訪ねたら岡部市長は独自に緊急事態宣言を出した理由を話しておられた。

 本県では大泉町が独自の緊急事態宣言を出したと言われる。ここは外国人労働者が多い所なので、それと関係が深い施策に違いない。大泉町のことは外国人との共生が進むこれからの社会にとって重要な課題を提起している。

◇第一波、第二波で反省し、かつ教訓として認識すべきことに差別といじめ人権の問題がある。この点で被害を受けたのは外国人労働者と医療従事者であったことは大いに反省されねばならない。差別と偏見は必然的にブーメランのように自分の所へ向っているからだ。

◇第一波、第二波から言えることに、コロナに強い社会、弱い社会の姿が明らかになった。このことは国についても言える。日本は強い国であり弱い国の中にはアメリカがあると敢えて言いたい。日本は鎖国の歴史があり、ほぼ単一民族の国であった。このことはコロナに強い国を築く上で重要な要素であった。しかしこれからは容易ではない。グローバル化の波が押し寄せ、また外国人との共生社会が待ち受けているからだ。このような状況の中で私たちはコロナに強い国と社会を築くべき正念場にある。

◇アメリカの惨状は気の毒だ。多民族の坩堝(るつぼ)と言われる。特に黒人が追い詰められている。これには大統領選の行方が大きく関わる。カウントダウンの段階にきた。強気のトランプに奇策はあるのだろうか。世界の潮流からしても、私はバイデンに軍配が上がると思う。(読者に感謝)

 

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2020年10月14日 (水)

人生意気に感ず「トランプの暴挙に科学が断罪。私は6つの激戦州を挙げる。千年に一度に備えて」

◇10日、トランプ大統領が遂にホワイトハウスで演説した。感染後初のことで主治医は「大統領を通じて感染するリスクはなくなった」と説明したが陰性になったかどうかについて言及しなかった。大統領自身、ツイッターに「免疫がついたので私がウイルスをもらうこと、他人にうつすことはない」と投稿した。しかし免疫効果について科学的に明らかになっていない。ツイッターの影響力が広がっていれば、ツイッター社はその片棒を担うことになる。そこでツイッター社は「不正確かつ危険を招きかねない情報だ」と警告をつけた。

 初演説に対して、トランプ支持者の熱狂ぶりが目に浮かぶ。共和党支持者の中では約94%がトランプ再選支持という情報がある。異常という他はない。10日現在のアメリカの感染状況は感染者が766万人、死者は21万人を超えている。アメリカはコロナに弱い国家であり社会であると言えるのではないか。それをつくり出す要因の一つはトランプの政治姿勢とそれを支持する社会構造にある。

◇トランプの「免疫」発言の真偽は不明であるが科学の力は最も信頼性がある。ここでアメリカの科学誌が注目すべき行動を起こしている。「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」誌などが大統領選でのトランプ不支持を表明し、現職大統領を強く非難したのだ。極めて異例と言われる。同誌は世界で最も権威ある医学誌と言われている。その論説で「現政権は公衆衛生の危機に無能であることを示した。さらに多くの命を奪うことに加担してはならない」と主張した。私はアメリカの民主主義についてほっと救いを感じる。中国やソ連などは、このような現政権をストレートに非難することは絶対に許さない筈だ。

◇トランプ氏は12日から接選州に入る予定と言われる。接選州は少なくないが中でも激戦州と言われるのは次の6州である。フロリダ州(29人)、ペンシルベニア州(20人)、ミシガン州(16人)、ウィスコンシン州(10人)、ノースカロライナ州(15人)、アリゾナ州(11人)。( )内は選挙人の数を示す。

◇異常気象の時代は加速する。“群馬は大丈夫”は死語にすべきだ。私はカスリン台風を思い出す。改正法は「千年に一度」を想定した避難地図作成を求める。前橋・桐生・伊勢崎などは既に公表されている。入手して備えるべきだ。(読者に感謝)

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2020年10月13日 (火)

人生意気に感ず「トランプ再選論の衝撃。宇宙時代が現実に。月の利用の国際ルール・第三波が来る」

◇大統領選を目前にして、しかもバイデンの圧倒的優勢という状況下で興味ある文章を読んだ。エマニュエル・トッドの「それでもトランプ再選を望む」というタイトルである。前回触れたがここに再説したい。この学者は4年前の大統領選挙の際、「トランプの勝利など有り得ない」という論調が大勢を占める中でトランプの勝利を強調した人でソ連の崩壊を予測し的中させたことでも有名である。トッドの論説には受入れ難い点があるがアメリカ社会の歴史的分断状況と現在の政治・経済情勢を結び付けて深く洞察している点には傾聴すべきものがある。

