« 人生意気に感ず「北方領土返還に新たな兆し。9条の会で満州の悲劇を話す」 | トップページ | 小説「死の川を越えて」第137話 »

2018年11月17日 (土)

小説「死の川を越えて」第136話

 

 

 

「まあ、恐いお話しですわ」

 

「うむ。話しはこれからじゃ。よいか、よく聞くがよい。この死の川、ハンセン病の集落が帝国議会で正面から取り上げられたのじゃ。わしは自分の人生を振り返って、感無量。取り上げられたとはいえ良いことばかりではないが、頑張らねばならぬ」

 

「まあ、私には、どんなお手伝いが出来るのでしょう」

 

 こずえが不思議そうな目で老人の顔を見詰めた。

 

「お前はずっとこの醜い老いぼれを支えてくれている。わしがこうして何か出来るのはお前のお陰じゃ。感謝しとる。これから、この老いの身でやらねばならぬことが増えそうじゃ。済まぬが頼むぞ」

 

 こずえは、老人の意外な言葉に嬉しそうに頷いた。

 

「おお、そうじゃ。お前に渡すものが」

 

 そう言って、万場老人は、書物の山の間から小さな包みを取り出した。

 

「実は、古い物を整理していたら、出て来た。お藤の遺品じゃ。この中に意外なものがあった」

 

 そう言って万場老人が取り出したものを見てこずえは思わず声をあげた。

 

「これはお母さんが描いた子犬の絵」

 

 母の絵だと一目で分かった。絵が好きな母は、よくこずえの前で絵を描いた。

 

目の前の絵は母が可愛がった太郎という名の子犬に違いない。絵を描く母の姿が懐かしく甦るのであった。母から妹のお藤に渡ったものであった。

 

「お藤さんが朝鮮に渡るとき、残していったもので形見となった。実はな、お藤はこの絵と共に大変なものを置いていった」

 

 そう言いながら、万場老人は細い紐で結ばれた紙の包みを出した。こずえは、何事かとじっと老人の指の先を見守る。幾重にも包まれた紙の中から、一枚の古い書き付けが現われた。

 

※土日祝日は中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 

 

|

« 人生意気に感ず「北方領土返還に新たな兆し。9条の会で満州の悲劇を話す」 | トップページ | 小説「死の川を越えて」第137話 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 小説「死の川を越えて」第136話:

« 人生意気に感ず「北方領土返還に新たな兆し。9条の会で満州の悲劇を話す」 | トップページ | 小説「死の川を越えて」第137話 »