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2020年7月 5日 (日)

小説「死の川を越えて」第246回

 

「先生は、草津の湯の川は生きた大学だと申されましたね。今、熊本が裁判という形で生きた大学になりつつあります。熊本には本妙寺の歴史があり、ハンセンの患者施設恵楓園がありますが、患者さん及び元患者さんたちは、未だこの訴訟の意味を理解するに至っておりません。先生の先日のお手紙にハンセンの患者が奴隷の心になっていたという部分があり、これは私たちに強い衝撃を与えました。恵楓園の人々も未だにこの奴隷の心を抜けていないと思われます。だからこの裁判には人間回復、そして人間解放の意味があると信じます。私たちの心も、この裁判によって新しい境地を目指さねばなりません。先生を熊本にお迎えすることにはこのような意味があります。何とぞ宜しくお願い申し上げます」

 うーむ、と唸って水野は目を閉じた。水野の心は既に熊本に飛んでいた。

 いつもの仲間に話すと、皆水野の熊本行きに大賛成である。木霊勇二は言った。

「熊本の波は必ずここにも来ます。そのために水野先生の特別の縁を生かすべきです」

 水野は正助の瞳が輝いていることに気付いた。<ははー。前に私の部屋で酒を酌み交わし、君は私のゼミ生だと言った時のことを思い出しているな>と思った。

 相談の結果、水野高明と共に正助、正太郎親子が同伴することになった。正助、正太郎は草津、湯の川の歴史を熊本の人たちに伝えるために、また、今後の訴訟に於ける協力関係を築くために必要と考えられたのである。木霊は、今こちらの訴訟に向けての重要な準備があるので行けないということであった。3人の費用は、「リーマインド」から出すことになった。

 水野と正助親子は高鳴る胸で熊本の地を踏んだ。南国の太陽がギラギラと輝き、正助たちは通りの街路樹にも異国情緒を感じた。

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

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