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2019年1月21日 (月)

小説「死の川を越えて」第159話

 

 木檜の視線は万場老人の傍らに座るこずえに注がれた。その姿からこのハンセン病の集落には異質なものを感じていたのであった。それと察した森川が言った。

 

「こずえさんといいまして、下の集落に住む娘さんで、万場さんの縁の者です。この生生塾では助手を務めておるそうで、子どもたちにもお母さんにも人気のある美人先生なのです」

 

「ほほう。わしも入塾したくなりました。わっはっは」

 

 木檜泰山は豪快に笑った。万場老人は、森山から反骨の闘将と聞かされていたこの代議士の本質を垣間見る思いで、その横顔を眺めていた。

 

 堅い空気は和んで話は弾んだ。正助はシベリアの不思議な経験を話した。森山抱月はこずえの母お品、そしてその双子の妹お藤のことにも触れた。さやは、京都帝国大学を訪ね学者先生からハンセン病は遺伝病ではない、また感染力も非常に弱いと聞かされて正太郎を産んだことを話した。

 

 じっと耳を傾けていた木檜泰山は姿勢を正して言った。

 

「いや、感激しました。皆さん、お一人お一人に熱い人生の物語があるのを知りました。皆さんから今日お話を聞けたことを、この木檜、決して無駄にしないことを約束します。それから万場先生、この湯川生生塾は素晴らしい。世はすっかり公教育の時代となったが、学問の原点は国の権力と離れた所にあるべき。学問の真の目的は生きる力。それは個人の心の問題です。だとすれば、権力は心を支配すべきではない。これは私の信念です。だから、こういう私塾の存在の意味は大きい。湯の沢は差別された社会だから特別であるが、一般社会でも公教育一色は良くないと思う。私も塾生の1人に加えて欲しい」

 

 木檜代議士がこう言いながら森山抱月を見ると、自分もという表情で頷いた。

 

「有り難いことじゃが、御冗談でございましょう」

 

 

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています

 

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