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2019年6月15日 (土)

小説「死の川を越えて」第200話

こずえは、大きな紙を広げ、筆をとって一気に文字を書いた。それには鮮やかに、「癩予防に関する件 明治40年」とあった。こずえが紙を向けにっこりして人々に示すとどっと拍手が起きた。文字の意味する重大性よりも、先ず美女の技に心を奪われたらしい。

「これは放浪するハンセン病患者の収容が目的だった。ふる里を追われ、生きる術のない哀れな患者を捕える網であった。その上に今年、癩予防法が制定された。これが我々にとって直接に実に重大なのじゃ」

 ここで、また、こずえは癩予防法と大書して掲げた。今度は拍手はなく、人々は黙って文字を見詰め、万場老人の説明を待った。

「これはさまよう患者だけでなく全てのハンセン病患者を強制的に収用する絶対隔離政策じゃ。国はそのための施設を各地に作る。この近くに作ろうとしているのは湯の沢集落の我々も対象になるものじゃ。私に寄せられたある情報によれば、全国各県のハンセン病を絶滅させる運動を国は押し進めようとしている。無らい県運動じゃ。癩予防法はこの運動を押し進める恐ろしい手段じゃ。大変なことになるとわしは心配しとる」

 その時、ある男が手をあげて質問した。

「その法律には、いったいどんなことが書かれているんですかね」

 万場老人は頷いて、傍から書類を取り出して語り出した。

「うむ。恐ろしいことが2点ある。消毒と、患者を療養所に入所させることじゃ。法律が役所に消毒を命じている物とはな、古着、古布団、古本、紙屑、ぼろ、飲食物、その他の物件とある。古着から、古布団に始まって、こまごまとあげているが、最後にその他の物件とある。これは生活上の身の回りの全てを意味する」

「へえー。それを一体誰がやるのですか」

「知事が警察に命じて行わせることになっておる」

「そんなことをされたら、村でも町でも暮らしていけませんね」

「そうじゃ、このようにして、ハンセンの患者を追い出し、療養所に入れ社会から患者を一掃させることが目的じゃ」

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

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