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2019年5月19日 (日)

小説「死の川を越えて」第193話

 

「この方は万場先生です。私は、下村正助といいます」

「お邪魔しますぞ。私は内務大臣の安田謙岳です」

「万場軍兵衛と申します。こんな所に高名な大臣に足を踏み入れて頂き、誠に恐縮でございます」

「凄い書物。正に松下村塾ですな。今、木檜先生が湯の沢の文化を示すと言われたが、その意味が分かりましたここでは何を教えますかな」

「ちと大げさになりますが、生きる力です。身近かな例をあげて、人間の自由などを話すこともあります。政治問題、社会問題も取り上げます。難しいことを易しく易しく話すことを心掛けております。最近は、前知事がこの湯の沢の移転に関する請願を国に出しましたが、その勉強会を致しました」

「ほほー、それは、今日、私が視察する目的ではないか」

 これを受けて木檜が言った。

「実は大臣、私とこの森山県議は、この塾の特別講師であります。は、は、は」

「おお、それは立派、名誉なことです。この松下村塾の名に恥じない講義をお願いしますぞ。は、は、は。いや、この湯の沢の実態が実によく分かりました。御老人、松下村塾はしっかり頑張って下さい」(月火掲載)

 安田内相が生生塾を出た時、森山県議がすっと進み出て恭(うやうや)しく頭を下げて言った。

「大臣、是非、目通り願いたい者がおります」

 森山の合図でそっと進み出て会釈する女がいた。白いドレスをまとった姿は一見して西洋人である。安田内相は非常に驚いた表情である。

「この湯の沢で、ハンセンの人たちの救済に当たっているマーガレット・リーさんです」

「おお、あなたがイギリス人の。噂は聞いておりました。英国の貴族の出で、大変な私財を投げ打って患者救済に当たっておられるとか。見上げた志です。一昨年昭和天皇即位式の時の国の褒章授与に名を連ねられたのを私も承知しております。こちらからお訪ねすべきであった」

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

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