« 人生意気に感ず「牙をむく権力。国家安全法が動き出した。習主席の賭け。真のアメリカ第一とは」 | トップページ | 小説「死の川を越えて」第246回 »

2020年7月 4日 (土)

小説「死の川を越えて」第245回

 それから一週間ほどしたある日、水野の下にまた副島の手紙が届けられた。副島の熱意の並々ならぬことが伝わる。早くも裁判の進展があったかと、水野は逸る気持ちで封を切った。そこには意外なことが書かれていた。

「先生、今回お伝えすることは裁判に直接関係することではありません。実は熊本には九大で先生の講義を聴いた者が少なからずおります。先生のことはほとんどの者が今や存じ上げております。先生が発病され、草津の療養所に入られたこと、本妙寺の人たちが先生に助けられたこと、特に重監房とカツオブシのことは手に汗握る物語として受け止められております。その上にこの度の訴訟となりました。私たちは国の公務に関わってきましたが、この訴訟の大義はハンセンの患者側にあると信じております。先生の講義を聴いた者は教室で理論としてとらえた人権の問題に、自分たちの職業を通した実践で理解を深め、その上新憲法により信じ難いような人権の姿に遭遇しました。私たちは先生のことを予言者の如く受け止めたのであります。更に私たちの度胆をぬく出来事が今回の訴訟です。先生が先日の手紙で述べられたこの訴訟の意義を私は何人かの仲間に話しましたところ、彼らは秘かに鬼の首を取ったように興奮致しております。そして私たちはこの熊本で先生をお迎えし、直接お話を伺いたいという考えに至りました」

 水野はここまで読んで、書面から目を離した。水野の心は少年のように高鳴っていた。不思議な幸福感であった。自分の人生を呪った日々がここに繋がって実を結ぼうとしている。学者として絶望していた生き方に光が当たろうとしている。副島の手紙はそのことを語ろうとしているのだ。水野は再び紙面に目をやる。

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

|

« 人生意気に感ず「牙をむく権力。国家安全法が動き出した。習主席の賭け。真のアメリカ第一とは」 | トップページ | 小説「死の川を越えて」第246回 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 人生意気に感ず「牙をむく権力。国家安全法が動き出した。習主席の賭け。真のアメリカ第一とは」 | トップページ | 小説「死の川を越えて」第246回 »