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2019年4月14日 (日)

小説「死の川を越えて」第182話

 正太郎は答えない。なおも聞くと

「クラスのある子が、こうやって移るって言って追いかけるんだ。そしたら他の子も真似をして追いかけるんだ。みんな笑ってふざけているんだけど。僕は笑えない。悲しくなっちゃった」

 正太郎の説明によると、ある男の子が両手を前に出して、指を曲げ幽霊のように「らいだー」と言いながら追いかけたら、みんながどっと笑い、真似をしてクラスを走る者が出たと言う。

「みんな楽しげだけど、僕は泣きたかった。もう学校行くのやだよ」

 正太郎の思い詰めた表情を見て、正助とさやは遂に恐れていたことが起きたと思った。自分たちは長いこと世間の冷たい目と差別に晒されてきた。我が子が初めてその社会の現実に直面したのだ。正助は事の重大さを直感してさやに小声で言った。

「子どもの世界のことだと言って放っておくわけにはいかないよ」

 正太郎には務めて平静を装って言った。

「皆、ただふざけているだけだから、気にしないことだ。強くなるんだよ。この湯の沢の人間には、神様の試練が待ち受けているんだ」

「試練て何」

「お前が強く成長するための神様の宿題だよ。お前は以前、県会へ行って偉い先生の前で立派に答えて誉められたではないか。あれも試練、神様の宿題だったんだ」

 正太郎は黙って考え込んでいるようだ。

正助は万場老人に相談した。万場老人は暫く考えていたが、きっぱりと言った。

「正太郎が社会に踏み出した姿じゃな。先生と話し合うがよい。事を荒立てるとかえってまずい。よいか。正太郎が立派な態度を貫くことが一番の説得になることを忘れるでない」

正助とさやは、萩野花子先生と会った。実は、萩野先生も頭を抱えていたのだ。新住民の一部のお母さんが伝染の不安を訴えたため動揺が広がっているというのだ。

正助は言った。

「この問題が起きて、正太郎を改めて聖ルカ病院の医師に診てもらいましたが病気は出ていません。私たち夫婦も同様です。このことを是非知って欲しいと思います。正太郎には笑顔で頑張るようにと話しました。本人もその気になってくれました。私たち夫婦は、正太郎と共に耐える覚悟です。私たちは出来ることなら嵐が大きくならないで通過してくれることを願っています」

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

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