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2019年5月 4日 (土)

小説「死の川を越えて」第188話

「ここにあることは、我々の運命に関わる。衆議院は、この趣旨を採択すべきものと議決したのじゃ。問題はその地域がどこかであるぞ。温泉が引ける広い地域といえば、自ら決まってくる。その上で更に重要なことは、そこへの集落の移転に我々が同意するかどうかじゃ。先日のように半鐘を鳴らして反対するのか。それとも時代の大きな流れを睨みながら考えるか。我々は、腰を据えて取り組まねばならん」

 万場老人の声に人々は頷いた。

 ある日、万場老人のもとに一通の封書が届いた。書の主は、県会議員の森山抱月である。内容は湯の沢集落問題が本格的に動き出す気配であること、基本は牛川知事の請願書で、それは草津温泉が利用できる所に理想の集落をつくることである。ついては、正助君が歩いたあたりを実際に自分で歩きたいので正助君に頼んでもらいたいこと、その時は万場さんもどうか同道願いたい、というものであった。

「とうとう来たか」

 老人は呟くと、正助を呼んで森山議員の頼みを知らせた。

「先生、湯の沢の将来は不安ですが、森山先生にこの一帯を知ってもらうことは非常に重要だと思うので、俺、喜んで案内します」

「その通りじゃ。わしも同行するので、宜しく頼むぞ」

 かくして、日程が決まった。その日、森山は運転手に命じた。

「細い道らしいから、気を付けてくれたまえ。車が無理なところは歩くからな」

 森山議員と万場老人は後ろの席に座り、正助は前の席で、あちらこちらと指をさしながら進む。

「このあたりが滝窪原、そしてあのあたりが水原窪といいます」

 正助は、木々で覆われた広い一帯を案内する。

「あの音が湯川ですか」

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

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