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2018年11月10日 (土)

小説「死の川を越えて」第134話

 

 山田局長の発言が終わると、他の委員が重要な質問をした。

 

「湯の沢のように自治的にハンセン病患者が集まって自然の治療を行っている集落が日本にはいくつありますか」

 

 これに対して山田局長は答えた。

 

「草津のように集団的に住み込んでいる所は他に承知しておりません」

 

 質問した委員は、日本で草津だけと聞き、ほほーっと驚いた表情で頷いた。

 

 そして、局長は、木檜代議士の方をチラと見ながら続けた。

 

「実は、今回の委員会に備えて、湯の沢集落の実態を少し見せて頂きました。部下の報告によりますと、木檜代議士がお話しされたように湯の沢集落の住民は助け合って、自治をつくって生きておられる。他に例のないハンセン病の世界を見て我が省の者は感動し、学ぶべきものが多いと報告してきました」

 

 この時、木檜泰山の我が意を得たりとばかりに大きく頷く姿が見られた。

 

 かくして委員会は終わりに近づいて、木檜泰山が締めくくりの発言をした。

 

「湯の沢集落に対して大正14年度より政府が相当の補助をなして患者を慰安することに御異議ございませんか」

 

「異議なし」

 

 と言う声。

 

「ではそういうことに決定致します」

 

 委員長、木檜泰山の声が大きく響いた。

 

 木檜は、これで我が事成れりと喜んだが、実は彼の予想通りには行かなかった。湯の沢集落の意義、自由理想村の素晴らしさを認めつつも湯の沢集落だけ特別扱いするには無理があった。

 

 湯の沢集落は、草津の温泉が使える上に自由がある。だから、ある程度資力のある患者にとって天国なのだ。従って湯の沢集落の人口は増えて、草津の温泉街とは紙一重という状態に近づいていた。一方、時代は急速に変化し、温泉街には新しい層の一般浴客も増え、そう人々はハンセン病との接触を嫌うから、ふくらむ湯の沢集落の存在を温泉街発展の妨げと考えることも当然といえた。

 

 

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

 

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