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2018年12月29日 (土)

小説「死の川を越えて」第150話

 

 

 

 子どもたちの頷く顔を確かめるようにして老人は続ける。

 

「湯川の音が聞こえるな。この流れは命あるものの生きることを許さない。死の川と呼ぶ人もいる。鉄も溶かす。人間なぞ、肉も骨もすぐに溶かしてしまうぞ。昔はな、生きられないハンセン病の患者をこの川に投げ込んだという話もある。恐い怒りの流れなのじゃ。流れの音が聞こえるであろう。この音はな、世間に負けないで強く生きろと私たちに呼びかける川の声じゃ。この湯川と共に生きる。人生を強く逞しく生き生きと生きる。そう誓うためにつけたのが湯川生生塾という名なのじゃ」

 

 こずえは、この時、細い棒を取り出し、笑顔を作って漢字を指し、次にひらがなを指した。棒の先を子どもたちの視線が追った。

 

「これが、この塾の勉強の目的であるぞ。よいかな。もう一度耳を澄ませてみよ。湯川の音が心に響くであろう。湯川がお前たちに呼びかけているぞ。しっかりやれと。今日はこれで終わりじゃ。皆さん、御苦労様であった」

 

 子どもたちが去り、後に残ったこずえと正助に万場老人は言った。

 

「ご苦労であった。どうじゃな開校式は。感想を述べてみよ」

 

「先生、すごいですよ。子どもたちが真剣に聞いていましたよ。勉強の目的が分かったみたいです」

 

「皆さんの顔が輝いていたみたい。ご隠居様の指図で書いた二枚が役立ったみたいで、私もどきどきでした」

 

 こずえの表情がいかにも嬉しそうである。

 

「そうか、そうか。良い出発になったのだな。勉強の目的が分かってもらえれば凄い成果じゃ」

 

 万場老人の声も弾んでいた。

 

 このようにして、湯川生生塾は週に一度程で、歩み出して行った。万場老人が語り、その中の言葉を選んでこずえが書き出し、子どもたちが習字するという型が次第に定着して行くのであった。

 

 

 

日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

 

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