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2019年6月23日 (日)

小説「死の川を越えて」第202話

 ある時、正助は万場老人に尋ねた。

「先生、世の中はどうなるのですか。俺は不安です。去年の暮には総理大臣が東京駅で撃たれて重傷を負ったんだそうですね。俺が経験した朝鮮も心配です。朝鮮も大変な不景気なんでしょうね。大陸の日本の兵隊は何か始めるんですかね。明霞さんたちは大丈夫でしょうか」

 万場老人は頷いて静かに語り始めた。

「わしも、この社会、どこへ向かうのか不安じゃ。去年東京駅で撃たれたのは浜口雄幸(おさち)さんだ。実は、朝鮮の鄭東順さんから手紙があってな。満州で関東軍の不穏な動きがあったそうじゃ。手紙は検閲されるから注意深くわしにしか分からぬ書き方じゃ。兵隊さんのお陰ですとか、兵隊に感謝する表現の中に、急に風が吹いてとか、風邪が流行って中国人が苦しんでいるとかある。この前草津に来たとき、重要な変化を知らせる方法を打ち合わせたのじゃ。兵隊さんのお陰は、関東軍の重大事の発生、急の風は特に満州の大事件を指す。風邪が流行る、中国人が苦しむなど、みな暗号でな、わしには満州で重大事件が起きたこと、そして激しい反日運動が起きていることが分かるのじゃ。関東軍の暴走のことだ。韓国もハンセンの取り締まりが格段に厳しくなったとある。韓国も日本の一部じゃから当然じゃが、中国と戦う場合には、最前線になるのだから、厳しさが違うのじゃろう。朝鮮人に対する差別と偏見が強く行われているだけに心配なのじゃ。鄭東順さんの病気は治っている。明霞さんはもともと病気に罹っていない。この点だけはほっとするが、鄭さんはハンセンを束ねる立場なので辛いと申しておる」

 正助は朝鮮で助けられた時の、明霞が住む屋敷と集落の光景を思い出していた。

「それからな、この大不況、韓国の人々を無慈悲に痛めつけておる。いずれにせよ、戦争の空気と大不況は社会の弱者に容赦なく襲いかかっている。わしは、日本がアメリカとの本格的な対立に向かうことを心配しておる。このような社会の動き、世界の動きが我々の上に、そして、この湯の沢集落に迫っているのじゃ。それに、情報によれば県議会にも激しい動きがあるようじゃ」

 万場老人が言う県議会の動きはどうなっていたか。

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

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