◇トッドの主張もさることながらトランプ氏のエネルギーと選挙戦にかける執念は驚く他はない。一方正統派のバイデンの姿はトランプと比較する時、弱々しく見える。この人は当選すれば就任時78歳である。この人に疾風怒濤の中、アメリカを率いていけるのかと不安を感じるアメリカ国民は多いに違いない。バイデンの最大の援軍は建国以来の民主主義の理想である。彼は当選しても2期は続けられないかも知れない。それでも死に体のアメリカが息を吹き返す最大のチャンスになる。アメリカの危機は世界の危機である。

 トッドの指摘の中で保護主義を支持する点、中国はアメリカに勝てないと考える点に注目した。長く続く対立の中で米中は傲慢にならず人類の視点から国を動かす道を選ぶことを探るべきだ。更にトッドが「米中の対立の中で日本の重要性が増す」と指摘する点は全く同感で、日本は正念場を迎えるのだ。

◇世界は宇宙時代に踏み込んでいる。膨張宇宙・ビッグバン・ブラックホールなどが現実のものとして感じられるようになった。人類の文明も宇宙規模で考えるべき時代に入りつつある。知的生命との遭遇が近いかも知れない。その中で月の存在は手の届く宇宙の第一歩である。世界が月の探査を競う中で国際ルールが求められるのは当然である。政府は欧米など8カ国と共に月の平和利用等に向けた基本的国際ルールに近く署名する方針である。その基本原則を定めた「アルテミス合意」には宇宙滞在者の緊急支援や宇宙ゴミ対策もある。「宇宙ゴミ対策」は環境問題が宇宙規模に発展していることを思わせる。

◇全体のコロナの状況は依然深刻だ。今や第三波に備える時。これまでを教訓にするなら第一は歓楽街・施設等、人が集まる所のクラスター対策だ。その上で私は、私たちの意識の備えが非常に重要なのだと思う。(読者に感謝)

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2020年10月12日 (月)

人生意気に感ず「佐野博物館で“田中正造展”を観た。佐野市長と会った。エマニュエル・トッドのトランプ支持を読む」

◇9日、佐野市の佐野郷土博物館を訪ねた。館長から田中正造の特別展に誘われたのだ。茂木館長は電話で今まで公開しない資料もあるから是非観て欲しいとのことだった。台風14号の影響で北関東道は激しい雨である。博物館の正面には「第72回企画展・田中正造が愛したもの」と大きな表示があった。田中を研究している私にとって見応えのある資料があった。入館者は私の他は唯一人でその人は田中正造旧宅のボランティアの人だ。資料は田中の出自から大正2年の死までのものを年代順に並べてあり私はそのほとんどをスマホのカメラに収めた。

 この日私は博物館への途中、田中の生家跡・田中正造旧宅に寄った。休館であったが塀の外から百日紅(さるすべり)のしぼみかけた赤い花が見えた。そして、田中が少年の頃母に一晩中立たされたという姿を想像した。館長はある資料を示し、田中が母に叱られた理由を説明した。それは田中が使用人をいじめたからだという。私はこれを聞いて田中の心に弱い者をいたわる一つの原点がインプットされたことを想像した。

 田中の妻カツの美しい写真の前で面白い話が聞けた。二人は当時としては珍しい恋愛結婚だった。田中が家に寄りつかず妻の名を忘れたことは有名であるが、それは事実であった。ただその理由は常に「かあちゃん」と呼んでいたからだと言われる。田中のメモに妻は「名を呼ぶべし」というのがあった。

 田中の行動には憲法に結びつくものが多い。展示には憲法に関わる資料があり興味を引いた。その発布の時、田中は栃木県会で議長であった。この時代多くの人が憲法草案の私案を作ったことが知られているが田中もその一人であることを知ることが出来た。

◇毎日新聞(群馬版)の私の連載「よみがえる田中正造」は月2回で現在第24回となった。私の事務所で小冊子にして無償配布している。その第二部(13回~24回)をこの日田中正造旧宅、博物館、佐野市役所に届けた。岡部市長は元気な笑顔で、この市で最近コロナ緊急事態宣言を出した理由を語った。

◇文藝春秋最新号でエマニュエル・トッドがトランプの再選を望んでいて、その可能性が高いことを書いている。そこで述べることはトランプの主治医がコロナ治療の「完了」を表明したことと合わせ衝撃的である。アメリカ社会の分断と対立の歴史的深層を語り、トランプの保護主義貿易政策を支持し、「米中の対立は悪くない」こと、その中での日本の重要性を指摘する。考える資料になった。(読者に感謝)

