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2019年1月12日 (土)

小説「死の川を越えて」第155話

 

「まあ、森山様」

 

「ほほー。突然来て、こずえさんに会えるとは。これで何度目かな。こう近くで見ると、お母さんのお品さんに生き写しじゃ。立派な姿にお母さんもあの世で喜んでおられよう」

 

 この時、こずえは、森山の前に正座して両手をついた。

 

「母が昔、森山様に大変お世話になったことをご隠居様からお聞き致しました。私がこの世でこうしておられるのも、森山様のお陰と知りました。本当にありがとうございました」

 

 こずえの白い手に涙が光って落ちた。

 

「万場さんからそれを聞きましたか。お品さんも、あなたも大変な人生。人の縁は不思議です。ここには万場さんがおられるから安心しておりますぞ」

 

 この時、万場老人が大きな声で言った。

 

「こずえは、この塾の立派な先生を務めております。わしよりも、こずえに人気がある」

 

「は、は、は。それはそうであろう。いや、立派。頑張って下さい。ところで、万場さん、今日は大事な要件で参上しました。秘密を要することはここが一番ですな」

 

「何事ですか」

 

「木檜泰山代議士が秘かに会いたいと申しております」

 

「例の件ですな」

 

「そうです。この湯の沢集落のことは、山田という衛生局長が代議士に説明したと申す。木檜さんはご自分の地元のことで、初耳のことも含まれていて驚いたらしい。もっとも、山田局長は、委員会の答弁で、委員会に備えて、湯の沢集落の実態を部下に調べさせたこと、部下の報告では、住民が自治をつくって助け合っていること、それを見て部下は他に例がないと感動したことまで答えたそうです。これは、地元の木檜さんを立てる意味もあったであろうが、事実なので木檜さんは大いに面目を施したそうです」

 

「森山さん、その局長の部下が、西村数馬氏と申す課長で、この湯の沢に来て、我等と親しく話し合った人物ですぞ」

 

「その通り、わしもあの時山田屋にいて、あの課長と話して、威張らない誠意ある人物であると感銘を受けましたのでよく覚えております。その続きが大切なのですぞ。木檜さんは、その部下に会いたいと言いだし、衛生局長を通じて呼び出し、国会内で西村課長と会ったのです。そしてこの課長からあの時の様子を詳しく聞いたのだ。万場さんのこと、正助君や正太郎坊やのことまでな」

 

「ほほう。意外な展開ですな。わしのことはともかく、正太郎君が帝国議会で話題になるとは」

 

 万場老人は驚いたように言った。

 

 

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

 

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