« 小説「死の川を越えて」第247回 | トップページ | 人生意気に感ず「コロナ禍の下の茶会。本庶さんのコロナ対策。免疫力の差は種の保存にプラス」 »

2020年7月12日 (日)

小説「死の川を越えて」第248回

 それを聞いて本吉が言った。

「凄い話ですね。裁判では国が人権を侵害した貴重な証拠になるに違いありません」

 副島が大きく頷きながら続けた。

「菊地恵楓園には草津から転園した人が生きていて重監房の恐怖を時々語るといいます」

 この時、黙って聞いていた正太郎が顔を上げて言った。

「私はニューギニアに従軍しましたが、サラワケットという山を越える時、山中で息も絶え絶えの人に遭いました。私が群馬の草津だと言うと、驚いたことにその人の父親は重監房に入れられ、差し入れられたカツオブシで生きて出られたと言いました。カツオブシは私の提案だったと言ったら、私の手を握り有り難うと言って息絶えたのです」

「ほほー、ニューギニアの山中で」

「不思議な話ですねー」

「カツオブシと重監房の関係を国の役人は知らんことでしょう。裁判に勝つには生々しい事実を裁判官の胸に突きつけねばならん」

 3人は一様に興奮した表情で正太郎を見詰めた。

 この時、副島は所持したカバン

から書類を取り出した。

「先生、これは原告の訴状です。熊本地裁に出されました。項目だけは先日、先生の所へお送りしました」

「そこに書かれていることは、裁判の基礎になることです。詳しいことはあとで検討するとして請求の原因、つまりなぜこの裁判を起こしたかの部分が重要です。副島君、極く大ざっぱに話してくれたまえ」

「はい先生、昔の大学のゼミを思い出します。久しぶりの緊張が懐かしいです」

 こう言って副島は赤く線を引いた訴状を指でたどりながら語り出した。それは、先生の前に座る生徒の姿であった。

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

|

« 小説「死の川を越えて」第247回 | トップページ | 人生意気に感ず「コロナ禍の下の茶会。本庶さんのコロナ対策。免疫力の差は種の保存にプラス」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 小説「死の川を越えて」第247回 | トップページ | 人生意気に感ず「コロナ禍の下の茶会。本庶さんのコロナ対策。免疫力の差は種の保存にプラス」 »