« 小説「死の川を越えて」第208話 | トップページ | 小説「死の川を越えて」第210話 »

2019年7月14日 (日)

小説「死の川を越えて」第209話

 正助が口を挟んだ。

「満州国が日本のあやつり人形だというのはどういうことかよく分かりません。水野先生、俺たちに分かるように説明して下さい」

「わかりました。満州国を知るためには中国の清王朝の歴史を語らねばなりません。日清戦争を戦った清です。清の祖先は満州に住む民族でした。清は滅び、最後の皇帝溥儀(ふぎ)はひっそりと隠れるように暮らしていました。これをかつぎ出して利用したのが関東軍でした。溥儀が祖先の地満州に帰り、昔の栄光を取り戻すために国を建てた。それが満州国だというのです。勿論、日本が作った筋書きです。よくも見事な筋書きを思いついたものです。この満州国を世界は認めないと思います。特に日本とアメリカとの関係は決定的に悪くなるに違いない。中国人の反日運動は増々激化する。下手をすると、アメリカとの全面衝突は避けられないでしょう。リー先生はイギリスの出身でいらっしゃいます。日本のこの動きをどうお考えですか」

「私の国も長い歴史の中で中国と関わってきました。アヘンを売りつけて、中国の人々を苦しめたこともありました。世界の先進国が中国を苦しめてきたことを私は悲しく思ってきました。私の国、イギリスは日本国を尊敬し、日本と良い関係を続けて参りました。私はこの湯の沢に入り、日本人の本当の姿を知りました。真に平和を愛する国民です。礼節と信義を重んじて助け合い、小さな喜びを見つけてそれを大切にする習慣に感動しています。そんな平和で優しい国民なのに、国全体となると恐い国になることが不思議です。万場先生は、この湯の沢をハンセンの光が出る所と申し、私は喜びの谷と表現しましたが同じことです」

 万場老人が深く頷き、正助はそっと手を叩いた。

 リー女史は頷いて続けた。

「私の国イギリスが大切にする価値の根源は人間の尊重ということです。この価値を守るために多くの血が流されました。それを支える力は、人間は神の前で平等であるというイエス様の教えです。私はイエス様に導かれてこの湯の沢に来ました。病をもつ人々が助け合って代表を選び話し合いで集落のことを決めていく姿は、人間の平等を実現するデモクラシー、つまり、民主主義に他なりません。私はイギリスにもないこの村の姿に大変驚き感激致しました」

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

|

« 小説「死の川を越えて」第208話 | トップページ | 小説「死の川を越えて」第210話 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 小説「死の川を越えて」第208話 | トップページ | 小説「死の川を越えて」第210話 »