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2019年2月24日 (日)

小説「死の川を越えて」第169話

 

万場老人は、これらを材料にして、一気に嘆願文の内容の骨子を書いた。正助は、万場老人から説明を受け、さすがは東京帝大と内心舌を巻いたのである。

 

 正助がこれらを水野に渡すと、この学者は、じっと紙面に目を走らせていたがやがてにっこりして言った。

 

「君、最高の資料です。私はこれに肉付けするだけ。良い嘆願書が書けますよ。有り難う」

 

 水野が驚いているのを見て正助は、自分の先生の助けで作ったことを打ち明けた。水野高明は嘆願書を作り、実行委員の区長に読んで聞かせると区長は感心して言った。

 

「さすが法学の先生です。素晴らしい出来だと思います。ところで、最新の群馬県議会の動きをこのように的確に掴むとは不思議な位でございます」

 

「いや。実は、あの正助君という若者のお陰なのです。彼が県議会に行ったことは、形だけではなかった。県もあの若者を評価していることが分かりました。あの若者は志の高い、頭のいい本物ですよ」

 

 水野という学者も中々の人物で、正助のことをこのように評価したのであった。水野は、湯の沢集落の役に立ち、学者として誉められたことが、いかにも嬉しそうであった。

 

 実行委員たちは、直ちに行動を起こし、県と国に向かった。この時の県会議長は森山抱月であった。高田区長は嘆願書を説明して議長に渡した。そして、振り向いて少し離れた所に控えていた正助を招いた。

 

「おお、正助君ではないか」

 

 区長の紹介より先に議長が声をかけたことに区長は驚いている。

 

「この嘆願文作成に当たって、この正助君に大変助けられました」

 

「おお、そうか。正助君は奥さんと坊やを連れて来て、この議会で湯の沢のことを立派に説明した。有望な若者なので大事にして下さい。私からも頼みますぞ。嘆願はしっかりと受理したので、担当の方に伝えます。それから本省にも行くのだな、県から内務省の担当課に伝えさせる」

 

 区長は喜び、正助は大いに面目を施したのであった。

 

 

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

 

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