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2020年10月11日 (日)

小説「死の川を越えて」第280回

会場ではさやの言葉に身につまされてすす泣く姿が見られた。そして、冷静な裁判官の目にも感情に動かされるものが見られた。

 中央会館の講堂でさやに続いて証言に立った人は鈴木時一郎であった。

 鈴木時一郎の証言もハンセン病に苦しみながら人生を考えた者のみが語れる中味の深いものであった。この人は前橋市の時計商の子どもとして生まれ、小学3年生のとき顔に斑紋ができたことでハンセン病と分かり、やがて一家は商売ができなくなり、時一郎も草津の栗生園に入ることになった。

 尋問者は時一郎の顔をのぞき込むようにして尋ねた。

「あなたは国の隔離政策について特別の思いがおありですね。それはどういうことですか」

 時一郎は曲がった唇を不自由そうに動かしながらぼそぼそと語り出した。

「私は先の見えない人生にすっかり絶望しておりました。人生の先に望みが見出せない時、人間は心に力が湧かないものでございます。心に湧く力とは熱いもので、感動のことです。感動は心の血液です。私は生きる望みを失ってこのことが分かったのです。ハンセン病の患者は、二重の塀に囲まれて生活をしております。一つは療養所の塀です。もう一つはその外の社会のことです。差別と偏見に満ちた社会は目に見えない塀なのです。それは果てしなく広がる恐ろしい塀で得体の知れぬ怪物がうようよいるのです。私たち患者はこの二重の塀の重圧に魂が押し潰され、あるいは精気を絞り出され長いこと諦めの渕に追い込まれておりました。

 このような状態である日、私はいつものように栗生園の中をとぼとぼと歩いておりました。その時です、薄霧の中に白くて大きな煙突が現われたのでございます。霧に巻かれた姿は幻想的で私は虚を突かれたようにあっと叫んで立ちすくんでしまいました。それはある恐ろしい光景に見えたのです。アウシュビッツの、あの青い火を夜空に噴き上げる死体を焼く煙突です。絶望した患者には療養所は、あのユダヤ人を虐殺したアウシュビッツと異ならないものに思えました」

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

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2020年10月10日 (土)

小説「死の川を越えて」第279回

 裁判官の頷く顔、そうだと囁く中央会館の人々の姿があった。さやは、もう一枚のメモを取り出して言った。

「もう一点、大事なことをお話しさせて下さい。特別病室のことでございます」

さやの思い詰めた表情を見て人々は何が語られるのか彼女の言葉を待った。

「あの重監房は人の心を殺してしまうものでした。人間は一人にされ、希望を絶たれると心が枯れてしまうのです。私は風呂に入れるために監房から連れ出された姿を見て、それを実感しました。やせて浮いてしまい、目は光を失って魚の目のようでした。生きる希望は心の栄養なのです。厚い壁と闇と絶望が心の精気を奪ってしまうのです。そこで本妙寺の人たちが入れられた時、私たちは必死で助けようと努力しました。

房内に響く南無妙法蓮華経の声が小さくなり危機感を持った時カツオ節の差し入れを提案したのは正太郎でした。中の人はカつお節を舐めカンカンと壁を打って励まし合ったのです。

国があのような施設を作り裁判もせずに入れることを裁判官様はどうお考えですか。国の誤った政策は国民から理性と人間性を奪い盲目にしてしまうのです。私は差別と偏見という言葉を知りました。この差別と偏見こそ、病菌より怖い伝染病です。重監房はこの病気を世の中にまき散らす源です。重監房は取り壊されましたが発信された病根は社会の各地に根を下ろしています。これを取り除くためには裁判所がはっきりと国の誤りを示すことが必要です。全国の患者、既にあの世にいる患者を代表したつもりで申し上げました。何とぞ、何とぞ宜しくお願い申し上げます」

 中央会館は東京の法廷と違い、傍聴者は患者と元患者である。皆様々な過去を背負っている。

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

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2020年10月 9日 (金)

人生意気に感ず「非常識な訪問者。泥沼で足掻くトランプ。自由で開かれたインド太平洋構想。ノーベル賞の朗報」

◇今月は私にとって特別の意味がある。30日に満80歳を迎えるからだ。世界と日本の激流が高まっている。8日早朝、雨の中を走った。一日も欠かさない私の日課である。この足であと20年走ろうと思いながら。私の前に壮大な歴史の舞台が続く。この日珍客の来訪があった。ピンポーンで戸を開けると若い女性営業員らしい人。長寿記念品を差し出し「中村さんですか。満80歳おめでとう」と。続けて名刺を出しお葬式の個別相談の話を始めた。チラシには聞き覚えのある葬儀社の「お葬式個別相談会」の文字、名刺には冠婚葬祭アドバーザーTとある。不思議な気持ちで聞いた。

