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2018年12月 9日 (日)

小説「死の川を越えて」第144話

 

「ここで断っておくが、正助の行動に対してわしの意見は何も言っておらん。先程、森山さんが、湯の沢の実態を捉えることが重要だと言われたことと関わることなのでわしの口から紹介したのじゃ」

 

 森山抱月は、万場老人の話にじっと聞き入っていたが、膝を叩いて口を開いた。

 

「良い話を聞きましたぞ。正助君が自分の意志で夜、広い自然を歩いて感じたことは、この湯の沢集落にとって、貴重な財産になりますぞ。今、このことが出たので改めて申し上げたいことがあります。湯の沢の話が具体的に動き出してきたのです。実は、牛川知事は湯の沢集落移転の請願を行ったのですが、事前に私たち議会の幹部に相談したのです」

 

 意外な言葉に一同は身を乗り出すように興味を示した。

 

「知事は湯の沢の素晴らしい点を踏まえた請願にすると申された。過日、正助君が県議会に行った時、知事は正助君から湯の沢のことを聞いた。そして、知事は、湯の沢を群馬の誇りとすべきだと発言された。私はそばでそれを聞いて感動したのです。知事の請願にはそれが生かされています。それは、草津温泉を使える地域に理想的集落を建設して欲しいという表現です。この理想的という表現は実に重い。具体的場所は示さなかったのですがね。正助君が歩いて感じたことは、知事の理想を具体化する意味がありそうですな」

 

 人々の顔には、ほおーという驚きの表情が現われていた。

 

「実は木檜代議士に対する政府の答弁書にも、牛川知事の請願を重視していることが現われています。正助君が、湯川に沿って広く歩いて感じたことは、このような点から大変重要な意味をもっています。私も遠からず、正助君が歩いたところを是非見たい。その時は案内を頼みます」

 

 森山は正助を見て言った。正助は深く頷いてみせた。

 

「ところで」

 

 森山抱月は、ここで話題を変えるように笑顔をつくり、あたりを見回して言った。

 

「県議会で元気に名前を答えられた坊ちゃん。ええと、正太郎君と言ったかな、どうしているかな。は、は、は」

 

「元気で飛び回っております」 

 

 正助が答えた。

 

 その時、黙っていたマーガレット・リー女史が微笑を浮かべて言った。

 

「実は、私のところでささやかなスクール、寺子屋を始めまして、正太ちゃんが来ております。大変賢い子で楽しみです」

 

 それを聞いてさやの嬉しそうな笑顔がこぼれた。

 

 

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

 

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