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2019年1月14日 (月)

小説「死の川を越えて」第157話

「ごめんください」

 従者が声をかけると、すかさず中から女の声があった。

「はーい。お待ち申しておりました。木檜様でございますね」

 にっこり笑って迎え入れたのはこずえである。中には数人の人々の姿があった。

「御苦労様です。目立つので出迎えは敢えて致しませんでした。どうぞ」

 一歩入ったところで出迎えた森山が言った。

「おお、森山君、しばらくですな。この度はお世話になります」

 木檜泰山はそう言いながら、はっとした表情で、岩のような老人の姿を見た。紛れもなくその人と認め代議士は深く頭を下げた。

「万場軍兵衛さんですね。木檜です。地元でありながら初めてお目にかかります。湯川の流れを聞き、あなたの前に立って、ここに我が国の大きな問題が凝縮していることを感じます」

 万場老人は深く頷いた。

 木檜泰山は老人が背にした書物の山を見ながら更に言った。

「入口に湯川生生塾とありました。現代の松下村塾ですね。恐れ入りました」

 そして、改めて人々に向かって口を開いた。

「こんにちは。私は、原町から出ている国会議員の木檜泰山と申します。以前は、森山先生と一緒に群馬県議会におったこともあります。湯の沢集落の真実を知るために参りました。ここには、人間の尊厳、人間の自由平等の問題があるので、ことは重大です。

 この集落の移転問題が国会で持ち上がっています。私も考えがあって発言しています。しかし、今日は、難しい問題を議論するのが目的ではない。この集落の真の姿、皆さんのことを知ることが目的です。この集落の実態を肌で知らねば、政策の議論も地に足がつかぬものになる。発言にも魂が入らぬものになる。これから重大な局面に入るので、このことを痛感するのです。いや、つい難しい話をしてしまったが、どうか固くならんで欲しいのです。私は普通の人間、一上州人ですから。は、は、は」

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

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