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2018年11月 3日 (土)

小説「死の川を越えて」第132話

 

「ところが、国立の療養所は、警察官の身分証明などがないと受け入れてくれない。入った人は世間に知られることを恐れ針の筵です。だから病気が少しでもよくなると逃亡する者がたくさん出る。

 

 また、草津という所は世界的な温泉地でありまして外国人もやってきます。だから湯の沢が今の状態で増え続ければ、草津の発展にも妨げになります。そこで、湯の沢集落に対し、相当の設備を施し、理想の療養の村となし、これを隔離することが必要なのであります」

 

 木檜泰山は、ここで言葉を切った。何かを決意したように口元を引き締めて続けた。ここで湯の沢集落の特殊性を強調するのである。

 

「私は、政府のハンセン病政策には欠陥があると思うのであります。即ち、初めから貧のどん底にあり、治療の方法もなく放浪する患者に対しては、国はいくつも施設を設け、これを収容して相当の金を使っている。しかし、湯の沢集落はこれらと状況が違うのです。人々は初めから貧のどん底ではない。ある程度、金を持って集まるが、そのうち送金も絶え、貧に落ちるというのが実情である。また、治療についても、方法がないわけではない。ハンセン病によく効く温泉という治療方法があるのです。

 

 だからといって、湯の沢集落に補助を与えないのはおかしいのです」

 

 木檜は役人席をきっと睨んだ。

 

「この湯の沢集落が現在行き詰っております。しかし国が補助すれば理想の療養村として甦ることが出来る。自治の療養村として光を放つ存在は文明国の誇りとなります。それなのに放任しているのは大なる欠陥であります。公衆衛生並に人道問題としても、長い間閑却しておったのは、帝国政府として欠陥であります。この点を考慮して幾分なりの金を出して憐れむべき状態を救ってもらいたい。草津の集落を理想村として助けることは、長い間捨てておいたハンセン病患者に対する政府の政策を改めるための著手となります。この湯の沢集落には、知識階級の者も大分居ますから、幾分かの補助を与えれば、彼らは土地のため、国家のために貢献することが出来ると思うのであります。故に大正14年度から補助費を支出できるよう努めて頂きたい。これが私の提案者としての意見であります」

 

 文明の誇りという発言に大きく頷く議員の姿が見られた。

 

 

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

 

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