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2019年3月23日 (土)

小説「死の川を越えて」第176話

この時、鉢巻をした一人の紳士が興奮した様子で飛び出して来た。明星屋の浴客、法学士の水野高明ではないか。目の色が変わっている。

「皆さん、ここが正念場です。小学生のように列を作って進みましょう。正しい行進が私たちの心を伝えるのです。私も先頭に立ちますぞ」

「いいぞー。鉢巻が似合うぞー」

 どっと拍手が湧いた。

 人々は隊列を組み、気勢を上げながら温泉街を練り歩いた。先頭に立つ学者風の鉢巻姿が、群集にただならぬ意味を添えているようであった。この光景の一部始終を物陰からじっと見ている人物がいた。帽子を目深にかぶった男は傍らの連れらしい人に言った。

「あれが湯の沢の団結か。暴徒とは違うな。組織の力は大したもの。正助という若者も大したものだ」

 この人物こそ、吾妻出身の国会議員、木檜泰山で、連れの男は、従者であった。

 川村社長に嘆願書を突きつけて交渉したこと及び草津駅前の大集会は波紋を広げていた。半鐘を鳴らして湯の沢を挙げて人々が集まったことは警察や県当局も大いに注目するところとなった。また、草津駅の駅長は仰天して嬬恋駅に逃げる始末であった。これらの住民運動は詳しく本社にも伝えられたので、川村社長は、相手がハンセン病の患者のことであるから、対応を誤るとまずいことになると恐れた。

 一方湯の沢では、実行委員を中心とした会議がもたれた。

 高田区長が口を開いた。

「このままでは住民は治まらない。正助君が言うように、この大会を第一歩として今後に生かすためにはどうしたらよいか。正助君に何か名案はあるかね」

 正助は答えた。

「はい、県当局、会社、警察を入れて、打開策を話し合ったらどうでしょう。その際、住民は、次はもっと大きな集会を予定していることを知らせることが戦略として重要だと思います」

「なるほど、君は若いが中々の軍師だ。それも、朝鮮やシベリアで身につけたことかね」

区長の言葉にどっと笑いが起きた。

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

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