« 人生意気に感ず「首相、虐待根絶に総力を挙げると。トランプの国会演説」 | トップページ | 小説「死の川を越えて」第164話 »

2019年2月 9日 (土)

小説「死の川を越えて」第163話

 

 皆が座につくと、こずえは鄭の前に手をついて言った。

 

「改めて大川一太の娘こずえでございます」

 

「おお。先程一目でそれとわかりました。お藤とも明霞とも本当によく似ています。お藤もあなたのお母さんのお品さんも悲しい運命でした。それを無駄にしてはならぬと今、噛み締めております」

 

 話に花が咲いている時、明霞は荷物の中から何やら取り出した。

 

「こずえさん。母、お藤の遺品から出て参りました。あなたのお父様が母に預けたものもございます」

 

 こずえは、明霞の手紙に遺品のことが書かれており、それは何だろうと、ずっと気にかけていた。今、それが明らかになろうとしている。こずえは、期待と不安が交差する思いで明霞の手元を見詰めた。明霞は言った。

 

「これは写真帳です。前橋の大きなお屋敷、製糸工場の様子、お品さんと並んだ母藤の姿。母から何度も何度も聞かされました。母は余程懐かしかったのです。ここで、私はこの写真を分けたい。こずえさん、あなたが未だ見ていないもの、あなたにあげます。二人が持つことによって、過去を一緒にし絆を深めること、出来ます」

 

 こずえは、賢姫が差し出す写真帳をめくった。双子の姉妹が白い倉の前で並んで立つ姿。松の木や池がある屋敷の佇(たたず)まい、家族の団欒(だんらん)、工場で働く女工さんたち。こずえの母お品はこういう写真を残さなかった。お藤は韓国に嫁ぐので、貴重な写真を思いでにと、みな持って行ったに違いない。こずえはこう思いながら言った。

 

「どれもこれも初めて見る写真ですわ。あまり語りたがらなかった母の子ども時代が初めて分かりました。分けて頂けるならこんなに嬉しいことはないわ。母たちの過去は、賢姫さん、私たちの過去ですわ。さあどうぞ、あなたが必要とするものをお取り下さい」

 

 こずえは嬉し涙をぬぐっている。

 

「そんなに喜んで頂いて、私、とっても感激です。それからこれね」

 

 そう言って、明霞は布の包みを解き始めた。

 

 

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

 

|

« 人生意気に感ず「首相、虐待根絶に総力を挙げると。トランプの国会演説」 | トップページ | 小説「死の川を越えて」第164話 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 小説「死の川を越えて」第163話:

« 人生意気に感ず「首相、虐待根絶に総力を挙げると。トランプの国会演説」 | トップページ | 小説「死の川を越えて」第164話 »