◇防護服姿でホワイトハウスの記者会見室を消毒する5日の清掃スタッフの姿が報じられた。トランプ氏は15日予定の第二回討論会に意欲を示している。しかしトランプ周辺の感染拡大は続いている。6日には側近の4人の新たな感染が確認された。米メディアによればホワイトハウスに出勤するスタッフは防護服を付けている。軍関係にも感染は広がっているらしい。ホワイトハウススタッフの防護服には暴君に対する抵抗の意味もあると思われる。大統領選が秒読みの段階である。歴史の歯車が不気味に音を立てて回る。歯車を回す黒い影にはコロナも加わっている。アメリカでのコロナは衰えを知らない。感染者は750万人を、死者は21万人を超えた。

◇米食品医療品局(FDA)は6日、開発中のワクチンにつき安全確認の基準を厳しくする新たな指針を公表した。これにより11月3日の大統領選前の実用化は極めて困難になった。これに対しトランプは「政治的攻撃だ」と不満を表明。悪足掻きである。外堀が次々に埋められている。墓穴を掘る姿、底なし沼に沈みゆく姿をつい想像してしまう。

◇アメリカがコロナの泥沼にはまっている間に世界の秩序が変わりつつある。米中の間に立つ日本の役割は極めて重要である。このような時の日米豪印の外相会談であった。そこでは「自由で開かれたインド太平洋構想の推進」で一致を見たと言われる。菅首相の立場は日米同盟の重視と中国との経済関係強化だ。国際的批判の中で中国も日本との関係改善を求め、アメリカも日本を一層頼りにしている。日本は正に正念場に。毅然とした戦略が必要だ。

◇二人の女性ゲノム研究者がノーベル化学賞を得たことはコロナ禍での朗報である。この成果には日本の科学者の先行する研究の成果がある。細胞レベルからの難病の治療、創薬への展望が期待される。(読者に感謝)

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2020年10月 8日 (木)

人生意気に感ず「焼き場に立つ少年を観て。文化を深く議論することの重要さ」

◇私は生活習慣として早く寝て深夜に起きる。この日(7日)も22時45分に起床。0時にふとEテレをつけ一時間引き込まれて観た。「焼き場に立つ少年・原爆孤児を追う」である。アメリカ軍の従軍記者・オダネルが写したもので、来日したローマ法王が世界に紹介した。唇をかみ締めた一人の少年が死んだ弟を背負って順番を待っている。1945年10月頃のもので、少年は私とほぼ同年齢ということも胸に迫るものがあった。弟を焼く紅い炎を後に振り向くこともせず裸足の少年は立ち去って行った。番組はこの少年の足跡を追いながら必死で生きた孤児たちの姿を紹介する。この少年は誰なのか。現在生きているのか。私は期待しながら最後まで観たが分からなかった。番組は、最後にダニエルの原爆に関する彼の考えを取り上げた。「原爆がアメリカ人や日本人の多くの命を救ったという人々に言いたいことは何ですか」これに対してダニエルが応えたことは衝撃的であった。「原爆は何も救わなかった。罪のない人々を殺しただけだった」

◇原爆投下を正当化する論拠として、日本の降伏を早め決定づけることによって多くの命を救ったということが語られている。それは一面の事実には違いないが、広島・長崎の地獄から目をそらして出された結論と思われる。「焼き場に立つ少年」の姿はそのことを物語っている。また、原爆を落としたアメリカ軍の一員であるダニエルの言葉は貴重な証言である。

◇あれから75年が過ぎ世界情勢は大きく変化した。原爆の残虐さも忘却の彼方に遠ざかる危機にある。核を持つ国が増えた。戦争は勝つためには手段を選ばない。原爆使用の決定権が、シビリアンコントロールを離れ独裁者の手に握られることが怖い。

◇県民会館が県有施設見直しの一環で「県有施設としては廃止」を検討する対象になっている。「本県文化の殿堂」としてスタートし歩みを続けてきたことを踏まえて議論を深めるべきだ。私が議会にいた時もネーミングライツの対象となり、「ベイシア」の名がつくことに激しい議論があった。とかく文化を軽視するという批判もある本県の行政である。県立図書館の在り方も見直しの対象となっているが、県立図書館は県民会館以上に文化の殿堂でなければならない。効率や予算の点から軽く扱われるべきではない。コロナ後の社会は心の文化が重視される。(読者に感謝)

