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2019年7月15日 (月)

小説「死の川を越えて」第210話

 どっと拍手が起きた。この時、拍手に刺激されたように法学士水野高明が立ち上がった。涙を拭っている。

「リー先生、有り難う。感動しました。私は人間の平等、人権、民主主義を若者に話してきたが、本当の意味が分かっていなかったと、今気づきました。あなたは、この湯の沢で日本人の本当の姿を知ったのですね。そして、湯の沢をハンセンの光、喜びの谷と表現された。差別と偏見で虐げられた中に真実があること、しかも最も悪い状況の中に光があること、それがあなたの神の現われであること、それをあなたは知ったのですね。私はキリスト教徒ではないが、今の話からハンセンの光、そして喜びの谷の真の意味を知った。あなたがキリスト教徒だということは知っていたが、なぜ財産を捧げ、生涯を捧げ、こんな山奥で嫌な顔をせず頑張るのか、初めて分かりました」

 リー女史は、それに応えて言った。

「このようなことを初めて申し上げましたが、そのように受け止めて下さり、私はとても嬉しいし幸せです。この集落の人に喜んで頂くことが、神様が下さる最大の報酬なのです」

 人々の間にまた拍手が起きた。水野は大きく頷きながら言った。

「現実に話を戻します。満州国を作り、中国と全面対決、そしてアメリカと全面対決となれば、日本の未来はありません。アメリカと戦争になれば、イギリスとも戦争になることでしょう。そうなれば、リー先生、あなたのことが心配です。人間の平等とか、民主主義などと言っておれなくなります」

「はい大変心配でございます。私の父は軍人でした。私が小さい時に亡くなりましたが、アメリカとイギリスは、兄弟以上で、切っても切れない仲だと申していたそうで、母がそう教えてくれました、歴史を振り返れば、その通りだと思います。日本はアメリカ、イギリスと戦わないで欲しいと思います。アメリカとイギリスの歴史の基礎にあるものは、人間の平等と民主主義です。日本の軍を動かす人たちがアメリカとイギリスの歴史を理解し、人間の平等とか民主主義の考えを少しでも知って欲しいと思います」

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

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