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2019年6月 1日 (土)

小説「死の川を越えて」第196話

「ハンセン病には、誤解や偏見が結びついています。これを乗り越えるには、病める人の中に入ることが必要です。私は神様の与えた試練を有り難く受け止めております。この度、皇太后様が温かい御寄附を下されたことは、患者に対するこの上ない励ましでございます。また、安田大臣様がこのように私たちを歓迎して下さったことに心から感謝申し上げます。安田様は、先日、草津に来られ、私たちの湯の沢に深く入られ、人々を励まして下さいました。皇太后様、そして、安田大臣様に対して、私はこの胸のうちを現す言葉を知りません。病める人々のために、皆様と一層力を合わせることによって、感謝の気持ちを現したいと存じます」

 静かな語り口の中に、威風あたりを払う品格があった。話し終わった時、どっと拍手が湧いた。リー女史はにっこり微笑みながら段を下りた。

 安田内務大臣の視察後、木檜泰山と森山抱月が湯川生生塾を訪ねるとの連絡があった。予定の日、生生塾の主な仲間が集まっていた。木檜が口を開いた。

「正助君、先日は御苦労でした。万場先生、大臣が突然この塾に立ち寄ると申した時は正直驚きました。本当にご苦労様でした。大臣のあの行動は大変な誠意を示したことを意味します。集落の人たちも皆感動していましたな」

「今日は、あの事態を受けて、この集落の移転についての皆さんの意見を聞きたい。今後の行動の参考にしなければと思っています。先ず万場先生はどうお考えか」

「はい、わしは考えを持っとりますが、わしが先に言わん方が良いと思います。皆がわしに合わせると困るでな」

 その時、黙って聞いていた森山抱月が言った。

「正助君の意見を聞きたい。君は夜、広い一帯を歩いた。そして、私や大臣を案内もした。そして、何よりもこの湯の沢の将来を担う若い力だからな」

「俺の意見を言っていいのですか。前に一晩かけて麓の里まで歩き、戻って来て、滝窪原、水原窪のあたりで朝日を迎えた時の感動が忘れられません。あれは、万場先生が言っていたハンセンの光、それも新しい光ではないかと思います。偉い大臣が来て、あのあたりがいいと言うのなら、良い機会ではないかと思います。俺たちの新しい光を実現するために力を合わせるべきではないでしょうか。光がなくなってしまうのでは困りますが、光が更に発展するなら素晴らしいと思います」

万場老人が、うむと頷いた。

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

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