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2020年10月 7日 (水)

人生意気に感ず「トランプ大統領の賭けとアメリカの民主主義。ハッブル望遠鏡とアメリカの偉大さ」

◇昨日(6日)信じられないことが起きた。トランプ大統領の退院である。良識と常識を破る暴挙だ。こんな発言が伝わってきた。「そんなに心配するな」、「心配だらけだ。21万人が死んでいる」。トランプとバイデンが交わした二人のこの言葉はアメリカ社会の縮図とも言える。トランプは大きな賭に出た。もし、このまま「死線」を脱することが出来れば、危機に強いリーダーとしてアメリカ社会で一定の支持を集めることができるに違いない。アメリカの民主主義を余り理想化して見てはならない。コロナ禍の中でアメリカの民主主義と大衆の実態がさらけ出されている。建国以来の危機ともいえる状態である。危機に際して強いリーダーを求めるのは歴史が教えることでもある。秒読みとなった大統領選に臨む二人のキャラクターはいかにも対象的だ。77歳のバイデンはトランプと比べる時、弱々しく見える。世界のトップを走ってきたアメリカが坂道を転げ落ちるように沈んでいくのを多くのアメリカ国民は耐え難く思っている。世界トップの座を独裁国中国に明け渡すのか。世界の民主主義の危機が迫り全世界が固唾を呑む瞬間が過ぎていく。

◇昨日のアメリカの報道は大方がトランプの容体が容易でなきことを伝えていた。コロナで重症患者が使うステロイド系の薬を使用している等である。また、大統領の病状について議会に説明がないことについてホワイトハウスとトランプは批判されている。これは民主主義の根幹の一つ、知る権利の問題である。トランプは選挙に勝つために非常手段に訴えている。トランプは本物かそれともピエロなのか。アメリカ国民はそれをどう判断するのか。その判断の手段が知る権利なのだ。

◇先日深夜、ハッブル宇宙望遠鏡に関するNHKの特集を観た。それはハッブル望遠鏡の打ち上げの意味とその最新の成果を素晴らしい映像と易しい解説で伝えていた。私は若い頃天文学者ハッブルの業績に胸をときめかせた。彼は我々が属する銀河の外に無数の銀河が存在することを明らかにした。NHKの特集は全ての銀河にブラックホールが存在することをこの望遠鏡の成果として述べる。ブラックホールは実在するかを問う時代は今や過去のものになった。私はこの特集を観てアメリカの偉大さを実感した。この偉大さはアメリカの民主主義を支える一つの柱に違いない。アメリカは真の偉大さを発展させることが出来るのか。それは現在の危機を克服できるか否かにかかっている。(読者に感謝)

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2020年10月 6日 (火)

人生意気に感ず「アメリカ大統領選迫る。知る権利の重要性。アメリカは中国を非難できるのか」

◇私の前にアメリカの地図がある。大西洋から太平洋に至る50州に壮大なアメリカ史が重なる。人類の理想を掲げた建国の旗印は美しくも矛盾に満ちたアメリカのスタートだった。新大陸発見と共に流れ込んだ黒人奴隷の運命は悲惨だった。解放宣言がなされた後もその差別と偏見は今日まで尽きることがない。その中で黒人大統領オバマの登場はアメリカの理想がここまで進んだことを示す人類の希望の松明(たいまつ)だった。しかし、今進歩したアメリカの民主主義が最大の危機に立たされている。その契機はトランプ大統領の登場である。「アメリカ第一」を掲げ分断を煽っているからだ。そのトランプがコロナの手にからめ捕られた。「力強さ」と「楽観」を売りにしてきた戦略は頓挫したようだ。

 私の目は50州の中の激戦州に釘付けになる。フロリダ(29)、ペンシルベニア(20)、ミシガン(16)、ノースカロライナ(15)アリゾナ(11)、ウィウコンシン(10)などの各州である。( )内は選挙人の数を示す。これらの州の優劣の動向はトランプの容態によって大きく変わるに違いない。しかし大方の見方ではトランプが不利である。バイデンの不利は77歳という高齢と迫力のなさであるがそれもウイルス陰性によって挽回したかに見える。

◇伝わってくるところから、トランプの容態はかなりもものらしい。未承認の薬を敢えて使っている点、及びホワイトハウス内にも一定の医療設備がそろう中、軍の病院に入院しているからだ。転院についてCNNは「極めて異例」と述べている。トランプは大集会作戦を行ってきた。そこでは人々は密集しマスクを付けない人も多かったと言われる。小さな集会でも「三密」とソーシャルディスタンスが強調される日本からは考えられないことである。

