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2019年3月21日 (木)

小説「死の川を越えて」第175話

 実行委員の電車が着く時刻が近づくと、火の見櫓に登る男がいた。男は半鐘を打ち始めた。櫓に必死にしがみつく男は何と権太であった。

―ジャン、ジャーン、ジャン、ジャーン

 黒く低く垂れ込めた雲の下で、半鐘の音は風に乗って木々を揺すって遠くまで流れた。

 人間は燃え盛る炎に興奮する。半鐘は火事の連想と結びついて、人々の中に眠っている野生の本能を刺激した。

―ジャン、ジャン、ジャン、ジャン

「駅に行け」

「会社を許すな」

 伝え聞く噂によって、会社は情を知らない悪者になっていた。包帯を巻き、眼帯をつけた異形の人々もいた。群集は200人程にふくらんで続々と駅の広場に終結した。実行委員が着くと人々は万歳を叫んで出迎えた。

 高田区長は言った。

「皆さん、既にご承知と思いますが、私たちの嘆願は聞き入れられませんでした。残念です。期待に応えられず申し訳ありません」

「そんなことはないぞ。会社が悪いんだ」

「このままでは済まねえぞ。湯の沢の力を見せてやれ」

 人々は拳を突き上げて叫んだ。高田に促されて正助が進み出て言った。

「皆さん、嘆願は駄目でしたが、私たちの考えはきちんと伝えました。第一歩です。これから発展させる第一歩にしなければなりません」

「そうだ」

「負けねえぞ。裏切った奴らをぶっ殺せ」

 興奮する人々に向かって正助は叫んだ。

「暴力はいけません。人を傷つけたり、物を壊したりしたらこの運動は負けです。これは、湯の沢の自治会の行動です。湯の沢の誇りがかかっているのです。警察の世話になるようなら、第一歩になりません」

「その通りだ」

「警察は消毒屋だ。ここでは用はねえ」

 様々な声が聞こえた。群集は殺気立っていた。

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

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