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2019年7月13日 (土)

小説「死の川を越えて」第208話

「先生、俺イギリスのことも知りたいんで、リー先生にも参加してもらったらどうですか」

「うむ。それは名案じゃ。御二人にはお前が連絡して進めてくれまいか」

 正助がそれぞれと会って日時と話題を調整しているうちに、意外な展開となった。湯の沢と我々患者の共通の運命に関わることだから、改めて生生塾を開いて取り上げようということになった。そして、難しい問題だから一工夫して万場老人、水野法学士、リー女史の話し合い形式にし、正助が司会をすることになった。会場は聖ルカ教会である。

 当日、何事かと多くの人が集まった。正助が前に出て言った。

「皆さん、驚いたでしょうが、今回はこの教会が会場になりました。私が司会の役目をさせて頂きます。皆さんに代わって質問を挟むこともあると思います。不慣れですが宜しくお願い致します。万場先生から発言を願います」(月火掲載)

万場老人は頷いて口を開いた。

「水野先生、あなたは、人権の歴史などを九州の大学で講義していた専門家です。癩予防法が出来、国立収容所の建設が始まりました。わしは最近、朝鮮から手紙を受け取りましたが、満州で大変なことが進んでいるらしいのです。アメリカとの間で戦争になるのか心配です。ドイツではヒトラーが台頭しています。どうなるのでしょうか」

 水野高明は、眉間にしわをつくり深刻な表情で言った。

「戦争が近づいています。既に戦争に入っていると言っても過言ではないと思います。中国、満州の侵略がこのまま進めば、アメリカと衝突するのは確実です。実は、私の教え子が関東軍の中で働いているのですが、この男が、最近、日本に帰って驚くべき事実を話してくれました。この男は、アジアの諸民族の発展のためだと信じて、得意そうに話すのです。彼によれば、満州国の建国が進んでいて、もう発表する段階に来ているというのです。それは、形は中国人による中国のための理想の国家の実現です。教え子はそれを信じているようです。しかし、私は日本のあやつり人形だと思っています。いわゆる傀儡(かいらい)国家です。」

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

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