◇共和党、民主党に限らずアメリカ国民にとって最も重要なことはトランプの病状に関する情報である。アメリカ国民には知る権利がある。それは民主主義の国である以上当然の権利である。国民は情報がなければ主権者として政治を判断することができないからだ。この知る権利が今程重要なことは少ないだろう。国の現在と未来が掛かっている情報である。トランプに関する貴重な情報が3日間(72時間)も遅れていた可能性が指摘されている。これではコロナの責任は中国が情報を送らせたからと非難できないことになる。私たちも民主主義の国民として知る権利の重要性を認識すべきである。(読者に感謝)

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2020年10月 5日 (月)

人生意気に感ず「トランプ劇場のクライマックス。トランプ、コロナに倒れる。大統領選の行方は」

◇「トランプ世界劇場」。これは私が勝手につけた名称であるが、今正にクライマックスを迎えつつある。大統領選にからむコロナ戦の一環なのだ。感染者及び死者数でトップを走る阿鼻叫喚(あびきょうかん)の猖獗(しょうけつ)を極めるアメリカ社会である。その中でマスクを軽視し、コロナなにするものぞと嘯(うそぶ)いてきたトランプが遂にコロナに感染した。メラニア夫人と共に。大統領選への影響は計り知れない。この事態をアメリカ国民はどう受け止めるのか。バイデンの民主党は天与のチャンスとして活かすことが出来るのか。トランプ大統領は陸軍病院に搬送された。事態はどう動くのか。全世界が息を呑む瞬間が刻々と過ぎる。

◇トランプ劇場の第一幕は29日夜(日本時間30日午前)の第一回テレビ討論会であった、コロナ対決ともいえる場面である。バイデンは「あなたは国民にタイムリーに警告しなかった。あなたはパニックに陥っていたのだ」と責めた。これに対して大統領は吼えた。「コロナは中国の責任だ。あなたの意見を聞いていたら何百万人の人が死んだ」と。あなたの意見とはバイデンが中国からの入国制限に反対していたことを指す。テレビ討論でのトランプの態度はやんちゃな子どもの喧嘩のようだった。また西部劇の拳銃を振り回す悪役のようでもあった。アメリカ社会にはこのような派手な演出に拍手する人々が少なくないことを感じる。アメリカは南北戦争以来、実はもっと古く建国以来の分断社会である。これは今日も根強い。コロナの惨状とそれに対する対策がうまくいかない第一の原因はこの分断に原因があると思う。トランプはこの分断を利用して支持を固めようという強かな計算もあるに違いない。今回のコロナ感染はこの計算が裏目に出たことを物語る。問題の核心は病状の如何である。仮に軽症であって力強く退院すれば「皆さん、私を見て下さい。こんなものです。コロナに対し私と共に闘いましょう」と訴えることで逆転もあり得るかも知れない。いずれにしても時間はない。トランプのエネルギーは大したもの。トランプは74歳、対するバイデンは77歳。老老対決は世界的に高齢化が進む中で象徴的な意味を持つ。アメリカ国内の分断状態によって一番利益を得るのは中国かも知れぬ。これは民主主義にとって最大の試練。日本は軸足を固める時なのだ。(読者に感謝)

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2020年10月 4日 (日)

小説「死の川を越えて」第278回

 尋問者は鋭い視線を向けて尋ねた。

「それで小河原氏はあなたに何を話したのですか」

「はい、小河原先生にお会いして大変驚いたことがございました。それは私たちハンセンの患者に誠実に人間として対応されておられることでした。私たちは社会の差別の中で生きてきたので人の心に敏感です。私はこの人が上辺だけの人ではない温かく深い心の人だということをすぐに感じることが出来ました。先ず、私の目的をほうほうと頷きながら丁寧に聴いてくれその上で私を診察して下さいました。私の腕に直接触れて指先で突いたり身体の各部の様子を診て病気は治っていると申されました。

 私が心配しているお腹の子の命については、決して遺伝病ではないこと、感染力は極めて弱いこと、感染しても身体に力があれば発病することは非常に少ない、そしてハンセン病は治る病気だということを私のように無学の者にもよく分かるように丁寧に話して下さいました。特に、遺伝病であることと、恐ろしい伝染力の病だということは、誤解と迷信だということを説明された姿が今でも目蓋に焼き付いております。そして、産む産まないは命の大切さを踏まえて御自身でお決めなさいと言われました。私は天にも昇る心で、また新しい世界を見るような思いでした」

