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2019年4月28日 (日)

小説「死の川を越えて」第186話

 

第九章 湯の沢の運命

 

  1. 戦争の足音

 

 ある日、正助は新聞に目を通しながら万場軍兵衛に言った。

「先生、大陸から戦争の足音が聞こえてくるような気がします」

 大正から昭和にかけて、日本を包む世界情勢は緊迫の度を高めていた。正助が懸念したように、それは正に戦争の足音といえた。

「これはハンセン病患者にどのような影響を及ぼすのですか」

「うむ。お前は大陸を経験しているから緊張感がひとしおなのじゃな。わしも中国との関係が心配じゃ」

 万場老人はこう言って、資料に目を走らせながら語り始めた。

「中国は今、内乱の中にある。日本政府はこれを利用して満州の支配を一層固めようとしたため、中国民衆の反日運動は増々激化してな、こうした中で関東軍は、張作霖爆殺事件を起こしたのじゃ」

「なんですか、それは」

「張作霖は満州を支配する軍閥の頭でな、日本は張作霖を除いて満州を武力占領し、そして日本の傀儡(かいらい)政権を作ろうとしたのじゃ。昭和3年のことじゃ」

万場老人が語ったように、日本はこれを機に軍部の独走による戦争への道を盲進する。その辿る道を見れば、昭和6年満州事変、翌7年満州国建国、続いて8年国際連盟脱退、そして十二年日中戦争開始となる。

万場老人は机を叩いて言った。

「よいか。このままでは戦争の足音は現実になるぞ。その戦争とは、アメリカとの戦争じゃ」

時代の渦は日米対決に向けて大きく動いていく。

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

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