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2019年5月11日 (土)

小説「死の川を越えて」第190話

「そういうことだったのか。正助よ、お前は我々の運命に関わる大きな流れの中にいるのだ。もちろん、森山さんもわしも同じ流れの中にいる。頑張らねばならぬな」

「時には、君と対決するかも知れん。しかし、基本的には同じ目的を目指していると信じています。人間の尊重ということです。頑張りましょう」

 三人は、櫟の下で手を握り合っていた。

 

  1. 安田内相の来県

 

 昭和4年の幕が開けた時、万場軍兵衛は深刻な表情で言った。

「わしの予感では、今年は大変な年になりそうじゃ」

 万場老人の予感は的中した。

 昭和4年(1929)という年は、内外共に大変な年であった。それは新たな怒涛の時代の幕開けとも言えた。

世界の大事件としては、ニューヨークに於ける株式の大暴落に端を発した世界大恐慌の始まりがある。この未曽有の大不況の大波は世界に押し寄せ、日本もそれに容赦なく呑み込まれていく。

会社は次々に倒産し、失業者が巷にあふれるようになった。国内の政治の変化としては、この年7月、田中義一内閣が瓦解した。前年の満州に於ける張作霖爆殺事件の責任に絡む政変である。万場老人はこのことについて語気を強めて語った。

「恐れ多くも天皇陛下は田中首相を強く非難されたという。それは事件の責任者を厳しく処分すると天皇に約束しながら守らなかったかららしい。それで田中内閣は倒れたと聞く」

内外の出来事は影響し合って大きな社会不安を生み、国を窮地に追い込んでいく。社会の窮状は社会的弱者を第一に打ちのめす。ハンセン病の人々に黒い影が忍び寄っていた。

 明けて、昭和5年7月のある日、木檜代議士の秘書が万場老人を訪ねた。湯の沢の重要な問題に関わることで代議士が訪ねたいと言っている。同志の森山県議も一緒になるだろう。下村正助さんも同席することを望んでいる、というものであった。万場老人は、深く頷いた。要件は予想出来た。そして期するところがあったのだ。

 予定していた日がやって来た。木檜代議士は森山県議と同道した。万場老人は正助と共に待ち受けていた。接待役としてこずえも茶を用意して待った。

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

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