 尋問者は大きく頷いた。そして重ねて尋ねた。

「あなたは御自身のそのような経験を通して裁判所に特に申したいことは何ですか」

「はい、私は今、特に申し上げたいことがあります。今進行中の裁判では国の強制隔離政策が問題となっています。振り返れば、私も主人も極く軽いのに、ハンセン病であるとして警察に騒がれ、地域社会で暮らせなくなりました。小河原先生の考え、つまり遺伝でない、感染しずらい、治る病気だとすれば、こういう軽い患者は社会の中で人生を送れたはずです。私の息子正太郎のようにこの世に生を受けて生きられた人がたくさんあった筈です。私は草津の多くの人々が昔は患者と一緒に暮らした事実を知っています。だから小河原先生の話は真実に違いありません。日本中のお医者様はなぜ黙っていたのでしょうか。国はなぜ小河原先生の話に耳を傾けなかったのでしょうか。裁判官様、この草津まで来られたからには、この地のハンセン病の歴史を知って、それが草津だけのことではないことを知って、国のしたことが間違いだったことを裁判で示して欲しいと思います。裁判官様に特に申し上げたいのは、そのことでございます。」

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

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2020年10月 3日 (土)

小説「死の川を越えて」第277回

 

さやの証言

 

木霊や水野たちは草津にこそハンセン病問題の原点があると思っていた。その思いを支えるのは湯の川集落のハンセンの歴史への誇りとそれが踏みにじられたことへの怒りであった。国の誤った隔離政策の象徴が重監房に違いなかった。ハンセン病患者は時代の波に翻弄されて生きてきた。そして、新しい波が日本国憲法の誕生である。これにより太陽に照らされた悪魔が身を隠すように重監房は取り壊された。

しかし跡地の残骸が嘲笑うように社会の差別は続く。この訴訟でそれを正さねばならない。協議の中で正太郎が強く訴えた。冬の重監房跡を裁判官に見てもらうべきだと。皆は即座に賛成した。裁判所はそれを受け入れた。同時に現地で証人尋問が行われることになった。前代未聞の展開であった。

かくして、東京地裁は草津栗生園の諸施設を実地検証することになった。さやを初め何人かの証言はその一環として園内で行われることになった。

栗生園の中央会館でさやは緊張した面持ちで用意したメモに時々目をやりながら語り出した。少女時代の様々なことが甦って昨夜は眠れなかった。中央会館にはピリピリした緊張感がみなぎっていた。夢ではないここは法廷なのだ、さやはそう思って進み出た。

 尋問者が尋ねた。

「あなたがハンセン病の集落でお子さんをお産みになったいきさつをお話し下さい」

「はい、私は下村さやと申します。福島の山村の生まれでございます。少女の時腕に斑点が出て恐ろしい病気と分かり村で大騒ぎになりました。私は湯の川の親分さんに助け出され湯の川の集落に来ましたが、その後姉は離縁され自殺しました。私は湯の川の集落で結婚し妊娠し産むかどうか大変に悩みました。東京の裁判所で水野先生がお腹の子を産むかどうか悩んだ女のことを話されましたが、それは私でございます。ハンセンの患者の世界では子どもを産むことは許されないことですが、私たちは人間の命の大切さを万場先生から教えられていました。万場先生は亡くなりましたが、この集落の指導者で私たちの仲人でもあった人です。お腹の動きは私に何かを語りかける命の動きに感じられました。ある日、決心して集落のキリスト教徒の女医さんに相談致しました。その方は福島県で私と同郷の人なので思い切って秘密を話すことができました。この先生は京都大学の小河原泉という先生に相談することを熱心に勧められました。思いあぐねていると、ある夜私は夢を見ました。それは小さな子供が私の手を引いて必死で京都を目指す姿です。私ははっと目を覚まし、この子はお腹の子だ、この子を救わねばならない、これは夢ではなく神様のお導きだと思ったのです。そこで、私は意を決してこずえさんという同志と共に京へ向かいました。

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

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2020年10月 2日 (金)

