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2018年12月23日 (日)

小説「死の川を越えて」第148話

 

「俺たちはどんなお手伝いをすればいいのですか」

 

「おお、連絡、準備などいろいろある。塾を支える大変重要なことじゃ。またな、子どもだけではなく、時には大人にも話すつもりじゃから、正助には韓国やシベリアの経験を話してもらうこともあろう。心の準備をしておくがよい」

 

 万場老人は、ここで言葉を切って、こずえに向き直った。愉快そうな笑顔が浮かんでいる。

 

「こずえの役割は大切であるぞ。読みと書きじゃ。材料は、論語などから選ぶ。ただ、読みと書きだけでなく、それを通して歴史とか心の問題を話すつもりじゃ。どうじゃ、楽しいとは思わんかな。こずえ先生。は、は、は」

 

「ご隠居様、からかうのはお止めになって下さいませ。私はそんな重い役が果たせるのか心配でなりません」

 

「おお、そうじゃ。これも教材に使おう」

 

 万場老人は思いついたように書物の山を捜していたが、一冊の古い冊子を引き出した。

 

「修身説約と申して、群馬の初代県令の楫取が作らせたもの。全国的に広く学校で使われたが、今、忘れられている。今の知事、牛川虎太郎さんは楫取と並ぶ名知事と言われ、教育にも力を入れておる。子どもにも親にも、この中の幾つかを話してやりたいと思うぞ」

 

「いよいよ、湯川生生塾が始まるのですね」

 

 正助が目を輝かせて言った。

 

 数日が過ぎたある日、正助たちが作った粗末な机に数人の子どもが姿勢を正して座っていた。その中に正太郎の緊張した顔があった。子どもたちの後ろに、二三人の母親たちと正助夫婦の姿が見られた。

 

「皆さん、今日は」

 

 こずえが口を開いた。大変な緊張を笑顔で隠そうとしていることが窺(うかが)えた。

 

「今日は、湯川生生塾の始まりです。私はお手伝いのこずえと申します。こずえおねえさんでも、こずえおばさんでも結構よ。よろしくね。ほ、ほ、ほ。それでは万場塾長のお話を聞いて下さいね」

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

 

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