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2019年1月 6日 (日)

小説「死の川を越えて」第154話

 

「はい先生、よく分かります。朝鮮では凄い反日運動を見ましたし、シベリアでは本当に恐ろしい経験をしましたが、あれも学問に結びつけなければ正しく理解できないことが今、分かった気が致します」

 

「社会の変化は今後増々激しくなるに違いない。我々ハンセン病の患者は途方もない大波に見舞われるだろう。その中で、我々が生きぬくためには、力を合わさねばならない。力を合わせる絆が学問なのじゃ。学び、そして力を合わせることで、我々は力をつけ、小さな穴から抜け出せるに違いない。今日はわしの人生を振り返ったが、難しい理屈になってしまったわい」

 

 万場老人は一気に語り終えて、ほっとした表情であった。

 

 

 

二、木檜泰山と会う

 

 

 

 事態は思わぬ展開を示し始めていた。ある日、県議森山抱月が突然万場老人を訪ねた。

 

「ほほー、湯川生生塾ですか。現代の松下村塾ですな」

 

「いえ。そんな大それたものではありません、見た通りのわびしい寺子屋です。じゃがな森山さん、中味は光る塾ですぞ。この名の通り、厳しい湯川に負けない意気込みがござる。実は先日、森山さんが気にかけて下さった正太郎君は、この塾の優等生ですぞ」

 

「ほほー。県議会で元気に返事をした姿が目に浮かぶ。はて、確かリー女史の寺子屋で学んでいるという話であったがな」

 

「その通りです。リー先生と話し合って、正太郎は、両方で学んでおるのです。ここでは日本の心、リー先生の所では西洋のこともな」

 

「それは、それは。理想の姿ですな。和魂洋才と申す。日本の伝統の精神が忘れられようとしている。西洋の文化も必要。理想は2つの調和ですからな。大いに期待しますぞ」

 

 その時、足音が近づいて、こずえが姿を現した。

 

 

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

 

 

 

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