人生意気に感ず「南牧村でほっとしたこと。大学法人会議における私の発言。対面授業の大切さ」

◇9月29日午後、時間をつくり南牧村を訪ねた。以前から「消滅自治体」として騒がれている。人口減と高齢化が加速する中で私は南牧村が日本消滅の象徴のように感じられ、是非実態を確かめたかったのだ。役場は山が両側から迫る渓谷の最深部と感じられる場所にあった。背を丸めた老人の姿が目立つ。しかし、古い家並みの姿は普通の山村で消滅の運命を感じさせるものではない。そんな思いで役場の入り口に立つと壁に貼られたプレートが目についた。それには時々の人口状態が記されている。「人口1,738人・男817人・女921人・世帯968(8月末)」とあった。長谷川最定村長に会えた。予告なしの飛び込みだが話が合って小一時間も村の実態や展望を聞くことが出来た。「この素晴らしい自然と古来の文化が最大の売りではないですか」、「最近は転入が増えています。選んでもらうという意識で希望者の所へは村長が遠くまで出かけて説明します」こんな会話の中で村長は決意を語った。高齢化率・少子化率共に全国一位の状況を抜け出すというのだ。山間地、そして小さな自治体だからできる施策を実施していくという。最近は転入者が転出を上回っている。村の活性化にはいくつものNPOが貢献している。役場の職員は60名だがNPOのメンバーは50名を超えたという。「協力隊」の若者にも会った。

 村長は村の住職である。帰途、渓谷の斜面に張り付くような古刹を見た。

◇私はほっとするものを感じた。このような小さな伝統の自治体こそ地方創生の原点である。漂う船をつなぎ止める社会の絆である。コロナ後はこのような自治体とその人間関係が尊重される社会が訪れるに違いない。

◇9月30日、群馬県公立大学法人理事会経営審議会に出た。経営審議会には5人の有識者が入っているがそのメンバーには内山上毛新聞社長や環境科学技術研究所の島田理事長等が居り、私は元建議としてその一員である。一法人二大学の構成で一法人の下に県立女子大と健康科学大学が存在する。コロナ禍の下で生き残りと発展を期す大学の実態を肌で感じながらいくつか発言した。その一つは対面授業、遠隔授業に関すること。どこでも対面が難しくなり遠隔が流れのようになっている。それはやむを得ないにしろ、対面は人間関係を学ぶ上で欠かせない。コロナは長期化するだろう。その中で「対面」には教育の本質に結び着くものがあることを忘れてはならないというのが私の考えであった。(読者に感謝)

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2020年10月 1日 (木)

人生意気に感ず「映画“ワールド・トレードセンター”を観る。コロナ禍で甦る意味」

◇映画“ワールド・トレードセンター”を観た。言うまでもなく2001年、世界を震撼させた同時多発テロの物語である。実話に基づいており瓦礫の下に閉じ込められた2人の警察官が身動きも出来ない闇の中で励まし合っている。その間にも、頭上ではドドーッとビルが崩れる音が響く。極限の状態で精神力がいかに重要かが伝わってくる。ジョンとヒメノを支えるのは、二人の友情と勇気それに家族の存在なのだ。ヒメノの妻は妊娠五ヶ月でお腹の子は女、その名前まで決めていた。ジョンの美しい妻はもうろうとする意識の中で“生きるのよ、待ってるわ”と呼びかける。絶対絶命の中で二人を支えるものは人間の絆であった。ヒメノはわずかに動く手でぶら下がる配管を打ち続けた。救助の海兵隊員は二人に気づかない。無数の人が生き埋めになっている。絶えずビルの崩落が続いているのだ。1人の隊員が足下で響く微かな異音を聞いた。瓦礫の下からうめく声、助けてという声がした。祈りつつ待機する家族を包んで一秒一秒と時は過ぎる。妻たちは「オー、マイゴッド」と叫んでいた。

 あの事件から20年近くが経つ。コロナ禍であることが事件をリアルに甦らせる。社会の分断が進み人間の絆が薄くなっている。ヒメノは黒人警官なのだ。この映画は闇の中の二人を中心に人間の心理と家族の絆を描いている。大災害が近づく中で他人事と思えない光景なのだ。戦後75年が過ぎ、私たちは精神的基盤を失ってしまった気がする。社会及び人種間の分断と政治の無策を象徴するのがアメリカの現状である。一ヶ月後の大統領選でアメリカ国民はどう動くのか。それも決して他人事ではない。世界は一体化し、コロナは全世界を覆い、人間の絆の回復が求められているからだ。

◇28日、さわやかな秋晴れが列島を包み、富士の初冠雪が報じられた。古来富士の姿は日本人にとって格別であるが今年の冠雪の姿は特に心を打つ。コロナのストレスをしばし忘れさせるからである。コロナ禍は長い。これからも長く続くだろう。私たちのストレスは限界状態にある。爽やかな青い空とそこに浮き上がる富士の姿を心の中にも取り戻さなくてはならない。初冠雪はそのことを訴えている。

◇県内感染者が29日、2日連続ゼロだった。これは何を物語るか。本物か一時的現象が気になるところ。このまま収束に向うとは思えない。コロナも一息ついて力を蓄えているのかも知れない。(読者に感謝)

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