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2020年8月 2日 (日)

小説「死の川を越えて」第256回

 水野たちは一斉に拍手した。大谷はいかにも嬉しそうに頷いた。拍手がやんだ時、大谷は冷静な表情に戻って言った。

「ところで皆さんに一つお願いがあります。今度の裁判は勝たねばなりません。勝つには裁判官の心を動かさねばなりません。裁判官の心を動かすものは、理論だけでなく熱い心を打つ証拠資料です。そこで、我が師小河原先生のことと共に皆さんのことを法廷で触れさせて頂きたいのです」

 さや、こずえ、正太郎は皆喜んで承知した。大谷は続けた。

「ありがとうございます。法廷で個人の問題を取り上げるについては、秘密が知れると言って反対する人が多いのです。私が皆さんについて触れるのはほんの少しです。後の本体部分は東京の裁判で証言されることを勧めます。大きな効果があると信じます」

 

二、口頭弁論始まる

 

 和泉眞一の証言

 

 正助たちが草津へ帰ってからしばらくした時、副島から水野のもとに至急便が届いた。次々に寄せられる副島の手紙に、水野はこの弟子の熱意に尋常でないものを感じた。そこには先ず、次のように書かれていた。

「大谷さんの証言が近づきましたが、その前にお知らせすることがあります。それは、先日行われた。和泉真一という人の証言についてです。大谷さんからこの証言は御自分の証言と繋がるものであり、非常に重要なので皆さんに知らせた方がよいとアドバイスを受けました。本吉、有馬両氏と共に証言を聞き、記憶をまとめ、私が代表して筆をとりました」

 水野高明は、大谷の証言と繋がり非常に重要とは何かと強い興味を抱いた。大谷の証言を待ち受ける時だけに、逸る心で先に目を走らせる。

「この和泉眞一という人は京大病院で現在まで30年以上にわたってハンセン病の外来治療を続けております。尋問でそのわけを訊かれて次のように答えました。ハンセン病は絶対隔離をしないと社会にどんどん広がるような病気ではない。したがって一般病院で治療可能な病気である。療養所に入るのは嫌だけれど治療が必要だという患者は社会にたくさんいます。そういう人たちの外来治療が必要でありました。次に外来治療の実践を通して国の絶対隔離政策に対して反対の意志を示し続けることが必要でした。三つ目はこういう外来治療の姿勢を社会に示し続けることで社会がハンセン病に対して抱く差別と偏見を少しでも克服することができると信じました。和泉氏はこう語りました。

 私はこの証言を聞いて皆さんが関わった小河原泉さんを頭に浮かべ和泉証人の口からこれが出るのをどきどきしながら待ちました」

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

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