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2020年8月10日 (月)

小説「死の川を越えて」第259回

傍聴席は満席であった。副島は、証言を整理して受け止められるように、らい予防法等の主な法令の動きを予め次のようにノートに書きとめて証言を待ち受けた。

「癩予防法成立(昭和6年)

新憲法公布(昭和21年)

優生保護法成立(昭和23年)

新らい予防法成立(昭和28年)

らい予防法廃止(平成8年)」

 この裁判の中心は、厚生省及び国会の強制隔離政策が憲法に違反しているか否かであるから、尋問もこの点に集中した。そして、憲法とは昭和21年に公布された日本国憲法のことであり、これは人間の尊重つまり基本的人権を柱にしていた。強制隔離政策が基本的人権を侵害し憲法違反に当たるか否かは最も重大な論点であった。

 尋問者は、新憲法下の隔離政策から入った。

「戦後、基本的人権を強く保障する日本国憲法が施行された後、戦前の隔離政策に変化はありましたか」

 大谷は、躊躇なく答えた。

「いえ、変化はありませんでした」

 傍聴席がどよめいた。

「そのことについてどのようにお考えですか」

「はい、新憲法の精神というものを行政や国会などがよくよく認識すれば隔離政策はこれに反することは明らかですからもっと早く廃止を検討すべきであったと思います」

 大谷は、基本的人権を強く保障する新憲法の下で、当局が隔離政策を続けたことをはっきりと批判したのだ。隔離政策の遂行は厚生省の責任に、また隔離政策の廃止は立法の問題であるから国会の責任にそれぞれ結びつくことである。

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

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