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2019年1月19日 (土)

小説「死の川を越えて」第158話

 

 木檜泰山は笑い声によって、その場の緊張をほぐそうと試みていることが人々には分かった。演技は上手くなかったが、その気遣いが人々に伝わり雰囲気を和らげていた。

 

「それでは、私から皆さんを紹介致します。改めて、この方が万場軍兵衛さんで、私の古い友人です」

 

森山抱月の言葉に万場老人は深く頭を下げた。

 

「お噂はかねて聞いていました。あなたのことは局長も、内務省の先輩だと申しております。これを機にご指導願いたい」

 

「そのような過分なお言葉、誠に恐縮です。先生の帝国議会のご発言には、湯の沢集落と我等を思う熱い気持ちがあふれておりました」

 

「おお、読んでくれたのですね。あなたに、そのように受け止めてもらえたことは感激です。思うようにはいかぬ問題ですが、私の発言を今後に生かす責任を深く感じています。あなたの今の言葉で自信をもつことが出来ました」

 

「有り難いことでござる。先生のご発言と牛川知事の請願文は、この生生塾でも勉強致しましたぞ」

 

「何と、それは素晴らしいこと。そのような天下の大事を論じるとは、誠にかの松下村塾を思わせる。ところで、森山さんが申していた県議会へ出向いた人々はどなたですかな」

 

 木檜代議士の言葉に正助が顔を上げた。

 

「私が下村正助です。これが女房のさや、そして息子の正太郎でございます」

 

 この言葉に、後ろにいた正太郎は、両親の肩の間から頭を上げにっこりと笑顔を向けた。

 

「ははー。君のことだな。森山先生から聞きましたぞ。ヒゲの先生たちを少しも恐れず元気に名前が言えたというね。こういう勇気のある若者をこの生生塾で大きくまっすぐに伸ばして下さい。この湯の沢のため、また、天下のために、万場先生よろしくお願いしますよ」

 

「はい、微力な私ですが、社会に対する最後の御奉公と考えております。厳しい道を覚悟するために湯川の文字を上につけたのでございます」

 

「なるほど、なるほど、その通りです。鉄をも溶かす世界一厳しい水の流れを社会の不正義に対する怒りと捉えるのですね。わしら政治家こそ第一に忘れてならぬことです」

 

 木檜代議士は森川県議と顔を見合わせて頷くのであった。

 

 

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

 

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